恋する向日葵
向日葵は太陽に恋する花。
若い花ならその分なおさら。
一途に、太陽を求めて追い続ける。
夏の太陽のぎらぎらと激しい強い光にも、
怯みもしないで見つめ続ける。
「そういえば、眞魔国の夏の花って何?」
ふいにそんな事を聞いてきたのは当代魔王である友人。
聞きたい答えを予想しきれず、僕も思わず聞き返してしまう。
「ん?なぁに、渋谷〜?いきなりなんなのさ。」
「いや・・・ほんと、なんとなく。」
そう言いながら友人の目は、意識しているのかはたまた無意識か、
金の髪を風に揺らす翠の瞳の、渋谷言うところの「押しかけ婚約者」に向けられていた。
無言で見つめる渋谷の視線に気付いたのか、フォンビーレフェルト卿がふと振り向いた。
こちらを見つめて小首を傾げる彼が、渋谷に向かって駆け寄ってくる。
『あぁ・・・』
僕は思わず胸の中で感嘆の声を洩らす。
いや・・僕では無い、もっとずっと遠くの、ずっと過去の『僕』の声だ。
「ユーリ!」
「わっっ・・っ!!」
体当たりするかのようにフォンビーレフェルト卿が渋谷に飛びついた。
渋谷は勢いに押され一歩後ろに引いた体制で何とか踏みとどまる。
「あっぶねぇなぁ!」
「今ぼくを見ていたろ?なんだ、ぼくが離れていたのがそんなに淋しかったのか?」
「ちげーよっ!たまたま視界に入っただけ〜!」
「なにぃ〜!?お前と言う奴は本当に、婚約者のぼくに対して失礼なっっ!!」
「いてっ!いててっ!わ、わるかった!おれが悪かったから殴るなよっ!」
「うるさいっ!!!」
キーキーとそんなことを言い合っている二人を見ていると、
可笑しくて笑いがこみ上げてくる。
だってさ、渋谷。
君ったら口ではそんなことを言いながら、
その手は飛びついた彼を支えるように回されたまま、
しっかり腰の辺りで止まっているじゃないか。
それにさ、フォンビーレフェルト卿。
君は一応臣下なのに魔王に対してその仕打ち。
こっちから見ればもうすっかり亭主を尻に敷いた女房の貫禄だ。
『だけどその実感が一番無いのって本人たちだったりするんだよね〜・・・』
向日葵は太陽を追い続ける。
太陽は向日葵に追われ続ける。
向日葵が太陽に受けた光はやがてその身に実りをむかえ、大地を彩る色になる。
太陽に一番似合う、金色の景色に。
それはきっと美しい光景だろう。
そしてそれはきっともうすぐこの地で目の当たりに出来る景色なんだと思う。
いまだなにやら揉めている幸せな二人からは視線を外して、
青空に目を移した。
目に映るのは、透き通った青の色とぷかぷかと浮かぶ白い雲。
雲間に溢れる金の光に僕は過去にもう一本だけ、この地に咲いた『向日葵』を思い出す。
ただ、その花は太陽に焦がれる花でありながらそれ自体が、
荒野に咲く太陽・・・人々の希望、であったけど。
思い出せば思い出すだけ目が離せなくなる「向日葵」よ。
太陽が沈んで、辺りに闇が訪れて。
月の光の照らす世界にあっても。
朝日を待ちわび、ずっと東の空に思いを馳せる向日葵は知らない。
そうして、向日葵に追われている太陽だって知らないだろう。
太陽のいない世界で、月が向日葵にどんなに優しく愛しげな光を贈っているか、なんて。
「向日葵や 空の向こうに 何を見る・・・ってね。」
_______でもそれは二つ目の花に寄せる、一つ目への想い。
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