「裏・闇からきた魔物」
PART 4 〜 要塞の夜 〜
アーダルベルトに助けられて、与えられた小さな部屋にはベットが一つしかなかった。
「ユーリ、お前が休め。」
当たり前のように毛布を一枚掴んで、暖炉側の椅子に腰掛けようとするヴォルフラム。
でも、そんな事許せるわけが無い。
「なにいってるんだよ!そんな真っ青な顔して。ベットにはお前が寝るの!」
「何を言っている!いくら助けられたとはいえ、ここが本当に安心できる場所とは到底思えない。
お前はこういう状況にはなれていないのだから少しでも体を休めて・・・」
「お前のこと見張りにして眠っても、体は休めても気持ちが休まらないの!!」
ヴォルフラムの腕を取って、無理やり引っ張り、ベットに突き飛ばす。
ぎしりと安いスプリングが、細いヴォルフラムの体を受け止める。
「ユ、ユーリ!!!」
「うるさい!!魔王命令!!!」
心配してる割にやり方はちょっと乱暴だったかな?と思ったけど、
頑固者のヴォルフラムを動かすには丁度いいだろうと思い直す。
魔王命令、の一言で急に動きを緩めたヴォルフを今度は出来るだけ優しく布団に押し込んだ。
肩までしっかりと掛布をあげて、ぽんぽんと軽く背を叩く。
見上げてくるエメラルドの瞳に、心底ホッとした。
でも同時にその瞳が酷く物言いたげに、おれを見つめているのにも気付いた。
「ヴォルフラム、どうかしたのか?」
「ユーリ・・・その・・・」
「ん?なに??」
「せめて、一緒に寝ないか?横、空ければ・・狭いかもしれないが二人で寝られるだろう?」
言っていて恥ずかしかったのか、ほんの少し目元が紅く染まっている。
安心できる場所では無いから見張らなければいけない、なんていっていたのはヴォルフの方なのに。
「有難う。でも、お前がゆっくり休んでくれよ。こんな元気の無い顔のお前なんて・・・おれヤダよ。」
「ユーリ・・・」
多分おれの思いは理解してくれているのだろうと思うし、
こうやってベットに沈んでいる姿を見れば体のほうも、強がっているけれど相当辛いのだろう。
でもこんなにこだわるのは、なぜなんだ?
その時、おれは自分が風邪を引いたときのことを思い出した。
普段一人で眠っている部屋がやけに広く感じて、
心細くなってしまったり、意味も無く母に甘えたくなったり。
体が不調だったり、極限状態になってしまったりすると、酷く心細くなるもの。
きっとヴォルフも今、そんな気持ちなんだろう。
だからあんな風に、妙な甘え方をするんだろう。
そう思ったら、ヴォルフラムを酷く愛しく思えて、昔自分が母にしてもらったように、
ベットの傍らに椅子を引き、布団の上から肩を抱く。
丁度母鳥が小鳥を羽の下に匿う様に。
ヴォルフラムの顔が見えるようにおれもベットに頭を預け、額と額をそっと合わせる。
「おれはここにいる。おれの為にも・・・眠って?」
額から伝わるヴォルフラムの温もり。
ヴォルフラムにはおれの温もりが伝わっているのだろうか。
脳裏に浮かんだ懐かしい子守唄を、唇から零れ出すままに歌いだす。
そうしてヴォルフラムが眠りにつくまで、おれはずっとそのままでいた。
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