Witch’s Sigh(魔女のため息)の香り(進バージョン)


 今日は、休日だ。久々にゆっくり昼寝もしたな…… 雪は仕事だったし、出かけるところもないし、まあ休養充分ってとこかな。ん? 6時か…… 雪も仕事終わったかな? 夕飯の材料は帰りに買ってくるって言ってたっけ。

 早く帰ってくればいいのに…… たった1日休みで、雪の帰りを待っているだけでも待ち遠しい。雪は地球で俺の帰りを待っているときは毎日がこうなんだろうか…… 自分が航海に出ている時には感じない寂しさがある。

 雪が恋しい…… もう何年もこうして一緒に暮らしているのに、まだ足りないらしいな、俺は。仕事柄一緒にいられる時間が短いせいかな? いや……要するに惚れてるンだな、あはは。

 ああ、もう、6時半か…… そろそろ腹減ったなぁ、雪まだかなあ。

 「ただいま」おっ、雪の声だ。帰ってきたな。「お帰り……」と声を返した。

 玄関まで迎えに言って雪を抱きしめた。「待ってたよ……」 柔らかい…… そして甘い香り……?ン? なんだろう?この香りは……

 「どうかした? 進さん?」

 「いや…… お腹すいたよ」

 雪の質問にはとりあえず無回答。なんとなく違った香りが漂ってきたのは……? けどそれより今は腹へった。

 すぐに雪は夕ご飯の仕度を始める。仕事で疲れただろうから、俺も手伝ってやるか…… たまには点数あげとかないとな。それに……雪のそばにいたい。

 食事を終えてリビングでくつろぐ。やっぱり、雪の香りがいつもと違ってとても甘い…… すごく惹かれる…… なんの匂いだろう? 思いきって聞いてみた。

 「今日はなんとなく君の雰囲気が違うような気がするな。なにかした?」

 「うふ……わかった? 今日ね、帰りにちょっとデパートの香水売り場によったら、新製品のキャンペーン中だったの。『Witch’s Sigh』っていう香水。魔女のため息だって…… 試供品をもらったからつけてみたの。変?」

 「『Witch’s Sigh』? いや……いいにおいだよ。いつもの雪の香りも好きだけど、この香りは……」

 香水の香りだったんだ? この香りに、すごくそそられるんだ……雪。ああ、今すぐ抱きしめたい、雪のすべてにキスをして思いっきり強く抱きしめて…… 愛したい!

 「この香りは?」

 おっと、まずい…… そんな目で見つめるなよ。と、とりあえず、風呂入ってからあとでゆっくりと…… 

 「いや…… さて、風呂にでも入るかな……」

 その夜、雪は俺の求めに熱く答えてくれた。俺も雪がかわいくてたまらなかった。めちゃめちゃにしたいくらい…… 雪の切ない吐息が耳をくすぐる。Witch's Sigh…… 魔女のため息か。


 あれから、ひと月…… この前の航海から帰ってきてからしばらく地上勤務。毎日、朝は雪と一緒に出勤するものの、残業続きでいい加減疲れたな。

 昨日でやっと仕事のめどがついたし、今日は早仕舞いだ。雪は今日は休暇、俺も早く帰れるって言っておいた。雪は、「今日はちょっとごちそうをつくって待ってるわ」って言ってたな。楽しみだ。思わず「じゃあ、なにかおみやげを買ってくるよ」って言ってしまったが、何を買って帰ろうか。

 仕事の帰り道、デパートに寄ってみるか。玄関でフロントの大きなディスプレイを見ると、おお!美人…… ま、雪よりちょっと落ちるかな? 黒いドレスか…… ふーん、色っぽいな……ん? Witch's Sigh? あ、これってあの香水の宣伝なのか。そうだ! あれを買って帰ろう、おみやげに。

 あの日、雪と……うーん、思い出してもたまらない…… よし!

 デパートの中に入ってみたけど、どこでそんなものを売ってるのかまったく見当がつかない。1階のフロアはアクセサリーや女性用の小物ばかり…… ああ! わからん! はぁ…… あきらめて、その辺のものを適当に買っていこうか…… きょろきょろしていると、店員の女性に声をかけられた。

 「お客様、何かお探しでしょうか?」

 「あ……あの、香水の売り場は?」

 「香水ですか? どちらのブランドの?」

 ブランド? わからないぞ、そんなもの……

 「あ、あの……表のディスプレイにあった……」

 「ああ、Witch's Sighでございますね? それでしたら、こちらへどうぞ」

 店員に案内されて売り場にやっとたどり着いた。はあ、やっぱり疲れるなぁ、こういう買い物は。まだ、買う前からこれだもんな。

 「いらっしゃいませ」

 香水売り場の店員が笑顔で迎えてくれた。えーっと、あの香水は……

 「どんなものをお探しですか? ご自分のものでしょうか? トワレタイプでしょうか? それともコロンでしょうか?」

 ????なんだ?それは??? 俺は香水を探してるんだけど……

 「いや…… あ、妻にプレゼントで…… あの、表のディスプレイの……」

 ああ、俺ってこればっかりだな、名前はなんだっけ? 『ういっちずさい』だっけ?

 「ああ、Witch's Sighでございますね」

 「ああ、それそれ。それをください」

 「奥様へのプレゼントですか。よろしゅうございますわね」

 店員がニッコリと笑う。ムムム…… なんか俺の下心を見越されたような、あの笑い…… まずい…… 顔が火照ってしまう。

 「どのサイズにいたしましょう?」

 「あ、これを……」

 「はい、かしこまりました。今、お包み致しますので少々お待ちください」

 しばらくして、店員の女性がリボンに包んだ小さな箱を持ってきてくれた。ふうっ! やっと買えた……
 今日帰って雪にこれをプレゼントしたら、雪は何て言うかな。香水なんてプレゼントするのは初めてだから、喜ぶかな。

 今夜は雪にこれを使ってもらって…… うむむ…… 想像しただけで…… うっ、危ない!人前でこんな想像したら大変な事に…… 早く車に戻ろう。

 「ただいま」 家に帰ると玄関まで雪が飛ぶようにしてやってきて、迎えのキッスをくれた。うんうまい! なかなか上々だな。

 オオッ! ごちそうだ!美味しい、美味しい。ワインも二人で1本飲んだ。雪も結構赤くなって、少し酔ってるみたいだ。火照った顔がかわいいな。

 「ね、進さん、今日のおみやげって言ってたのは?」

 おっと、覚えてたかやっぱり。でも、今渡すのはやめて、やっぱり寝る前に…… ははは…… 言えるかな、俺。

 「ん? ああ、あとでね。雪、お風呂入ったら?」

 「え? ええ……」

 ちょっと変な顔したけど、雪のヤツ、風呂入ったな。よしっと…… あれを出してと……

 雪が出てきた。テーブルに置いて、 「はい……おみやげ」 と差し出した。

 なんかドキドキするな。顔赤くなってないかな? なんとなく熱い。照れ笑いがでてしまうな。雪、うれしそうだ。よかった!!

 「ありがとう、進さん。うれしい!! 私もお礼になにかしたいけど…… 」

 雪が残念そうに言う。いいんだよそんなこと。よし今がチャンスだぞ。言うぞ!

 「いいんだ。美味しいごちそうのお礼だよ…… でも……一つだけ頼みがあるんだ」

 「なあに?」

 やっぱり、言いにくいなぁ…… けど、せっかく買ってきたんだからな。ああ、またドキドキしてきた。冷や汗もでそうだけど…… 雪の耳元に口を持っていってささやいた。

 「風呂入ってくるから…… ベッドで待ってて。ただし…… 今日僕が買ってきたものだけを身につけて……ね」

 言ってみたものの恥ずかしくなって、あわてて風呂場に来てしまった。ちらっと見たら、雪は、ちょっと赤くなってたけど、うれしそうにしてたような…… どうしただろう?雪。

 風呂から出てくると、リビングにはもう誰もいなかった。あの香水も見えない。と言うことは…… 雪!! 愛してるよ!

−お・し・ま・い−



(by がみらすです三郎さん)

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