ママの一番好きなもの!?
5月の第一日曜日。古代家の居間。
休日の朝、ママが作ってくれた朝食を食べた後、子供達は遊んでいた。地球に帰ってきている寝ぼすけパパはまだ寝ている。
愛が食器を片付けるママの手伝いに行ってしまうと、守がそっと航に耳打ちをした。
「おい、航。もうすぐ母の日だよな?」
「うん、そうだよ、兄ちゃん。来週の日曜日!」
「お前、カーネーション買うお金あるか?」
「えっ?……ない……けどぉ。だって、今月のお小遣いで宇宙図鑑買っちゃったんだもん」
「ええっ!?お前もか?」
「お前もかって、兄ちゃんどうして持ってないんだよ! 兄ちゃんが一番たくさん小遣いもらってるじゃんかぁ」
「俺だって、昨日最新バージョンのバトルゲーム買ったんだよ! 母の日のことすっかり忘れてたんだ」
「じゃあ…… 愛は?」
「愛は学校行ってないから、小遣いまだ貰ってないじゃん!」
「だめかぁ〜〜 どうしよう、兄ちゃん」
「う〜〜〜ん」
「あのさぁ、去年みたいに、折り紙でカーネーションを作って、それから肩叩き券を渡すのはだめなの?」
「そんなの毎年同じじゃ、芸がないだろう?」
「げい!?」
「おもしろくねぇってこと!」
「う〜〜〜〜ん」
頭を抱えて悩む二人。何とか大好きなお母さんがあっと喜ぶプレゼントをしたいのだが、とにかく先立つ物が全くない。お金をかけずに喜んでもらうものは……? お母さんの一番好きなものは?
二つの頭を付き合わせて悩んでいると……
「おいっ、守も航もどうした?」
と声をかけてきたのは、寝ぼすけパパだ。
一昨日地球に戻ってきていたが、昨日は地球で遅くまで仕事をしていたらしく、今朝は朝食にも起きてこなかった。お日様が高くなった今ごろになってやっとお目覚めらしい。
二人はその声に顔を上げて、やっぱり大好きなお父さんを見た。そして同時に、
「あ〜〜〜〜っ!!」
と叫ぶやいなや、二人は顔を見合わせてにんまりと笑った。お互いの思いがぴったり一致したらしい。
「決まりだな?」
「うん!」
「愛も誘わないといけないよな」
「やだって言うぞ」
「この際我慢させる!」
「仕方ないよね!」
「よっし、決定〜〜〜!」
何がなんだかわからない寝起き顔のパパ。
「なにがけってい〜〜〜なんだ? 何を決めたんだ?」
「いいから、お父さんも手伝ってよ! 来週の日曜日、母の日なんだからさっ!」
「あ? ああ……いいけど……」
???がたっくさん頭にくっついたまま、とりあえずパパはこっくりと頷いた。その後、愛を呼び寄せた守は、渋る愛を説き伏せた。
「やだぁ〜 そんなのぉ!」
「じゃあ、愛がカーネーションやプレゼント買うお金出してくれるのか?」
「そんなお金ないもん」
「だろ? じゃあ協力しろ!」
「ううう……」
「ちょっと我慢しろって、兄ちゃんたちも一緒だし、おばあちゃんがきっとご馳走作ってくれるって。愛だってお母さんを喜ばせたいだろう?」
「…………う、う……ん、わかった」
半分涙目の愛だが、説得上手の守兄ちゃんには勝てない。こっくりと頷いて、これで計画は決定された!
さて母の日当日の日曜日。
朝食を済ませると、もったいぶったパパ――今はまだ地球勤務で家にいる――と子供達から、ママはあっちに行ってと、部屋を追い出された雪。
はいはい、と笑顔で了解。寝室でワクワクしながら待っていた。
(子供達、今年は何をくれるのかしら? うふふ…… 去年は確か手作りカーネーションと肩叩き券だったわね。今年もお金のかからないものを考えてるのね、きっと。だって守も航も今月のお小遣い、月初めに全部使っちゃったみたいだしぃ…… 今年は何なのかしら?)
そんなことを考えていると、扉の外から声がかかった。
――もういいよ〜〜〜〜!
雪が部屋から出てみると、びっくり仰天。
なんと、居間のど真ん中に、馬鹿でかいダンボール箱が一つ、でーんと置かれていた。その周りは、子供達が作ったらしいリボンや花で飾られている。
(こんな大きなダンボール箱どこで見つけてきたのかしら?)
きっとパパも協力したに違いないわ、とママはほくそえむ。
箱の上には、「お母さん、ありがとう!」とへたくそな字で書かれていた。たぶんこれはぁ〜〜字を覚えたばかりの愛の字かな?
子供達は、大きな箱のそばに立って嬉しそうにニコニコ笑っている。そして3人を代表して守が口を開いた。
「お母さん、いつもありがとう!」
「ありがとう!!」 航と愛が声を揃えて復唱した。
「それで、僕らからのプレゼントです。どうぞ中を開けてみてください!」
「まあっ!! これ……がプレゼント? すごいわね」
ママの驚き振りに、3人は得意満面だ。
「えへへへ……」
「どうもありがとう。こんなに大きな物をお母さんにくれるの? 一体何かしら?」
ママもニコニコ顔だ。中身が何かはよくわからないが、ダンボールの大きさだけでも感動ものである。
はやく、はやく、開けてみて! とせかす子供達に追いたてられるように、雪はダンボールのふたを開けた。
すると……
「きゃ〜〜〜!!」
いきなり中から黒い影が飛び出してきて、それに驚いたママの悲鳴が家中に響く。
そう……中から出てきた『もの』は………………ママがいっちばん大好きな………………
ニコニコ顔のパパでした!
「やっだぁっ、もう! びっくりしたぁ〜〜〜」
ほおっと息をついて胸を抑える妻に、進は笑顔でこう言った。
「雪っ! いつも子供達のために頑張ってくれてありがとう!」
立ち上がったニコニコ顔のパパをよく見ると、胸には大きなリボンをつけている。
そして予想外のものが飛び出してきた驚きに、まだ呆然としている雪に、笑顔で小さな紙切れを突き出した。
「今年のプレゼントは、俺……なんだってさ。ほら、これ」
まだ心臓がばくばくしてるわ、そう思いながら、雪は進の差し出した紙切れを受け取った。そして書かれている字に目を落とす。
そこには……
ははの日のプレゼント
『おとうさんと一日でえとけん』
きょう一日は、おとうさんとでえとして
ください!
ぼくたちは、おばあちゃんのところで
まっています!
守、わたる、あい
「お母さんの一番大好きなものをプレゼントしようって、僕らで考えたんだ。そしたら、やっぱりお父さんだよなぁってことになってさぁ」
守が言うと、航と愛がニコニコ頷いた。
「まあっ、あなたたちったらぁ〜 ありがとう……」
ママの一番大好きなものはパパ――思わず図星を突かれて、雪は嬉しいやら恥ずかしいやら、ポッと頬を染める。
夫の顔をチラッと見ると、彼は可笑しくて溜まらないといった感で、笑いを必死に堪えている。その顔がとても生意気に見えて、妻は抗議した。
「もうっ、あなたもグルだったのね!」
拗ねた顔で夫を睨む雪に、進は……
「あっははは、子供達うまいこと考えたじゃないか! ママの大好きなもの、当たってるだろ?」
子供達に内緒で、ウインクするパパ。それにママも苦笑するしかなかった。
「それはそうだけどぉ〜」
「ということで、今日は雪の好きなところ、どこにでもお共させていただきます」
進はまるで姫に挨拶する騎士のように、わざとらしくも恭しく頭を下げた。
「わぁ〜〜〜! パパかっこいい!!」
と叫ぶ愛とやんややんやとはやし立てるお兄ちゃんたちに、ママは顔を真っ赤にした。
「んっ、もうっ!!」
「愛、寂しいけど、今日だけパパをママに貸してあげるわ。いってらっしゃい!」
パパ大好きで、いつもママとパパを取り合いする?おませな愛の一言で、雪もやっとその気になった。
じゃあ、子供達の懸命に考えたプレゼントを素直にちょうだいしようということで、さっそく二人は出かけることにした。
守はちゃんと事前に隣に住むおじいちゃんおばあちゃんにも今日のことを頼んでいたらしい。出かける前に子供を預けに隣によると、美里が出てきて
「ハイハイ、守たちから聞いてますよ! ゆっくりしてらっしゃい。でもあなた達って相変わらずなのねぇ」
などとからかわれてしまった。
その日のデートは、街で映画を見て、喫茶店でお茶を飲んで、それからウインドウショッピング…… 二人は久々に若かりし頃に戻ったような気分になってデートを楽しんだ。
いつも子供達のことをとっても大切に育ててくれているママへ、パパの感謝の気持ちのこもったとっても素敵なデートになったそうな……
帰り際、フラワーショップを見かけた進はつかつかと入って行って、カーネーションの花束を注文した。
「あら、もういいのよ。私は十分よ」
「何言ってるんだい? 君にじゃないよ。僕らのお母さんに…… それこそ毎日お世話になってばかりだろ?」
「あっ…… そうだったわ。ありがとう、あなた」
美里のために、カーネーションとかすみそうの花束を買って、二人は家路についた。
「今日は本当にありがとう……」
嬉しそうに微笑む雪に、進も笑った。
「子供達もうまいこと考えたな。確かにあいつらは一銭もかからないよな! けど、俺はどうなるんだ? 映画代にめし代に、それからケーキ代!」
「うふふ……さあねっ!」
「まあいいさ。その分は今晩……返してもらうから」
夫の瞳が意味深に輝く。
「もうっ! お昼間からやぁねっ!」
雪は、進の腕をギュッとしがみつくように抱きしめて笑った。
これからあとのことは、どうぞ皆様のご想像のままに……
ちなみに、その年の父の日のプレゼントが……ママだったかどうかは、定かではない(笑)
(背景他:Queen FREE World)