その夢の意味はこうなのです
ヴォルフ達を追い出して、しっかりとドアを締めた。
ベットに駆け上がり、桃色枕を抱き込んでほくそ笑む。
「これでピンクな夢が見られる!」
ふと気付くとおれはまたドアの前に立っていた。
「あれ?」
確かにおれは今しがたヴォルフ達を追い出してドアを締めたはずなのに。
不思議に思いつつも、もとより余り深く悩まない口なのでまぁいいかとベットに向かった。
あれ?
またしても違和感。
普段は殆ど下ろされることの無い薄絹のカーテンが下ろされ、
中にはぼんやりと人影が映って見えた。
『っていうか誰?!』
恐れおおくも一応魔王さまの寝所に不貞の輩が、
こんなに簡単に乗り込んで来てもいいのだろうか…?と
そこまで考えを巡らせてハッとした。
『ちがう!これは桃色枕だ!』
成る程、それなら合点がいく。
そうか、そこにいるのはおれのこれからみる桃色ドリームのお相手なんだ!
『なるほどな〜…でもこの相手ってどんな子になるんだろ?』
ふとそんな疑問が過ぎる。
あくまでもピンクドリームだから相手の人は妄想の人ということになるわけだから、
つまり今から会う相手は…
『多分おれの理想を集結した子…になるんだろうなぁ。』
そんな考えに行き着くとおれの頬は恥ずかしさのあまり一気に上気した。
『そっ、かぁ〜…理想の子、かぁ。』
がっついているのもまた恥ずかしいので、
一刻も早く覗き込みたい気持ちを押し殺して、一歩一歩ベットに近付いた。
「あの…」
薄絹に手を掛けながら声を掛けると、中の人影がびくりと肩を震わせ、
僅かにこちらを振り向いた。
絹越しに揺れる金髪と、短めのネグリジェからすらりと伸びた白磁の手足。
「そっちにいっても…いい?」
躊躇いがちにそう聞くとやわらかな金髪が上下に振られた頭に合わせて揺れる。
絹のカーテンを引いて傍に腰を下ろす。
けれどなんとなく真正面から見据えるのは照れくさくて斜めから伺うように声を掛けた。
「あの…さ、君の、名前は?」
その言葉にまた肩を震わせ、形の良い唇を僅かに噛んでからその人はこう呟いた。
「陛下は、私の名前も、忘れてしまわれた、のですか?」
「え?!あっ?!いやっ、あのぉ〜…」
『ちょっと待て、おれの知ってる人って設定なのか?!
いや、それもそうか、だっておれは愛の無いHには反対だしなっ!』
だけどどう答えようもなく、言いよどむおれに痺れを切らしたように
目の前の金髪さんは顔を上げて半分叫ぶように言葉を続けた。
「私はっ、あなたの婚約者なのにっ!陛下は、それほどまでに私を、お厭いですか?!」
「え…、えぇぇぇぇーーー!?」
驚いた。
いや、なんというか、とにかく驚いた。
だって、だって、目の前に居たのは、おれの知り合いも何も、見忘れるはずの無い姿。
金髪にエメラルドグリーンの瞳、白磁の頬と揃い踏みの美貌。
いや、設定がね、知り合いでね、おれの婚約者でね、
ってそんなのそのまんまヴォルフじゃないか!…なんて突っ込む気力すら奪われるこの展開。
「ヴォ、ヴォル…フ?てか、なんで相手がお前なの?!てか、おれたち男同士だろ??!」
そのおれの言葉に、目の前のヴォルフは怒りの為か一気に顔を高潮させながら、
いつもより露出の高いネグリジェの胸元を引き破るように開けながら叫ぶ。
「…っっ!!私はっ、私は女ですっ!!!お疑いならこの身をご覧下さいませ!」
「…は?」
女?そういわれて開かれた胸元を見れば、いつもと同じ見慣れた胸だった。
「いくらなんでもその冗談はすぐにばれるぞ、ヴォルフ。」
「いやいや、それが冗談では無いんですよ?陛下。」
「ぎゃっ!?コ、コ、コ、コンラッド!?」
そこにはいつの間に部屋に現れたのかおれの名付け親がベットの横で笑っていた。
「は?!何言っちゃってるのコンラッド?だってヴォルフは男…」
「いえ、ヴォルフはおれの妹です。」
「いもうと?」
「はい。確かにあの母の子にしてこの貧相な…いえ、質量に欠けた胸では、
信じていただけないかもしれませんが…」
「五月蝿いコンラートっ!大体お前が幼い頃から剣術などぼくに仕込むからこんな事にっ!」
「いやいや、お兄ちゃんとしてはお前の物凄い好き嫌いが原因だったんじゃないかと
思うんだけど。」
「うるさい、うるさい〜!!!!」
目の前で繰り広げられる兄妹喧嘩をぼんやり眺めながら、おれは言葉もなく考え込んだ。
これはおれの桃色ドリームの中なんだよな?
ということは、おれは相手を選び放題、シュチュエーションも選び放題のはずなんだよな?
なのに、今の状況は一体なんなんだろう?
目の前には色っぽい格好のヴォルフが居て、おれを誘う。
おれがいつも通りの理由で断ろうとすれば、その壁は取り外されたという。
コンラッドのお墨付き、だしな。
それってなんだ?
夢は人の深層心理を映すというけど、おれの深層心理って…。
「…なんか、もう、いいや。」
「ユーリ?」
「陛下?」
思わず呟いたおれの言葉に目の前の二人の動きがぴたりと止まった。
おれは見上げる瞳のうち、翠の宝石を持ったほうの手を引いてベットの上に転がす。
「これがおれの深層心理、なんだろうなぁ。」
「んっ…っ、あっ、ユーリ…!」
露わになった首筋に口付けると、ヴォルフはほんの少し身を捩って甘い声を上げる。
そんな姿を見て跳ねた自分の心臓に僅かな疑問を感じつつも、
おれはおれの動きを止められなかった。
そして。
『お傍に控えておきます』そうつぶやいて、部屋の外に出てゆく名付け親の背中が
ほんの少し淋しげだった事だけが、異常に印象的だった。
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