<お風呂での一幕>
兵も子供たちも皆無事に島の宿屋に辿り着く事が出来た。
今日のことをユーリと少し話がしたくて探したら、
風呂へ行っていると聞かされ、ぼくも入浴の用意をして風呂へと急いだ。
「島の乙女に恋をすりゃぁ〜・・・♪」
気持ち良さそうなユーリの鼻歌を聞き、何となく静かに入る。
「ん?ヴォルフラムか?いつ入ったの?」
身体を洗う手は止めず、声をかけてきたユーリの背中を見る。
浴槽と洗い場の距離がもどかしくて、たまらない。
「・・・背中、流してやろうか?」
「え?!・・・いや、いいよ。」
「いや!ぼくが流す!!」
思ったとおりの返事にムッとして、少し意地になって浴槽から上がる。
逃げ腰のユーリを押さえつけて座りなおさせると、洗い布で背中を擦った。
「・・・・。」
「・・・・。」
無理強いさせたところもあるから、少し雰囲気が重くなった。
どちらも声は無くて、肌を擦る音だけが響く。
「「あの・・・」」
「「なに?」」
ようやく口を開けば、同じタイミングで同じ言葉が飛び出した。
思わず吹き出すぼくら。
ひとしきり笑いあって、なんだか空気が溶けた。
「なぁ、ユーリ。」
「ん?」
背中越しに手は休めずに、一番言いたかった言葉をユーリに。
「今日は有難う・・・。」
無意識に走り出し、子供を救出に行ったものの、完全に炎にまかれたあの状況下。
にもかかわらず、子供を抱きしめたままのぼくに不思議と恐怖は無かった。
心のどこかでユーリが来てくれるものだと信じていたから、かもしれない。
そしてその思いに違わずに、助けてくれたユーリにどうしても礼が言いたかった。
「いや、おれあんまり覚えてないし。でも、」
そう言って振り向いたユーリは泡だらけのぼくの手を掴んで、微笑んだ。
「?」
「お前が子供のために炎に飛び込んでくれたのは、覚えてる。」
「ユーリ・・・。」
「俺の方こそ有難う。」
あの子は人間。
だけどお前は誰よりも早く、あの子に手を伸ばしてくれただろ?
そういってユーリは笑う。
「礼など、いらない。」
だって飛び出していった訳が今でもよく分からないから。
もしかしたらグレタと変わらない年齢の彼に思いを移してしまったのかも。
だから勝手に体が動いてしまったのかも。
だから・・・感謝の言葉は必要ない。
「じゃおれも、お礼なんていいよ。」
漆黒の瞳がまた笑う。
僕の一番好きな景色。
自然とぼくの頬も緩む。
「さてと!」
泡だらけのぼくの手を引いて、ユーリが立ち上がった。
「今度はおれがお前の背中流してやるよ。」
「ユーリが?あまり強く擦らないでくれ、皮膚が傷つく。」
「あのなぁ〜〜っ!こっち来てすぐの頃、おれの背中擦りすぎて皮膚が捲れて、
3日もうつ伏せで寝なきゃいけなくしたのは誰だっけ??」
「うるさいっ!!今日はちゃんとできたろうがっ!!」
「えぇえぇ、いい加減上手くなってもらわないとな〜。」
「なにを〜・・って、いたたたたっっ!擦りすぎだっ!このへなちょこっ!」
小競り合いも、嬉しくてたまらない。
ユーリの側にいられることを、心底嬉しく思った夜の事。
まさかそんな姿を大賢者に盗み見られているとも知らずに。
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