ひとり寝る夜は……
新婚半年を過ぎたばかりの二人。まだまだアツアツです。今日も、古代君も宇宙から帰還して、二人はラブラブ!?と思いきや、二人とも仕事に忙殺されている様子。ちょっと欲求不満気味の雪ちゃんは……?
新妻雪ちゃんのとっても色っぽいお話です。なので、要注意事項をひとつ。
もしも……清純可憐な雪ちゃんがお好き、と言う方は、このお話はご覧にならないでくださいね。イメージが崩れるかもしれませんから……
2204年が明けてすぐ、私と古代君は念願の結婚式を挙げた。やっと訪れた静かな生活。私たちは、平和な新婚生活を満喫していた。
そして時が過ぎ、夏の盛りが終わる頃のこと、古代君――ううん、もう旦那様なんだから、進さん――はいつも通り、宇宙から帰還してきた。
半年暮らした預かっていた一戸建てから、再び元のマンションに戻り、改めて2度目の新婚気分を味わうつもり……だったのに……
実は、私、ちょっぴり欲求不満気味。だって私は今、長官秘書としての仕事が多忙を極めていて、その上、彼にも急な仕事が入って、せっかくの1週間の休暇を返上して、二人して働いているんですもの。しかも……
その日、私は秘書課の同僚の夏木亜美さんと一緒に、司令本部の最上階にあるカフェテリアで昼食をとっていた。
カフェテリアは食事をする職員でとてもごった返している。忙しい本部の仕事の合間に食事を取るのは、やはり本部内のこの施設を使うのが一番手っ取り早いから。
亜美さんは、参謀長の秘書として活躍する、なかなか有能な女性。私が最初に指導したこともあってか、私のことを姉のように慕ってくれている。とてもかわいい後輩なの。
「はぁ、やっと午前中が終わりましたねっ」
亜美さんが、持ってきた食事をほとんど平らげてから、疲れた顔でため息をついた。
私も同じ、少し疲れ気味の今日この頃…… せっかく進さんも地球に帰ってきているというのに……
「今週は特に忙しいものね。来週早々の防衛会議の準備で、みんな大変だから仕方ないわね」
私も一緒にほっとため息が出た。お互い大変よね、と言う顔になる。
「雪さんも、毎日残業してらっしゃるでしょう?」
「ええ、長官の資料作りがね。でも、もう午後にはケリが付きそうよ。週末はゆっくりできそう」
そう、実はこの多忙さも、やっと今日で終りにできそうなめどがついたばかりだったの。今週末は……進さんも休めるかしら?
「そう言えば、旦那様も帰っていらしてるんでしょう? 昨日お姿拝見しましたわよっ!」
亜美さんは、いい意味で進さんのファン。私が彼のことを惚気るのを聞いているからかもしれないけれど。
最近彼氏のできた彼女も、参考に……とか言いながら、いろいろ私達のことを聞いてくるから困っちゃう。
「うふふ…… そうなのよ。この前帰還して、本来なら1週間のお休みのはずだったのよ。
それなのに、私は忙しくて休めないし、彼は彼で、別口で防衛会議の資料作りを手伝って欲しいって頼まれちゃってね。お休み返上よ。また来週から宇宙へ出航しちゃうのよ。
せめて週末くらいはゆっくりしたいんだけど、どうかしらねぇ」
大きなため息を漏らす私を見て、亜美さんがくすりと笑った。
「でも地球にいらっしゃるんですから、夜はゆっくり……うふっ」
亜美さんったら、意味深な顔で人の顔を見るんだからぁ。ちょっとドキッとしてしまうじゃいの! でも……実は全然艶かしくないの!
「んっ、もうっ、やぁね。でもそれもだめなの……」
「えっ?」
亜美さんは意外そうな顔。だって、彼が地球に帰ってくると、いつも私はできる限り休みを取るし、仕事があるときでも、顔つきが違うって、いつも彼女にチェックされてるのよね。でもね……
「彼の手伝ってる資料作成がずっと遅れてるみたいで、まあ、それで休みの彼にまで声が掛かったわけだけど…… 帰ってきてから毎日、午前様なのよ。
起きて待ってようにも、私も毎日の仕事で疲れて眠くなるし、彼も「寝てろ」って言うし……
だから、一緒に朝ご飯を食べるのが関の山なんだから」
それと、一緒に浴びる朝のシャワーとね。でも、これは亜美さんには内緒よ!
「あらぁ…… それは、ご愁傷様です!」
ちょっと同情気味の笑顔で、亜美さんが笑う。彼女の彼は、地上勤務の人だから、いつでも会える。そう言う点では彼女が羨ましくなっちゃうわね。
そんなことを言いながら、私達は食事を食べ終えた。まだ昼の休みが残っているし、何か飲みましょうか、と話しているところに、声が掛かった。
「よぉっ! 昼飯食ってるのか?」
その聞きなれた声にはっとして顔を見上げたら…… やっぱり、進さん! 手には、食事をたっぷり乗せたトレーを持っている。思わず笑みが漏れてしまった。
「あらっ、進さん。私達はもう終わりよ。あなたはこれからなのね?」
昼食時間も部署によってまちまちで、なかなか彼と出会うこともなかったので、とっても嬉しかった。
今朝だって、ぎりぎりまで寝ていた彼を起こして、お風呂場まで連れて行って…… それから二人で慌しくシャワーを浴びてから、なんとか朝ご飯だけ食べさせて飛び出してきたのよねぇ。
今朝からキスを一つ貰っただけだし…… ちょっぴり物足りなかったわ。
進さんと私が笑顔で見つめ合ってるのに気付いた亜美さんが口を開いた。
「こんにちは、噂をすれば……ですね。では、お邪魔な私は失礼しますわ」
目が笑ってて、私も進さんも照れ笑い。
「あら……いいのよ」 「あ、どうぞご一緒に……」
二人で慌てて留めたけれど「短いお昼休みですけど……ごゆっくり」と言って行ってしまった。亜美さんったら、いつもよく気がつくことね。
「よかったのかい?」
進さんが、私の向かいに座って、トレーをテーブルに置くと、少し心配そうに言ってくれた。私の友達や同僚達にも彼はいつも気遣ってくれて、親しく話もしてくれる。でも、いいのよ。彼女は気にしないから……
「ええ、もう食事も終ったし、コーヒーでも飲もうかどうしようかと思ってたの」
「そっか、あ〜腹減ったぁ」
進さんはそう言うと、本当に嬉しそうな顔で食事を始めた。もう、進さんったらっ!
いつものことだけど、彼って本当にすぐにお腹を空かせる人なのよね。大体今日なんて事務作業のはずなのに、どうしてそんなにお腹が空くのかしら?
あ、そうそう。肝心のことを聞かなくちゃ。
「それで、ど〜お? お仕事のほうは…… 今日で終りそう?」
「うん…… なんとかなりそうな感じにはなってきた。今晩も少し遅くなるとは思うけど、明日からは休みたいからな」
進さんは口に食べ物を一杯ほおばりながらも、そう答えてくれた。
ああ、よかった! 進さんもなんとか週末は休めそうなのね? だって、ずっと働きづめなんだから、あなたの体のことが心配なのよ。
「そうよ、あなた帰還してからお休みなしで、毎日残業してるんだから、もう休まないと体が持たないわよ」
「大丈夫だよ。地球にいれば君の顔が見れる。それだけで元気百倍だよ」
進さんったら、んっ、もうっ! うれしいっ!
でも不思議。この人は、いつの頃からこんなことを言えるようになったのかしら? 昔は女性を喜ばせるようなセリフなんて無縁の人だったのに……
「うふっ、でも、それだって毎晩帰ってくるのは遅いし、帰ってきたらバタンキュー。朝ご飯を一緒に食べるくらいじゃな〜い?」
照れ隠しに、ちょっぴり文句を言ってしまったら、進さんは苦笑してる。
「それじゃあ、ご不満かな?」
「だってぇ……」
周囲の目もあるし、小さな声で甘えてみようかな? ちょっぴり、上目遣いで彼の顔を見たら、彼ったら、くすりと笑ってこんなこと言うの!
「ふう〜ん、雪、溜まってんだろう?」
えっ!? 一瞬彼が何を言ってるのかわからなかったけど、彼のニヤニヤした顔を見て、はっと気付いたら、自然と顔が火照ってきた。やだわっ…… 思わず周りに聞こえなかったかとドキドキしてきちゃった。
「ば、ばかっ! 司令本部の食堂内で何を言い出すのよ!」
「あははは……」
と、彼は大きな声で笑ってから、今度は私にだけ聞こえるように、少し顔を寄せて、
「俺だって……溜まってんだから……」
「もうっ……」
その言葉で、私の顔はさらに赤くなったと思う。だって、頬がすごく熱いんだもの。
でも、彼ったら平気な顔で、ニッコリと笑ってる。また、一口食事を頬張ると、話し出した。
「仕事のほうは、やっと先が見えた。たぶん明日にならないうちに帰れると思うよ。君も大丈夫なんだろう?」
「ええ、私はもうめど着いたから…… そんなに遅くならないと思うわ」
普段の会話に戻って、安心して私もそう答えた。ああ、今夜は……楽しみ! うふふ。
「俺の方は、もう少し遅くなるだろうな。ああ、晩飯は食いながらするから用意しなくていいよ。けど、今夜は起きて待ってろよ。明日からは休みなんだし……なっ」
「ん…… あら、もうこんな時間ね。ごめんなさい、先に行くわ。あなたももう少しだから、頑張ってね」
もっと話していたいけれど、私のお休みの時間はもうすぐ終りになる。名残惜しそうに立ちあがった私を、彼が片手でちょいちょいと手招きして呼んだ。
「ああ…… あっ、おい、雪ちょっと……」
「なぁに?」
彼のそばに戻る私に、さらに手招きするから、何か内緒話でもあるのかと思って、彼の口元まで耳を寄せた。そうしたら、彼はなんて言ったと思う?
「今夜は……色っぽいの着て待ってろよ」
「もうっ、バカッ!」
私は、小さくそう叫んでからくるっと振り返って、彼の顔を見ないようにしてすぐに食堂を出た。廊下に出てはぁ〜って深呼吸して、ドキドキを少し抑えようと立ち止まった。
あ〜ん、もうびっくりした! もう進さんったらぁっ! でも……
さっきの彼の言葉を思い出すと、顔が笑えてきてしまう。ああ、今夜が待ち遠しい! どうしよう……何を着て待ってようかしら。
私は、すれ違う人が思わず振り返ってしまうほど、嬉しそうな顔をしていたと思うわ。だって、顔が勝手にほころんでしまうんだもの。
さあ! あともう少し、仕事頑張ろう!!
定時を過ぎてすぐに仕事を終えた私は、少しお買い物をしてから、家に戻った。
週末の食事の材料と、二人で飲もうと思って買ったワイン。進さんのお気に入りのワインが見つかったから、少し散財しちゃった。
それから、一人で軽い夕食。彼が今夜は早めに帰ってくると思うと、それだけでなんだか胸が一杯になって、余り食事が進まなかった。一人の食事は寂しいかったけれど、今夜からは二人だもの…… うれしい!
そうだ、何を着て待ってようかしら? クローゼットを開いて、ちょっと考えこんでから、結局、ちょっと大人っぽいパープルのレース模様のランジェリーを取り出した。
それから……シースルーのネグリジェ。10代の頃着ていたのほど、透けてはないけれど、中のランジェリーの形や色ははっきりと見て取れる。いつもは着ない特別の寝巻き。
着る物を決めて、私はお風呂に入った。体を覆っていたすべての衣服を脱ぎ捨てて、シャワーを浴びると本当に気持ちがいい。
水の流れが体をなぞると、彼の手の感触が思い起こされてくる。
もう、ひと月近く彼に抱かれていない。だからもう……待ちきれない!!
湯船につかると、ゆっくり視線を自分の体に落としてみる。二つの膨らんだ胸。自分で言うのもなんだけれど、結構いい大きさと形をしていると思うわ。
自分の手でそっとその一つを包んで見た。手には柔らかい感触、そして乳房に伝わるなんとも言えない甘美な手の感覚。
進さんの大きな手が、私の胸を包む時のあの瞬間が浮かんでくる。
「ああ……」
吐息と共に漏れる声。そのまま夢想の世界に浸ってしまいそうになって、私は慌てて湯船から立ちあがった。
もうすぐ彼が帰ってくる。それを思うだけで、私の心も体も熱く燃えていた。
お風呂から上がって、脱衣所にある全身を移す鏡に自分の姿を映し出して見た。上気した顔は、明らかに彼を待っていることを示している。
体を拭きながら、鏡の中の自分を見る。体全体が彼の帰りを待っているような気がして、再び体が火照り始める。
今はまだだめよ、雪……
このままひとりでどうにかなりそうな感覚に、私は自分で自分を戒めた。
深呼吸するのよ……雪
私はそう自分に言い聞かせて、心を落ち着かせると、着替えを済ませた。
もう一度鏡を見た。そして、その姿から紛れもなく夫を誘う色香が漂っていることを確かめると、私は脱衣所を後にした。
時計を見ると、午後10時をさしていた。進さんはもう仕事終ったかしら?
そう思った私の姿が見えているかのように、電話のベルがなった。
トゥルルル……
あっ! 進さんからの帰るコールかしら? 胸が高鳴った。
「はい、古代です」
「あっ、雪かい? ごめん、まだ終らないんだよ」
いきなりの彼の言葉に、浮き足立っていた心が一気に消沈した。まだ、帰れないの?
「えっ!? まだなの? あとどれくらいかかりそうなの?」
「う〜ん、ちょっと最後の詰めのところで引っかかってねぇ。もしかしたら、今日中って言うのは無理かもしれない」
私の声がどんどんと小さく低くなっていくのがわかった。たぶん、彼もわかっているはず。
「そう……なの……?」
「起きて待ってろって言ったけど、君も疲れているだろう? 先に寝てていいよ。終るまで帰れないから、何時になるかわからないんだ。
けど、どんなにかかっても明日の朝までには帰れると思うから。だから、それで勘弁してくれ」
とっても申し訳なさそうに、彼はそう言った。いいのよ、仕事なんですもの。
それを伝える為に、力なく私は答えた。
「……わかったわ。お仕事ですもの。無理しないでね」
「ああ、じゃあ、すまない。おやすみ……」
労わるような彼の声が、私の耳元に響いた。彼が謝ることじゃないのに……でも……
「おやすみなさい」
私も、やっとそれだけ答えて、受話器を置いた。そのあと思わず漏れてしまった本音。
「進さんの……ば……か……」
仕方ないわ、と思っても、やっぱり悲しくて…… 込み上げてくるものが、私の喉を痛くする。ぐっと堪えたけれど、でも我慢しきれずに、涙が溢れてきて、ひとつぶだけポロリと落ちた。
「彼のせいじゃないのよ」
そう言って、涙をぬぐう。だって、明日には帰ってきてくれるじゃないの! 今晩だけ少し寂しいけれど、明日には……
だけど…… そうは思っても、彼の帰りを待って、彼を迎えるために準備した心と体が……泣いている。
先に寝なさい…… 彼はそう言ったけれど、眠れそうになかった。
しばらく、リビングのソファーにひとり座って、ビデオを見ていた。寂しい夜によく見る大好きなラブストーリー物。幸せになる二人を見て、心を躍らせるために。
いつもなら、それで満足して眠るのだけれど、今日ばかりは期待していたことがだめになっただけに、どうしても寂しさが消えなかった。
なんとなく、立ち上がって台所に入ると、買ってきたばかりのワインがテーブルにあった。進さんが帰って来たら二人で飲もうと用意していたんだった。二つのグラスが寂しそうに光る。
私は、ワインの栓を抜くと、その一つにとくとくと汲んで、そして……一気に飲んだ。
体が燃える。ワインのアルコールで体中が熱くなっていく。
もう一杯注いで、そしてまた……一気に飲んだ。
「ふうっ……」
少しぼぉっとして、ふわふわしてきた。思考が少し鈍る。そうだ、お酒を飲んで、そのままフテ寝してしまおう。そう思って、もう一杯グラスにワインを注いだ。
そして、そのグラスを持ったまま、寝室に入った。
ワイングラスをベッドの頭の上に置いて、ベッドにもぐりこんで目を閉じる。布団にくるまれて、なんとなくあったかくていい気持ちになる。お酒のせいかもしれないけれど、体がますます熱くなってきた。
「進……さん……」
彼のことを呼んで目を閉じると、彼の姿が目の前に浮かんできた。
「ああ…… ねぇ、進さん…… 抱きしめて……」
誰もいないベッドで、私はそんな風に呟いて、彼の枕を抱きしめた。強く……強く…… 彼の香りが……する。
胸がキュウンと締め付けられるような、快感が自分の中で走った。
だって待ってたんだもの、彼の帰りを……
だって、もう準備できていたんだもの…… あの人をいつでも迎えられるように……
が・ま・ん……できない!!
頭の中がそのことで一杯になる。からだ中の疼きが、私を責めさいなむ。
前開きのネグリジェの胸のボタンを一つ二つとはずした。そして、左手をそっとその隙間に滑りこませめた。
彼の手の感覚が思い起こされる。いつも彼がするように、私も同じようにしてみた。さっきのお風呂のときと同じ心地よい感触が広がる。
「ああっ……」
ひとりでに声が上がる。もう……止められない、止まらない。
時々……進さんが宇宙にいるとき、ひとりでいるとどうしても止められなくなる思いが溢れ出すことがある。それを鎮めるのは私。
恥ずかしいと思うのだけれど、彼に教えられ快感を知ってしまった体は、時折暴走し始める。
それは、もう行きつくところまで行かないと止まらない感覚。
その時と同じように、今夜もそっと……
ああ、暑い…… 暑くて掛けていた布団を横にめくりとってしまった。体がうっすらと汗ばんでいる。掴んだ胸の膨らみもぬるっとした汗に覆われているのがわかった。
「す・す・む……さ……ん……」
閉じた瞼の向こうで、彼が私を見て微笑んでいる。
ああ、もうだめ……
まるで浮遊しているかのように体が揺れ、自分が自分でないような感覚。
いつも以上に、快感が走るのは…… こんな風に装った自分の姿を思い、ワインの酔いに揺れるから……?
「ああっ! あなたっ! 進さんっ……」
声を押し殺して、それでも絞った声がもれて……私はひとりで絶頂を迎えた。
やっぱり今日は特別なのかもしれない。ひとりでして、こんなになることなんかないのに……
少しずつ、火照ったからだが静まっていくにつれて、平静に戻る心でそんなことを考えていた。
でも……完全に冷めると、いつも少し後悔する。虚しさが広がって…… ひとりじゃだめだと、心が叫ぶ。
進さん……!
その時、ふと人の気配を感じて、はっとしてドアのほうを見た。そうしたら……!!
「進さん?」
そう、確かに彼がそこに立っていた。うそっ! 幻を見ているの? 会いたくてたまらなくて、だから……
でも、その幻はゆっくりと私に近づいてきた。顔に笑みを浮かべながら……
「進さん……なの? あなた?」
「ただいま……」
彼がはじめて口を開いた。彼はそう言ってニヤリと笑った。
ああっ!! どうしよう! 彼はいつからそこに立っていたの? さっきから私の様子をずっと見ていたの? 恥ずかしいっ!
体中に血液が駆け巡って、カーっと暑くなった。恥ずかしくて恥ずかしくて……
彼の顔が見れなくて、手に触れた布団を引っ張ってかぶってしまった。それでもまだドキドキと大きな鼓動がする。やだっ……どうしよう……
ベッドの端に少し重みがかかった。彼が腰を掛けたんだわ。ばさりと言う音がした。上着をベッドの上に置いたのかしら?
気になるけれど、今は恥ずかしくて顔を出せない。
すると、かぶっていたふとんがそっと引き剥がされた。それからコトッという小さな音がした。ベッドの上に置いてあるワイングラスを取ったんだわ。
「意外に早く仕事が終ってね。急いで帰ってきたんだが、その甲斐があったな。こんな素敵な雪が見れるなんて…… ワインなんか飲みながらしてたの?」
素敵?そんな…… いやだ、やっぱり見てたのね…… 顔がどんどん火照ってくるのがわかる。進さんの顔が見れない。
「や…… 恥ずかしい……」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないか。別に悪いことしてたわけじゃないんだから」
「意地悪……」
睨むように、ほんの少し上を向いて、やっと初めてちらりと彼の姿を見てみた。すると……彼は既に欲望に満ちた目で私をじっと見つめていた。
「待ってたんだろう? 俺の帰りを…… こんな色っぽい姿で……」
そう言うと、彼は持っていたワイングラスを、乾杯をするように軽く掲げると、一気に飲み干した。
そして、グラスを置いた手で、私の首筋をゆっくりとなぞりはじめた。そして、はずしたままになっている胸のあきからすっと手を挿しこみ、私の胸を愛撫し始めた。
「ああっ……」
そして、私の上に覆い被さってきた。上から私を見下ろして、彼はまたニヤリと笑った。
「雪があんな姿見せてくれるから、俺ももう我慢できないよ」
そう言って彼は、私を強く抱き締めた。そして彼は、私の愛の泉を探りあてると、嬉しそうにくくっと笑った。
「すごい…… 雪…… もうこんなになって……」
「やん…… ああ…… だっ……て……」
さっきあなたを思って、心も体も火がついているのよ。もういつでもあなたを迎えられるのよ。
私の思いが通じたかのように、彼は行動をはじめる。
彼の動きは激しかった。顔を上げると、すぐにネグリジェに手を掛けた。そしてそのネグリジェを、あっという間にたくし上げて、私に万歳させた。
そして、パープルのブラだけになった私の姿を、目を細めて見る。
今夜は私ももう彼が欲しくて溜まらなかった。自然と漏れてしまう求めの言葉。手を差し延べて、彼を誘う。
「ねぇ、はやく……きて……」
彼はそれを聞くやいなや、自分の着ていたシャツとズボン、それから下着をすぐに脱ぎ捨てた。たくましい彼の胸が目の前に現れる。
そして、わずかに残っていたブラは、外すのももどかしいかったのか、ぐいっと上に押し上げて、手と唇で愛撫し始めた。
声が漏れる。どうして、こんなに感じてしまうのかと思うほど、敏感に反応してしまって、声が荒いでしまう。
「もう…… あ、あなた……」
「雪!」
二人の声が重なるようにそれぞれの口から漏れる。
「はぁぁ……」
全身に走る突きぬけるような快感を、私はやっと手に入れた。激しく揺れる彼の体をしっかりと受け止めながら、私は幸せな快感に酔い続けた。
この感覚…… そう、これが欲しかったもの…… ひとりでは決して味わえない極上の味。そのうねりの中で、私は何度も絶頂の瞬間を味わった。
それでもまだ足りない。ああ、まだよ! あなた…… もっともっと、激しく強く……愛して!
声には出して言わなかったけれど、強く抱きしめる私の姿に、彼はそんな訴えをはっきりと察知していた。
「待って、もうすぐ…… すぐに……もう一度……」
荒い息の中で彼は、そう答えた。
久しぶりのことに、時を忘れた私達。気が付いた時には、外がうすら明るくなってきていた……
私はいつもの指定席の進さんの胸に顔をうずめる。この温かい胸に頬をすり寄せるのが、私の事後の一番の楽しみなの……
そんな気分に浸っていると、進さんったらまた昨夜のことを蒸し返して、私を苛めるの……
「なぁ、雪。俺がいない時は、いつも……してるの?」
彼の目が笑ってる。また恥ずかしくなってきちゃった。もうっ、ばかっ! 恥ずかしいから言わないでったらぁ。
「してないわ…… いつもなんて……」
「いつも……でもないけど、たまに?」
あんっ! もうしつこいわねぇ。そんなこと聞かないでったら!
「知らないっ!」
「あはは…… いいじゃないか、してたって…… 俺だって基地で非番の時は、君のことを思い出すとさ…… 自分ですることあるよ」
彼は、私をぎゅっと抱きしめると、耳元でそう囁いた。
「でも……見られてたなんて、やっぱり恥ずかしい……」
「そうかい? 俺はすごく得した気分なんだけど、とてもセクシーだった」
そうなの……? なんだかこそばゆい。セクシーなんて、彼の口から初めて聞いたわ。でも答えに窮して私は、彼を睨んだ。
「進さんのえっち……」
「それはお互い様だろう? なぁ、また今度見せてくれよな」
「いや……」 顔が火照る。
「どうして?」 不思議そうな顔。
「どうしてもっ!」
真っ赤になって叫ぶ私。だから、恥ずかしいんだって!それに……
それに…… あなたがいる時は、あなたに愛してもらいたいんだものっ。だけど……
だけど……昨夜の進さんも……ちょっと素敵だった。だから……
だから……
その後、私が彼の望みを叶えてあげたかどうかは……
私たちだけの……ひ・み・つ。
−おわり−