Sweet Valentine Day


  

 今日は2205年の2月14日。言わずと知れたバレンタインデー。そして、古代家に暮らす新婚夫婦にとっては、結婚して初めてのバレンタインデーとなる。

 結婚式、そしてその後の幸せなハネムーン。その夢のような時間の余韻も覚めやらぬ二人……

 夫の古代進はただいま地上勤務中。新婚生活を楽しむために希望した……というわけわけではないのだが、周りの配慮もあってか、ただ今、今秋完成予定の新造艦のアドバイザーとして科学局の真田の開発プロジェクトに参加している。

 そして今朝、出勤前に新妻の雪は夫にこう告げた。

 「今日はバレンタインデーだから、ご馳走作るわね。今日は特別な任務もないし、フレックスタイム使って早めに帰るから楽しみにしてて! もちろん、あま〜〜いチョコレート付きの…… だからあなたも早く帰ってきてね!」

 「ああ、まあ俺も今日はあまり予定ないし大丈夫だと思うよ。で、甘いのはチョコだけかい?」

 「んふふ…… それは今夜のお楽しみよっ♪」

 「ふむ……了解!」

 などとのたまいながら、唇をついばみあう真冬に朝っぱらから暑苦しい?典型的な新婚夫婦であった……



 夕方、新婚さんのバレンタインデーということもあって「今夜は何かお楽しみありですか?」などと、同僚達からからかわれながらも、進は予定通り早々の帰宅を果たした。
 しかし彼を待っていたのは、誰もいない真っ暗で閑散とした我が家だった。

 「あれ? 雪はどうしたんだ? 早めに帰るって言ってたのになあ?」

 と、首をかしげているところへ、愛する妻からメールが入った。

 『進さんへ、ごめんなさい。急に片付けなくちゃならない仕事が入ったの。できるだけ急いで帰ります! 雪』

 とのこと。

 「ふ〜ん、長官秘書殿は相変わらず酷使されてますなぁ」

 雪の多忙さ、突然の任務発生は、今更始まったことではない。なにせ司令本部の中枢である長官の第一秘書として活躍しているわけだから、忙しくて当たり前。新婚の夫であっても文句は言えないのだ。

 「しゃあないな、今夜は雪の手料理じゃなくって、俺の手料理食わせてやるか」

 進は着替えを済ませると、冷蔵庫と冷凍庫をあさって、買い置きの品を見繕い、夕食の支度を始めた。

 料理を作る手はなかなか手馴れたもの。近頃は雪の料理の腕も上がったけれど、ここは共働き夫婦のこと。こんなふうに妻のほうが遅くなった時は、夫たるものちゃぁ〜んとご飯を作ってお風呂の準備などもしたりして待つことができるのだ。

 「俺って、いい旦那だよなぁ〜」

 なんて一人悦に入ってる新妻ならぬ新夫(にいおっと)であった。ただし……何の魂胆もなしにいい夫をやっているわけではない。

 「雪の奴、バレンタインだから早く帰ってきてサービスするって言ってたくせに、自分のほうが遅くなるんだから、それなりのサービスはしてもらうからな! ふんふふ〜〜ん」

 なんて、料理をしながらあ〜〜んなことやこ〜〜〜んなこと?を妄想することも忘れてはいない。



 料理もできた。風呂も準備OK!! 後は妻の帰宅を待つだけになった進は、リビングで待ちながらウトウトしていた。
 と、ドアベルが鳴った。

 「おっと、長官秘書殿のお帰りだな」

 ドアベルに起こされ飛び起きた進が玄関まで行くと、そこには既に自分で鍵を開けて入ってきた雪が立っていた。

 「ただいま、進さん! ごめんなさ〜〜〜〜い!! 急に必要な書類ができちゃって、もうみんなで作るのに大童だったの〜」

 制服姿のままの妻は、夫を見るなり両手を合わせて懸命に謝った。

 「あはは、謝んなくてもいいぞ。仕事だったんだしさ。お帰り!」

 チュッと音が鳴る。もちろんそれはお帰りのキスの音。

 「ん……ありがとう」

 「ほら、着替えて来いよ。飯も風呂もできてるんだから」

 「えっ!? もうできてるのぉ!?」

 「そりゃあそうさ、帰ってから2時間もあったんだぜ」

 得意そうな夫の脇から壁の時計を見ると、もう7時半を過ぎている。

 「ああんっ、ほんっとごめんなさい! すぐ着替えてくるわ!」

 雪は、もう一度手を合わせてから小走りにベッドルームに消えた。その後姿を見送ってから、進はほっと息を一つ吐いた。

 「全く忙しい奴だよな……」

 けれど、なぜかとっても幸せな気分の夫である。新婚時代は何をしてても楽しいものなのだ。

 「さて、飯、飯っと……」



 進が食事のテーブルを整えていると、雪が着替えをすませてやってきた。

 「進さん、お・ま・た・せっ!」

 顔を上げた進は、妻の姿に目を見張った。

 「雪……?」

 ぽかんと口を開けたままの夫に、雪がくすくすと笑った。

 「どうしたの? 進さん」

 「い、いや…… また、それは……」

 「うふふ、どう? 似合うかしら?」

 ポーズをとってみせる妻を、進は目をぱちくりさせながら上から下まで舐めるように眺めた。

 「あ、ああ…… すごく似合ってるよ。すごいな」

 「ありがとう♪」

 進の目の前に立った雪は、美しい青紫のワンピースドレスを身にまとっていた。進も初めて見るドレスだった。
 胸元が大きくくれたそのドレスは、上半身は雪の細身の体に沿い、その美しい胸元と細身の体を際立たせ、ウエストから下はAラインにふわりと広がっている。青紫のサテンの生地に重なる紫のオーガンジーレースには、流れるような刺繍が施されていた。

 「どう……したんだ? それ」

 「うふふ…… 友達にね、ドレスを手作りする人がいて、結婚のお祝いにってこの間持ってきてくれたの。ほら、進さんが休日出勤してた日に来てくれたって話したでしょう?」

 「ああ、そう言えば…… 君、もらったお祝いはそのうち見せるとか何とか言ってたよなぁ」

 「そう、それがこれなの! バレンタインデーにこれを着てあなたを出迎えてびっくりさせようと思ってたのに、失敗しちゃった!」

 「そんなことないさ。うん、びっくりした……」

 「それから、はい、これ! バレンタインのプレゼント!」

 雪が脇に置いてあったプレゼントを手に取って差し出した。それは、赤ワインの瓶1本とシックなリボンに包まれたチョコレートの箱だった。

 「あ、ありがとう…… 準備してくれたんだ?」

 「本当は手作りしたかったけど、ここのところ忙しくって……」

 「いいさ、君がいて、おまけにワイン付なら文句なしさ!」

 「うふふ、よかった〜」

 「じゃあ、飯冷めないうちに食べようぜ」

 「ええ……」

 冷凍庫の肉と冷蔵庫の野菜類を放り込んでコンソメ味でごった煮した具沢山のスープは、まさに男の料理だったが、なかなかの味だ。ワインとの相性もなかなかよく、二人はあっという間に料理とワイン1本を平らげてしまった。



 「ふうっ、美味しかったわぁ〜〜」

 「また、うまいこといって……」

 「あら、本当よ。やっぱり帰ってきた時にご飯ができてるっていうのは、いいもんだわぁ」

 雪がニッコリ微笑んだ。進はいつもその笑みに弱い。苦笑するしかなかった。

 「なんだそれ? そりゃあこっちのセリフのような気がするんだけどな」

 「いいのよ、世の中、男女同権! 早く帰宅したほうがご飯を作るのが当然でしょ!」

 かわいらしい顔で、ぴしゃりと言い放つところは雪らしいところだ。まあ、進もそれに反論するつもりはない。

 「ったく…… まあいいけどさ。しっかし、さっき帰ってきたときの殊勝な君はどこ行ったんだかねぇ?」

 「うふふ…… 雪ちゃん、知らないも〜んっ!」

 ずいぶん陽気な奥さんに、進はピンときた。

 「ふうん、なあ、雪、君ちょっと酔ってるだろ?」

 「あらん、そうかしら? そんなことないわ」

 酔ってない、と言ったときは既に酔っている、とはよく言ったものだ。実は進のほうも、なんとなく気分が高揚している。尋ねた方も尋ねられたほうも、程よく酔っているのだ。

 進も雪も酒は強いほうである。が、それでもワインを半ボトルも飲めば、それなりにほろ酔い気分にもなる。となれば、互いに少々大胆な気持ちになっても不思議はない。それに今夜はバレンタインデーでもあるわけで……
 二人の互いを見つめる瞳に、艶かしい輝きが見えた。



 「ふふ〜ん、じゃあ、デザートにさっきのチョコレートもらおうかなぁ」

 進が笑う。その笑みは、ニコリ……というよりニヤリとしたように見える。だが、雪はまだその笑みの意味に気付いていない。

 「どうぞっ!……はい」

 雪が嬉しそうにテーブルの隅に置いてあったチョコレートの箱を取って進に差し出すと、進は差し出した手ごと握りしめ、雪を引っ張り上げた。

 「あっ……」

 不意に手をつかまれた雪は驚いて進を見上げた。進の視線は熱く、そしてその握る手もとても熱かった。そのほてりが雪の体を一気に駆け巡る。
 手を握ったまま、進はさらに妻の体を引き寄せて耳元で囁いた。

 「こっちで一緒に食べよう」

 「え、ええ……」

 雪の心臓の鼓動が外からも聞こえかと思えるほど大きくなったのは、ワインのせいだけではない。

 進に導かれて、雪はリビングのソファに腰掛けた。進もその隣に座って雪を抱き寄せる。進に身を寄せたまま、雪は手を伸ばして、テーブルの上に置いたチョコレートの箱を取った。

 「これ、ブランデーシロップ入りのチョコなのよ。今、包みをむいてあげるわね……」

 両手でチョコレートの包みを開きながら、雪が説明する。そして、中のボトルの形をしたチョコレートを一つ手に取った。

 「うん、ありがとう。じゃあ、俺もむいてあげようかな」

 「え?」

 進の言葉の意味がわからずに、チョコを一つ持ったまま顔を上げた雪を、進は愛しそうに見下ろした。

 「バレンタインデーで、甘いチョコレートを食べさせてくれるんだろう?」

 「……そうよ、だか……」

 雪が最後まで答えないうちに、進に唇を奪われる。雪の手から、持っていたチョコレートがぽとりとじゅうたんの上に落ちた。

 「ん……」

 進の口が妻の唇をゆっくりとなぞった。と、それに答えるように雪の唇も、艶かしく動き始めた。甘くて柔らかくて濃密な味がして、進をたっぷりと誘惑してくれる。何度味わってもうまいと、進は思った。
 しばらくむさぼるようにその甘さを味わってから、進は唇を離した。

 「うん、なかなか甘いけど、今日のはまだちょっと甘さが足りないなぁ。やっぱりむかないとだめだな……」

 やけに真面目くさって進はそう言うと、手馴れた手つきで雪の背中に手を伸ばし、後ろのファスナーを一気に引き下ろした。

 「あ……ん……」

 雪はされるがまま、抵抗するそぶりはないどころか、期待を込めた表情で夫を見上げている。

 「このドレス姿もなかなか魅力的なんだがな……」

 などと言い訳しながらも、進はサテンの柔らかな生地のドレスを雪の肩から片方ずつゆっくりと引き下ろしていった。

 「バレンタインのご馳走作ってもらい損ねたからな。これからその分の埋め合わせにご馳走してもらわないとなぁ」

 進は、半分あらわになった胸元に顔を近づけながら耳元で囁いた。

 「んふ……ん…… 何で埋め合わせさせるつもり?」

 「んなこと、わかってるくせに……」

 「うふふ……」

 雪の両肩からドレスが抜け落ち、白い滑らかな肌とそれを包むレースのランジェリーがあらわになる。それに沿うように、進の手が雪の豊かな胸をそっと包んだ。

 「はぁん……」

 雪の色っぽい声をくすぐったそうに聞きながら、進はその肌をなぞり続ける。

 「聞きたいか?」

 「ええ……」

 雪の瞳がとろんとしてきた。夫の手の巧みな動きに呼応するように、うっとりとした顔をみせている。

 「とびっきり甘いチョコレートを食べさせてもらおうと思ってな」

 衣擦れの音と同時に、雪が来ていたドレスは足元にすとんと落ちた。進はそれを手に取って雪から完全に剥がし取ると、ソファの背もたれにばさりとかけた。
 雪は振り返った進の首筋に、両手をやんわりとかけた。

 「どうやって?」

 「ふふん、まずはチョコのお皿を用意しないと……」

 そんなことを言いながら、進の手は手馴れた様子で、雪の体を包む小さな布切れを順々にはがしていった。ほんのり薄桃色に染まったきめ細やかな肌の最も美しいところがあらわになっていく。

 そして進の目の前には、こんもりとしたふくらみが二つ現れ、その先端に桃のつぼみが誇らしげに色づいていた。

 「なかなか綺麗な皿だ……」

 進がその先端に軽く口付けすると、雪の体がぴくりと動き甘い声も漏れた。
 進はさらに、雪の体に残っていた覆いを全て取り去る。流線型の美しい陶磁器の皿が、進の眼下に横たわっていた。

 それから進は、そのままぎゅっと抱きしめてしまいたい衝動を必死に抑えて、一旦雪から体を離して自分も着ていたものを脱ぎ去った。
 そして雪が手から落としたチョコレートを拾って銀色の包みをはがすと、それを雪の二つの胸の間に静かに置いた。

 「あっ……」

 困ったような顔をする妻の戸惑いを楽しむように、進が口元をくいと上げた。
 それから進は、雪のわずかに上下する胸元をじっと見つめたまま動かなかった。雪も……動けない。

 裸身を愛する夫の熱いまなざしにさらされ、雪の体が熱く燃え上がる。すると、その火照った体の上に乗せられたチョコレートが、少しずつじわりじわりと溶け始めた。
 進が乗せたチョコレートを押し付けるように雪の胸の谷間を舐めると、雪は再び声を上げる。

 「ひ……あぁ…… だめよ、くすぐったいわ……」

 「うん、確かに甘いチョコレートだ。皿まで甘くなってきた」

 進が、チョコレートをさらに舌で押し広げるように舐めていくと、とうとう中のブランデーシロップもこぼれだした。
 チョコレートの茶色が琥珀色のシロップにまざり、白い肌に伝っていく。それを追いかけるように、進の舌が凹凸のある肌をなぞった。
 舌は巧みに、溶けたチョコレートを谷間からわざとふくらみへと追い、そしてその頂で舐め取るのだ。
 進は1つのチョコレートを舐め尽くすと、もう1つ同じ谷間にチョコレートを置き、再び同じ行為を繰り返した。そのたびに雪の体が大きく上下に揺れる。

 「こら…… 皿が動くなよ。チョコレートこぼれたらソファが汚れるぞ」

 進が再びニヤリと笑う。

 「あ……ん、いじわる…… はぁ……」

 夫の意地悪い、だが最高に快感の走る命令に、雪が眉をしかめた。しかし、進はまだまだ許してはくれない。

 「今夜はあま〜いチョコレートをたっぷりと食べさせてくれるんだろ? 奥さん……」

 チョコレートをからめた進の舌は、雪の胸からへそへと下りていく。さらに彼の手はへそからその下へと伸び、潤いを求めて彷徨い、そして見つけ出した。
 雪の体は、夫の刺激に反応してたっぷりと濡れていた。

 「ああっ……」

 「雪にも甘いチョコレートわけてあげないといけないよな」

 進はそう言うと、再び新しいチョコレートを口に含みそのまま雪の口に唇を寄せた。
 僅かに開いた赤い唇の中に、進の口中で溶けて混ざり合ったチョコレートとブランデーシロップが口移しで流れ込んでくる。それを舐め取るために互いに伸ばした舌と舌も絡み合って、淫靡な音を立てた。

 「甘いだろ?」

 「ええ……とっても……甘いわ。ああ、あなた……」

 雪の中で、何かがはじける。雪に両手でぎゅっと抱きしめられ、進の胸には甘い香りのする双丘が押し付けられた。進の舌が嘗め尽くしたぬめりが、ぬるりと彼の平らな胸をなぞると、進の体にも、限りなく心地よい快感が走った。

 「雪……」

 「ああ……進さんっ!」

 そして二人は、互いの体を強く抱きしめあい、それから深く交わりあった。

 あとは、二人して一気に絶頂へと駆け上っていくだけ…… それは情熱がほとばしる瞬間だった。



 1時間後、二人はそろってシャワールームに立っていた。

 「なかなか美味しいバレンタインチョコだったなぁ」

 「もう、あなたったらやぁねっ!」

 さっきまでの大胆な女性はどこへやら、恥ずかしさで少し顔をそむける妻を覗き込みながら、ニヤニヤする夫はとても幸せそうだ。

 「ふふん…… チョコレートもこういう食べ方をすると、なかなかいけるもんだって気がついたよ」

 「……ばか」

 文句を言いながらも、進を見上げる雪の視線は、しかし十分に色っぽかった。彼女自身まんざらでもなかったということだ。
 そして、次は妻の逆襲が始まる。

 「それじゃあ、ホワイトデーの時は、あなたにお皿になってもらいますからねっ♪」

 「おいおい、俺には何を乗せるつもりなんだ!?」

 「うふふ、内緒よ! 来月までのお楽しみっ!」

 一気に形勢逆転して嬉しそうにコロコロ笑い出した妻を見ながら、夫は一ヵ月後の脅威?について考え始めた。

 ――マシュマロ? ホワイトチョコ?? それとももっととんでもないものなんだろうか?

 その脅威、恐ろしくもあり……またそれ以上に楽しみでもある……

 こうして、幸せ新婚カップルのバレンタインの夜は更けていく。

 シャワールームを出てからの第2ラウンドは……皆さまのご想像のままに……

Fin

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(背景:Fairy tail)