ほ た る

ミカさんからいただいた素敵なイラスト…… これにお話をつけてみて……と、70000アクセスを踏んだミカさんからのご希望をいただき、こんなお話を考えました。他愛もない話です。メインはラスト付近のイラストですから!!(笑)
雪に内緒で、古代君、何をしてたんでしょうか? (タイトルでわかるって?)



 今は6月の末、まもなく梅雨が開けて、暑い夏がやって来る。
 古代君と私は、この冬に婚約した。結婚式は私の20歳の誕生日に決まって、私達二人は幸せの真っ只中……のはずなのに……

 最近の古代君、なんだか様子が変なの……

 この前地球に帰ってきたとき、古代君ったら、一人でどこかへ出かけちゃって、全然私の相手してくれなかったのよ!

 「明日は島がちょっと付き合えっていうんだ……」
 まあ、そんなこともあるかな? 男同士のつきあいってのもあるし……

 「明日は、相原がさ、俺にどうしても行って欲しいって言うところがあるらしいんだ」
 そうなの……じゃあ、つきあってあげてね。

 「明日は、太田がうまい飯屋に連れてってくれるんだ。よかったら今度、雪も連れてってやるからさ」
 じゃあ、今日一緒に連れてってくれればいいんじゃない!?って言おうと思ったけれど、我慢したわ。

 「明日さ、月面基地の加藤達が地球に帰還してるんだ。みんなで盛り上がってくるから……」
 昼間っから??? 何時間盛り上がるつもりかしら!?

 結局、お休みの間、1日しか会えなかった……


 それから1ヶ月、古代君が地球に帰ってきて、この前から2週間の地上勤務。しばらく地球にいるって聞いてとってもうれしかった。なのに……ほとんど毎日残業で、その上「帰りを待ってるわ」って言ったら……

 「遅くなるから先に帰ってていいよ。またな……」

 ってあっさりと、追い帰されちゃった。どういうこと!?古代君っ! まさか……浮気でもしてるんじゃあ!?
 今度誰かに会うって言ったら、絶対に確かめてみるわっ!

 それから何日か後、その日は古代君も『残業』がなくて、久しぶりに二人一緒に帰ることができた。一緒に食事をして、古代君もやさしかったし、しばらくぶりで楽しかった。
 明日はお休み、久しぶりにゆっくりデートできる!って思ったら、古代君ったらまたこうなのよっ!

 「えっと…… 明日は、南部が相談したいことあるって言うからちょっと会ってくるよ」

 「今度は南部君? 最近、ずいぶんいろんな人と約束するのね…… 私とデートする時間もないくらいに……」

 ちょっと突っ込んでみた。案の定、古代君ったら、慌てて顔色を変えるんだからぁ、おかしくない?

 「あ、いや…… その、ごめんよ。今度きっとこの埋め合わせするからさ……」

 怪しい!! なんだか怪しい…… 古代君は、私の疑いの視線から逃げるように、さっさと帰っちゃうし、なんとなく心に引っかかっちゃう!
 次の日もまた残業だって電話がきた。一体どうなってるの!? 

 「しばらく残業が続くと思うんだ。時間が取れたら連絡するから……」

 古代君ったら、それだけ言うと電話を切っちゃった…… 彼、まるで私を避けてるみたい。ほんとにどうしたの? やっぱり、他に好きな人でもできたの? まさか、そんなこと!!

 夕方、私はとうとう我慢できなくなって、仕事のふりをして古代君の職場に電話をしてみた。

 「あの…… 連邦中央病院ですが、古代進さんいらっしゃいますか? あ、健康診断のことで、ちょっとお話があるのですが」

 『古代さんなら、もう帰られましたよ』

 「えっ? あの……残業しているのでは?」

 『いえ、今回のプロジェクトは順調ですから、残業している人はいません。私もまもなく帰りますが、明日古代さんが来られたら連絡するように伝えましょうか?』

 「い、いえ……結構です。またこちらから……ご連絡いたします」

 ええっ!! ショック〜〜〜!!! 残業してないって、じゃあ古代君今何してるわけ!? 古代君……いったい、どこへ行っちゃったの!?
 その夜の私はとっても惨めな気分だった…… ママもパパも心配してくれたけど、話す気にもなれなかった。


 次の日も古代君から何の連絡もない。だめっ!!もう、待ってられない。古代君に会って聞こう。
 夕方、定時に仕事が終わってから、古代君のいる司令本部へ行った。本部に入って廊下を歩いていくと、ちょうど古代君がやってきたの。
 えっ? 隣に美人がいる!! 私達より数才年上に見えるけど、知的な美人……
 
 古代君は、一生懸命その女性の方を向いて、話しながら歩いている。そして、二人が同時に笑う。楽しそうな笑顔…… その人は……誰なの!!

 思わず私は影に隠れようと思ったけど、やめた。だって私が悪いコトしたわけじゃないんだもの、隠れることないわよねっ!
 それなのに古代君、彼女との話に夢中になって私のこと気づかないのよ! もう、すごくムッとして古代君の方に向かってずんずん歩いて行ったわ。そしたら、直前まできてやっと古代君が私に気づいたの。

 「あれ? 雪……?どうしたんだい? そんなこわい顔して…… 仕事終わったの?」

 わかってな〜い!! あのねぇっ!! って思ったけれど、冷静さを装って静かに尋ねたわ。こんな場所で取り乱すわけにもいかないもの……

 「古代君は、今日も残業?」

 「あ、ああ…… 彼女とちょっと打ち合わせがあってね。でも、明日はきっと大丈夫だと思うよ。雪をいいところに連れてってやるから。だから……」

 彼女と打ち合わせ!? 二人っきりの残業をするつもりなんだわっ! プチンとわたしの理性が切れる音がした。
 あ、そうですかっ! わたしのことなんかどうでもいいんだっ!もう、古代君なんか知らないっ! 私がプイっとそっぽを向いて歩き出したら、やっと古代君が慌てだしたの。

 「お、おいっ! 雪っ!?」

 「あなたは仕事なんでしょう? 行ったらいいじゃない!」

 古代君に浴びせ掛けたのは、自分でもびっくりするほど冷たい声。さすがに古代君も、驚いて尋ね返してきた。

 「何をそんなに怒っているんだ?」

 「……どうして嘘つくの! 残業なんて全然してないってプロジェクトの人が言ってたわ。あなたいったい何しているの? いつもお休みに何してたの!? もしかして……浮気でもしてるんじゃないの!?」

 ああ、言っちゃった…… 隣にいる女性のことなんかすっかり忘れて私ったら…… でもっ! 言わずにはいられなかったの。涙がでちゃうっ! 目が潤んでくるのが自分でもわかった。
 なのに……! 古代君ったら、ポカンとした顔をしたと思ったら、急に笑い出すのよっ!

 「あはは…… やっぱりばれちゃったか…… もう少しだったのになぁ。ま、仕方ないか。明日いいところに連れってやるから、今日は見逃して」

 「明日? 何よそれ? やっぱり、浮気してたの? 笑い事じゃないでしょう!!」

 もうっ! もうっ!! もうううううう!!! 一体何なのよっ! 古代君ったら、まだ笑いが止まらないのよ! その上、耳元でこんなことを囁くの!

 「なあ、雪。やきもち妬いてる雪も、俺、結構好きだよ」

 えっ!? いきなり何言うのよ。返す言葉が出ない…… 私ったら、怒ってることも忘れて、古代君の言葉に赤くなっちゃった…… バカっ!

 「もうっ、古代君!!」

 わたしの赤い顔を見て、古代君ったらまたくくっと笑ってる。

 「明日さぁ、その浮気相手に会わせてやるから、楽しみにしてな」

 隣で、古代君と一緒だった女の人も困ったように苦笑してる。何よ! この人! 私がきっと睨むと、古代君はまだ笑いがおさまらない顔で彼女を紹介してくれた。

 「すみません、仙道さん。彼女は僕の婚約者の森雪さん。雪、こちらは僕と一緒のプロジェクトの仕事をされている仙道さんだよ」

 プロジェクトのお仲間だったのね。でも…… それで知り合って……ってこともあるわよねぇ? 私は半信半疑のまま、彼女を見つめた。

 「よろしく…… 古代さんのお噂のフィアンセの方ね? いつも古代さんのお話に出てらっしゃるから、始めてお会いした気がしないわ。中央病院一の美人看護婦さんなんですってね。本当にきれいな方。お会いしたかったわ」

 彼女はにっこり微笑んで、やさしい目で私を見てる。やっぱり、ただの同僚!?
 やだわ、古代君ったら、私のこと、なんて言ったのかしら……

 「あ……はじめまして……」

 なんだか、熱くなってたのが急に恥ずかしくなって、私は消え入りそうな声で挨拶して頭を下げた。

 「雪、明日夕方6時に本部前のエントランスで待ってて。じゃ、俺達今日は急ぐから」

 古代君ったら、そう言うと、仙道さんって人と一緒に行ってしまった。あらっ? ちょっと待って、残業じゃないはずなのに、古代君! どこ行くの? ねえったらぁ!
 なんだかすっかりはぐらかされたみたいで変な気分! でも、まあいいわ、明日ちゃんと説明してもらいますからねっ!

 でも……古代君のあの余裕…… 本当に浮気? まさか……? 違うわよね?


 次の日、待ち合わせ場所に行ったら、古代君はもう来てた。昨日はなんだか眠れなかった。古代君のこと……そんなはずはないと思いながら、悪い想像をしてしまったり…… なのに古代君は、てんで平気な顔……

 「さ、行くぞ!」

 って、どこ行くの? そんな私の質問に古代君は笑うだけで、答えてくれない。そして、古代君の車で行ったのは、メガロポリスを離れた郊外。未開発エリアをひたすら走り続けること約30分。目の前に緑の森林が見えてきた。

 「あそこは緑化地区?」

 「ああ、地球上のあちこちで緑を増やす運動が始まっているんだ。ここもそのひとつで、防衛軍の有志が集まってボランティアで緑を増やすために、いろいろと作業をしているんだ」

 古代君はその森の直前にある駐車場に車を止めた。

 「古代君、もしかして……休みのたびにここに来てたの? 残業っていうのも?」

 なんだ、やっぱり浮気じゃなかったんだ。そうよね、当然よねっ。疑ってはいなかったけど、いまやっと心から安心したわ。もう、古代君のばか……

 「ああ、先月の始めにさぁ、たまたま緑化ボランティアのことを知って始めたんだ。仙道さんとはそこで知り合って、今回仕事も一緒になってびっくりだったんだけど……それだけだよ」

 当たり前よ!! だけど、あなたって、どういうわけか年上の女性に持てるから……ちょっと心配になっただけよ……

 「でね、君に内緒にしてたわけなんだけど……僕の浮気相手ね、あはは」

 面白そうに笑う古代君。アッカンベーでもしてやろうかしらっ! 人の気も知らないでぇ!

 「もうっ、いいわよ。どうせ花か虫かなんかなんでしょう? その浮気相手って…… なら、嘘なんかつかないで言ってくれればよかったのに」

 もう、ほんとよぉ!! すんごく心配したんだから…… そんな顔を見せると古代君、「ごめんよ」って言って、唇に軽くキスしてくれた。そして……

 「ちょっとね、雪を驚かせたくて内緒にしてたんだよ」

 「何を?」

 「あはは…… 楽しみにしてろよ……」


 古代君に連れられて、その緑化地区の中に入っていくと、大きなテントが2つあった。その一つに古代君と一緒に入ると、昨日会った仙道さんって女性がいた。

 「仙道さん、連れてきました。よろしくお願いしますね」

 「ええ、いらっしゃい、雪さん。さあ、こちらにどうぞ。古代さんもあっちのテントで着替えてらっしゃいね」

 えっ? こちらって? 彼女の顔を見て、古代君の顔を見た。古代君は、にこにこ笑いながら、頷いて私を彼女の方へ促して、自分は踵を変えてテントを出ていった。一体、何を着替えるのかしら? 私は仙道さんについて、仕切られた部屋に入った。

 「雪さん、こちらのゆかたをどうぞ」

 ゆかた? 仙道さんは、きれいな薄紫のゆかたを差し出してくれた。これを着るの? 何のために??

 「あの……?」

 「うふふ…… 古代さん、雪さんにはナイショにされてたんですってね。随分心配したでしょう? 古代さんも困った人ね。でも、雪さん、今日は素敵なものに出会えるわ。きっと楽しんでもらえると思うわよ。
 今日は、今まで頑張ったボランティアの人たちにって、メーカーが無料でゆかたを貸し出してくれたの。さあ、着替えて楽しみましょう。着替え、手伝いましょうか?」

 「いえ……大丈夫です」

 なんだかよくわからないけど、いいことがあるらしいから、素直に着替えることにしようっと。夏の季節にゆかたで夕涼み…… 周りの緑に囲まれて古代君と二人、きっと素敵だわ……


 着替えて出てきた私を、古代君も浴衣姿で迎えてくれた。相変わらずにこにこしてる、古代君。ゆかたも結構似合ってるわよ!

 「似合ってるよ、雪。き……きれいだね」

 照れくさそうに、古代君はそう言ってくれた。うふっ、うれしい……

 「うふふ……ありがとう、でも言いつけない言葉言わなくてもいいわよ」

 「あはは……ばれたか、さ、行こう」

 古代君は照れ笑いすると、私の手をひいて森の中に入っていった。足元だけが薄暗く見える程度の明かりが点々と続いている。それをたどって行くと、小さな小川のふちに出た。もう既に何人かの人が来ている。みんな、思い思いのゆかた姿で立っていた。

 でも…… ゆかたなら、縁日……? じゃないわね? だって何もないもの。夜もふけて真っ暗な中、なにも見えない………… あらっ!! あそこ……なにか光った!???

 「あれは? きれい……」

 真っ暗な中を小さな光が光り出した。ぼうっと光っては消え、また別の場所で光出す。ひとつふたつ…… もっとたくさん…… 幽玄美とでもいうのかしら。真っ暗な中の淡くて小さな光はとてもやさしく輝いていた。

 「わからない?」

 古代君は私の肩を抱き寄せるようにして、耳元で囁いた。耳がくすぐったい…… あ……あれは、小川のふちで光る……

 「もしかして……ほたる?」

 「そう、ほたるだよ。これを雪に見せたかったんだ。きれいだろう? 2、3日前からやっとほたるが光り出したんだ…… 子供の頃、博物館で見たことがあるだけだったほたるが、今ここで自然に生きているんだ! 君に内緒にして驚かせたかったんだ」

 「素敵っ! かわいくて、ほのかで…… やさしい光ね。あっ、あそこにも、あっ……」

 私はうれしくて、あっちこっちのほたるの姿を目で追いかけた。

 ほ〜ほ〜 ほ〜たる来い
 あっちのみ〜ずはに〜がいぞ〜
 こっちのみ〜ずはあ〜まいぞ〜
 ほ〜ほ〜 ほ〜たる来い

 昔聞いた童謡が頭に浮かんできて、ふとくちずさんでしまう。そんな私を古代君は嬉しそうに見てた。

 「大変だったんだよ。緑を植えただけでなくて、川を作って水が流れるようにして、それから、ほたるの幼虫をたくさん放して…… どれだけ成長してほたるになってくれるか、すごく心配だった」

 「ええ…… 古代君、どうもありがとう。本当に素敵だわ。地球にこんな自然が復活してきたなんて……」

 「うん、ほたるって環境にとてもうるさい虫でね。本当にきれいな空気ときれいな水がないと生きられないんだ。だから、ここまでするのに随分かかったんだよ」

 楽しそうに、そして得意げに古代君は話してくれた。花や虫のことを話す古代君は、いつも目が輝いている。

 「それで、あなたはあんなにせっせと通ってたのね」

 「えへへ……でも楽しかった」

 「私も連れて行ってくれれば良かったのに……」

 「うん、でもこれは僕の趣味だしなぁ。雪に泥まみれの仕事させるのもかわいそうだなって思ったし…… それに、黙って連れてきてびっくりさせたかったんだ」

 「もうっ、びっくりしたけど…… その前に、古代君が何をしてるんだろうって、とっても心配させられちゃったわ」

 ほんと、人騒がせよねっ! 私はもう一回古代君を睨んだ。ちょっぴすねたような甘えたようなそんな視線で…… 古代君はバツの悪そうな笑顔を見せた。

 「ははは…… そっちの方は、ほんとにゴメン!」

 両手を合わせてウインクする古代君。仕方ないなぁ、あなたの笑顔に弱いのよね、わたし……

 「いいわ、許してあげる。きれいなほたるさんに免じてね。みんな、古代君達が頑張ってくれてありがとうって言ってるみたいに光ってるわ……」


(by ミカさん)

 私がそう言うと、古代君はまたにこにこしながら、「ありがとうっ!」って言って、私の手をぎゅっと握ってくれた。古代君の大きな手あったかい……

 その日は夜遅くまで、二人でずぅっとほたるを見つづけていたの……
 古代君は、ほたるのことや虫達のことをいろいろと教えてくれた。ヤマトの思い出話や、友達のことも、いろんなことをたくさん話したわ。

 それから……木陰でやさしくキスもくれた…… したあとで、誰か見てたんじゃないかしらってドキドキしちゃった。でも、古代君ったら平気な顔で、何度も……してくれて…… うふふ……
 今日は、私とっても幸せ。古代君っ!大好きっ♪


 でもっ! あの仙道さんって女性のことは、本当になんとも思ってなかったんでしょうね? こ・だ・い・く・ん!!


 「ドキッ」(by 古代君)

−お し ま い−

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