Happy Birthday Dear YUKI (宇宙戦艦ヤマト全シリーズより)
《1》 19years in 2200 (宇宙戦艦ヤマトより)
2200年9月9日、ヤマトは3日前に地球に帰還してそのまま、地上の放射能除去のために世界中を回っていた。今日は、雪の19歳の誕生日。
「雪サン、雪サン!」 医務室で、待機している雪にアナライザーが声をかけた。
「あら、どうしたの? アナライザー」
「コレヲ ドウゾ。オ誕生日オメデトウゴザイマス♪」
そう言って、差し出したのは、一輪の赤いバラだった。
「まあ、きれい! ありがとう。でも、どうしたの?」
「真田サンニ 作ッテモライマシタ。本当ノ花ミタイニ 美シイデショウ? 香リモ ツイテイマス。」
「まあまあ、真田さんは忙しいって言うのに……」
「イエ、ズット前ニ頼ンデ作ッテモラッテアッタノデス! アナタノ誕生日ノタメニ……」
「そうなの? 本当にどうもありがとう。アナライザーっていつもよく気がついてくれるわね。うれしいわ」
雪はアナライザーにお礼のキスをした。大喜びで出ていくアナライザーを見ながら、雪は思った。
(古代君はきっと私の誕生日も知らないんだろうなぁ…… おめでとうの言葉だけでも欲しかったけど…… そんなこと考えてる余裕もないかしら、艦長代理だものね)
ついこの前、お互いの気持ちを確かめあったばかりの進の事を思って、雪はほっとため息をついた。
第一艦橋では、真田 が陣頭指揮を取り、雪を除いた第一艦橋の面々もそろっていた。放射能除去をするだけなので、大した仕事があるわけでもないが、他に行くところもないので、取りあえずは第一艦橋にいる、そんな感じだった。だから、場の雰囲気は明るかった。そこにアナライザーが入ってきた。
「真田サン! 真田サン! バッチリデシタヨ」
「ん? なんのことだ? アナライザー?」
「アノ・・・ 例ノバラデス」
進に聞こえないようにと、声を落としてアナライザーは真田に報告を続ける。
「雪サン、大喜ビデシタ!ココニキッスモ」 アナライザーは得意満面だ。
「ほおお、古代が聞いたら、お前、殴られるぞ!」 真田がニヤッと笑う。
「なんか言いいましたか? 真田さん」 進が名前を呼ばれたような気がして声をかける。
「ナニモ 言ッテマセンヨ! 知シリマセン!!」
そういいながら、アナライザーはまた踊るように第一艦橋を出ていった。
「なんだ? あいつ!」 進がフンッと鼻で笑った。
「なんだかあやしいな、いま、たしかバラがどうだとかキスがどうだとか聞こえたぞ。また、雪になにかしたんじゃないか? あいつ…… おい、古代! ロボットと言っても気をつけたほうがいいぞ」
島が耳をそばだてて聞いて、チェックしては、進をせきたてた。
「な、なんだよ。俺には関係ないよ!」
進は強がりを言ったが、やっぱり気になるのか、手があくと真田にそっと聞いた。
「真田さん、アナライザーの奴、何したんですか?」
進がせっかくそっと聞いているのに、真田はみんなに聞こえるような声で答えた。
「ん? 今日がなんの日かお前知ってるか?」
「???」
そう言われても、進にはわからなかった。横から、太田が手を打って言った。
「そうだ! 雪さん、今日誕生日ですよ!以前、星座の話をしていた時に、雪さんが、『私は9月9日だから、乙女座よ。』なんていってたもんな」
太田は結構記憶力がいいらしい。というよりも、雪のことだからだろうか?
「誕生日?」
進が、顔色を変えてそうつぶやくと、真田がニヤッと笑い、他のメンバーからも微かに笑い声が上がった。
「あーあ、古代! また、アナライザーに先にやられたな! 誕生日にバラの花のプレゼントか。キザな野郎だな、さあて、自称恋人の古代君! どうするかな?」
島がおもしろそうに進を茶化す。
「なんだよ! その自称恋人ってのは! くそっ、アナライザーの奴め! 俺は、大事な仕事中なんだぞ、そんなこと一々考えてられっかよ!」
進は、島に向かって強がりを言ってみせるが、島はくくっと笑った。
「強がりはよせ。プレゼントがないなら、キッスでもしてやるんだな、古代!」
「あっははは・・・」 第一艦橋内には笑いの渦が起こった。
「うるさいっ!」 進は、真っ赤な顔をして自席に戻ってどっかと座った。
(雪の誕生日だったんだ、今日・・・ なにか記念になるものをあげたいな)
周りには、強がってみたものの、やはり進としては大いに気になる雪の誕生日だった。
その夜、休憩時間になった進は、自室から一つの薄い箱を手に持って雪の部屋に行った。
「雪? いるかい?」
「はい? 古代君? どうぞ」
雪の誘いで進は、雪の部屋の中に入った。退艦まで日もないので、部屋の中はほとんど片付いていた。ただ、テーブルの上には、両親の写真と一緒に、真っ赤なバラが一輪飾られていた。
「どうしたの? 古代君? 何か相談でも?」
「ん…… いや、雪、今日誕生日だったんだろ。おめでとう……」
進のその言葉に、雪はニコッと笑った。
「古代君……ありがとう。知ってたの?」
「ん? 当然だろ! ほんとなら、プレゼントでも買ってあげたかっただけど……」
進は今日の昼まで知らなかったとは口が裂けても言えなかった。
「いいのよ、その気持ちだけで……うれしいわ。」
雪は微笑みながら、進の言葉を受け止めた。そこで、進はおずおずと後ろでに持っていた箱を雪に差し出した。
「あ、あのさ、これ……」
進が差し出したのは、額に入った、美しい蝶の標本だった。
「なに? ・・・まぁ、きれい!」
「子供のころ、父さんと取った蝶なんだ、大アゲハチョウ。この大きさはめったにないって父さんもびっくりしてた。俺、昔は、蝶や植物が大好きで、ガミラスの攻撃で両親を亡くすまでは、将来はこれでも学者になりたいって思ってたんだ。生物の研究をしたくて……」
「古代君、そんな大事なもの貰えないわ」
雪は、それが進の父の形見とも言えるものだということに気付いた。
「いいんだよ、雪にあげたいんだ。それに、また、見たくなったら、いつでも雪のところにくればいいだろ? それに、ここに時々保存剤を注入しなくちゃならないし……アフターフォロー付きでさ」
少しはにかみながら言う進の言葉を、雪はうれしく受け止めた。
「古代君……ありがとう。大事にするわ。ずっと私のそばにおいて置くわ。」
そう言って、雪に見つめられ、進は心臓が激しく打つのを感じた。 『プレゼントがないなら、キッスでもしてやるんだな』と言った島の言葉も頭に浮かんできて、進は焦った。
(ま、まずい! このまま部屋の中にいたら、自制が効かなくなりそうだ……)
「あ、ちょっと、星でも見に行かないか」
進の誘いに雪も頷いて、二人揃って、夜の後方展望室へ行った。晴天の空には、明るい月と数え切れないほどの星々が輝いていた。
「満天の星ね、お月様も…… 今日は満月かしら?」
「うん、きれいだな。はやく、外でこんな空を見たいな」
「ええ、きっとすぐにそうなるわ…… 私達、そのために頑張ってるんですものね」
「うん」
雪は、進の肩にそっと頭を乗せ体を預けた。進は雪の肩を抱いて自分の方に引き寄せる。お互いの温かみが伝わってくる。
恋人になりたての二人のほんのちょっぴりのデート気分。幸せってこんなことを言うのかな? 進も雪もそんなことを考えていた。
進が贈った蝶の標本は、それから雪の一番大切なものの一つになった。地球にいるときは自室の壁を飾り、ヤマトに乗っている時もちゃんと持ってきて、ずっと部屋の壁を飾っていた。
2200年の雪の誕生日、ケーキもなにもないけれど、雪には忘れられない幸せな誕生日になった。
《エピローグ》
「やっぱり、古代、何か持っていって、そのあと展望台でデートしてたぞ。肩なんか抱いたりして、くそぉー!」
第一艦橋に入ってきた島が、悔しそうに、そして面白そうに皆に告げた。
「ひゅー! やっぱりですか…… 古代さん、アナライザーに負けてたまるかってわけですね。あはは」
「頑張ってるなあ、古代!」
相原に南部が思わずチェック開始! 昼間から、第一艦橋の面々は進が第一艦橋を出るたびに、誰かがチェックに向かっていた。なんと行っても、既に地球に戻ってきて、放射能除去の仕事もほとんど機械まかせ、暇な奴らの考える事と言ったら・・・ 暇なはずなのに、第一艦橋から誰も出て行かないのは、これだったというわけである。
と言っても、実は、帰りの航海中から、二人のデートはチェック済み。知らぬは進ばかりなり、といったところだろうか。この二人には、いつもヤマトクルーの『あたたかい』視線があるようだ。
−お わ り−