Ｄｒｅａｍｓ ｉｎ Ｍｉｄｓｕｍｍｅｒ Ｎｉｇｈｔ
ザザザー…… ザザザーン……
波の音が聞こえる…… 潮の香り…… そして、爽やかな風が私の頬をくすぐる。
目を開けた。ここはどこ？
「ゆき…… ゆ・き…… 雪……」
遠くで誰かの声がする…… だあれ？ 男の人の声…… 古代君？
「雪……ゆき……」
声が近づいてくる。
「雪…… もういい加減に目を覚ませよ」
雪はゆっくりと目を開いた。目のまん前には、進の顔があった。やさしい笑顔で微笑んでいる。
「こ・だ・い……くん？」
「ほら、もうあんなに日が高く昇ってるんだよ。もう起きろよ」
そう言われて、雪はやっと体を起こした。 ―――――ここはどこ？
雪は周りを見まわした。小さな家……？ 木造の素朴な作りの部屋。原色の花々をあしらった装飾。ゆったりとしたラブチェアーには、ふんわりとしたクッションが二つ。天井には大きな扇風機がゆっくり回り、部屋中にやさしい風を送っている。そして、明るい方を見た、ベランダがある。その外は……青い海！
「ここは……どこ？」
雪の問いに進がおかしそうに笑った。
「なにばかなこといってるんだい？ ここは南の島、君が昨日急に行きたいって言うから夜の便で飛んできたんじゃないか？ 忘れたのかい？」
「そう……だったかしら」 覚えがない。でも……
雪はふと自分の姿を見た。シーツにくるまれてはいるけれどその下は……何も着ていない。えっ？ 私……はだか？ 急に恥ずかしくなって真っ赤になった。シーツをぐっと引っ張りあげて顔を半分隠す。すると、進がまたくすくすと笑う。
「いまさら、何を隠してるんだい？ 僕は君の頭から脚の先まで全部知ってるのに…… 昨日あんなに愛し合ったのに、忘れたの？」
進が雪の首筋にそっとキスをする。再び赤くなる雪。私……古代君と夜を過ごしたの？
「こだいくん……」
「すすむ、だろ？」
「す・す・む……さん？」
「そう、それでいい」
進はそう言って目を細めると、ゆっくりと今度は雪の唇にくちづけをした。やさしくて甘いキッス。そして、サイドテーブルにおいてあったグラスを取って、雪に手渡した。
「はい、グアバジュース。さっき届いたばかりのフレッシュジュースだよ。飲んでごらん、美味しいよ」
「ありがとう……」
今日の進はいつになくとてもやさしい。雪の隣にゆっくりと腰掛けてジュースを飲むのをじっと見ている。白いＴシャツに緑の短めのパンツ姿。いかにもリゾート地らしい姿だ。
雪がゆっくりとジュースを飲み終えるのを、進はにこにこと微笑みながら待っていた。そして……
「泳ぎに行こう」
「ええ…… でも、水着……？」
「いらないよ。ここは僕達二人だけのプライベートビーチ、誰も来ない。生まれたままの姿で海に飛び込んだって誰にも見られないんだから」
「……でも」
「さあ！」
進は、背伸びをするように自分のＴシャツを脱ぎ捨て、残りもさっさと脱ぎ捨てた。そして雪に手を差し伸べる。進の均整のとれた男の裸は、後ろから入る光にシルエットになって美しかった。
雪はためらいがちにそっと手を出す。進がその手をぎゅっと握りしめ、もう一度「行こう」と言った。
「うん……！」
意を決したように雪もベッドから降りる。さらりと落ちるシーツの中から、美しい女の裸があらわになる。進が目を細める。雪は進に見つめられる恥じらいと、うれしさで、体じゅうが熱くなる。幸せな気持ち。胸がきゅうんと締めつけられた。
手をつないだ二人は、部屋からバルコニーに出た。その下はもう海の上、そのままザブンと音を立てて飛び込んだ。
海の中は思ったほど冷たくない。南国の海だから…… 遥か遠くまで透き通った青い海は、きらきらと鮮やかな輝きを放っている。
二人は手をつないで泳いだ。進は、海育ち。泳ぎはとてもうまい。けれど、雪も負けてはいない。
熱帯の海。あざやかな魚たちが目の前を過ぎて行き、二人は一衣まとわぬ姿で、波と魚たちと戯れた。海の中に溶け込んでしまいそうな感覚。
進が雪の手をぐっとひっぱって自分の方へ引き寄せた。密着する体、彼のたくましい胸に彼女のやわらかな胸が重なる。海の中で絡み合って、そして海の上へ一緒に浮き上がる。
海から顔だけ出して見つめあう二人。この海は二人だけの海。そばを通り過ぎるのは、赤や黄色の小さな魚たちだけ……
そっと触れ合うくちびるとくちびる。塩っ辛くて、でもとても甘いくちづけ。
「雪……愛してる」
「進……さん、私も……愛してるわ」
雪の口が「もっと……」と動く。進はそれに答えるように、再び唇を寄せる。体をすりよせあってシルエットが一つに重なり、つながる……
海は、全ての母。やさしさと温かさで二人を抱（いだ）き、包み込む。二人はひとつ……
海からあがると、潮のついた体を洗い流すために、二人はシャワールームに入った。生暖かい水が二人を頭から濡らす。シャボンの泡が二人の体じゅうを包んだ。
互いへの想いが、体の反応になる。もう、愛が溢れそう……
二人は濡れた体を拭く時間ももどかしく、大きな大きなダブルベッドに倒れこんだ。
「雪…… とても、きれいだ。愛しているよ」
進が再び愛を囁き始める。
今日の進は、いつもと違う。情熱的で、それでいて、やさしい。濡れた雪の体を隅々までふきとるかのようにくちづけしていく。
顔、首筋、鎖骨、腕、指の先まで……
豊かな胸（これは特に丹念に……）、おなか（臍の水も忘れずに……）
太もも、膝、足の指もひとつひとつに……
進の唇は、再びじわじわと足をなぞりながら上ってきて足の付け根で止まった…… そして、あの潤いを求めて唇が再び動き出した。
今……二人はひとつになった。快楽への階段を一緒に昇っていく……どこまでもどこまでも……
「進さん……愛してる…… すすむさん……」
ピピピピ……ピピピピ…… 小鳥の鳴き声が聞こえてきた。
ピピピピ……ピピピピ…… ピピピピ……ピピピピ……
小鳥の声が鳴きやまない。それも、いつまでも規則正しい声……声……声？
ピピピピ……ピピピピ…… ピピピピ……ピピピピ……
小鳥じゃない…… この音は……目覚ましのベル！！
雪は、はっとして目を開けた。あたりを見まわす。いつも見なれた……ここは、自分のマンションの寝室。
雪はまだ鳴り止まない目覚まし時計のボタンをやっと押した。ベルの音がやみ、静寂が広がった。
「夢……だったの？」
目を落として自らの姿を見た。いつものパジャマ姿。隣に進は……いるはずがなかった。
「わたしったら、なんて夢を見たのかしら」
あまりにも、幸せで……でも、なんてみだらな夢…… まだ結ばれた事のない進との愛の交歓の夢。それは、なんともいえないくらい心地よく、とてもはっきりとその感覚が残っていた。
雪は、自分の体を自分の両腕でぎゅっと抱きしめた。
「古代君に抱かれる夢だなんて…… 南の島で生まれたままの姿で二人っきりで過ごす夢だなんて…… わたしったら」
手のひらを頬に当ててみた。熱い！
昨日、綾乃と二人で飲んで、ハネムーンは南の島に行きたいわ……なんて話をした。
そして今日、進が帰ってくる。雪はそれを心待ちにしていた。
だから、こんな夢を……？ 今日は８月の真ん中。Ｍｉｄｓｕｍｍｅｒ……
コスモエアポート―――ＰＭ１：００ 第１０パトロール艇の定時到着のアナウンスが聞こえてきた。進が今日も無事に帰ってきた。
「古代君！ お帰りなさい」
いつものように迎えに行った雪が、笑顔で恋人を迎える。
「ただいま、元気そうだね。でも地球はずいぶん熱いな。夜も寝苦しそうだ」
そう、今は８月。真夏。Ｍｉｄｓｕｍｍｅｒ……
「ええ…… 毎日、暑いわ。でも、昨日素敵な夢を見たの。だから、ぐっすり眠れて今日はとってもいい気分！」
「へぇ？ どんな夢？」
雪は進に尋ねられてちょっぴり恥ずかしくなった。はにかみながら小さな声で、答える。
「ん…… 古代君と南の島へ行った夢。とってもきれいな海で二人で泳いで……楽しかった」
「えっ？ そうなんだ！？」
驚いたように進の目が輝いた。
「どうかしたの？」
「僕も見たよ！ 雪と一緒に南の島に行く夢を……」
雪も驚いた顔をする。
「え？ どんな夢？」
進も雪に尋ねられて、なぜか顔を赤らめた。
「おんなじような夢だよ。雪と一緒に泳いで……それから……」
「それから？」
「え〜っと、その……あ、いや……忘れちゃった」
「もうっ！」
ちょっぴりふくれっつらになる雪の顔を見ながら、進は心の中で「ごめんね」と言った。
（だってさ、君と二人で生まれたままの姿で魚と戯れて、そして……ベッドで愛しあったなんて……言えないよ。けど……夢の中ならどうしてあんなに素直に言葉が出るんだろう。雪を目の前にすると……今はもう、愛してる、なんて……簡単には言えないんだ）
照れたように笑う進が、どんな夢を見たのか気になったけれど……雪はそれ以上聞けなかった。
（もしも私と同じ夢だったら……どうしよう。恥ずかしい。でも、うれしい）
「でも……いつか連れてってね」
「そうだな、いつか……」
二人で顔を見合わせてにっこり。そして、進が提案した。
「とりあえず明日、泳ぎに行こう！ ただし、南の島っていうわけにはいかないけれど……いつもの海へ」
「うん！」
微笑みあう恋人たちは、次の日、海水浴に行きましたとさ……
二人で見た夢。ＭｉｄｓｕｍｍｅｒのＭｙｓｔｅｒｉｏｕｓ Ｄｅａｍ。二人の想いがつながって、二人の望みが一緒になって、そして見た夢。同じ夢。
それは、将来の二人の姿？ Ｓｗｅｅｔ Ｈｏｎｅｙｍｏｏｎの夢？
いつか感じるｄｅｊａ vu（デジャヴー）の予感……
−お わ り−
ひまつぶしバージョン（古代君と雪が逆転した夢だったら？）へ
ほんとに全く同じ内容ですから（^_^；）ほんとにひまつぶしですよぉ！！
（背景：Queen’ｓ Ｆｒｅｅ Ｗｏｒｌｄ，Ｓｔｕｄｉｏ ＢｌｕｅＭｏｏｎ）