Happy Birthday Dear…?


 今日も賑やかな古代家の朝。3人の子持ちになったママとパパも朝からバタバタ大忙し。

 パパこと古代進は、太陽系第三艦隊の巡洋艦の艦長などという立派な肩書きをお持ちだが、家ではどこにでもいる子煩悩なパパ。
 特に去年産まれた末っ子娘の愛には目がない。今朝も嬉しそうにホッペに朝のキスなどをしている。
 もちろん、ママにもしてねと、ねだられて、こちらにはくちびるキッスとサービスに怠りない。
 只今、艦の定期点検で地上勤務中に付き、出勤の仕度をしながら、ママから頼まれて子供の仕度も手伝っている。

 ママこと古代雪――仕事中は森雪に戻る――は、防衛軍司令長官秘書。子供のこともあるから、少し仕事はセーブさせてもらっているが、それでも長官が一番頼りにしている秘書の一人だ。残業、出張お手のもの。そして今朝も朝から会議の予定が入っているから、早めに出勤しなければならない。

 だけど……二人は文句一つ言わずににこにこ顔で準備にいそしんでいる。なぜか……?
 実は……明日と明後日は二人揃っての休暇が取れた。ゆっくり家族水入らずの休日が過ごせる予定なのだ。
 だから……二人はルンルンである。

 それに…… 一週間後にはとっても大切な日がある。それは?

 子供達の仕度も整って、後は出かけるばかりになった。お出かけ前のトイレに走るお兄ちゃん二人を待っている間、パパとママとそれからかわいい愛ちゃんは、リビングでちょっと休憩。
 ヨチヨチ歩き始めた愛ちゃんを目を細めてみていたパパが、隣のママに向かってこう言った。

 「雪! 来週誕生日だよな!」

 「えっ!? 覚えてくれてたの! うれしいわっ!」

 奥様の顔に満面の笑み。当然と言いたげな得意顔の旦那様。

 「当たり前だろう。俺の一番大切なレディの誕生日を忘れるわけないじゃないか」

 「えっ、あらっ……」

 ぽっと赤くなる雪。奥様の誕生日、今までにも何度か忘れてしまったこともあるちょっと危ない?愛しの旦那様。だけど、今年は覚えてくれてたんだと思うと、奥様としては嬉しくてたまらない。
 その上「大切なレディ」だなんて、そんなこと彼が言ってくれたの、初めてじゃないかしら〜などと、ルンルン気分に拍車がかかった。

 「今度の日曜は二人とも休めそうだし、みんなでお祝いしような」

 「え、ええ…… そうね、ありがと、あなたっ」

 と、奥様からホッペにチュッともらって、だんなさまはにっこり。奥様もニコニコ。

 「で、プレゼントだけどさ。何がいいかな?」

 「えっ? そんなの……なんでもいいわよ。あなたの気持ちがこもってれば……」

 誕生日を覚えていた上にプレゼントだなんて! ここ数年では最高に上出来だわ、と雪のハートはふ〜わふわ。やっぱり、私の愛する旦那様だわ、とまたまた隣に体を摺り寄せた。

 「気持ちっていってもなぁ〜〜 今すぐ使えるものってなんだろうな? 洋服かな? それともおもちゃがいいかなぁ?」

 「お、おもちゃ!?」

 奥様の顔が真っ赤に染まる。ちょ、ちょっと待って、いきなり「大人の」おもちゃだなんて、やだわ、やだわっ! 困っちゃうわ!!

 「どうした? なんだその赤い顔は?」

 「ん、もうやぁねぇ〜〜 あなたったら、朝っぱらから、あんっ、えっちぃ〜!」

 だけどあなたがどうしてもっていうなら、付き合ってもいいのよ、なんて気持ちになるから、奥様もそれなりにえっち?

 「はぁ? えっちって?」

 旦那様はいたって平気な顔。真っ赤になってる奥様とはえらい違いだ。

 「どうして子供のおもちゃの話がえっちなんだ???」

 そう言えば……旦那様、大人の……なんて言ってませんでしたね〜

 「えっ???」

 雪は目をぱちくり。なんだか話が食い違っているような気が……

 「だから、一歳の愛には、何がいいかって聞いてるんだろ?」

 「一歳の愛?」

 雪の顔色が微妙に変わった。旦那様、ここで気付けば傷は浅かったはずなのに……!! やっぱり予想通りさらに墓穴を掘った。

 「だから、誕生日だろ?愛の!」

 「愛の?誕生日……それだけ?」

 「ああ、それだけだよ」

 平然と言い放った進を見て、奥様の顔色は最悪だ!真っ青になった後に、真っ赤になった。さすがの旦那様も、これには驚いた。

 「ど、どうしたんだよ!」

 「さっき言ってたのって、愛の誕生日!?」

 「決まってるだろ? 来週は愛の一歳の誕生日じゃないか」

 おいおい、ここまで言われてまだ気付かないのかい?愛する旦那様!!

 「じゃあ、一番大切なレディって?」

 「そりゃあ、かわいい愛ちゃんに決まってるじゃないか。何言ってるんだよ、君は?」

 「ぬぁどぇすってぇぇぇぇ!!!」

 火山爆発!大噴火!
 かわいい娘の誕生日を覚えていたパパは偉い! 奥様も理性ではそれはわかる。だがしかし!しかしである。感情がいうことを効かないのだ。なんで私のだけ忘れるのよっ!と、強く強くこう言いたいのだ。

 「ひっ! ど、どうしたんだよ!」

 ものすごい形相で睨まれた旦那様は、びっくり仰天。声が震えている。

 「もうっ!!!! 知らない!知らない!知らない!!! どうせ、あなたには娘の方がかわいいに決まってるものね〜〜〜!! あ〜そうですか!そうですよねぇ! どうせ私のことなんか忘れちゃってるんですものね! もうっ、知らない!!」

 「お、おいっ雪!!」

 わけもわからず焦りまくる旦那様を無視して、ものすご〜〜く恐い顔で愛を抱き上げて「はい!あなたの大切なレディよ!!」と言いながら手渡すと、これまたものすご〜〜い勢いで、家から出ていってしまった。

 バタン!!

 リビングから廊下にでるドアが、耳に痛いほどの大きな音を立てて閉まった。

 「雪っ! ちょっと待てよ! 守たちがまだだぞ! おいっ!」

 と、進が叫んだところで、返事があるわけではない。呆然とするパパのところに、トイレをすませた二人の息子が戻ってきた。

 「お父さん、行こうよ! お母さんはもう外?」

 何も知らない守はのんびりした顔でパパにそう告げた。

 「あ、ああ…… 今行った。なあ、守、来週愛の一歳の誕生日だよな? そのことをお祝いしたらなんか悪いのか?」

 パパは愛を抱いたまま息子に尋ねた。何がなんだかさっぱりわからんという顔をしている。

 「えっ? そんなことないと思うよ。だって、お母さん楽しみにしてたもん。ケーキもおっきいの作るって言ってたよ」

 「だよな、じゃあどうして?」

 不思議そうな顔でドアの方を見る進に、守が言葉を付け加えた。

 「ご馳走もたっくさん作ってくれるって! だって今年からは二人分のお誕生会だからって言ってたよ!」

 「二人分って………………あ"あ"ぁぁぁぁ〜〜〜〜」

 守の説明を聞いて、ここでやっと気付いた進パパ。自分の失態に頭を抱えた。

 「どうしたの、お父さん?」

 首を傾げて父親を見上げる守のかけた声は、進に聞こえていない。

 「雪〜〜〜、すまん! 雪っ! お母さん!!」

 さっきの雪に負けない勢いで、部屋から駆け出していった。
 残された守は、不思議そうにそれを見送っていた。そこへ幼稚園バックを手にした航がやってきた。

 「どうしたの、兄ちゃん?」

 「わかんない。ほら行くぞ!」

 「うん!」

 パパに先を越された二人の息子も、リビングを駆け出して玄関先に出た。すると、そこにはママに置いてけぼりにされて、愛を抱きしめたまま呆然と立ち尽くすパパがおりましたとさ。

 それから、旦那様はその晩必死に謝ってご機嫌をとったが、奥様のご機嫌が直るまでには、相当の労を要したそうな。
 もちろん、この年の奥様への誕生日プレゼントは、とっても豪華なものになったらしい。






(おまけ)

 ほんとは、本気で怒ってたんじゃないのよ。あの人のことだから、こんなこともあるかなって思ってたもの…… でもね、ここはやっぱりこれからのことも考えて、毎年愛の誕生日に隠れて忘れられちゃったら困るでしょう?
 だ・か・ら・よっ♪
 おかげであの人は、しばらくとっても優しかったし、素敵な誕生日プレゼントも貰えたし、うふふ、作戦勝ちね!
 えっ? プレゼントはなんだったかって? 大人のおもちゃ貰ったのかって? まあ、や〜〜ねっ、うふふ。それはひ・み・つっ!♪

 でもこのことで、愛が、この私の最大にして最強のライバルだってこと、思い知らされたわ。そのうち、母娘でパパの取り合い合戦しちゃいそうよ(笑)


 とは、奥様の弁でした!旦那様は、まだまだ修行が足りませんな!
 

おっしまい!

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(背景:Anemone's Room)