*** 小指の指輪 ***

 

ムラケンと一緒に、街をぶらぶら。

ペットボトルを片手に、青空の下を歩く。

都会の空は、ビルの隙間に切り取られて小さいから、

もう一つの俺の国の、眞魔国の空とはちょっと違うけど。

・・・って、また向こうの世界のことを考えてる。

離れていればいつもこうだ。

頭の端から消えることはない、大切な人たち。

思考しながら歩くその道端に、露天商発見。

ふとその商品に目をやると、籠に入ったリングに目がいった。

色とりどりの硝子のリング。

サイズもまちまちで、乱雑に籠に入っている。

中にきらりと光った一つを何気なく手にとった。

「ん?渋谷が装飾品??めっずらしいなぁ〜。」

「え?うん、そうだな。」

手の中で転がすそれは、とても小さくて指に入るかも微妙な感じ。

でも、キラキラ光るその指輪から目が離せない。

他にも一杯あるのにな。

なんでかな?

指輪を眺めながらしばらく考えていると、横からはムラケンの楽しそうな声。

「気に入ったんだ、それ?」

「うん、なんか、綺麗だな〜・・って。」

「成る程ねぇ〜!青春だねぇ〜、渋谷!!」

「は???何言ってんの?大丈夫?ムラケンさん。」

「僕は大丈夫ですよ、渋谷さん。寧ろ君の方が無自覚で困っちゃうね。」

「なにが?」

ふぅ〜と大げさな溜息を吐いて、ムラケンは困ったように笑った。

「これだから、渋谷は。君が何でその指輪を気にいっちゃったのか

  僕はちゃんと分かってるっていうのに。」

「だから、何がだよ!!」

ほら!とムラケンは、俺の手の中の小さな指輪を指先でそっとつまみ、太陽に翳して笑う。

 

キラキラ輝く、硝子の指輪。

光を受けた、エメラルドグリーンのそれは、間違いなく誰かの瞳を彷彿とさせていて。

『ユーリ!』

優しく、強く、俺を呼ぶ声。

表情の良く変わる、綺麗な双眸を真っ直ぐに俺に向けて笑う、彼の。

 

「あ・・・」

なーんだ、そういうことか。

言われるまで気付かない鈍感な俺に、俺自身で苦笑い。

「これ、フォンビーレフェルト卿が聞いたらきっと小躍りして喜ぶね。」

手の中にリングを返して、笑うムラケンに一言。

妙な確信を持って返事をする。

「そうしたら『そんなにぼくの事が好きならさっさと決着をつけろ!』って

  迫られそうだけどな!」

露天商にお金を渡して、小さな指輪を色んな指にぎゅうぎゅうと押し込んだ。

なかなか合う場所がなくて、ようやく指輪が落ち着いた小指をもう一度太陽に翳す。

コレを眺めれば、どんな場所にいても君を思い出す。

なんだかここから君に繋がっている気がするから。

 

立ち止まった時と同じように、唐突に歩き出す。

『こら、おいてくなよ!!』と後ろからムラケンが呼ぶのを、笑って無視。

ワザと早足で歩きながら、心の中で二つの世界を知っている無二の親友に、問い掛けた。

なぁ、ムラケン?

ヴォルフラムってさぁ〜・・・多分、この指輪を着けてる経緯を聞く前にさ、

絶対に一番に浮気を疑うと思わない?

 

 

 

 2004/11/6

今回も甘めに甘めに行きました。

じつは続き物なのですが、2の方が先に出来上がっていて、

こちらは2のお話の補完のつもりで書きました。

気付いてみたら、というか認めてみたら案外楽になった・・・という、

陛下が自分の気持ちを改めて理解したお話。

ムラケンさん、扱いやすくて書くの楽しいな♪

  


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