昼……AM 12:00 ところ……緑化地区
朝早めに出かける予定が、二人の都合?で大幅に遅れた。進は「どこへでも行くよ」と言ってハンドルを握ったが、お昼までに行きつける場所は知れている。雪は、進の大好きなメガロポリス近くの緑化地区を指定した。太陽の異常増進が停止した後、促成栽培された木々が地球上のあちこちに植えられ、地上に緑が甦った。進の大好きな緑だ。
二人は、車で1時間ほど走ったところにある市民の憩いの場、公園を兼ねた緑化地区にやってきた。
入ってすぐのところは公園になっている。家族連れが大勢ピクニックに来ている。広い芝生の上には、いくつかの遊具が備え付けられ、子供達が賑やかな声をあげて遊んでいた。
二人は、そんな風景を微笑ましげに眺めながら、奥の林の方へと進んで行った。林といっても、まだ植林されてからそれほど日数が経っていない。だから、木々の間からはあちこちから光がさしこんで、太陽の暖かさを地上に伝えていた。
林に入ると、ぴたりと人が見えなくなった。さっきの公園から、子供たちの楽しそうな声だけが聞こえていた。進と雪は、程よい空き地を見つけて、そこにシートを広げ、並んで座った。
「うーん、気持ちいいなぁ」
進が木々の下で座って天を仰ぎ、大きく伸びをした。晩秋の林、紅葉した葉は半分以上が落ちていたが、この地区は常緑樹が多いのか、まだまだ緑が溢れていた。
周りには誰も居ない。静かな昼のひととき。ただ小鳥だけが飛び交い、かわいい声を聞かせている。木々に取り付けられた鳥小屋に小鳥たちが住みつきだしているらしい。冬の準備に忙しいのだろう。鳥たちが出たり入ったりしている。
今日はとても暖かい。小春日和の爽やかな空気が流れている。
「もうこんな大きな木があるのね」
「そうだなぁ、地球は確実に甦っているんだ」
「ええ。太陽のせいでなくなった水も、アクエリアスのおかげで、すっかり元通りに戻ったし…… これからもっともっと緑が増えるわね。地球も人類も復興への力強さは変わっていないわ」
「俺たちも……だな?」
進が雪を見た。雪がこくんと頷き、進を仰ぎ見る。木漏れ日が雪の顔や髪にこぼれて輝き、彼女をより一層美しく飾る。進は急に雪にキスしたい衝動に駆られた。彼の顔があっという間に雪の顔に近づき、そっと唇に触れた。
「あ……ん」
軽く触れたところで、雪が恥ずかしそうに顔を背ける。
「ん?」
「恥ずかしいわ、こんなお昼に。誰か見てたら……」
「誰が見てるって?」
あたりを見まわしても、どこにも人の気配はない。遠くで子供の声がするだけだ。
「でも…… あ、そうそう、お弁当食べましょうよ、ねっ!」
誰かがふと通りかかりそうで恥ずかしい。進の気を逸らそうと、雪は慌ててお弁当を広げ始める。進も今は食欲にすぐ負けた。
「そうだな、ああ腹減ったよ。朝、あんまり食べなかったからな」
「だってそれは進さんが二日酔いだったからでしょう?」
「二日酔いはしてないぞ」
「うふふ……そう言うことにしておきましょう。はい、どうぞ」
「よっし、食うぞぉ!!」
簡単な材料で手軽に作ったお弁当だが、外で食べるとひと味違う。進の握ったおむすびも、雪の焼いた卵焼きも、とても美味しかった。「美味しいね」と二人で同時に声をかけて笑う。
他愛もない会話と食事が切れ間なく続き、たくさん詰めたつもりのお弁当はあっという間に空になった。
「うんっ! 満足、満足!」
進がシートにごろんと横になった。両手を頭の下に引いて空を見上げる。お腹が膨れると目がとろんとしてくる。ふぁ〜、と大きなあくびが出た。朝帰りの進は、それでなくても少し寝不足気味だ。
「ちょっと眠くなったなぁ」
進が目を閉じ、雪が微笑んだ。
「お昼寝したら?ってもう寝てる?? うふっ、じゃあ私も一緒に……」
雪も隣にごろりと横になる。進の左手が雪の頭の下にもぐりこんで、肩を抱いて引き寄せた。雪の額に軽くキスをすると、小さな声で囁いた。
「おやすみ……」
雪もゆっくりと目を閉じた。静かな午後。風が木々を揺らす音、小鳥たちの小さな声、遠くで楽しそうな子供たちの声、そして進の気持ちよさそうな寝息だけが雪の耳にリズミカルなメロディとなって聞こえてきた。
2時間あまり、二人は小春日和の空の下(もと)で、秋の眠りをむさぼった。
(背景:piano-piano)