(BGM:We wish you a merry Christmas)
秋も深まり、まもなく冬がやってくるという11月の末のある日のこと。古代家は、一家の主人の休暇中と言うことで、子供達も保育園を自主休園。にぎやかな昼下がりだった。
古代家の子供達は、3人。長男の守は、5歳。次男の航は3歳。そして去年産まれた末っ子の愛も、1歳の誕生日を過ぎた。3人が3人とも、いたずら盛りだ。
父親の古代進は、宇宙戦艦の艦長としての任にあたっている。そのため地球にいる時間は少ない。だから、いつもパパの争奪戦は大変だったりする。最近は愛も参加するようになって、3人が……いや、古代家の場合、もう一人強力なメンバーが入り、4人でパパを取り合うのだ。
強力メンバーとは? もちろん、ママである。パパがいないときは、ママを争う子供達も―といっても、ここ1年は愛が独占状態だったが―パパが帰ってくるなり、ママはライバルとなる。
今日も、午前中はさすがに子供達に譲ったママであったが、昼食後は、子供達には「昼寝をしなさい!」と言う殺し文句で攻撃してきた。これには子供達も弱い。さっき、すごすごと子供部屋に戻っていったところだった。
二人はやっと一息ついて、お茶を飲みながら、テレビの画面を眺めていた。とりとめもない会話をする。留守中の出来事が中心になる。だから、話すのはもっぱら雪の仕事だ。
テレビがクリスマス特集を始めた。クリスマスの夜の過ごし方をいろいろと紹介している。
「いいわねぇ、クリスマス…… もう来月だものね。今年も地球にいるのよね、あなた」
「ああ、今年は、クリスマスから年末年始に久々に長期休暇が取れたからな」
「うれしいわ」
「俺も……」
誰も見ていないのをいいことに、二人は見つめ合うと、ちょんと唇をつつき合った。それで終ると思えば、結局今度は本格的にくちづけを始める始末。
ちなみに、これは日常茶飯事の事である。たまに子供達に発見されては、自分たちにもと、キスをせがまれるパパとママなのだ。
古代家の子供達は、一応日本の文化で育っているのだが、キスは日常の挨拶だと思い込んでいるフシがある。将来が少し心配になるのは、余計なお世話だろうか?
テレビのクリスマス特集が、恋人たちのクリスマス編になった。豪華なホテルのディナーとそのホテルのスイートルームを紹介している。雪がうっとりと見つめている。
「いいわねぇ、ホテルのディナー……それから、素敵なお部屋で一晩過ごす…… ああ、憧れるわぁ」
「なぁに今更言ってるんだか……」
進は苦笑する。が、雪はムキになって抗議した。
「あらぁ、だって私一度も連れて行ってもらっていないわ、ホテルのディナー。パパ達だって恋人時代にも新婚時代にも行ったって言ってたじゃなぁい!」
「その代わり、結婚記念日とかにつれていってやったことあるじゃないか」
進もこれでもちゃんとやってるぞ、と言わんばかりだ。しかし、妻の都合は勝手である。
「それとこれとは違うわ。クリスマスは行ってないの!」
「結婚する前のクリスマスあっただろう? あの時、行きたかったら言えばよかったじゃないか。家で二人で食事する方がいいって言うから……」
「あの時は…… 二人きりでいたかったのよ」
ああ言えばこう言う。何を言っても言い返されて、進は閉口ぎみになる。
「勝手だなぁ……」
しかし、夫のため息など全く気になっていない。雪はまたテレビ画面を見ながら目がとろんとしている。
「でも、行ってみたいわぁ、素敵よ、あのホテルも……ああ、いいわねぇ」
「あ・の・なぁ…… クリスマスって言ったら、子供たちだって楽しみにしてるんだぞ。あいつら3人抱えてホテルでディナーもないだろうが! 10分だってじっとしてないぞ」
これで決まった!と、進はばしりと言い放った。それでも雪はもじもじと言い訳する。
「……それはそうだけど…… その時だけは特別に、おばあちゃんに頼んで……」
「そこまでして行きたいかねぇ」
「んっ、もうっ!」
どうしても夫にウンと言ってもらえず、最後は得意のスネポーズになる。
「そうすねるなよ、俺は家でも別にいいぞ。子供たちが寝てからゆっくりするじゃないか、な。目一杯サービスしてやるから……」
と言いながら、妻の首筋に唇を這わせたりする。「うふん」と喉を鳴らして、雪の機嫌がちょっぴり直った。
その時、テレビでプレゼントの案内が始まった。今年のクリスマスをホテルで過ごそうというものだ。都心のホテルのディナーと宿泊券が当たるという。
昼間っから、夫が妻を押し倒しそうになっている古代家であったが、その放送が入るなり、妻はいきなり立ちあがった。
夫は、ソファーに空振りと相成った。
「お、おいっ!こらっ! 急に立ち上がるなよ!」
叫ぶ夫の声など聞こえないかのように、妻はテレビを録画モードに切り替え、プレゼントの募集要項をゲットしてご機嫌だ。
「さあ、応募しないと…… えっとぉ、テレビメガロポリスのホームページにアクセス……と」
いそいそとパソコンに向う妻を、夫は呆然と見つめていた。応募が完了すると、雪はくるりと振りかえってにっこりとした。
「もし当選したら、連れて行ってね」
あきれたもんだ、もう当たった気になってやがる……そんな気持ちが進の顔に明らかに出ていた。もちろん、当たる筈などないとタカをくくっている。
「わかったよ。当たったらな」
安易に返事したのが、運の尽きだった……
「本当に信じられないなぁ……」
「あらぁ、約束は約束よ。おじいちゃんとおばあちゃんには、もう子供達のこと頼んだし…… ご馳走はおばあちゃんが作ってくれるっていうし、サンタさんからは少し早めにプレゼントを貰うことにしているから、子供達は新しいおもちゃで遊んでいる内に眠くなっちゃうわよ!」
「そう言うことは、用意周到だな」
「当然でしょう!」
自慢げに話す妻と、まさかこんな事態になろうとは、と困惑を隠せない夫が会話しているのは、テレビ電話を通じてだった。
先月の末に、雪が勇んで応募したクリスマスディナーとホテルの宿泊券がまさかまさかの大当たり。雪は喜び勇んで、冥王星基地に停留中の夫に私用電話なのだ。
当たれば連れて行ってやるといった手前、いやだとはいえない。進は、仕方ないなと肩からため息をつくのだった。
(子供たちの事、ちょっと心配だけどなぁ。愛は寂しがらないかなぁ)
末っ子の愛はかわいい盛り。それにたった一人の女の子とあって、進にとっては目に入れても痛くないほどかわいい。
妻とのデートも嫌ではないが、堅苦しそうなディナーが苦手なのと、子供たちの事が少し心配になる進であった。
クリスマスイブの当日。ばたばたと支度をする両親を、子供達が不安そうな顔で見ていた。
進の支度は、当然ながらあっという間に済んでしまう。寝室から出てきた父は、いつもの制服ではなく、グレーのスーツ姿だ。珍しい姿の父親に、子供達はわぁっと声をあげて近づいて来た。
「パパかっこいい!!」
守が嬉しそうに進に飛びついた。進は、守の口や手が汚れていないのを確認しながら、抱き上げた。
「守、パパとママはお仕事だからな。もうすぐおじいちゃんとおばあちゃんが来てくれるから。二人の言うことをよく聞いて賢く寝るんだぞ」
「うん…… パパとママはどこへ行くの?」
「ちょっとパーティなんだ。でも大人ばっかりしか来ていないんだよ。子供はいけないんだ」
「……うん……」
ちょっとつまらなそうだが、そこはもうお兄ちゃんだ。なんとか我慢している。が、航の方はそうもいかないらしい。
「パパァ、僕も行きたい」
今度は、航を抱き上げると再び説得を始めた。
「航は今日は駄目なんだよ。待ってなさい」
「でもぉ……」
進は、航を降ろして両肩に手を乗せて、顔のまん前でゆっくりと言って聞かせた。
「今日は、サンタさんがお願いしたプレゼントを持ってきてくれる日なんだぞ。いい子にしていないと、サンタさんが来てくれないぞ」
半べそ状態で、それでもなんとかコクンと頷いた。ほっと一息である。
かえって愛の方が平気な顔で遊んでいる。まだよくわかっていないのだろう。その愛は、最近言葉も増えてきた。
「パァパ……」
ヨチヨチと歩いてきて、進に抱きついた。
「愛はいい子だな。今日はおばあちゃんとねんねするんだぞ」
「ばぁば?」
そう言ってにっこりと笑う。子供達は、雪が仕事の行き帰りに森家に預けて、そこから保育園に通っている。だから、ママよりおばあちゃんといる時間の方が、長い日もよくあるのだ。愛を始め、お兄ちゃん達もずっとそんな生活をしているから、おばあちゃんにすっかりなついていた。
「ああ、ばぁばがもうすぐ来てくれるんだよ。サンタさんも今日はおもちゃを持ってきてくれるからな」
進の話がわかるのかわからないのか、愛はもう一度にっこり笑って、またよちよちと離れて行った。
その時、カチャリと寝室のドアが開く音がして、雪が出てきた。子供達は再び歓声を上げた。
「ママァ! 素敵だよ!! 綺麗だぁ!」
「ママかわいい!!」
守と航が雪に駆け寄った。守は最近本当に表現が豊富になった。保育園やテレビで覚えるのだろうか、大人が使うような難しい言葉も、時折織り交ぜるようになっている。少しませガキである。
「ありがとう。守、航」
髪をアップにし、体にフィットした光沢のある濃紺のイブニングドレスを着た雪は、女神のように美しかった。
「ほぉ……」
愛を抱いたまま、進が感嘆の眼差しで近づいてきた。
「ど〜お? あなた」
雪はしゃなりとしなを作って様子をしてみせた。
「うまく化けたな」
これでも、進にとっては最高の賞賛の言葉だ。が、もちろん雪は不満である。
「んっ、もうっ! なあにそれ。ひどいわ。でも、この服、久しぶりに着たんだけど…… 前に着たのは、愛ができる前だから、もう2年くらい経つかしら? 胸のあたりが少しきつくなったような気がするんだけどぉ」
進は、「太ったのか?」と言うなり「あっいてっ!」 雪に頭をバチンと叩かれてしまった。
「胸だけよ……ム・ネッ!!」
「あっそう、それは失礼! ってことは俺のおかげか?」
「ばかっ、違うわよ。子供達のおかげよ、きっと……」
雪は夫のいたずら言葉にくすくす笑った。愛がまねをして言う。
「む……ね?」
「うふふ、そう、おっぱいよ、愛。愛ちゃんにちゅくちゅくしてもらって、ママのおっぱい大きくなっちゃったみたいよ」
「おっぱい、おっぱい!!」
愛は嬉しそうにそう繰り返した。
「こら、愛。もうお前はおっぱいは卒業したんだぞ。だから、ママのおっぱいはもうパパだけのもんだからな」
「もうっ、あなたっ!!」
「わからないって……」
「おっぱいがどうしたの?」
守が両親の話を聞きつけてやってきた。この頃、親の話に口を挟むことが多い。慌てて二人は言葉を濁した。
「なんでもないのよ、ね、パパ」 「ああ、なんでもない……なんでもないぞ!!」
「なんだか、あやしい……」
と、守がまだ問い質そうとした時、玄関のベルが鳴って、子供達の大好きなおばあちゃんとおじいちゃんがやってきた。
雪は、進にエスコートされて東京インペリアルホテルメインダイニングレストランに入った。入り口からみると、一番奥になる窓際が今日の二人の席だった。最高の席が用意されていた。
既に大勢のカップルが席について食事を楽しんでいる。大きな窓からは東京メガロポリスの夜景が一望できた。海に向って広がる大都市は、きらびやかに光り輝いていた。
室内はクリスマス装飾がされていた。入ってすぐのところに、大きなクリスマスツリーが輝き、それぞれのテーブルには、ヒイラギの葉を飾ったろうそくが立てられて、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
BGMは、静かなクリスマス音楽がメドレーで流れ続けていた。
二人の歩く衣擦れの音に気付いた他の客達が、チラりとその姿を見る。そしてその都度、ため息のような声をあげる。
進がいつもとても得意になる瞬間だ。若い頃は、この妻への賞賛の眼差しを、苛立ちを持って受け取ったものだったが、最近は余裕も出来てきたのが、鼻高々の気分になるのだ。
彼女は僕の妻だ。僕だけの女なのだ、とその一人一人に告げたい気持ちになる。
席に着くとさっそく妻にその事を報告した。
「今日も注目の的だったなぁ、雪は」
「うふふ…… ありがとう。でも、彼方と一緒に歩いているからよ、きっと。今日のあなたもとっても素敵よ」
「ばか言え……」
妻の熱い視線を浴びて、進ははにかんだ。しかし、雪の言うことにも一理ある。進と並んでこそ、雪が一番美しく映えるのだから。
注文を済ませ、食前酒で乾杯すると、しばらくして料理が運ばれてきた。オードブルは生ハムのサラダ。凍った生ハムをうすくスライスしてあっさりとしたドレッシングを軽くかけてある。
雪が1つフォークで突き刺して口に運んだ。
「美味しいわ。さすが東京でも一、ニを争う高級レストランよねぇ。そういえば、航がね、こんな生ハムが好きなのよ。まだ3歳のくせに贅沢でしょう? あの子、大きくなったら結構味にうるさかったりしてね。こんなに美味しい生ハム、航が食べたら喜ぶでしょうね」
「包んでもらって持って帰るかい?」
「もうっ! できることを言ってちょうだい」
少しずつのインターバルをおいて、次々と料理が運ばれてきた。料理の間には、窓から外を眺めて、あの建物は何の施設だと言っては楽しんでいた。
ところが、最初は夢見心地で幸せそうな顔をしていた雪の顔が、料理が進むにつれて少しずつ変化していった。
メインディッシュのステーキが出てくると、
「お肉は守が好きなのよね…… 守、こんなお肉食べたら喜ぶでしょうねぇ」
とため息。
「今は、子供の事は忘れてクリスマスイブのディナーを楽しむんだろう?」
進に言われて、力なく「そうなんだけど……」と頷く。
そして最後のデザートは、アイスクリームと果物の盛り合わせ。
「愛がね…… この前初めてアイスクリームを食べさせてもらって、こんな美味しいものあったのかっていう顔して……大喜びしたのよ……」
言葉も途切れがち…… そしてとうとう、目が潤んできた。
「雪……? どうしたんだい?」
「私…… やっぱり帰りたい……」
「えっ? 今日はここに泊まるんだろう? 久しぶりに恋人気分で二人きりで過ごすんじゃなかったのかい?」
進が雪の顔を覗き込んだ。潤みがちな妻の瞳を、なぜか夫は面白そうに眺めている。
「だって……だって…… 私って、やっぱり悪い母親なんだわ。せっかくの家族みんなで過ごせるクリスマスイブなのに…… 子供たちをほおっておいて、あなたを独占してしまって……」
「雪……」
「子供達に会いたい…… 私、やっぱり帰るわ!」
立ち上がって歩き出そうとする雪を、進もすぐに立って追いかけた。雪の肩を軽く抑えて囁いた。
「わかったよ、行こう」
「ごめんなさい…… 私が来たいって言ったのに……」
雪は今にも涙がこぼれそうな瞳で、進を見つめた。そんな妻に向って進は優しく微笑んだ。
「いいから…… 行こう」
雪は黙って頷いた。この場で泣き出すのも恥ずかしいと思った雪は、必死で涙を堪えた。レジで飲み物代の会計をする時も、レジ係から見えないように、進の影にそっと顔を隠すのだった。
進と雪は、レストランを出ると、チェックインした部屋の方へと歩いて行った。食事の前に立ち寄って荷物を置いてあった。帰るにしても取りに行かなければならない。
部屋があるのは、ホテルの50階。スイートルームではないが、ダブルのそれは美しい部屋だった。しかし今の雪には、その部屋の魅力も効きそうになかった。
進は雪の肩をそっと抱いて歩いた。雪はさっきまで我慢していた涙をぽろぽろとこぼしていた。
ルームナンバー5101。ここが二人の部屋だ。ところが、進はそこで足を止めなかった。
「進さん? どこへ行くの? 私達の部屋はここよ」
「いいから、おいで」
進は、雪の肩をぐっと引っ張り寄せて半ば強制的に、もう十数メートル歩いた。そして止まったところは、5105室の前だった。
「なんなの? 進さん?? ここは違うって……」
という雪の非難の声も聞こえないかのように、進は部屋のドアベルを押した。プルルル……という音が微かに聞こえて、「はい」と女性の返事する声がした。進が外から声をかけた。
「進です」
その言葉を確認したように、かちりと音がしてドアが開いた。そこに立っていたのは、雪の母、森美里だった。
美里は、二人の姿を見るとにこりと微笑んだ。
「やっぱり来ちゃったのね」
「え? どういうこと?」
わけのわからない雪が夫と母の両方を交互に見ながら尋ねた。その声が中に聞こえたのだろう。中から3人の子供が駆けて来た。
「パパッ、ママッ!!」
口々にそう叫んで、そして3人が思い思いに二人に飛びついた。まずは、守と航が、そして愛は少し遅れがちによちよちとやっと到達する。雪は3人に涙声で話しかけている。
「ごめんねぇ、寂しかった? クリスマスなのに……ごめんね」
そして部屋に入るようにと、美里に促され、愛は母に、守と航は父に抱き上げられて部屋に戻った。そこには子供達の祖父の森晃司も座っていた。
「パパ……も?」
雪はやっと気持ちが収まってきたたようで、この状況を尋ねる余裕が出来てきた。
「どういうこと?」
「進さんがね、この部屋をとってくれてたのよ。雪はあんなこと言っているけど、途中で寂しくなるかもしれない。だから、みんなでここに来て泊まろうって……ね、進さん!」
美里に説明されて、進は照れくさそうに笑った。
「あなた……」
「私はあなたがクリスマスのディナーが当たってからあんなに楽しみにしていたし、子供達を預けるのも初めてのことじゃないし、そんなことないって言ったんだけどね。クリスマスは特別だからって……
でも、ほんと素敵なクリスマスをさせてもらったわ。ルームサービスで美味しい料理をたくさん食べて、子供達には、本物のサンタさんが来てくれてプレゼントをくれたのよ! もう、だから子供達も寂しがってる暇なんかなかったわよ。はしゃいではしゃいで…… もう寝る時間だって言うのに、まだ寝ないでいたのよ」
美里がさも楽しかったと言わんばかりに、子供達の話を聞かせてくれる。雪はその話に心底安心した。
「まあ…… よかったわね、みんな。サンタさんが来てくれたの?」
「うん!! 本物のサンタさんに初めて会ったよ!! 僕の欲しかったプレゼントをちゃんと持ってきてくれて、いい子にしてたからって他にも貰ったんだよ!!」
守が得意げにその貰った物を持ってきて、雪と進に見せた。
「よかったな、守」
進が守の頭をごしごしとなぜると、守は得意そうに笑顔で頷いた。
「うん!!」
「僕もこれ!!」
航も負けじとおもちゃを見せびらかしに来た。
「進さん…… ありがとう…… 本当に……ありがとう」
雪が夫に心から感謝の言葉を伝える。進は穏やかな視線で妻を見て、ちょっと得意そうに笑った。
「僕も随分奥さんの気持ちがわかるようになっただろう?」
「ええ、ええ……」
「ふふふ…… あなた達はいつまでも新婚気分が消えないと心配してたけど…… やっぱりちゃんとお父さん、お母さんになってるのね」
美里はそんな二人を誇らしげに見る。
「ママったら……」
「さあ、パパとママが来たし、もう子供達は寝る時間よ」
美里の号令に3人は「は〜い」ととてもいい返事をして、さっそくベッドに入った。
そして、雪が添い寝でもしようかと近づいた時には、もう既にみな夢の中だった。
「あら? もう寝ちゃったの? すごい速攻!! 10秒もかからなかったんじゃない? うふふふ……」
「あんなにはしゃいで遊んで、疲れてたんだろう。パパとママが来てすっかり安心したんだよ」
晃司が、眠った子供達を愛しそうに見ながら微笑んだ。美里も、うーんと背伸びを一つした。
「さ、子供達も寝たし、私達も寝るとするわ。ああ、あなた達のベッドはここにはないわよ。ちゃんと自分たちの部屋に戻って寝てちょうだいね」
「えっ!?」
「あはは…… 追い出されちゃったな、奥様。行きますか? 子供達はもう朝まで起きなさそうだし……」
「あ……」
雪はもう一度母の顔を見、父の顔を見、夫の顔を見た。3人が笑顔で頷いている。そして、雪も頷いた。
「ええ…… じゃあ、おやすみなさい。パパ、ママ、子供たちの事お願いします」
「ゆっくり楽しんでいらっしゃい。夜はまだ長いわよ。恋人時代に戻ってね。あっ、あなた達にこんな忠告は無用だったかしら?」
美里がおかしそうにウインクをした。
「ママったら……」
「じゃあ、行こう」
進がまた雪の肩をそっと抱いた。雪も穏やかな微笑を彼に返して、二人は部屋を出ていった。
廊下に出ると、進が尋ねた。
「これからどうする? まだ時間も早いし、最上階のスカイラウンジにでも行ってみる?」
「ううん、もう……お部屋に帰りたい。お部屋で少し飲みたいな」
「かしこまりました、奥様」
「うふふ……もうっ!」
雪が声を出して笑い、進の腕に自分の両腕を絡ませた。
再び、十数メートル歩いて、5101室に戻り、ロックを開けて部屋に入った。雪は窓辺まで歩いて行って外を眺める。
「あっ……雪……」
雪の声の通り、外にはちらちらと雪が降り始めていた。数年振りのホワイトクリスマスになりそうだ。ワインの栓を抜いていた進が、2つのグラスについで持ってきて、1つを雪に渡した。
「本当だな…… 雪もなかなか今の時期降らないからなぁ」
軽くカチンとグラスを合わせて乾杯してから、二人はワインを一飲みした。冷えた白ワインが喉を通り、爽やかな感触が喉もとを通りすぎていく。
二人は飲み干したグラスを、テーブルに戻した。
「もう一杯飲む?」
「ううん、もういいわ…… それより……」
雪はうっとりとした目で、進を見上げた。そして、体ごと進に持たせかかった。
「抱いて……」
「雪……」
進はその場で、雪を強く抱きしめると、激しくその唇を奪った。むさぼるような熱いくちづけを繰り返しながら、二人は互いの体をなぞり続けた。
そして、進の手が雪のドレスのファスナーに伸び、一気に引き降ろした。
「あ…… こんなところで……」
二人は窓際に立ったままだ。
「外から見える……わ」
「この高さで……?」
進が笑う。確かに周りにはこのホテル並の高さのビルはない。足元低く、隣りのビルの屋上が見えているだけだ。
「でも……」
躊躇する雪は困った顔をする。しかし、雪の主張は完全に無視された。そのまま雪のドレスは衣擦れの音と共に足元に落ち、ランジェリーもするすると取りさらわれてしまう。
立ったままで進は雪の体を上から順に愛していく。膨らみもくぼみもすべて……丁寧に……優しく……そして激しく……
そして……そのまま雪は窓に手をついたまま、後ろから進の愛を受け入れた。
「ああっ……」
感極まった声と共に、二人は至福の時を刻んでいた。
その夜遅く、二人は広いダブルベッドの真中でぴったりと寄り添っていた。
「あなた…… 今夜は本当にありがとう。私のわがままを聞いてくれただけじゃなくて…… 子供達のことも…… 私、本当にうれしかったわ」
「実は、僕だってこの夜のことは楽しみにしていたんだよ。ロマンチックな夜は、雪は……燃えるからね」
進がニヤリと笑って、雪の顔をまじまじと見つめた。
「さっきもあんなに大胆だったろう?」
雪の顔が紅に染まる。
「もうっ……」
「あっはは……けど、半信半疑だったんだけどね。雪がこのまま恋人気分を満喫してくれてもいい、と思っていたし。
でも、もし、急に子供達が恋しくなったら…… せっかくの夜が台無しになっても困ると思ってね。子供達にも楽しい思いさせてやりたかったし…… たまには、いいだろう? あいつらにも贅沢させても……」
「うふふ、まあね。ほんと、幸せな子供達だわ。でも、やっぱり……一番幸せなのは、もちろん……わたし……ね」
雪が白い素肌を再度夫の厚い胸板に擦り寄せた。進は満足そうにその感触を楽しんでから、そっと囁いた。
「雪…… 愛してる。夜は長いんだから……」
耳元で囁く声は、言葉とそしてその吐息が雪の五感をくすぐった。
「あ、あんっ…… んふ…… でも、ン年前みたいに若くないのよ、あなたも…… 無理しない方がいいわよ」
「こいつ、言ったな!」
減らず口の妻の言葉に、夫がさらに奮起した事は誰もが想像する通りである。
その後、二人がどんな風に過ごしたのかは、皆様のご想像にお任せする事にして……
皆様も、恋人と二人で……? 家族みんなで……? それとも友達と賑やかに……? それとも……ひとり静かに……?
We wish you a merry Chirstmas!!
おわり
(背景・イラスト:Secret Moon)