Witch’s Sigh(魔女のため息)の香り

 久しぶりに早く仕事を片付けたし、近くのデパートで買い物をして帰ろうかしら。今日は、彼が家で待ってるから・・・ 夕食の買い物に食料品売り場に行く前に、ちょっと寄り道。1階のアクセサリーや化粧品が並ぶフロアをウィンドウショッピングしてみる。

 海外のブランドの化粧品も並んでいる。でも・・・彼は化粧品は余り好きじゃない。『素顔が一番きれいだ』それが彼のいつもの言葉。だから、私もあまり化粧はしないの。仕事上の必要最低限に抑えている。でも・・・ いろいろな色の口紅、アイシャドウに頬紅・・・ どれも美しく私を誘う。ちょっと、立ち寄って見ると、さっそく女性店員が近寄ってきて、『お試しください』とにこやかに笑う。

 有名な海外の香水メーカーのコーナーで、人だかりになっていた。なんだろう・・・

 「本日は、新発売の香水『Witch’s Sigh』のお試しセールになっております。どうぞお手にとって、そして少し香りを身につけてみてください。」

 新発売の香水? Witch’s Sigh? 魔女のため息か・・・ ずいぶん妖艶な名前の香水だこと。香水もあまりつけた事はない。『雪はいつもなんとなく甘い香りがするね』 彼はそう言ってくれるから・・・

 「あ、そこのお嬢様、どうぞお試しください。」

 お嬢様? 私はこれでも人妻なんだけど・・・ でも、いつも独身に見られちゃう。うふふ・・・ たまには試してみようかな。

 「どうぞ、香りを・・・」

 きれいに化粧した若い店員が、香水をつけた小さな紙をゆらしながら私に手渡してくれた。!! なんて香り・・・ 甘くてなんとなく妖しい感じ。『Witch’s Sigh』の名前のとおり・・・

 「こちらの商品は、とても甘い香りになっております。名前の通り、大変魅惑的な香りです。彼とのデートにつけて行かれれば、彼の心をとろけさせますよ。」

 宣伝文句だとは思いながらも、ちょっと心惹かれる。進さんもそんな風に魅了されるかしら・・・

 「肌につけると体の温かみで香りがまろやかになって、よりよい香りになります。ぜひ、お試しください。」

 店員が香水の小さな試供品をくれた。1回分の小さなボトル。でも、それがとても魅惑的なボトルに見えてしまう。

 「ありがとう・・・」 ニッコリ笑って受け取った。

 夕食の買い物を終えて、帰り道、さっきのボトルの事を思いだした。ちょっと、試してみようかしら。車を降りる前に、ボトルを開けて、首筋と胸元、そして手首に少しずつつけてみた。甘い香りが私の周りをとりまいた。何か、美しいベールをまとったような気分でマンションの玄関に向かった。

 「ただいま。」その声に答えるように、「お帰り・・・」というやさしい声。進さんだ・・・ 思わず笑顔がこぼれる。

 進さんは、玄関先まで出てきて、私を抱きしめた。「待ってたよ・・・」 そして、首をかしげるように、ちょっと不思議そうな顔をした。どうしてかしら? 香水のことわかったのかしら?

 「どうかした? 進さん?」

 「いや・・・ お腹すいたよ。」

 すぐに夕ご飯の仕度を始める。進さんも手伝ってくれて、あっという間に食事タイム。食事を終えてリビングでくつろいでいると、進さんが言った。

 「今日はなんとなく君の雰囲気が違うような気がするな。なにかした?」

 「うふ・・・わかった? 今日ね、帰りにちょっとデパートの香水売り場によったら、新製品のキャンペーン中だったの。『Witch’s Sigh』っていう香水。魔女のため息だって・・・ 試供品をもらったからつけてみたの。変?」

 「『Witch’s Sigh』? いや・・・いいにおいだよ。いつもの雪の香りも好きだけど、この香りは・・・」

 「この香りは?」

 「いや・・・ さて、風呂にでも入るかな・・・」

 進さんったら、この香りがどうしたって言うのかしら。言葉を飲みこんじゃって? でも嫌じゃなかったみたい、よかった。

 その夜、進さんはいつもより熱く、やさしく、そしてちょっぴり激しかったような気がする。香水のせいかしら・・・ Witch’s Sigh・・・ 魔女のため息。


 あれから、ひと月・・・ 進さんはこの前の航海から帰ってきてからしばらく地上勤務。毎日、一緒に出勤する。帰りは、進さんのほうがずっと遅かったけど。

 今日は、私はお休み、進さんの仕事もそろそろ一段落みたいで、今日は早く帰れるって言ってた。だから、今日はちょっとごちそうをつくって待ってる、って進さんに言っておいたの。進さんはニッコリ笑って、「じゃあ、なにかおみやげを買ってくるよ。」って言ってたわ。何を買ってきてくれるのかしら。

 「ただいま」 進さんが帰ってきた! 玄関まで行ってお迎えのキッス。うーん、幸せ♪

 一生懸命作ったごちそうを美味しそうに食べてくれる。ワインも二人で1本飲んじゃった。ちょっぴり、ほろ酔い気分。

 あら? でもおみやげってどうしたのかしら? 進さん、何も言わない。

 「ね、進さん、今日のおみやげって言ってたのは?」

 「ん? ああ、あとでね。雪、お風呂入ったら?」

 「え? ええ・・・」

 なんだか変な進さん。なんとなくそわそわしてるみたいに見えるけど。とりあえず、お風呂に入ろうっと・・・ ごちそうのお礼にいっぱい愛してもらおうかな♪

 お風呂から上がると、進さんがリボンのついた小さな箱をテーブルに置いた。

 「はい・・・おみやげ。」 進さんが笑う。微かに紅潮しているようにも見えるのは気のせい?

 開けて見ると・・・あっ!! 香水・・・『Witch’s Sigh』だわ・・・ 進さんが香水を買ってきてくれるなんて・・・ びっくりしたけど、とってもうれしい。進さんったら、この前の香りが気に入ってたのかしら・・・うふふ・・・

 「ありがとう、進さん。うれしい!! 私もお礼になにかしたいけど・・・ 」

 何も用意してなかった。残念そうに言う私に進さんはこう言った。

 「いいんだ。美味しいごちそうのお礼だよ・・・ でも・・・一つだけ頼みがあるんだ。」

 「なあに?」

 進さんたら、なぜだか少し言いにくそうにして照れてる。どうしたの? そして私に耳元でこうささやくと、すぐ背を向けてバスルームに消えた。

 「風呂入ってくるから・・・ ベッドで待ってて。ただし・・・ 今日僕が買ってきたものだけを身につけて・・・ね」

 え!? 今日進さんが買ってきたものって? 『Witch’s Sigh』・・・だ・け・・・?

−お・し・ま・い−

Witch's Sigh(魔女のため息)進バージョンへ…
(ちょっぴりうふふなギャグイラスト付き、お子ちゃまはご遠慮くださいマセ♪)

トップメニューに戻る               オリジナルストーリーズメニューに戻る