月   光



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 彼女との愛の交歓を終えて、心地よい眠りに誘われた夏の夜。ふわりと僅かな風が頬を掠めたような気がして目が覚めた。うっすらと目をあける。

 窓の外から月明かりが入っているようだ。しばらくすると目も暗闇に慣れ、部屋の中が薄暗く見え始めた。
 エアコンが適度にきいている部屋は、真夏だと思えないほど快適な温度だ。気持ちいい。

 そして……体を横にすると、彼女が僕の方を向いて、薄い夏布団から綺麗な細い腕を出して眠っていた。とても気持ちよさそうにぐっすりと眠っている。

 彼女は僕がじっと見ているのも全く気付かず、幸せそうな笑みを浮かべて…… 楽しい夢でも見ているのだろうか。

 その寝顔は、あどけない。起きている時のきりっとした仕事モードの顔でも、愛し合う時の妖艶な誘うような笑みとも違って、まるで子供のように安心しきっている……そんな可愛い寝顔だ。


 ゆき……


 小さな声でつぶやいた。彼女のことが、心から愛しいと思った。

 そっと、彼女の白い腕をなぞってみる。柔らかくてすべすべしていて、それでいて、なぞる手に吸いついてくるようなきめこまやかな肌だ。

 僕は、彼女の肌をもっと見てみたい衝動に駆られて、布団を少し下にずらした。

 外から入る月光のほのかな明るさが、彼女の体を白く光らせている。その裸の体を上から下へとじっと見つめた。

 首筋から鎖骨へ、すらりとしたなだらかな線がつながり、今度はそれが胸元へと膨らんでいく。
 そして、その盛り上がりの二つの頂点には、彼女の小さな桃の花の蕾がちょこんと乗っている。それは、まるで僕を誘っているかのように光って見えた。

 横を向いているからか、いつもより豊かに見えるその胸はたっぷりとした量感があり、おわんをひっくり返したような形を崩すことなく、艶やかな張りを見せている。


 きれいだ……


 月並みだが、ただ一言この言葉が僕の脳裏に浮かんできた。そして、触れてみたい…… 必ず次に巡ってくるのが、この欲求だ。

 その欲求のまま、僕は手を伸ばしその胸に触れようとして、止めた。彼女の健やかな眠りを妨げるのが少しかわいそうな気がして、自分の欲求を懸命に押し留めたのだ。

 すると、胸が押しつぶされたように、きゅうんと痛んだ。触れたい触ってみたいという強い欲望が体中を駆け巡り、心臓の鼓動も早くなっていく。

 普段ならそんな欲求に負けて、彼女に触れ、眠りから覚まさせてしまうのだが、今夜はなぜかその切ない痛みが、急に懐かしくなってしまった。


 ああ、この感覚……


 彼女とこんな関係になる前は、しょっちゅう感じていた、辛いような悲しいような、それでいて心地よい苦しい思い。ほんの少し前までは、何度も感じていたそんな思いだ。


 僕は、一旦彼女の体から目を離して、レースのカーテンごしに窓の外を見た。

 今夜はみごとな満月だ。ビルの間からまん丸の月が輝いている。青みがかって見えるほど澄んだ光が、部屋の中にも入ってきていた。

 その月の光が、彼女の体を、まるで最高級の陶器のように白く光らせていた。


 そんな時、何かに引き込まれるように、僕は彼女への妖しくも切ない渇望の日々を思い出していた。そう、あれは……

 もう3年以上も前のこと、イスカンダルへの旅の途中のことだった。



 地球を出たばかりの頃の僕の心の中は、ガミラスへの恨みや怒りで充満していた。

 だが、ヤマトで彼女に出会い接するようになってからは、いわゆる「愛」だの「恋」だのと言う、温かくも切ない思いが僕の中に生まれ、日を追うごとにその思いが心の中の占有率を広げていった。

 僕は戦いの中で、なんとかそんな気持ちを押し殺そうとした。

 けれど僕の努力にもかかわらず、その思いは逆にどんどん膨らみ、戦いの合間に、ふと気がつくと彼女のことばかり考えている自分がいた。

 彼女の顔が見たい。もっと話したい。

 触れてみたい。そして、抱き締めてみたい……



 戦いのない日が続くと、心は彼女で一杯になった。

 自分が思うほど彼女は思ってくれているのだろうか……?

 彼女の心が知りたくて、自分の思いを持て余して――色んな理由から、僕は地球に戻るまでは彼女に気持ちを伝えまいと決めていた――彼女の愛を渇望し、眠れぬ夜を過ごしたこともあった。

 もちろん、それは心だけのことではない。

 若かった僕は――今も十分に若いけど――何も身にまとわぬ彼女の姿を想像しては、男の性をほとばしらせたことだって何度もあった。


 その中でも特に大きく心を揺さぶられた出来事が、例のあの日の夜のことだった……



 僕は、摩天楼の間に見える月を見上げながら、あの日のことを思い出していた。


 

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(背景:La Moon)