当ってる……かな?




 時は2217年の春4月。あの戦いの日々から早10数年の年月が過ぎようとしていた。ラブラブカップル古代進と森雪もすっかり優しいパパとママ。そしてその二人の宝物、古代家の3人の子供達も、もうみんな小学生になった。

 特に今年1年生になったばかりの愛は、パパの大のお気に入り。先日の愛の入学式には、珍しくお休みに当った(お休みをぶん取ったという説もあったりする?)パパも出席。嬉し涙にくれたとかくれなかったとか…… とにもかくにも、幸せ一杯の古代家の面々であった。



 そんなある日の夕方のこと。子供達はもう3人とも学校から帰ってきたし、ママも帰宅した。でもって、パパはいつものごとく宇宙……ではなく、珍しく地上勤務中。だけど、まだ帰って来てはいない。でもそれほど遅くはならない予定だったりする。

 ママは今、台所で晩御飯の支度をしている。鼻歌まじりにご馳走を作るママは、とてもご機嫌だ。パパが在宅している時のママは総じて機嫌がいい。まあ、今更に始まったことでないので、子供達も特に言及はしない。どうせあてられるだけなのだということを、子供達はこの年にして既に了解しているのだ。
 この親達にしてこの子達あり、というべきだろうか?



 とそんな食事を待つひととき、リビングに集まった古代家の子供達が、なにやら楽しそうな話で盛り上がっていた。

 「で……航ならどんなの作る?」

 一番上の5年生になる長男の守が、なにやら物知り顔で、甘えん坊の次男坊3年生の航に尋ねた。

 「えっと、僕は小さくてかわいらしいのがいいな。あんまり広いと掃除とか大変そうだもん!」

 その答えに、守はニンマリと笑った。

 「やっぱりなぁ〜〜 ふっふっふ」

 「なんだよ、兄ちゃん! 変な笑いすんなよぉ!」

 兄の怪しい笑顔の意味が分からない航がつっかかろうとしたが、体格でたっぷり上回っているお兄ちゃんに、ぐいと腕を突き出されてあえなく尻餅だ。この家でも兄の権威は絶大らしい。
 そして半べその航を横目に、今度は元気でおしゃまな妹、古代家のアイドル1年生の愛に同じ質問をした。

 「まあいいから、いいから。じゃあさ、愛はどうだ?」

 「ん〜〜っと、愛のは、おっきいのがいいな! こ〜〜〜っんなくらいの!」

 キラキラお目目をくりくりと動かして考えながら、愛は両手を手一杯広げてそう答えた。

 「あはは…… やっぱり愛らしいなぁ」

 守がニッコリ笑う。どちらの答えぶりも守の想像通りだったらしい。だが、知らない二人はこのままじゃあ落ち着かない。

 「もうっ! で、なんなんだよぉ〜〜!」

 「守兄ちゃん、早く答え教えて!」

 と二人しての攻撃にも、守はもったいぶって二人を一瞥してから、おもむろに二人を自分の口元に引き寄せた。

 「ん、あのなぁ〜〜 ごにょごにょごにょ……」

 ふむふむと聞く二人。そして……

 「え〜〜〜〜〜〜! 僕そんなことないよぉ〜〜!」

 さっそくその結果に抗議したのは航だ。だが、さらに守に

 「そっかぁ、けどお前なら、お母さんを……ごにょごにょ」

 と言われたら、

 「うっ……」

 と返す言葉を失ってしまった。やっぱりお兄ちゃんにはかなわない。

 「俺も学校で聞いた時でっかいのを作るって言ったから、愛と一緒だな」

 一方満足そうに話を聞いていた愛は、胸をつんと張った。

 「うふっ、でもあったてるぅ〜〜 だって、航お兄ちゃん、いっつもさぁ〜」

 長兄守と同じと言われた強みから、愛は航に対して優位な立場に立ったと思ったようだ。航を見下すように横目でちらりと見た。

 「な、なんだよぉ〜〜!」

 さすがの航も、年下の愛のその視線にはむかっ腹が立った。一言怒鳴るなり、愛の頭をぽかりとやった。

 「やだ〜!! やめてっ、もうっ!!」

 もちろん愛だって負けてはいない。兄に負けずに、ぽかりと一つお返しをした。

 「いたぁっ! 女の癖に暴力反対!」

 「女の癖ってなによ!!」

 その言葉に腹を立てた愛が、さらに航を2度3度ポカリポカリ……

 「こらっ、やめろよ、お前らぁ〜」

 「航兄ちゃんが悪いんだもんっ」

 守が慌てて止めに入って二人を引き離したが、見かけのわりに男勝りな愛の手は緩まない。航を睨んで、兄の手の隙間からもう一発、さらにあっかんべーとかわいらしい舌を出した。

 「べぇ〜〜〜っだ!」

 「わぁああああ〜〜〜〜ん」

 最後の一発が効いたらしい。航はとうとう泣き出してしまった。あ〜あ、とため息をつく守の横では、愛が勝者よろしくつんと顔を上げた。

 「航兄ちゃんの弱虫っ!」

 「わぁああ〜〜ん!!」



 さらに泣き声をあげる航に呼ばれるように、とうとう台所にいたママが登場した。

 「もうっ、あなたたち何やってるの!?」

 もちろんここは母の眼力が発揮される。困った顔の守、大泣きしている航、つんと顔を背けてる愛、三人三様の様子から即座に状況を判断した。

 「あっ、あい〜っ、またお兄ちゃんを叩いたの? だめじゃないの、めっ!」

 あっさり見破られた愛は、不服顔で自分の言い分を主張した。

 「だって航兄ちゃんが最初にたたいてきたんだもん!」

 もちろん、航だって泣きながらだって主張するところは主張する。自分が悪者にされてはたまらない。

 「うええ…… 僕はちょっと触っただけだもん。愛みたいに思いっきりたたいてないもん!」

 「違うよ〜〜! 航兄ちゃんが先に……」

 「わかりました。ということは、じゃあ、どっちも手を出したのね? じゃあ、どっちも悪い子! 二人とも謝りなさい!!」

 冷静な判断の母が、喧嘩両成敗とばかりあっさり決断する。言葉はそれほどきつくはないが、睨む目は、相当恐い。なにせ、パパですらすくみあがってしまうほどのママの睨みである。子供達はあっという間に素直になった。

 「ふぁ〜〜〜い、ごめん、愛」 「はぁ〜〜い、ごめんなさい、航兄ちゃん」

 「はい、それで仲直りね」



 今回はあっさり片がついたとほっと一安心のママ。さっきまでの厳しい顔付きがとたんに美しい笑顔に変わった。これがまたいい。子供達の大好きなママの笑顔だ。

 「お母さん、抱っこぉ……」

 すかさず航が母に抱きついた。小学3年生になっても、ママの抱っこは必要らしい。それを見た愛がまた何か言い出しそうになるのを見た守が、それを遮るように声を上げた。

 「あっ、そうだ。お母さん!」

 「なあに?」

 航を軽く抱きしめていた手を離したママが、守のほうを振り返ると、守はニッコリと笑った。

 「お母さんに質問があるんだけど…… 航、愛、何も言うんじゃないぞ」

 「あっ、うん!」 「わかった!」

 兄の言葉に、さっきの質問を母にもしようとするのだとすぐにわかった二人。航も母から手を離し、二人はこくりと頷いた。

 「えっとね、ちょっとした質問!」

 「ふうん、どんなのかしら?」

 聞く体制に入った母に、守の話が続いた。

 「うん、じゃあ、お母さんいくよ! あなたは一匹の小さくてかわいらしい羊を大事に飼っています。名前はメリーさん。これからそのメリーさんに檻を作ってあげようと思います。あなたはどんな檻を作ってあげますか?」

 「なんなの、それ?」

 質問の意図がわからないママは小首をかしげる。反対に子供達は、その答えを待ってワクワク。目を輝かせた。

 「いいから、いいから、ねぇ答えてよ」

 「答えて〜〜!」

 なにかの占いかしら?などと思いながら、ママは素直に答えることにした。

 「うふふ、そうねぇ〜〜〜 お母さんが作るなら、大きな檻がいいわね。羊さんが自由にあちこちいけるように。でも、ちゃんと目の届くくらいの範囲じゃないと困るけど……ね」

 「じゃあ、このおうちくらいの?」

 愛が尋ねると、ママはふふふと笑った。

 「そうねぇ〜 それくらいはもちろん、ううん、もっと大きくてもいいわね〜」

 「うわぁ〜〜 すごぉ〜〜い!!」

 航がびっくりしたように叫んだ。

 「僕や愛よりも大きな檻だよなぁ!」

 「うん!」

 守と愛も尊敬の眼差しで母を見た。

 「あら、そうなの? それでこれで何がわかるの?」

 そろそろ答えの欲しいママに、守が説明を始めた。

 「えへへ、実はねぇ……かくかくしかじか……」

 説明を聞きながら、ママの顔がどんどん笑顔に変わっていく。

 「まあっ、そうなのぉ? うふふ……」

 「お母さんらしいよねぇ! 僕、分かる気がするなぁ」

 「そうかなぁ〜〜」



 結果に満足する守と、自分と同じでなかったことがチョッピリ悔しい航が話していると、愛が思いついたように宣言した。

 「ねぇ、パパにも聞いてみようよぉ!」

 「おっ、いいなぁ」

 「ねえ、パパならなんて答えると思う?」

 「お父さんも大きいのって言うかな?」

 「どうかなぁ〜〜?」

 3兄弟は首をかしげた。大宇宙を闊歩する偉大な父が、メリーちゃんにどんな檻を作ってあげるって言うのだろうかと、子供達は考えた。
 すると、ママがくすくすと笑い出した。その笑いに不思議そうな顔をした子供達に、ママはあっさりと宣言したのだ。

 「うふふ、お父さんならきっとちっちゃな檻作るって言うわよ。うふふ……」

 「そっかぁ〜〜 くっくっく…… 僕もそんな気がしてきたっ、ねっ、お母さん!」

 守も母の言いたい意図がわかったらしい。その意見に同意して、さらになにやら意味深な視線を向けた。

 「なによ、守ったら〜 もうっ、親にそんな視線向けないでくれる」

 小5にしては、ずいぶん大人びたマセっ子兄ちゃんの視線には、さすがのママもたじたじだ。ほんのり頬を染めている。

 「あははは……」 「うふふ……」 「えへへ……」

 笑い出した兄ちゃんにならって、よくわからないなりに楽しくなった航と愛も一緒になって笑い出した。



 そんなこんなで夕食の支度ができた頃、待望のパパが帰っていた。

 「あ、お父さんだっ! おかえり!!」 「パパ、おかえりぃ〜〜!」

 「おかえりなさい」

 玄関に向かって駆け足の3人の後ろから、ママは静かに笑顔で出迎えた。かわいい3人の我が子と最愛の妻の笑顔の出迎えに、パパはとっても嬉しそうだ。

 「ただいま。みんな元気一杯だな。うん、いいことだ」

 「お疲れ様、すぐに晩御飯にするわね」

 「ああ、ありがとう。俺も手伝うよ」

 パパは上着を脱ぎながら、台所に向かって歩き出す妻の後ろについていこうとしたが、ママにやんわり断られた。

 「いいわよ、それより早く着替えてらっしゃい」

 子供達から見えない台所の片隅で、かわいい妻にキスの一つでもしようと思っていたらしいパパは、当てが外れてちょっと残念そうにチェッと舌打ちをした。
 そんなパパの肩を、守がちょんちょんと叩いた。

 「ねぇ、お父さん、ちょっと質問があるんだけど……」

 「なんだ?」

 くるりと振り返るパパに向かって、守はえへんと一つ咳払いをした。航と愛も興味津々の顔で二人のやり取りを見た。

 「えっとね、ちょっとした性格判断テストなんだけど、い〜い?」

 「ああ、あんまりややこしいのじゃなかったらな」

 「うん! 簡単だから、じゃあ聞くよ……」

 守は、さっき母にしたのと同じように説明を繰り返した。そして期待を込めた6つの視線に見つめられたパパは……

 「う〜〜ん、羊の檻ねぇ〜」

 パパは腕を組んで考えた。大事な羊はやっぱり逃がしたくない。となれば……

 「やっぱりあんまり大きくないのがいいな」

 「どうして?」

 思わず笑い出しそうになるのを必死に押さえながら、守がさらに尋ねると、

 「そりゃあ、大事な羊がどっか遠く行ってしまったら困るだろ? 小さな檻ならすぐ近くにおけるし、ずっと目を離さないでいられるからな」

 とその説明を聞くなり、3人が一斉に笑い出した。

 「きゃ〜〜ははは…… やっぱりぃ〜〜〜!」 「きゃっ、きゃっ」 「あはは……」

 「お母さぁん、当ってたよぉ〜〜!!」

 守が大声で台所の母を呼んだ。実は台所でこの会話を耳ダンボで聞いていた母も、くすくす笑いながら、いそいそとやってきた。
 焦るのは当然、パパ一人。

 「な、なんだよ! お前ら揃いも揃っていきなり笑い出しやがって! こら、説明しろっ!」

 わけもわからぬまま笑われたんじゃあたまらないパパは、半ば怒鳴り気味に訴えた。

 「あはは…… あのね、実はこのテストは、その人の心の広さを判断するテストなんだよ」

 守の説明が始まった。

 「心の広さ?」

 「うん、檻の大きさが心の広さ!」

 「げっ」

 高らかに宣言する守の言葉に、パパは絶句してしまった。つまり、あんまり大きくない檻ってことは……パパの心は広くないってわけになってしまうのだ。

 「でもって、メリーさんって羊が、その人が一番大切に思っている人のことで、檻はその人をどれだけ自由にさせてあげられる心の広さを持っているかってことなんだよ」

 「むっ……」

 追い討ちをかけられたパパは、とうとう苦虫を潰したようなしかめっ面になってしまった。その横では、正反対に満面笑みのママが肩を震わせて笑っている。

 「うふふ、ね、言ったでしょう? パパならきっとそうだと思ったわ」

 「おい、どういう意味だよ、雪! じゃあ、君の答えはどうだったんだ?」

 他愛のない性格判断占いではあるが、妻の回答も気になるところ。そんなパパに更なる追い討ちが待っていた。

 「ママはねぇ〜〜 このおうちよりもずっとずっと大きな、と〜っても大きな檻なんですって! ママってとっても心が広いのよ〜!」

 愛が誇らしげに説明をしてくれた。それにはパパも言葉が返せない。

 「むむむ……」

 そして常に冷静な守が、おまけの説明を加えた。

 「ちなみに、僕と愛も大きめの檻で、航だけがお父さんと同じで小さな檻だって。航って実はお父さんに似てるんだね」

 「え〜〜〜!?」

 「あたってるかも〜〜〜 うふふふ」

 その言葉になぜだか不満げな航と頷くママ。顔を見合わせて笑う守と愛。そんな4人をじっと睨んでいたパパだったが、都合の悪い話はとっとと忘れようとばかり、こう宣言したのだ。

 「ったく! そんなくだらない話は終わり、終わり! 飯食うぞ!」

 「うふふ、そうね、じゃあ、みんな席について」

 ママもパパの言葉に同意して、皆は夕食の席につくことになった。幸いなことに、夕食の話題は子供達の学校の様子の話に移り、パパのご機嫌もご飯が終わる頃にはすっかりよくなった。



 その夜子供達が寝静まってから甘いひとときを過ごした、相変わらずアツアツのパパとママの会話。

 三十路を超えてもきめ細やかな白い肌の妻の首筋を、胸元にかけて優しくなぞる愛しの夫。幸せそうに喉を鳴らしながら、雪は話しかけた。

 「ねぇ、あなた……」

 「ん? なんだ? もう1回か?」

 「もうっ、ばかっ! そうじゃなくって、夕方のあの性格判断、面白かったわねぇ〜」

 「な、なんだよ。俺は心なんか狭くないぞ!」

 「うふふ…… そうかしら? あれ、当ってると思ったんだけどなぁ」

 「どういう意味だよ」

 「だって、私の檻は大きくって、誰かさんをいつも自由にさせてあげてるでしょう?」

 「むむ……」

 言い返せない夫である。

 「けど俺は君をそんなに狭い檻に閉じ込めたつもりはないぞ」

 「あらぁ、そうだったかしらぁ〜?」

 妻の視線は色々と物語っていた。夫だってちょっとばかり?思い当たる節もある。

 「な、なんだよ!?」

 「うふふ、まあいいわ。でも、これからは愛にも気をつけるように言っておかなくっちゃ」

 「何を?」

 「だって、これからは愛もあなたの大切なメリーちゃんになりそうなんですものっ!」

 「え?」

 「だって、もう少し大きくなって、愛が一人で出かけられるようになったら、あなた、どこに行くにしても心配で仕方なくなるんじゃなぁい? それにいつか彼氏なんかできたりしたらどうする〜? うふふ……」

 「ば、ばかやろ〜〜!!」

 まさに図星だ。パパにとっての大切な大切な娘、大変な目に合わすくらいなら、檻の中に閉じ込めておいたほうが、ずっと安心できるというもんだ。
 とはいえ、さすがにそうだと簡単に認めるわけにはいかない。かと言って当っているだけに、口では到底妻に勝てそうにない。

 くすくす笑う妻を黙らせる手段はただ一つ! 夫は妻の唇を実力行使でふさぎ、再び我が下に組み敷いたのであった。
 でもって「俺のメリーは、いつまでも君だけだよ」 な〜んてくさいセリフの一つや二つも吐いたんでありましょうか?

 とにもかくにも、古代家のメリーさん達は、これからも心のせま〜〜〜いパパの目をかいくぐる手を、いろいろと考えるのでありました。

おしまい


幸せなごく普通の家庭の暮らしを満喫する古代家の5人のお話でした。

ここで使った『メリーさんの檻』の設問は、我が娘がテレビか何かで見たらしく、私に向かって質問してきたものでした。おもしろかったので、これを古代家のみんなにも投げかけたくなったのです。

ちなみに、私の答えはもちろん(*^^*)愛ちゃんに反映させました(爆)
あい

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