ユーリの尻軽に悩まされるのはいつもの事。
だけど、お見合いなんてそんな大それた事をされるのは初めてで。
悔しくて悲しくて、そして_____これがお前の本当の気持ちなのか?と
心底胸を抉られる様な痛みを感じた。
ユーリを問い詰めたくはなかった。
聞かされる言葉が、あまりにも容易く想像できるから。
そしてその応えが、決してぼくの望むものではない事が分かっているから。
「おひさしぶりです、ヴォルフラムお兄様。」
「エリザべート?」
彼女の話に耳を傾ければ、遠く記憶の向こうで、ぼくのおこした小さな出来事が思い出される。
確かにあの日、ぼくは彼女の頬を打った。
だけどあれは確かに間違いで。
それは、ぼくとユーリの関係を思い出された。
エリザベートが激しくぼくへの愛を謳う度に、それは今のぼくの姿と重なる。
想いは届かない。
決して届かないと分かっているから。
だから______喉が張り裂けるほど、叫ぶ。
あなたへの愛を、ほんのひとかけらだけでもあなたの足元へ届かないものかと。
怒りのあまりにエリザベートが払い落とした、食器たち。
それはまるであの日のぼくらと同じように。
ユーリは躊躇いなく、ナイフを、そしてスプーンを手に取った。
そうそれは______あの日と同じように。
彼に他意などない。
ただ、落ちたから拾っただけ。
それでも、その二つをエリザベートに向けた彼を見たとき、正直心が踊った。
『ヴォルフラムはおれのもの』
ユーリはその行為の意味を知らない。
けれど、拾った以外の他意はなくてもその行為は、
皆に「ぼくへのユーリの愛」を知らしめるから・・・嘘でも、嬉しかった。
母や、伯父や、兄たちや、ギュンターや、エリザベートや、そして、ぼくにも。
『ヴォルフラムはおれのもの』
その言葉をぼくがどんなに欲しているか、ユーリは知らない。
いや・・・それはちょっと違うかもしれない。
ユーリは知らないのではなくて、気付いてはいるのに知らない振りをしているだけだ。
『おれたち男同士だから。』
その言葉を盾に、ユーリはぼくがそれ以上を踏み込むのを許さない。
だからぼくがどんなにあの言葉を欲していたって、気にもとめやしないのだ。
「だったら何で頬を打ったんだよ?」
「・・・忘れた。」
「忘れたって・・」
言えるわけがない。
エリザベートの頬を打ったのは『偶然』の出来事だったとは。
それを口にして、ぼくがエリザベートを退ければそれは、
ぼくがユーリの側にいることを許された「今」をも失ってしまうことだから。
「なぁ、あの子、本気でお前の事好きみたいだし。気持ちにこたえてやったら?」
ユーリ、その言葉を全てお前に返そう。
信じ、貫き続ける愛を美しく思い、またそれは実るべきだというのなら、
まずぼくの愛をお前の中に実らせて欲しいのに。
エリザベートの愛を認めるのなら、ぼくの想いも認めてほしい。
それを認められないというのなら、エリザベートの想いを諾々と受け入れることが出来ない、
ぼくの気持ちも理解できるはずだろうに。
無神経なユーリの言葉に語調が思わずきつくなる。
「冗談は許さないぞ。」
初めて出会った時以来向けたことの無い、本当の怒りを含んだ瞳をユーリに向ける。
その瞳に怯みながらそれでも言葉をつむぐのを止めないユーリの口を塞ぎたくなる。
やめてくれ、もう。
これ以上悲しい気持ちになるのはもうたくさんだ。
なのに、それでもなお、エリザベートを受け入れろと言うユーリに、
ようやく吐き出せた一言。
「・・・・・負けたら許さないからな。」
でもその一言に託した胸の内は、彼に届くだろうか?
今はまだ、愛でなくてかまわないから。
この国を守るためだけの偽り関係でも、かまわないから。
隣に立つ意味までも、ぼくから奪っていかないで。
そうして生きている意味さえも、ぼくから奪っていかないで。
この勝負に勝って、もう一度。
あの騒々しくも優しい温もりに溢れた日々を、ぼくに返して欲しいんだ。
ねぇ?気づいて・・・・ぼくは・・・・おまえを・・・・
__________愛しているんだ、心から。
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