Holiday

お休みの日、二人は何をしてるのかな? デートに出かけたり、旅行することもあるけれど、普段はほんとに普通のくらし… 進と雪だってどこにでもある、のほほんとした休日をすごすのです。
 ある天気の良い朝だった。宇宙勤務明けの進は今日から休暇だ。ところが……

 「送っていくよ」

 「いいわよ、せっかくの休日なんだからゆっくりしてたらいいわ」

 「起きちゃったし、暇だから…… 夕方もちゃんと迎えに行くから」

 「うふふ、サービスいいのねっ」

 「たまにはサービスしとかないとな」

 進は休日だが雪は休めなくていつも通りの出勤。進が地球にいるときは、ずっと休んで一緒にいたい気持ちで一杯の雪だけど、長官秘書という仕事は、なかなか自分の都合だけでは休めない。
 たまに……というが、進はそんな日は必ず送ってくれる。いつも、ちょっぴり遠慮してみるのだけど、進はそれでも送ると言ってくれる。雪にはそれがとてもうれしかった。進のやさしさを感じられるし、何より一緒にいられる時間が少しでも多くなるのがうれしい。

 今日も進の言葉に甘えて、雪は司令本部まで送ってもらった。車でほんの10分たらずの距離なのに、進に送ってもらうのはなんとなくうきうきする。本部のエントランス前で、雪は車を降りた。

 「じゃあ、行ってきます!」

 「うん、じゃあ5時に迎えに来るから、遅くなるようだったら連絡くれよな」

 「は〜いっ! あとでね」

 うれしそうに手を振る雪を見ながら、車の中から軽く手を揚げて進は帰って行った。進の車が見えなくなるまで見送って、クルッと振り返って玄関に向かって歩き出した雪の肩を叩く人があった。

 「おはようございます! ゆっきさん!」

 秘書課の後輩の夏樹亜実だった。にこにこ笑っている。今の見てたのかしら? そう思うと雪の顔がちょっぴり赤くなる。

 「見てましたよっ! 噂の古代さんでしょ? 今、地球に帰ってこられてましたものね。いいですねぇ、旦那様の送迎付きなんてっ!」

 雪と進の仲は防衛軍司令本部で知らないものはいない。ましてやこの前の戦いでは、互いに離れ離れになりながら深く信じあって戦い抜いた。戦後しばらく流れていた雪への不審な噂も、あっという間に払拭してしまうほどの熱々ぶりは、巷の話題になっていた。
 もちろん、噂好きの秘書課の若い女性たちは、二人が一緒に暮らしていることも知っている。

 「旦那様じゃないわよっ!」

 恥ずかしさをごまかすために、わざとぶっきらぼうにぷいとそっぽを向く雪の顔を、亜実は覗きこむようにして見てまた笑っている。

 「そんなものでしょう? うふふ……いつも冷静で厳しい雪さんも、彼氏のことになるとそんな顔するんですね。幸せそう!」

 「もうっ! 先輩をからかわないで」

 「はあい!」

 亜実は、笑いながら先に玄関に入って行った。雪はその後姿に苦笑しながらも、からかわれて恥ずかしい反面、なんだかとてもうれしい気分になる。もう一度進の顔を思い出して、一人笑みが漏れてしまう。

 雪を送り届けた進は、そのまままっすぐ家に戻ってベッドにもぐり込んだ。

 「これが気持ちいいんだよなぁ……」

 雪がいない休日、進が最もよくすることは、朝寝に昼寝! つまり、日ながグーグー寝てるわけだ。一寝入りすると、今度はテレビをつけてぼぉっと見てみたり、読みかけの本を読んでみたり……なんとなく幸せな気分になるのだった。

 「昨日の晩はちょっと寝不足だったからなぁ・・・ 困るよなぁ、雪は」

 寝不足の理由は100%自分にあるのに、何が『困るよなぁ、雪は』なんだか…… 雪が聞いていたら、おもいっきり張ったおされそうな進のひとり言。言いながら、ニヤッと笑っている。思い出し笑いは、他人が見ると気味が悪い。と……まあ誰も見ていないからいいのか?

 昼食……雪がなんだか作ってくれてある。朝は忙しいから昼食のことまでいいと言うのだけれど、毎日のことじゃないからと、雪はいつも朝、出かける前に作っている。

 『地球にいるときくらい、三食ちゃんとした物食べてね!』

 と、雪は口癖のように言う。こういうのはさすがは看護婦、というかヤマト生活班長様だ。進としては休みの日の昼など面倒くさくて適当にしたい気もするのだが、食べていないと、帰ってきてから『何を食べたの!』と叱られそうで、結局雪の作ったものを温めなおしていただくことになる。

 「こういうのは、一人暮らしの時の方が気楽だよな。一緒に暮らすのは、いいんだか悪いんだか……」

 昼食をつつきながら、進がぼやく。贅沢なことを言っていると、ばちが当たりそうな気がしなくもないが。
 そして、また午後のリラックスタイム。さすがにベッドからは出るが、結局リビングのソファーでごろんと横になって夢うつつの世界。
 うーんと背伸びをして時計を見れば、あっという間に夕方、雪を迎えに行く時間だ。

 進の名誉のために言っておくと、一人の休日を利用して山や森に出かけることもあるし、街をぶらつくこともある。が……このヤマトの艦長代理も務めたことのある歴戦の戦士も、休日となれば世の男性と何ら変わらないのだった。

 一方雪のほうも、定時に仕事を終えて翌日は予定通り休暇が取れた。そのために雪は普段の休日出勤は率先して手をあげることにしている。月に一度か二度の年中行事だ。
 長官も秘書課の仲間も雪の休暇の理由を知っているから、帰宅の仕度をする雪を見る目が笑っている。今日も、皆の視線にちょっと恥ずかしそうにいとまごいをして、雪は足早に部屋を出た。

 玄関ホールまで降りると、進は既にそこで待っていた。

 「古代君!!」

 その声に進はなんとなく照れくさそうに笑っている。

 「お待たせ、古代君。どうしたの? 変な顔して?」

 「いや…… あんまり大きな声で呼ぶなよ。恥ずかしいじゃないか」

 「あ……ごめんなさい」

 雪はうれしそうに肩をすくめ、周囲を見まわした。何人かが自分たちを見て微笑んでいるように思えて、自分も恥ずかしくなった。こんなシーン、前にもあったような気がする……デジャブーかしら? などと雪が考えていると、

 「雪はいつもなんだから…… 今度から、外で待ってるよ」

 困惑顔の進が仕方ないなというように苦笑いをしながらそう言った。

 (そのセリフも聞いたことがあるわ)

 雪はふとそんなことを考えるが、なんのことはない。それはデジャブーでもなんでもなく、雪はいつも同じことをしては、進を恥ずかしがらせているだけのことだった。進も、次から外でといいながら、やはりエントランスの中まで入って来て待っているのだから、どっちもどっちだ。

 「相変わらず仲がいいなぁ」

 かけられた声に二人が振り返ると、真田が立っていた。

 「あら、真田さん…… こんにちは」

 「ご無沙汰してます」

 二人は、少し恥ずかしそうに笑って挨拶した。

 「真田さんも、もう終わりですか?」

 「いや、今日も残業だ。ちょっと行き詰まってる研究があってな、今日はこれからそのことで課員と打ち合わせなんだ。その前にちょっと腹ごしらえと思ってな」

 暗黒星団帝国との戦いを終えてから、真田は科学局長に復帰していた。もちろん、某所に保管しているヤマトの管理は怠りない。その上、やれ開発だ、改良だと、彼に暇の文字はなかった。その方が気が紛れるのも事実だった。進に負けないくらい、真田も亡くした娘のことには心を痛めた。進の心は雪が癒してくれるが、真田は仕事に没頭することが最高の癒しなのだ。
 戦後数ヶ月がたち、時が少しずつ癒してくれた二人の表情には、それほどの暗さはなかった。

 「また、遊びにいらしてくださいね。ご馳走しますわ」 雪がそう言って微笑む。

 「ありがとう、一人で行ったらあてられっぱなしだから、また例の連中でも連れて邪魔しに行くよ。ははは……」

 「ええー!」 進が突拍子もない声を出しておどける。

 例の連中とは、当然ヤマトの第一艦橋仲間のことだ。彼らがやってくるとそれはもうにぎやかなもの。そしてまた、いろいろとからかわれるものだから、進としては痛し痒しなのだ。

 「だめか?」 真田が笑いながら聞く。

 「いえ……! お待ちしてます!!」 進も笑顔で答えた。

 彼らの二人への友情はとてもあたたかい。どんなに冗談を言ってからかわれようとも、進にも雪にもそれはよくわかっているから、本当はとてもうれしいのだ。進だって、雪のことをからかわれるのは恥ずかしくもあるが、実はうれしい。からかう方もそれを承知でやっているのだ。
 真田に別れを告げて二人は帰途についた。

 「どこか寄るの?」 車を運転しながら進が尋ねる。

 「ええ、お買い物したいわ。いつものスーパーに寄ってくれる?」

 「わかった……」

 スーパーで雪と並んで買い物。実は進はまだこれが照れくさい。雪は全く平気で、うれしそうに進にあれやこれやと質問しながら、おかずの材料や日用品を買っていくのだが、進の方はどうも気恥ずかしい。一人で買い物に来る時は、目的のものをパッと買ってすぐ店をでる。ところが、雪ときたら、必ず店の隅から隅までカートを押しながら歩くのだ。

 『買うものを決めていって目的のものだけ買えばいいじゃないか』

 と、いつもいうのだが、

 『ずっと見ながら歩いて、あ、これがなかったとか、これ美味しそうとか見るのがいいんじゃないの』

 と、言い返される。『本当に女の買い物には付き合いかねる』と言うのが進の本音だった。それでも雪に付き合うのは、雪がうれしそうに買い物する姿を見るのが楽しみなのだ。

 進もなんだかんだ言いながらも、目に付くもので食べたいものをとっては雪の押すカートに放り込むのだから、そんなに文句が言えた義理ではない。雪は自分が買った覚えのない品が入っていてびっくりすることがあるが、進に『入れた?』と尋ねると、進は笑って頷く。

 傍から見ていると、この二人の行動はまったく新婚夫婦そのもの。幸せそうでいいですね!と突っ込みを入れたくなってしまう。

 買い物を終え帰宅すると、雪はさっそく夕食の仕度。進も自分が休みの日は、手伝ったりする。雪も進が結構手際がいいことを知ってからは、どんどん頼りにするようになった。そう言うところは、雪はお伊達上手。雪のうまい言葉に進はいい気になって手伝うと言う算段だった。

 「あー、美味しかった」

 進はニッコリ笑って満足げに食事を終える。ハードな訓練をこなす仕事柄、進の食欲は見かけ以上にある。二人分なら余りそうな量をぺロッと食べてしまう。かといってそれで太るわけではないので、やはりかなり体力が消耗されるのだろう。
 進も雪も平時でも訓練は怠らない。それが万が一の時に自分の身を守ることにつながるのだから。

 「さてと……」

 食後に少しくつろぐと、進は隣に座る雪の肩に腕をまわして意味深に笑う。

 「なあに?」

 雪の頬が染まる。進の笑顔の意味をわかっているから。明日は二人とも休み…… そんな日の前夜はゆっくりと過ごせる。まずはちょっと味見とばかり、進は雪の唇を奪う。唇をむさぼるように熱いキスを繰り返しながら、進は『食後の歯磨きの味だな……』などと不謹慎なことを考えたりしている。
 食後の歯磨き−これも、雪の指令だ。食後にお酒でもゆっくり飲もうかと言う日は別だが、そうでない時は、まるで子供に言い聞かせるように、

 『食後すぐに磨かないとなんの役にも立たないのよ』

 などと言っては進を急かす。進も大分なれたが、雪がいないとこれはまず間違いなくサボる。雪にはちゃんとやってるよと言ってあるが、大抵はそんなものだ。

 と、話はそれたが、熱いキスの途中の二人に戻ると……まだ、続行中だ。やっと離れると進が雪を誘う。

 「一緒に入る? 風呂?」

 食事を終えると風呂のお湯はため始めるから、もういつでも入れる状態になっているはずだ。雪がちょっと恥ずかしそうにうなづくと、進は嬉々として雪の手をひっぱる。

 「あ……ん、着替え取って来るから……」 雪が軽く手を振りほどこうとするが、

 「着替え? いらないよ。」 と進の返答。

 その言葉に雪はまたうれしそうに微笑みながら、進をちょっと睨んでみたりする。

 「やぁねっ、古代くんったらぁ」

 お風呂から上がれば二人の愛の世界。愛しい気持ちがこみ上げてきて、夜更けまで愛を伝えあうのだった。そして、そのまま、眠気と気だるさの中でまどろみの中へと二人は落ちていった。素肌を摺り寄せあって眠るのはとても気持ちがいいらしい。

 「雪の胸の中で眠るのが気持ちいいんだ」

 進はこんな夜はとても甘えん坊になる。雪はちょっぴりお母さんの気分で進を抱きしめる。

 「おやすみなさい……甘えん坊のススムくん」

 翌朝、半分眠ったままでどちらからともなく手を伸ばし、相手を求める。朝の日差しがレースのカーテン越しに二人を照らす。夜とはまた違った雰囲気で、なによりも雪の美しい裸身が全て自然の色で見えるのが進にはお気に入りらしい。

 太陽がずいぶん高くなった頃、休日の二人はやっと遅い朝食(紛れもなくブランチ!)を楽しんでいた。進と雪、ふたりのHoliday初日は、大抵こんな風に遅く始まる。

−お し ま い−

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