バレンタインの贈り物と言って渡した飴を、ころころと口内で転がすヴォルフの頬が、
まるで向日葵の種を銜えたハムスターの頬みたいに、小さく膨れていたから、
なんだか可愛くて気を抜いて眺めていたおれに、それは不意に訪れた。
「あ・・・・そういえば。」
「ん?ヴォルフどうし・・っっ!!?うっ?!う・・ぷっ、ぅ、な、なにするんだよっ!!」
突然後頭部を押さえられ、ヴォルフラムに口付けられたのだ。
しかもただのキスじゃなかった。
口内を荒らすような、深い、深い、キス。
その証拠に、おれの口内には食べた覚えの無いのど飴が転がっていて、
本来ならこの飴がいるべき目の前の彼の口の中は、空っぽになっている。
動揺するおれとは裏腹に、その奥に悪戯心を映して、細められた翠の瞳。
「思い出したからだ。」
「なにを?」
いきなりの口づけに、一旦は引いた熱がまた頬に上った。
おれはそれを宥める様に、頬を拳で隠したが、
当のヴォルフはというと、何事も無かったかのように飄々としている。
「ま、ましまろか飴玉は、ばれんたいんのお返しに贈るものだろう?
だからぼくは今お前にお返しをしただけだ。」
「だからって、おまっ・・!こんなっ、急に・・!」
「そうは言っても、お前のこちらとあちらの行き来は予想がつかないからな。
ばれんたいんも、ほわいとでーも、折角の行事ごとだ。
できる時に、きちんと、ぼくにとってお前がどんなに大切で、
特別な存在なのか、伝えておきたいと思ったまでだ。」
また瞳を細めて、そうして横に引かれた桜色の唇。
「!!・・もっ、おまえなぁ・・・」
さっきのおれの言葉をまるっと持ち出してきたヴォルフに、
してやられて悔しい気持ちも、今は無く、
ちゃんといえてないマシュマロの発音さえ、もうどうでもよくて。
ただわかったのは自分の中にあった、理性の糸が、ぶつりと音をたてて切れたことだけ。
どうしてくれよう。
この、小悪魔を。
魔王を惑わすなんて、本当にいい度胸だ。
でも。
あぁ・・・おれはなんて、幸せなんだろう。
「ばっか、ヴォルフラム。ホワイトデーのお返しは、バレンタインの三倍が基本なんだぜ?
たった一回のキスじゃ、足りねーよ。」
ヴォルフラムの白い頬に手を添えて、続きを促すようになぞる。
一瞬身を引いた彼を抱き寄せて、強引にくちづけて、
おれの口内に押し込まれたのど飴をもう一度、ヴォルフラムの口内に押し返した。
「んっ・・・ふっ・・・・っう・・」
ヴォルフの形の良い鼻から抜ける魅惑の吐息。
押し返された飴を受け取るように絡められる、苺みたいに赤い舌。
それがまた、触り心地の良いマシュマロみたいな唇までも舐め上げるから、おれは。
「・・・仕方が無い。三倍だな。ユーリ、覚悟しておけ。ぼくを甘く見るなよ?」
「・・・望むところだよ。おまえこそ、もう、泣いても、逃がさねーからな。」
きつく抱き寄せてまた、口付ける。
飴玉が、小さく小さく、甘く、溶けゆくまで。
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