月   光



−2−




 あれは2200年の新しい年が明けてすぐのことだった。

 ガミラスの策略で設置されたリレー惑星のせいで、相原が極度のホームシックにかかり、とんでもないことを仕出かしたのだ。

 就寝中の俺は、突然第一艦橋の島から相原の様子がおかしいという報を受け、すぐに飛び起きて艦内を探し始めた。

 居住区に降りてきた島と合流して、ちょうど雪の部屋の前にさしかかったとき、突然雪が部屋から飛び出してきて叫んだ。

 「相原君が……!! 私が本を読みながら何気なく外を見たら、相原君が外を遊泳しているの!」

 「なんだって!」

 俺達は慌てて第一艦橋に戻り、島に艦橋の留守を頼んでから、俺はブラックタイガー隊と一緒に相原の捜索に向かった。

 幸い、元凶のリレー惑星付近で相原を見つけだし、あいつも我を取り戻して、事件は案外あっけなく無事に解決した。


 と、ここまではよかった。問題はその後だった。というのも、あの部屋から飛び出してきた時の雪の格好が大問題だったんだ。

 ベッドに横になっていたという彼女は、なんとまぁ、俺達の想像を絶する最高に悩ましい格好をしていたのだ。

 体の線も肌の色もすっかり透き通って見えるスケスケのネグリジェ、ブラジャーも着けず胸は丸見え、おまけにパンティーの色は……なんとっ……黒!!

 現場で彼女に遭遇して、俺と島はあまりにもの衝撃に一瞬言葉を失い、目が点になってしまった。それは、すぐにその現実への反応の仕方がわからないほどの衝撃だった。

 が、その直後彼女の口から出てきた言葉で、俺達は自分達の任務を思い出した――自分でも任務になんて熱心なんだろうと、後で思ったものだ。

 俺たちは、彼女に「ありがとう!」と叫ぶと、くるりと振り返って走ったのだ。

 正直言って、その時は見たばかりの幻のような彼女の姿が、一旦は頭の片隅に追いやられ、相原救出のことで頭が一杯になっていたからよかったのだが、その後ヤマトに戻ってきてからが本当にヤバかった。


 俺は、長時間の宇宙遊泳で疲れている相原を、佐渡先生に診てもらうために医務室に連れていった。そこには当然、看護師姿の雪がいた。

 「相原君! 大丈夫?」

 医務室に入ると、雪は駆け寄ってきて、相原を抱きかかえるように、佐渡の前の椅子に座らせた。

 ミニスカートの看護師姿の雪はいつものように魅力的で、スカートから伸びた白く長くて美しい足は、俺の目を惹きつけた。

 そしてその足が俺を誘うかのごとく、俺の妄想を一気に爆発させた。

 そうなんだ、俺の脳裏に、突然さっきの雪の姿が鮮やかに甦ってきた!!

 スケスケのネグリジェ、それから透けて見えていた美しく白い体とその曲線、そして何よりもふっくらと膨らんで見えていた乳房とその先端の桃色の……ものが見えたような気がする。

 えっ!? あれってもしかして!?…… それに黒いパ、パ……

 ああ、口にも出せないっ!!!

 あっという間に、雪のあの姿が俺の頭の中で、ぐるぐると回り始めた。

 それはまるで体中で血液という血液が、いきなり暴走を始めたかのようだった。俺の中のありったけのアドレナリンが分泌されたに違いない。

 そしてその巡った血液は、男の生理として、当然のごとく下半身のある一点に集まっていった。

 「うっ……」

 痛いほどの衝撃を下腹部に感じて、俺は思わず声と共に身を翻して、雪たちに背を向けた。

 その声に驚いて、雪がこっちを向いた。そして不思議そうな声で尋ねた。

 「古代君? どうしたの?」

 どうしたの、だって!?

 君の色っぽい姿を思い出して大変なことになっちまったんだよ! 君はよくあの格好を見られて平気な顔してられるよな!!

 そう叫びたい心境だった。

 だけどまさか、この場所でそんなことは言えやしない。しどろもどろになりながらも、股間を見せないように背を向け、首から上だけを雪に向けた。

 「い、いや……なんでもない。よ、用がなかったら、お、俺、もう帰ってもいいか?」

 「ええ、大丈夫よ。部屋に帰って早く休んでね。お疲れ様」

 突然焦り出した俺に、彼女はまだきょとんとした顔をしていたが、それ以上何も聞くことなく微笑んだ。

 「あ、ああ、じゃあ、後頼んだぞ」

 俺はこれ幸いに軽く会釈をしてから、逃げるように医務室を飛び出していった。


 廊下に出るなり、肩から大きくふうっとため息が出た。

 けれど、まだ胸のドキドキは納まっていないし、それよりもなによりも、まだ股間のものが……

 もちろん、こんな夜更けに廊下でつっ立ってるわけにもいかず、俺は大慌てで自室に駆け戻った。

 たぶん誰かが見たら、ものすごく奇妙な走り方だったに違いない。途中誰かに会わないかと心配したが、幸いそれだけは逃れられた。


 部屋に戻ると、俺はもう一度大きくため息をついた。

 「はぁ〜、なんとか助かったぜ。しっかしなぁ〜」

 俺は恨めしそうに、視線を下にやって自分の股間を睨んだ。

 ソイツはあいからわず元気なままだし、体中もカーっと熱くなったまま。その上、何か他のことを考えていないと、すぐに彼女のあの姿が脳裏で踊り出す始末だ。

 「うわっ、だめだぁっ!!」

 俺は、思わず叫んでベッドに飛び込んで布団をかぶってうずくまった。寝てしまうしかないと思ったからだ。




 しかし、数分後。

 「やっぱり……だめだっ!」

 また同じ言葉を発して俺は飛び起きた。

 とても寝られる状態ではないのだ。このままでは、頭が変になってしまいそうだ。俺はとうとう、自分でなんとかすることにした。

 ああ、もうこれで何度目だろうか。

 俺も男だから、訓練学校当事から、何度か経験はあった。だが、あの時は相部屋だったし、周りが寝静まった頃、こっそりと真夜中に……である。随分どきどきしながらやった覚えがある。

 と言っても、そんなことは本当にほんの数えるほどだった。後は、激しく厳しい訓練とガミラスへの恨みや怒りが、俺の若い欲望を抑え込んでくれていたのだ。

 しかし、ヤマトに乗ってからは違った。彼女に出会って以来、いわば興奮の原因が、毎日目の前でうろうろしているようなものなのだから。

 雪には、ほとんど一目惚れしたようなものだった。それも生まれて初めて真面目に恋をした。彼女以外の女のことなど、考えられないほど惚れてしまった。

 そんな相手なのに、さらに!である。

 いつも着ているユニフォームがまた困ったものだった。あの体の線がバッチリ出るボディコンスーツ姿か、でなければ、ちょっとかがめばパンチラになりそうなミニスカート姿なのだ。

 惚れた女のそんな姿は、実に魅惑的だった。

 そんなこんなで、俺は――多分、俺だけではなかっただろうけど――妄想の中で彼女の服を剥ぎ取って、見たことのない彼女の全裸を想像しては、一人果てていた。

 それが、今日はやけに具体的な映像がくっついている! 最初から、収まるわけがなかった。

 俺はくそっ、と誰に対してかわからない悪態をつくと、一旦ベッドから降りて、デスクの上のティッシュケースを取った。そしてベッドに座り直し、じっと下を見た。

 なんとかこいつを大人しくさせないと……頭がカーっとしてきておかしくなりそうだ。


 よしっ!

 俺は、行動をおこした。

 目を閉じる。すると、今日はいつもより鮮明な彼女の姿がすぐに目に浮かんだ。

 そりゃそうだ。本物を見たんだから……

 彼女の体が俺の妄想の中でセクシーにくねくねと揺れた。

 「古代くぅ〜ん」

 想像の中の彼女の声は吐息のように甘い。ああ、本当にそんな風に耳元で囁かれたら、俺は天にも昇る気持ちになるだろう。

 「うっ、ううっ……」

 さっきまで抑えつけていた快感が堰を切ったように、体に走り始めた。

 またあの姿が俺を襲ってくる。あのネグリジェ姿を雪をベッドに押し倒して……

 「ああっ……」

 ああ、そうだ。ネグリジェはそのまま着ていてもいい。薄いシースルーの布地から、可愛いほんのりと桜色に染まったものが見えて…… 彼女のあの白い胸を、ネグリジェの上から愛撫するのものいい。

 「ぐぅっ……」

 ああ、もう限界だ。これ以上抑えていることなど出来そうにない!

 ……………………




 ああ…… 最高に気持ちのいい瞬間だ。

 体じゅうに痺れが駆け巡った。鼓動が大きく揺れる。息が荒れる。

 「はぁ〜〜〜」

 バタンと上半身をベッドの勢いよく倒して大の字に寝ると、大きく息を吐いた。

 終わってしまうと、なんていうか微妙に情けない気分になる。

 確かに気持ちよかったし、その余韻も体に残っている。だが、それと同時に、なんとなく虚しさを感じるのだ。

 またやってしまった……

 この言葉が一番似合うのが、この瞬間ではないかと思う。

 決行する前は、もうひたすら快感を感じたい一心で懸命に行動するのだが、終わってしまうと、一人での作業が非常に虚しい。そんな感情をいつも持ってしまう。そして……

 「ああ、本物を抱いてみてぇなぁ〜 こうぎゅうっと……」

 無理だとわかっていても、そう口にせずにいられない。

 「ゆ……き……かぁ〜」

 雪の笑顔を思いだす。とてもかわいい……

 もしも、彼女も俺と同じくらい俺のことが好きだったら?

 「好きだ」と告白したら、あの可愛い顔を真っ赤に染めて「わたしも……」と小さな声で囁いてくれたりして……

 そんなシーンを何度想像したことだろう。だけど、今はまだそんな関係でもないし、第一告白する心準備さえ出来ちゃいない。

 いつか……本当に……そんな日が来たら、俺はどんな風になるんだろう? 俺の心も体も喜びに震え出すに違いない。

 そんな想像をしていると、俺の体は再び見事に一瞬にして反応を示した。

 「あうっ!?……」

 大抵は一度果てると、軽い疲労感から眠気が生じるのだが、今日はどうも違う。

 再びさっき目にしたホンモノの彼女のあの姿が、またしても鮮明に蘇ってきたのだ。

 うわっ、やばい!

 そう思った時には、既に遅かった……

 「おいおいっ! ちょっと待てよ、お前!」

 思わず自分でそう叫んでしまうほどの変化だった。俺の意志とは無関係に、既に体は120%の反応を示してしまっている。

 「ああああ…… だめだ、こりゃあ」

 俺は頭を抱えてしまった。

 「くそっ、こんなことしてらんねぇ!!」

 俺は自分に、そしてあんな姿を見せた雪に腹を立てながらベッドから飛び降り、一度脱いでいた制服を着直した。

 それから、部屋を飛び出して一目散にトレーニングルームを目指した。

 俺は、自分の体を目一杯いじめて疲れさせ、このどうしようもない欲求を抑える方法を選ぶことにしたのだ。




 ところで余談だが……

 駆け込んだトレーニングルームには先客がいた。その夜、俺と同じ思いで苦しんでいる奴と言えば……そう!!あいつしかしない。

 そりゃそうだろうよ。

 奴だって雪のことが好きだんだから。いや好きでなかったとしたって、俺と一緒にアレを見てしまったら若い男ならみんな同じだろう。

 俺達は、互いの顔を見合わせると、お前もかと言う顔で苦笑しあった。

 そして二人して、夜明け近くまでトレーニングルームで汗を流し、流して流しまくった。頭の中が妄想する気力すらなくなるまで……


 結局、雪があんなものを見せてくれたおかげで、俺達はその夜からしばらく、毎晩トレーニングルームのお世話になることになってしまった。

 あの驚きの姿を見たことは、果たして俺達にとって得だったんだろうか、それとも損したんだろうか……?

 後日落ちついた頃、二人でそんな話をしたものだった。

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(背景:La Moon)