きっかけは些細な事だった。
パキリという名の少年の天使のような歌声がきっかけ。
楽しかった親子ミュージカルの事など全部吹っ飛んで、
ぼくはユーリと喧嘩してしまった。
だってそれは__________愛する国の事だったから。
ギュンターからの逃走劇で喧嘩の雰囲気は引きずっていなかったけれど、
やっぱり気になってしまって、夏向きの柔らかなクリーム色の夜着を纏うと、
ベットに座っているユーリの横に腰を下ろした。
「ユーリ・・・今日のことなんだが。」
「あぁ、ミュージカル!やってみたら意外に楽しかったな〜!」
「うん、そうだな。でも、話はそうじゃなくて・・・。」
「ん?なに?」
「その・・・国の、教育の事で。」
そういうと、ユーリの表情が固くなる。
「言い方が、きつくて、悪かった。でも、ぼくは間違った事は言ってないと、思う。」
ユーリは返事をしない。
「ユーリの国では、義務教育と言うのがあって、
どんな身分のものでも平等に教育を受ける事が出来る。」
「あぁ。」
「その事を、悪いと思ってるわけではないんだ。
確かに読み書きや算術は生活で必要なものだから。」
「あぁ。」
「だが、芸術面は、それは・・・。」
うまく言葉に出来ずもどかしい。
どうすれば伝わる?
どうしたら分かってもらえる?
「・・この国は、ずっと、そうしてきたんだ。」
その言葉にユーリが顔を真っ赤にした。
怒っているのだろう。
だからそういうところを変えていきたいんだときっとそう思っているのだろう。
またきっと言い合いになるなとそう身構えた時。
「・・・それについては、おれも反省した。」
「ユーリ?」
「おれから見たら、階級差のあるこの国は、差別意識満々に見える。」
ここはそういう国なんだ、そういいかけて口を噤んだ。
ユーリは魔王なのだからそれを変えてゆきたいと言うなら、それでも構わないのだ。
だが・・・。
「でも・・・この国はずっとそうしてきて、さ。今はさ、ヴォルフの気持ちもわかる。
なんでかっていうと・・・それは、あの子、パキリが教えてくれたんけど・・・。」
言い辛そうに視線を逸らして、ユーリは組んだ自分の指先を見て呟いた。
「何の気なしに口にするだけなら、変えないほうがずっとましだ、って。
本気で何かを変えようと思うのなら、
それは今の世界を誰よりも知らなきゃできないんだって。」
変わっていく世界に喜んでいた子供に胸を張って自分がやったといえなかったんだと
ユーリはそういった。
『あーしたい!こーしたい!』と口では言っても、
まだ何一つ自分ではできないって思い知らされたんだとユーリはそういった。
「それにさ、お前の・・・ヴォルフの意見ってさ、眞魔国で生まれ、
眞魔国で生きてる人々の思いそのままなんだって・・・分かったし。」
その言葉に僕の胸は熱くなる。
嬉しい。
とても嬉しい。
ユーリがこの国を知り、この国を本当に愛してくれているのが感じられて嬉しい。
そして。
ぼく自身を理解しようとしてくれているようで、嬉しい。
「ユーリ・・・ありがとう。」
「なんでヴォルフがお礼言うんだよ?おれは自分の未熟さがわかったって話を・・・」
「うん。わかってる。でも・・・嬉しいんだ。だって・・・」
それ以上は声にならなかったけれど。
新しい、卵色の夜着でユーリをベットに引きずり込めば。
迷惑そうな声音と裏腹に、ユーリの手がぼくの背中に回されて。
それは二人の仲直りの合図。
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