船の上で、想う。
君の事を。
思っていたよりずっと、自分の中で、
大きくなっていた君の存在を。
「ユーリ、眞魔国の事を聞かせて。」
聖砂国に向かう船の中。
サラという名の、一国の王と共に旅をすることになった。
同じ船には、味方で信頼できるヨザックと、
・・・あんなに側にいてくれたのにどうしてだか分からないけど、
今は俺のところから去ってしまったコンラッドも乗っている。
おれは一人っきりじゃない。
ちゃんと、側に仲間もいるのに。
それでも何故か、心にぽっかり、穴が空いている。
もちろんその穴の理由としては、コンラッドの事が大きく関わっているだろうことは明白だ。
だけど、それとは違う理由で、おれの心は酷く空虚だ。
寝所さえ、サラと同室でこの上のない息苦しさ。
ひらひらすけすけなネグリジェだって、ある種見慣れているのに戸惑っている。
おかしいよな?
だっておれは、国に居ても王子様と同室で、
また彼の夜着もふわふわひらひらのネグリジェときているのに。
ヴォルフラムの『へなちょこめ!』が聞こえない。
ヴォルフラムが船酔いでうめく声が聞こえない。
それだけでもう、こんなに参っている。
「ヴォルフ、気分が悪いんだ・・おれ。もしかして風邪かな?」
「海流がやっぱ、他の場所よりきついんだと思うんだ。だから、船酔い?」
「考えてみれば、お前も大変だよな〜。こんな苦しい思いして、毎回・・・」
呟きながら、ふと思う。
そうだ、毎回。
彼はこんな思いをしてまで、おれに付いて来てくれているんだ。
「ヴォルフ・・っ!おれ、へなちょこになってんぞ!お前が叱ってくんないから。」
走馬灯のように駆け抜ける記憶。
ギュンターが撃たれて、コンラッドの腕が落ちて、おれも飛ばされて。
なにもかも分からないままに、当時は一般人だと思っていたムラケンを連れての二人旅。
頼れるものは何もなくて、反対にどうにかムラケンを無事に帰さなきゃって必死で。
その時再会したアーダルベルトに「へなちょこ」呼ばわりされた時。
『おれをそう呼ぶのはあんたじゃない』って、そう思って。
何故か泣きたくなった事。
箱の力で飛ばされて、谷底へ落ちそうになったとき、
駄目だと思った瞬間、ヴォルフが現れて、言ってくれた。
「落ちるときには、一緒に落ちてやる」って。
誰に会っても泣かなかったのに、お前の顔を見たら無性に泣きたくなったっけ。
俺がムラケンに酷い事を行った時には、片道ビンタで目を覚ましてくれたし、
コンラッドの身柄のことで我を失いそうだった時も、静かに制してくれた。
我儘なおれに付き合って、密航までして。
挙句、おれの身代わりになるように、矢で、その胸を・・・。
毒女の守護のおかげで生きているのは知っている。
でも。
でも。
あの時。
側に合ったヴォルフの体が傾いでいくのを見たとき。
おれは何もかもを、失ってしまった、気がして。
本当に、怖かったんだ。
あぁ________今すぐ声が聞きたい。
|