〜Their happiest time〜 |
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イスカンダルから帰ってきてから3ヶ月余り、地球の復興のために全人類が必死になって働いている。
旧ヤマト乗組員達も、平和の時を噛締めていた。もう、二度と平和が乱される事がないようにと祈りながら……
この後の戦禍のことを思うと、この年のクリスマスは、彼らにとって一番幸せなひとときのだったかもしれない……
時は2200年12月、ところは土星タイタン基地。現在は、地球復興のために資源がいくらあっても足りない状況で、ここタイタン基地は地球からの輸送艦を中心とした艦船でごった返していた。
たまたま数日を前後して同時寄港となった3つの輸送船団には、ヤマトの旧乗組員達が揃って勤務していた。
第11輸送船団の輸送艦に太田健二郎、第13輸送船団の第2輸送艦に艦長として島大介、護衛艦の副長として南部康雄、そして、第15輸送船団の護衛艦に艦長として古代進、通信班長として相原義一が乗っている。ここタイタン基地で、第一艦橋の同期達が久々に勢ぞろいした。
その日地球に向けて出航する予定の島と南部が、タイタンでの最後の夕食をとろうと基地のレストランに行くと、ちょうどそこに、着いたばかりの進と相原が、既に滞在していた太田と共に、3人で食事を始めようとしていた。
「おいっ! 古代じゃないか! 相原も太田も一緒か!!」
島が嬉しそうに声をかけた。その声に、3人が振り返り、島達の姿を見つけて、驚いたように笑った。それぞれの航行スケジュールの違いですれ違いがちの彼らにとっては、2ヶ月ぶりの再会だった。
「おうっ! 島か……南部も! こっち来いよ」
進が手を振って自分達のテーブルに呼んだ。当然、呼ばれるまでもなく島と南部は3人の座っているテーブルに自分たちも席を取った。
「皆さん、お元気そうですね」
相原もうれしそうに声をかけた。太田は、口の中に食べ物が入っているようで、もごもごいいながら頭だけ下げる。その姿に島が大田の背中をドンとたたいた。
「相変わらずだなぁ、太田は! 慌てて食べなくったってなくならねぇぞ」
わははは……と皆がどっと沸いた。太田はごくんと食べ物を飲みこんでやっと口を開いた。
「し、島さん、ひどいなぁ…… たまたま物を口にほおばった時に島さんたちが来ただけでしょうがぁ!」
「あ、そうかぁ?」 島がとぼけた顔で答える。
「いや、いつ来たとしても太田の口の中は一杯だったと思うぞ」
進が耳打ちするような恰好で、だがみんなに聞こえるように島に囁いた。また、全員が爆笑する。
それから久々の仲間の集合に話が弾んだ。食事が進み、腹の方がだいぶん満足した頃、南部が尋ねた。
「ところで、みんな地球へはいつ戻るんですか? 僕らは今日もう出発して、火星基地に寄った後、1週間後の23日に帰着なんですがね」
きょろりを全員を見渡して、南部が答えを促す。まず、進が答えた。
「俺達は今日着いたばかりだからな、あさっての出発だ。地球へ直行だから帰着日は23日、お前達と同じだな」
太田も、食事を終えて、満足げにコーヒーをすすりながら答えた。
「僕は明日出発しますよ。僕らの船団は希少鉱物を各惑星から集めてまわってたんですが、最後に木星のガニメデに立ち寄ってから地球に帰るので、24日の早朝の予定だったなぁ」
「ってことは……みんな24日の夜、クリスマスイブは地球で過ごせるってことだよな?」
南部が日にちを考えながら言った。
「クリスマス……?それがどうした? 古代はまあ楽しみもあるだろうが、俺達は……なぁ」
島がつまらん、と言った顔で、太田を見た。
「な、なんで俺の顔を見るんですか!!」
ムッとして怒る大田に、島はくすくす笑いながら、「別に……」と答える。相原も太田に見えないようにくくっと笑った。そして、ちらりと進を見て意味深に呟く。
「ですよねぇ、古代さんはやっぱりクリスマスって言ったら、ねぇ。ああ、いいなぁ」
さっきの島の一言の時点で、顔色に変化が出ていた進は、相原の追い討ちで真っ赤な顔になった。
「な、な、なんで……俺が……」
傍目には、どうしてそんなに焦らなくてはならないのだろう?と思うほどだ。とにかく、進はそう言う話題に弱い。
「あれっ? 古代さん、クリスマスは雪さんと過ごすんでしょう?」
相原が何焦ってんの?といったとぼけた顔で進に尋ねる。それに幾分落ち着きを取り戻した進が答えた。
「そ、そりゃあ、まあな…… 俺は地球にいるから……」
「恋人同士で過ごすクリスマスは女の子の憧れですからねぇ。当然、レストランとかも予約してるんだよねぇ」
南部の眼鏡がきらりと光る。これくらいは男として当然、と言いたそうな口ぶりだったが、進の回答は予想に反したものだった。
「い、いやぁ、別に何も決めてない…… 雪も何も言ってなかったしなぁ……」
古代進、自慢じゃないが、こういうことには世界一、いや宇宙一疎い。雪がして欲しいといわない限り、気がつくわけがない。
もちろん、この進の言葉に一同は一斉にブーイングだ。
「ええええ〜〜!! そりゃあ、雪さんがかわいそうですよ!」 「そうだそうだ!」 「ああ、やっぱりこいつに惚れたのが間違いだったんだよ、雪は……」
4人から一斉に非難されて、進は一瞬体をひいてしまったが、ぐっと留まると、勝手な言い訳を始める。
「お前ら、勝手なこと言うな!! 23日には地球に帰るんだから、別にクリスマスに間に合わないわけじゃないだろうが…… レ、レストランだって逃げるわけじゃないし…… 雪が行きたいって言えば行けばいいんだ」
クリスマスのイブの過ごし方などと言うところに、自分の考えがまったく行っていなかったことを棚に上げ、進はいつもの口調で飛ばした。が、南部に、あっさりと切り捨てられた。
「ちっちっちっ! 古代さん、それは甘いっすね! クリスマスだよ、クリスマス!!」
「???」
古代進、また頭にクエスチョンを乗せている。
「お前、本当にわかってないのかぁ?」
「だから、何がだよ!」
呆れ顔の島の言葉を聞いても、進にはピンとこない。彼の辞書の中には、女性とクリスマスと過ごす時にどうすればいいか、などという内容は全く記載されていない。知らないのだから、ピンと来なくても当然である。
「あのなぁ、クリスマスって言うと、世間の恋人達はだな、みんなロマンチックな夜を過ごそうと、おしゃれなレストランとかホテルとかを予約するもんだ。それも1ヶ月、いやそれ以上前にな。それもこのご時世だ、まだまだ洒落たレストランなんかそう数もない。23日に帰ってからじゃ、どう考えたってそんなところ空いているわけないだろうが!」
島がこんな事も知らないのか!!と怒鳴りそうになるのを、必死に堪えて説明した。進の顔がだんだんと青くなっていく。
「げっ…… そ、そうなのか……」
「あ〜あ、雪はきっとお前がどっかいいところを予約して、デートに誘ってくれるのを楽しみに待ってるだろうなぁ〜」 脅しの島。
「そうそう…… 雪さん、恋人になって初めてのクリスマスだし、ワクワクしてるだろうなぁ」 正当派理論は太田。
「いや、もしかしたら、ホテルとか取ってあって『今夜は帰さないよ』な〜んて言われるかも、って期待してたりしてぇ〜」 すぐに飛躍するのは、当然南部。
「うわぁ……」 と、ただ驚いているのは相原だ。
「ば、ばかやろうっ…… そ、そんなこと……」
進の頭に突然、いろんな思考が飛びこんできた。クリスマスってそういうおいしいことまでできるのか!? 口では「そんなこと」と言いながら、頭の中には妄想が渦巻き始める。赤くなった顔が一瞬にやついた。
しかし、島がその時、その浮わついた気持ちをどん底に突き落とす一言を発する。
「ところが……だ。当日来てみれば、どこも予約してなくって、24日の夜はどの店も混雑している。結局どこにも入れず街の中をうろうろ、せっかくおしゃれしてきた雪はがっかり、いやいや、それどころか激怒して……」
「むむむ……」
古代進、浮かれている場合じゃないようだ。さらに追い討ちをかけるヤツもいる。
「『もうっ! 古代君なんか大っ嫌い!!』ってビンタくらっておしまい、ってなるかもねぇ……」
相原は、かわいい顔でしらっと恐い事を言う。
「うっ…… お、脅すなよ!」
「うんうん、有り得る!! ってぇことは、また俺達にもチャンスが生まれるってことですか?」
太田は、まだ雪を狙っていたのか……?
「ああ、そうっすね。それもいいなぁ。いい、いい!」 南部お前もか!?
「やっ、やめろぉ!!」
「うわっはっはっは…… マジになってるぅ……」 「あははは……」
十分に進を焦らせたと思ったところで、ゲーム終了。雪のことで進をからかうのはどうしてこんなに面白いのだろうと、彼らはつくづく思うのだった。
赤くなったり青くなったりした進は、やっと攻勢が終わって、ほっと一息。
「はぁ〜、お前らなぁ……」
「ま、俺達にチャンスってのは冗談にしても、古代さん、雪さんに『大嫌い』って言われないように、せいぜい頑張ってくださいよっ!」
南部がいささか口調を緩めて進を励ますと、進はまた、から元気を見せる。
「雪はなぁ! そんなことで喜んだり怒ったりするほどミーハーじゃないんだっ!! クリスマスの一つや二つ、どうってことないさ。俺と一緒ならどこでもいいって言ってくれる……はずだ」
語尾がだんだんと小さくなってしまったのは、ご愛嬌か? 自信満々の発言に、皆はニヤリと笑うのだった。
「そうそう、そうだよねぇ、古代く〜ん。ま、せいぜい頑張ってくれ」
島がからかい口調で笑った。
そして、南部が進に空威張りをさせておいてから、してやったりと出してきたのが……
「ま、古代さんとこは自身満々のご本人に任せて…… どうですか?俺達は、クリスマスパーティに出かけませんか? いいのがあるんっすよ。チケットが4枚……」
ふふんと笑いながら、ぴらぴらとチケットを胸ポケットから出して見せる。「南部君!君は勤務先にまでこんなものを持ってくるのか!」とヤボな事を言って怒鳴る上司はここにはいない。
「おおっ! ちょうどいいじゃないか!」 「行きます行きます!!」 「俺も! で、それって食事つきなんだろうな?」
いきなり盛り上がる島、相原、太田だった。太田は食事のチェックも忘れていないのがミソだ。進はすっかり蚊帳の外だ。完全に無視されている。
「フリーフード、フリードリンクだよ、太田。心配するな。でもって、このチケットはカップルで1枚なんだ。ってことは、女の子4人誘って行けるってわけなんだよぉ!」
「いいねぇ。で、あてはあるのか?」
「この前合コンした中央病院の江本さん……」
「ああ、あの元気な人……」
「うん、彼女を誘ったら二つ返事でさぁ。この前来てた人の中では、間宮先生と佐伯さんは24日は仕事でダメらしいんだけど、川合さんは大丈夫で、あと二人も誘ってくれるって言うんだよ。いいだろう?」
「うんうん!! オッケーだよ!」 「楽しみだなぁ……」 「俺、もうどきどきしてきた」
和気藹々に盛り上がり続ける4人の会話が、途切れる隙をやっと見つけて、進がおずおずと南部に申し出た。
「……なぁ、そのチケット、俺に一枚くれないか?」
なにせ、クリスマスの過ごし方によっては、恋愛の危機とまで言われた進は、さっきから一人どんよりと暗くなっている。えらそうな発言などしたが、もちろんそれは虚勢であって、心の中では不安だらけなのだ。
だが、南部の返事は冷たかった。
「ダメです!! これは、俺達4人分しかなんですからね。雪さんは、古代さんと一緒にいればどこだっていいんでしょう? 立ち食いそば屋だって何だって!!」
「うぐっ……」
南部のストレートな突っ込みにぐうの音もつけない進を、弁護するものは誰一人いなかった。我らがヒロインを自分一人のものにしたやつに、なんの同情がいようか、とでもいうところだろうか。
その後、パーティの話にさらに盛り上がる4人と、急に地球へ帰還するのが憂鬱になった進とは対照的な雰囲気のまま、食事が終了した。
時計を見ながら、出発時間が近づいた島と南部が先に立ちあがった。
「じゃあ、俺達はいくわ。太田、相原。24日は、司令本部前の広場で6時だぞ、いいな。車で迎えに行くからな」
「おうっ!」 「おっけー!」
南部が立ち去り際に言い、太田と相原が片手でOKサインを返した。
「古代も、楽し〜〜〜いクリスマス過ごせよぉ!!」
最後まで、進をからかいつづける島であった。
「うるさいっ! 早く行けっ!」
進の怒鳴り声を背に受け、島と南部は笑いをこらえ肩を振るわせながらレストランを後にした。
廊下を歩く二人の会話。
「ほんっと大丈夫かなぁ、古代…… いじわる言わないでチケットやればよかったかなぁ。あと1枚くらいどうでもなるんだけど」
「なぁに言ってる。あいつは、あれくらい脅してやってちょうどいいんだ。まぁ、雪のことだから、あいつに過大な期待はしてないだろうって。喧嘩にはならんさ。せいぜい、雪にため息をつかれるくらいさ」
「あっはっは…… そっかぁ、確かに言えてますね」
なんだかんだと言いながら、二人のことを心配したり、よく理解したりしているお二人さんであった。
1週間後の彼らのクリスマスが楽しくありますようにと祈るばかりだ。
(背景イラスト素材:coolmoon,moonlit,Queen's free World)