もし・・・1(ヴォルフの許婚が現れたら?:シリアス編)
それはいつもと変わらない一日の始まり、のはずだった。
相も変わらずピンクのネグリジェを纏って
おれの横で健やかな眠りの中にいる、ヴォルフ。
一応は毎回「入ってくるな!」とは言うんだけど、馬の耳に念仏状態だし、
何よりあんまり安心した寝顔を見せられたらそう強くは言えなくなってしまうんだよな。
きょうもほら!
寝言は決まって「う〜ん、このへなちょこ〜・・」だ。
毎度毎度飽きずにおれの夢でも見てるのかな?こいつ。
そんな事を考えてヴォルフの寝顔を見ていたら、計ったかのようにドアが叩かれて、
コンラッドが朝のジョギングのお誘いにきてくれた。
「おはようございます、陛下。」
「陛下って呼ぶなよ、名付け親。ていうか、おはよう。」
「そうでしたね、つい癖で。おはようユーリ。そして・・・」
「あんたの弟はまだ、夢の中だよ。」
「そうみたいですね。」
ようやくコンラッドが帰ってきてくれて、おれたちはまた、
当たり前の・・・そしてずっと欲しかった日常を手に入れた。
______________はずだった。
そう、あの娘が現れるまでは。
「まさかこんなことになるなんて・・・。」
ヴォルフの許婚を名乗る少女は、許婚を奪った許しがたい男に・・・、
まぁ、この場合その「許しがたい男」ってのは、おれ、なわけだけど。
そのおれに、ヴォルフを懸けて、決闘を挑んできたらしい。
「当然、決闘を受けて、勝利し、あの女にぼくが相応しいのは、
他でもなくユーリであると知らしめてくれるんだろう?」
「おいおい、待てよ。女の子相手に暴力ふれる訳ないじゃん。」
「なっ!?ぼくに求婚してきたのは、ユーリだぞっ!」
「それは文化の相違のなせる業ってやつで・・・」
『婚約者が決闘する前に戦線離脱など!!』と、ぷりぷり怒るヴォルフを見ながら
ふとおれは違和感に気付く。
「つか、男女誰でも結婚できるって言って、おれを追いまわすくせに、
自分はあんな可愛い許婚がいてさ〜・・」
そうだよ、そうだ!ずるいよな〜、絶対!!
あんな可愛い女の子を許婚にしてるくせに、
なんでおれなんか追いまわすんだ?この美少年はっっ!
すこし恨みがましい口調で言ってみたら、凄い形相でヴォルフが睨んできた。
「な、なんだよ・・。ほんとの、ことじゃん・・・。」
「・・・仕方ないじゃないか。」
「え?」
「魔王は、世襲制ではないからどんな相手とでも、婚姻の契りを結べるが。
ぼくは・・・いずれは、ビーレフェルトの家名を継がねばならないのだから。」
「・・?よく意味がわかんないんだけど?」
困惑して振り向いたおれに、王佐のギュンターが耳打ちする。
「十貴族の家長は世襲制です。つまり、婚姻の条件として、
子を成すことも考えねばならない立場なのですよ。」
「だったらさ、余計におれじゃだめじゃん。」
おれのことを好きとか嫌いとか言う前に、
やらなければいけないことがあるんなら・・・と呟いたおれの言葉を、
コンラッドが素早く押しとどめようとした。
「ユーリ・・・っ!」
「だってさ、100歩譲って、おれ達が相思相愛だったとしてもだよ、
おれは子供うめないし、つーか、お前も産めないしさ。」
その言葉に、ヴォルフラムの表情からはみるみる血の気が引いていき、
おれの姿を映しているエメラルドの瞳は、
いつもなら透き通った瞳の奥にヴォルフの気持ちが写っているのに、
今は暗く濁って気持ちが見えない。
しばらくそのまま言葉も発せずに見詰め合っていたが、やがてヴォルフがこう言った。
「・・・お前はもう、答えを出しているんだったな。」
「ヴォルフ?」
「前からずっと、あの求婚は間違いだったと、取り下げてくれと、お前はそう言っていた。」
「あぁ、そうだよ。」
確かに随分前、そう、魔剣を取りに行った時だっけ?
あの時確かにおれはそう打診した。
「だけど、ぼくはそれを断った。今まで、ぼくはお前がいつかはぼくを、
愛してくれるのではないかと、夢を見て、待っていたけれど。
それはぼくの我儘だったのだしな。・・・ぼくにも、答えを出す時が、来たのかもしれない。」
静かにおれを見つめていたヴォルフは、頼りなげに視線を足元に落とした。
「十貴族で、純血魔族であることは、ぼくの誇りだ。
そして、十貴族に位置する家名を継げる事も、幼い頃からの夢だった。
でも、それでも・・・お前と一緒になれるなら・・」
顔を上げたヴォルフは自嘲気味な歪んだ笑顔で、泣いていた。
「全てを捨てて、構わないと思ってた。この手の中にはユーリとグレタの他には、
何もいらないと、そう、思ってた。」
そういい捨てて、部屋を後にしようとしたヴォルフの腕をおれは咄嗟に掴んでいた。
「ユーリっ!離せっっ・・・!」
「嫌だ!」
彼を引きとめながら、おれの頭の中では2つの思考が過ぎる。
なにやってんだ、渋谷有利!!
このまま行かせてやれば、おれは晴れて念願の一人部屋!
いやそれだけじゃなくて、可愛い彼女だって作り放題!!!
挨拶しただけで尻軽呼ばわりで、プロレス技を掛けられて断罪される事もないじゃないか!
・・・・・。
でも、さ。
この手を離したら、何かが変わっちゃうんだ、絶対。
当たり前のようにおれに注がれていた「なにか」を、永遠に失ってしまうんだ。
おれだって、薄々感づいてるよ。
その「なにか」に答える勇気はないくせに、そこはとても居心地が良くて、
手放せないんだって事くらい。
我儘は___おれの方。
「離せ!そうすれば、お前の望む・・・っ」
「おれの望みがなんだって?」
少し低めの声音で言えば、びくりと体を震わせて、
ヴォルフは口を噤んだ。
「確認するけど。」
おれと目も合わせずに固まっているヴォルフの瞳を覗き込んで問う。
「ヴォルフは、あの娘と結婚したくないんだな?」
「・・・・愚問だ。」
「わかったよ。」
今からおれのしようとしてる事が正しい事なのか、分からない。
でも、間違ってはいないような気がする。
やっと手に入れた、おれの日常をこれで守れるんだから。
「決闘受けるよ。そんで、勝ってみせるさ。絶対に。」
こちとら、スゲー決心して魔王になったんだ。
天下の魔王様を舐めんなよ??
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絶対ありえないだろうけど、ちょっと見てみたいシリアスバージョン!!
いつも押して押してなヴォルフにちょっと弱く引いて貰って、
陛下に自分から「決闘してきます!!」って言って欲しい〜っ!!
ギュン汁、陛下の涙、コンラートの涙、に続き、美少年の涙・・みれないかなぁ。
というか、この陛下微妙に酷い奴ですね・・・(苦笑)
本当はヴォルフに惹かれているのに、まだ自分でも気づいていないんだということで(逃)
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