じれったいっ!




 7月も末。銀河系があんなに近づいてきた…… もうすぐ地球に戻れるのね! そしたら、きっと彼は……



でも……


            なのに……


                         ああ……


 あれから1ヶ月。地球との連絡もついて、あと2週間もすれば帰れるって言うのに、彼ったら、まだなぁんにも言ってくれない……

 「ねぇ、雪さん」

 「なぁに?」

 「うふふ〜〜」

 「なぁに、気持ち悪いわねっ! 早く言ってちょうだい」

 「あのねっ、かんちょ〜だいりと、カップルになったんですよねぇ?」

 「えっ…… カップルだなんて、そんな」

 「やだ、赤くならなくっても〜 みんな知ってますよ。お二人があちこちで仲良くデートされてること!」

 「デートなんてしてないわよっ」

 「またぁ、照れちゃって、雪さんってかわいい〜」

 なぁんて、生活班の女の子達からも、しょっちゅうからかわれてるっていうのに、肝心の彼からは、まだなぁんにも言ってもらってない。

 わかってはいるのよ、彼が私のこと、憎からず思ってくれてることは…… でもって、彼には大切な任務があって、地球に戻るまではそれに専念しなくチャって思ってることも……

 でも、でもねっ! もう地球は目の前じゃないっ! ガミラスの攻撃だって、帰りは一度もないじゃない!!

 ってことは〜 もう彼もそんなに頑張らなくてもいいってことでしょ?

 だったら……



 そろそろ、告白してくれてもいいと思うんだけどなぁ……


 じれったい……



 医務室で待機中の私。病人怪我人もなく、佐渡先生も暇そうにお酒を飲んでいる。

 ふと時計を見ると…… あっ、そろそろ古代君が息抜きに展望室に行く時間だわ。今日も暇だし、私も行こうかなぁ!

 「先生、ちょっと席はずしていいですか?」

 「ん? 暇じゃからいいぞ…… おおっ、いつもの時間じゃな、ふぉっふぉっふぉ」

 時計を見て、妖しげな笑い声を上げる佐渡先生に、一応とぼけてみたけれど……

 「な、なんですかぁ、いつもの時間って」

 「若いもんはえ〜〜のぉ〜〜〜」

 とニヤリと笑う佐渡先生。あはっ、思いっきりばれちゃってるのね。でもいいわ、もう今更だもんね! うふふ……

 「なんのことだかっ、じゃあ、ちょっと失礼します!」

 「ゆっくりしてきてえ〜ぞ〜〜!」

 「はぁ〜〜い!」

 ほんと、周りの人はみ〜〜んなわかってくれてるのに、当の本人だけわかってんだか、わかってないんだか……

 でも、ちゃんと、この時間には展望室に来てくれるのよねぇ〜 やっぱ、わかってるのかな? よぉ〜〜っし、今日こそはっ!



 「古代君?」

 「あっ、ああ、雪? どうした?」

 「ん? 別に…… ちょっと息抜きに……」

 「そっか、俺も……」

 いつもほとんどこんなおんなじ会話から始まる二人の展望室デート。あっ、えっと、デートでいいのよね? 古代君?

 って、聞いてみたい気もしたけど…… やっぱり言えない。

 「もうすぐ地球に戻れるわね」

 結局、いつもの如くのいつもの切り出し文句になっちゃった。はぁ〜

 「ああ、そうだな。地球も大変みたいだけどギリギリのところで頑張ってくれてるみたいだしな」

 「これで古代君の肩の荷も下りるわね」

 「ん? まあな、俺だけって言うわけじゃないけどな」

 「でもやっぱり艦長代理としては……でしょ?」

 「そうだな、艦長があんな調子だから、早く地球に帰してやりたいよ」

 「ええ……」

 「地球かぁ〜〜 早く帰りてぇ〜〜!」

 地球の方向に向って叫んでる古代君。なんだかかわいいっ! さて、そろそろ誘導作戦行ってみようかな!

 「ねえ、古代君、地球に帰ったら一番に何がしたい?」

 「一番に……か?」

 私の問いに、古代君の顔が一瞬真顔になって、それから急に顔をそむけた。

 あらっ? 今そむけた顔、赤くなかった? うふふ、いい兆候ね!

 「そ、そうだなぁ〜 何がしたいかなぁ……」

 声が微妙に上ずっているように聞こえるのは、私の期待のしすぎ? ああ、でも……



 よぉ〜〜っし! ここはイッパツ!ストレートにアタック!! がんばるわっ、ユキちゃんの正念場よっ!

 「例えばぁ〜、誰かに何かを伝えたい……とか?」

 「えっ!?」

 私の言葉に古代君は弾けたようにこちらを見た。やっぱりなんとなく顔が染まっているような気がする。

 やった!?

 あ〜ん、やだっ、私まで火照ってきちゃったわ。ドキドキしちゃうっ! ああ、来るのかしら? ここで彼の……

 コ・ク・ハ・ク……




 「そ、そ〜〜〜〜〜だなぁ〜〜〜〜〜〜」

 わくわく、ドキドキ…… 古代君の声、いつもよりちょっと高いかも!? 期待度100%……

 「大事な人に、伝えないといけないことがあるんだよな」

 えっ!えっ!? ああ、やっぱり、くるのねっ、くるのよねっ!!! 期待度120%〜〜!!!!

 きゃぁ〜〜〜〜 もうだめっ、心臓飛び出ちゃいそう〜〜!

 「俺の両親にさ」

 えっ? いきなりご両親に私のこと報告しちゃうわけ? それって、ちょっと展開早い気がするんだけど……

 「兄貴が生きてたこと、伝えないと……」

 「へっ?」

 あ、兄貴って言ったら、あの……守さんのこと……よね?

 「だから、兄貴がさ…… 地球にはつれて帰って来れなかったけど、生きててくれて、でもってイスカンダルで幸せに暮らしてるってことをさ」

 「あ、ああ〜〜っ! そうね、そうよねぇ〜〜! それ一番に報告しなくちゃね、うん!!」

 と、答えながら、私の心の中はおもい〜〜っきりがっくし! んっ、もうっ!!!

 あ、いえ…… わかってるのよ、古代君の気持ちも。お兄さんのことを、ご両親のお墓?にご報告するっていうのはとっても大切だし、最初にしたいことだとは思うわ。思うけどね〜

 今、ここで言うべきことは、別にあるんじゃなぁい? 目の前に、あ・た・しがいるのよ、ユキちゃんがいるのよ〜〜!

 でも、彼ったら、ぜ〜〜んぜんそんなことは考えてなかったみたいで、

 「だろ? 嬉しかったもんなぁ、俺……」

 なんてにっこりしてる。はぁ〜〜 負けたわ、あなたのそんな笑顔見てたら、文句なんていえなくなっちゃう。弱いのよ、私、あなたの笑顔に。

 そうよね、だってずっと一人ぼっちだと思ってたのに、お兄さんが生きていてくれたんですもの……そうよね……

 なんだか、気持ちがそがれちゃって、しんみりしちゃった。もういいわ。

 なんて思ってたら、今度は古代君が尋ねてきた。

 「じゃあさ、君は地球に帰ったら何したいんだい?」

 「えっ? 私?」

 ド、ドキッ! やだ、急に振らないでよっ! さっきのこと思い出しちゃったじゃないのっ! どうしよう……

 「そうさ、君はどうなんだ?」

 「私……はね……」

 ちょっと考えてから、あって思いついたことがあったの。そうだわ、これでちょっと古代君の気持ちが少しわかるかも……

 「そうねぇ、ごく普通のことしたいわ、今までできなかったから」

 「ごく普通のこと?」

 不思議そうな顔をして尋ねる彼に、私はこう伝えた。

 「そっ、例えば、映画を見たりショッピングしたり、それから遊園地で遊んだり……」

 ニッコリ!! こういうのって、基本的なデートコースでしょ? それをあなたと一緒に行きたいの!

 と、ユキちゃんのとびっきりな笑顔の中にこめたつもりだったんだけど……

 「はっ? なんだそりゃ」

 が、がくっ…… わかってない〜〜〜! むかっ!

 「なんだってなによっ! だって私がそういうことができる年頃になったころには、そんなふうに遊ぶ余裕全然なかったんですもの。そりゃあ、遊園地は子供の頃行ったことあるけど……」

 思わずまくし立てちゃった。あ〜あ、失敗、自己嫌悪。

 でも意外にも彼はしんみりとした顔付きになった。それから小さくため息をついて

 「……そっか、そう言われてみればそうだよな。俺もおんなじようなもんだ」

 「でしょ?」

 よかった、古代君も同じように思ってくれてて……

 「じゃ、帰ったら一緒に行くか!」

 「えっ? それって」

 それって、もしかして、でぇとのお誘いってこと? やった!!……かも?

 「古代君と二人で……ってこと?」

 私は期待を込めてこう尋ねた。すると、突然古代君ったら、真っ赤な顔になってあたふたし始めたの。

 「えっ!? えっと、ああ…… そ、そうだな、二人だと淋しいよな、うん、あ、そうだっ、島や南部達も誘って、ああ、相原も太田も一緒がいいな、あ、加藤達も誘うか。うん、そうだ!! 遊びに行くんだからにぎやかなほうがいいよなっ、あははは……」

 みんなで一緒!? なにそれ? あ〜〜〜〜〜 がっくし…… 今度こそって、期待したのに……

 「あっ…… そ、そうね、そうよね、みんな一緒に行ったら楽しいわよね」

 答える私の笑顔が、微妙に引きつってたこと、彼、気がついたかしら? 気付くはずないか、だって、こんなにアプローチしてるのに、わかってないんだものね〜〜 はぁ〜〜〜

 でも…… もしかしたら、私の気持ちわかってて、でも古代君ってば、実は私のことなんとも思ってなくって、だからわざとはぐらかしてる……とか、そういうのだったらどうしようっ!
 やだっ! それじゃあ、もしかして、この恋、私の片思いってこと……!?

 はぁぁ〜〜〜〜〜

 すっかり落ち込んでしまったわ。今日はもうあきらめて帰ろうっと。



 「あ、そろそろ時間だから、帰るわ」

 「あっ、ああ……」

 淋しげな背中を見せつつ、2、3歩歩き始めた時、後ろから古代君の声がかかった。

 「あっ、あのっ、雪っ!」

 その声にちょっぴり心が浮き上がって、振り返った。見ると、古代君、なんだかもじもじしてる様子。

 「さっきの……両親の墓に兄さんのこと報告に行くとき、よかったら、その……一緒に行ってくれないか?」

 「えっ?」

 現金な私。さっきまで落ち込んでた気持ちが、古代君のこの言葉で、一気にど〜〜んと浮上しちゃった!! うふふっ♪

 でもって、古代君ったら、次は一生懸命誘った言い訳を始めた。

 「あの…… ほら、兄さんとスターシアさんのことでは雪に世話になったしさ。そのことも伝えたいし、それに、えっと、雪はスターシアさんと似てるだろ? だから、君を連れてけば、兄さんがどんな女性と暮らしてるか、大体わかってもらえるかなぁ〜〜〜なんて思ったりしてさぁ。
 あっ、でも、迷惑ならいいんだ。無理にとは言わないし……
 それに帰ってからも、任務はあるだろうから、いつになるか、わからないけど……」

 やんっ! 古代君ったらやぁね〜 迷惑なわけないじゃないの。あなたのご両親のお墓参りなら、私だって行きたいわ。

 「うふふ、いいわよ」

 一気に情勢逆転! 古代君ったら、もう言い訳なんてしなくてもいいのにぃ〜

 「ほんと?」

 古代君、なんだかとってもほっとしたような、とっても嬉しそうな顔をした。

 「ええ、私も古代君のご両親にご報告したいことがあるし……」

 ちょっと意味深に笑うと、古代君、一瞬面食らったような顔をしたけれど……

 「えっ!? ああっ、どうせ、俺に迷惑被った愚痴でも言おうってんだろう?」

 ですって…… 違うわよっ! 彼のこと、これからは私に任せてくださいねって伝えるだけよ。

 でも、彼にはまだ教えてあげないもんっ!

 「うふふ、さぁ、どうかしらねぇ〜〜 じゃあ、またね!」

 「ちぇっ、まあいいや、じゃあなっ!」


 っていうわけで、今日の展望室デートはおしまい。

 あ〜〜あ、今日はいい線まで行ったと思ったんだけどなぁ……  結局、彼の告白聞けなかった。

 でも、ちょっとだけ、古代君の気持ちわかった気がしたし、いいことにしようかなっ、うふっ。





 あ〜〜〜〜〜 じれったい!

 じれったいったら、じれったい!!! じれったい〜〜〜っ!!!

 なんだよ、あの二人! あんだけいちゃついておきながら、今日もコクりはなしってかよぉ〜〜!!

 古代の奴! 雪さんにあそこまで粉かけられてて、わっかんね〜のかよぉ〜〜〜!

 雪さんも雪さんだよっ!! ここまできたら、あの鈍感野郎のコクハク待ってねぇで、こっちから行けってよ〜!!

 あ〜〜〜 じれってぇ〜〜〜〜!!!
某月某日、N君のつぶやき……!?



 地球到着予定日まで、あと2週間。宇宙戦艦ヤマトは、一路地球を目指してひた走る。

 地球を救うコスモクリーナーDと、じれったい恋人達を乗せて……

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