菜の花畑へ行こう




 3月……春の風が吹き始め、今年初め結婚したばかりの新婚夫婦の元にも、春はやってくる。

 いえいえ、既に彼らの間はいつもぽかぽかふわふわあったかな春……?

 夫は久しぶりの地球。妻も休み。休日の朝。朝の爽やかな陽射しを受けて、妻は目を覚ました。
 心地よいぬくもりを感じて、隣りを見る。なんとも言えず幸せそうな顔で寝ている愛する人の顔がある。

 そっとその頬に触れてみる。それでも夫は眠っている。「う〜ん」と気持ちよさそうに体をくねらせた。そんな彼を見ているだけで、とても幸せになる。

 昨日の夜は、とても素敵で幸せな夜。熱い夜を過ごした二人には、互いをさえぎる衣はいらない。生まれたままの姿で、互いのぬくもりを感じながら眠り、明けた次の朝は、とてもすがすがしい。

 まだ目を開けない夫を横目に、妻はベッドの脇を見た。足元に脱ぎ捨てた二人のバスローブが乱雑に落ちている。くすり……ひとりでに笑いがもれる。衣を脱ぐのももどかしげに愛し合った昨日の情熱を思い出す。

 すがすがしい朝。休日の朝にしては少し早いけれど、起きようか…… そして春の朝を楽しもう。

 妻はローブを取ろうと体を動かした。まだ眠っている彼を起こさないように、静かにベッドから起き上がり、そっとベッドから降りようと向きを変えた。
 そして、立ち上がろうとしたそのとき……


 「きゃっ!」

 左手首を後ろからつかまれ、引っ張り戻された雪は、どすんと勢いよくベッドに仰向けに倒れこんだ。その目の前には、彼の顔。その体の上には、目を覚ました彼のたくましい体。

 「おはよう……雪」

 ベッドに引き戻した妻の両腕を自分の両手で抑え込んで、進はニッコリと笑い、そしておいしそうな妻の唇をついばんだ。

 「もうっ…… びっくりするじゃない!」

 ちょっと睨みながら、けれど妻は顔をほころばせて、夫の愛の唇を受け止める。チュッと小鳥の鳴き声のような音がした。
 そしてそのまま、進の体は雪の体に体重を預けていく。その重みが、そのまま妻の幸福感を満たしていった。

 そして……雪は進のとりこになる。

 窓のカーテンの隙間から漏れる光が、絡まる二人に輝く太陽の恵みを与え、二人の体を美しく彩る。

 睦みあいを終え、満たされる二人。夫は再び妻を上から見下ろした。切ない瞳で妻を見つめる。そして、小さなつぶやきがもれる。

 「どうして……」

 「?」

 「どうして、こんなに愛しいんだろう」

 「えっ?」

 「君を抱きしめて、愛して…… そしてまた抱きしめて…… それでもまだ欲しくなる」

 「…………」

 不意に告げられる夫の愛の言葉。妻は嬉しそうに頬を紅潮させた。そしてまた、進は雪を抱きすくめ、キスの雨を降らせる。

 「ああ……」

 進の唇の先が雪を刺激して、雪は官能の余韻を再び感じ、声をあげた。夫の背を強く抱きしめて、妻はささやく。

 「幸せよ、私……」

 妻のその言葉に、夫は安心したように微笑んだ。その笑みは、まるで小さな少年のようなあどけなさの残る微笑み。雪はそれに魅了される。

 「どうして……」

 「?」

 「どうして、いつもあなたは私の胸を苦しくさせるのかしら?」

 「えっ?」

 「あなたのその笑顔に、私はいつもどきどきしちゃう……」

 妻の恥ずかしそうなそれでいて熱い眼差しが、夫の心を躍らせた。

 「雪がそばに居てくれるから……」

 「あなたのそばに居られるから……」

 だから、僕は私は幸せなんだろう…… 二人は同時にそう思った。


 「ねっ」

 妻が言った。

 「春を見に行きましょう。そう……菜の花畑がいいわ」

 「そうだな。新しい春を見に行こうか。お弁当を持って」

 二人の春は、いつも二人の間にある。そして、二人の周りも……春になる。

おしまい

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(背景:Queen's Free World)