X'mas in 2200〜Their happiest time〜


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 進たちが宇宙でクリスマス論議に盛りあがっている頃、雪は地球の連邦中央病院で、その日の仕事を終え帰り仕度をしていた。
 そこに、外科病棟勤務の雪の友人、佐伯綾乃が駆け込んできた。

 「あ〜ん……ゆきぃ! 聞いてよぉ!!」

 「どうしたの? 綾乃」

 いきなり更衣室に飛び込んできたと思うと、いきなり情けない顔になる綾乃に、雪は首を傾げながら尋ねた。

 「だって…… 今年のクリスマスイブ準夜勤なのよぉ!」

 ごくんと息を呑んでから言った言葉がこれだった。準夜勤、つまり夜中の12時までは病院で仕事と言うわけである。
 どんな大変な事があったのかと思っていたら、こんなことかと、雪はあきれて苦笑してから、一応お義理に同情を示した。

 「あら、それは残念ね」

 「それだけぇ? もうっ!ひとごとなんだからぁ…… あなたはいいわよ。佐渡先生付きで、先生は普通は昼間だけだもの。泊まりも準夜もないんだから……」

 雪の反応がイマイチなので、綾乃は面白くない。だが、すねた顔をしていてもかわいいのが、彼女のいいところだ。

 「その代わり、佐渡先生のいない休日も出勤してるじゃない」

 「だってそれは古代さんが帰ってきたら休みが欲しいからでしょう? わかってるんだからぁ」

 今度は綾乃がニヤリ。雪は、人手が足りない時にいつも手を挙げて休日出勤をしている。その分、進の帰還時に休暇を取りやすくなるのだ。

 「あら、ばれてた。うふふ…… でも、綾乃、クリスマスイブに誰かと約束でもしようと思ってたの? さては彼氏でもできたなぁ……」

 綾乃に突っ込まれた雪は、今度はし返しだとばかり、綾乃の鼻をちょんと人差し指で突っついた。

 「違うわよっ。できたらすぐに雪に自慢してるわよ!」

 「あら? じゃあどうしたの?」

 「それがねぇ、絵梨から話が来たんだけど、南部さんからクリスマスパーティに誘われたんですって、チケットが4枚あるから誰か誘ってこないかって…… 南部さんが島さんも誘うからって言ってたって言うのよ!! ああ、私……行けないなんてめちゃくちゃ悔しい!!」

 そう言えば……と雪は思い立った。あの合コンで、綾乃は島の事が気にいったと言っていた。しかし、その後話題に出てこなかったので、そうでもなかったのかと思っていたら、やっぱり密かに思っていたらしい。

 「じゃあ、準夜終わってから行ったらもうだめ?」

 「当たり前でしょう! 12時も過ぎてからなんてパーティもすっかりお開きに決まってるじゃない!!」

 「それもそうね…… じゃあ、私代わってあげましょうか?」

 あっさりとそう言い放つ雪に、綾乃は驚いた。恋人のいる雪の発言とは思えなかった。

 「えっ!? でも……古代さんは?」

 「ええ、ちょうど帰ってきてるけど、彼クリスマスなんて覚えてるかどうかもあやしいもの。予定はないし、私別にいいわよ」

 雪は、進の性格を考えると、彼がクリスマスにどんなイベントがあるのかなど、とても考えが及んでいるとは思えなかった。どうせ、『街は賑やかなんだなぁ』くらいの反応が関の山だろう。雪自身は心積もりはしていたが、綾乃がどうしてもと言うなら代わってあげてもいいかな、と思う。

 「帰ってきてるんならだめよ。そんなことしたら、私が古代さんに恨まれちゃう! 予定はないって……そんな、何かあるでしょう?」

 綾乃の感覚からすると、恋人同士がクリスマスに一緒にいてデートもしないなどとは考えられない。

 「さあ……ね」

 雪が人差し指をちょんと自分のあごの舌につけて、再び首を傾げた。

 「さあって…… どこか素敵なレストランへでも連れて行ってくれるんじゃないの?」

 「どうかしらねぇ。だって、古代君そう言うことには疎いから……」

 「えっ!? そうなの!!」

 綾乃の声のトーンが上がった。見た目の感じからすれば、ハンサムな好青年の進だ。話をしても好感が持て、綾乃としては、すぐに雪の恋人として合格点だった。だからそんな素敵な恋人を見つけた雪を羨ましく思っていたのだ。
 そんな彼だから、クリスマスのことくらいちゃんと考えているに違いないと思っていただけに、雪の答えは意外だった。

 「ええ、レストランとかって、たぶん予約がないと当日に行っても空いてないでしょう?」

 「ええ、それは当然でしょう」

 「彼が予約なんか思いつくはずないもの」

 あっさりとそう言う雪に、進の実態を初めて知った気がする綾乃だった。普通ならそんな男!と怒るところだが、当の本人がしらっとしてるのだから、他人がどうこう言うもんでもないのだろう。綾乃が文句を言う筋合いでもあるまい。

 「じゃあ、どうするの? ほんとに何もしないの? それとも、雪が予約してあげるの?」

 「うん、一応……考えてる事はあるんだけれど……予約って言うか……」

 「へぇ、どこどこ? 雰囲気はいいところなの?」

 「えっ? ん、あのね……」

 雪は誰もいない部屋なのに、恥ずかしそうにもじっとすると、わざわざ耳打ちをした。やはり雪なりにクリスマスのことは考えていたようだ。
 な〜んだ、やっぱり最初から準夜を交代するつもりなんかなかったくせに……と思いながら、綾乃はにこりと笑った。

 「ふう〜ん、そういうことぉ。っていうことはぁ……うふふ。いよいよ、進展があるのかなぁ?」

 綾乃が意味深な笑みを浮かべる。

 「えっ!? やだわっ、綾乃ったらぁ…… 私達まだ19よ」

 綾乃の指摘に、雪の顔はあっという間に真っ赤になった。綾乃の背を思いっきり叩いて照れる雪は、まだ……などと言いながらまんざらでもない顔で嬉しそうに笑った。
 すっかり惚気られた感じの綾乃だが、人の恋愛話を聞くのも、女の子にとっては結構楽しい。また、根掘り葉掘り聞きだそうと次の質問をぶつけた。

 「それで、クリスマスプレゼントは何にするの?」

 「うん……それがね……」

 雪は、また少し言いにくそうにした。が、答えを促すべく、綾乃がさらに迫る。

 「なによ、勿体つけないでって!」

 「ん……セーター……を……ね」

 やっと恥ずかしそうに、雪がつぶやいた。恋人同士の定番プレゼントに、綾乃の声が弾んだ。

 「編んだの!?」

 「ん…… でも、すごく目が不ぞろいで……」

 「そんな事いいわよ。彼女の手作りっていうのが一番うれしいんだから! 頑張ったわねっ!雪」

 綾乃に誉められて雪は嬉しそうだ。

 「えへへ…… でも実は、まだ完成してないの。すごく時間が掛かって…… ママに手伝ってもらったら、そこだけきれいに編みすぎちゃって、かえって変で、またほどいちゃったし……」

 「あははは…… 雪って不思議なくらい家庭科系苦手だもんね。でも、頑張って完成させてね。あと1週間よ。あ〜あ、結局私は、淋しく病院でケーキでも食べてるしかないわね」

 「ごめんね、私だけ…… そのうち、また古代君に頼んでおくわ。島君誘ってご飯でも食べに行こうって、ね」

 「ええ、期待しないで待ってるわ」

 「もうっ! ほんとよ!! 私だって綾乃のこと考えてるんだからぁ」

 「はいはいっ! 古代さんの次でけっこうよ!」

 またまた綾乃にからかわれて、頬を染める雪。ここにも、彼との初めてのクリスマスを楽しみにしている娘がいた。

 さてさて、1週間後にはどんなクリスマスが待っているのやら? あんまり期待すると、がっかりするかも……よ! ねっ、雪ちゃん♪

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