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あなたにあげる >>
わたくしが退位を宣言してから、次代魔王がこの地に呼ばれた。
本当なら彼は、生まれ育った世界で20の年を数えるまでは、
この地に舞い戻る事はさせないはずだったのに。
でもあのままではいけなかったの。
あのままにしておいたら、きっとこの国は・・・世界は・・・。
だから、わたくしは決意したの。
運命は廻り始めた・・・。
いいえ、それはちょっと違うわね。
運命は廻り続けている、止まることなく、そして淀みなく。
まずはあなたにあげるわ。
地位と名誉と、王位と。
この地で魔王となれば、あなたの望みは思うまま。
煌めく宝石も幾千万の人も、あなたに傅くでしょう。
その____王位の前に。
だけれど、あなたを見ていて、わたくしには分かったわ。
あなたには、なにか違う、不思議な力があるのだと。
地位と名誉と、それに付随するたくさんの重責をその幼い背に背負わせても、
得られるなにかありそうで。
それに。
逃れる事の出来ないあらすじを、変える事は出来なくても。
どんな色で染めゆくのか、それはあなた次第だものね。
これからすべてがあなたのものになる。
良い事ばかりではないわ。
むしろ悲しい事の方が多いのかもしれない。
王様なんて、背負うものが大きい分、周りが優しくしてくれているだけなのね。
まだ幼いその身には、耐え切れないかもしれないけれど。
だからせめて。
新王陛下、あなたにあげるわ。
私の持つ全てのもののうち、もっとも大切なものを。
それはきっとあなたを守るわ。
わたくしを支え、守ったように。
それはね、わたくしの可愛い息子たち。
知識と経験と、統率力。
この地にあってもっとも理想的な『指導者』、長男のグウェンダル。
気難しくて、怖そうだけれど、あなたを理解する日がきたら、
あの子は鋼の鎧になって、あなたの御世をお守りするわ。
あなたがどんな激戦の場にいても、身動きが取れるように。
軽くて、強い、そんな鎧に。
技術と実力と、包容力。
この地でも指折りの『剣豪』と名高い、次男のコンラート。
すでに陛下とは随分打ち解けているようね。
何故なのか・・なんの縁なのか・・・。
まだわたくしにはわからないけれど。
あの子はあなたの盾になるでしょう。
いつ、いかなるときでも、あなたを守る。
例えその身が砕けても。
あなたが選び、突き進む道で、
すべてはあなたの御身を一番に思い、自らの力を振るえるように。
そして最後に、陛下に一振りの守り刀を差し上げるわ。
えぇ、そうよ。
あなたが「選んだ」、わたくしの可愛いヴォルフラムよ。
あの子は今まで、ずっとずっと懐に仕舞いこんできたわたくしの宝。
まだその鞘が払われ、刀身が晒された事も無い無垢な刃。
でもその身は小さくても、穢れを知らぬ刃でも、
きっとあなたのその身を守るわ。
先刻までの様子を見ればそんな話信じられないかもしれないし、
戦も無い世界で剣を持った事も無い新王陛下には、
特にあの子は扱いは想像以上に大変かもしれないわ。
でも。
あの子がもし、陛下に心を許したなら・・・。
その身も折れよとばかりに、あなたを守る事でしょう。
これにはね、自信があるの。
なぜって??
ん〜・・女の感、かしら?
だから新王陛下。
あなたにお願いしたいの。
私の持っている全てをあなたにあげるから、
この地に、この世界に、どうか平和を、築いて欲しいの。
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