Happy Birthday Dear YUKI
《2》 20years in 2201 (宇宙戦艦ヤマト2 第3,5話より)
2201年9月9日……私の20歳の誕生日、本当なら私達の結婚式の日だった……
2201年、9月9日、それは2日前の事だった。雪は、今ヤマトの医務室にいる。今回の旅では進にまだ会っていない。そう、進に内緒での乗艦だった。両親には、乗艦の日、病院で書いた手紙を投函してきた。
(今ごろはもう着いて読んでるだろうな。ママ、泣いてるかしら…… ごめんね、ママ。パパはママを慰めるのに一生懸命ね、きっと……)
そんなことを考えていたら、ミー君が雪の膝にぴょんと乗ってきた。
「ねえ、ミー君。もしも、何もなかったら…… 私達は今ごろ新婚旅行の真っ最中なのよ…… ふふふ、あなたに言ってみても仕方がないんだけどね」
雪は、ミー君相手につぶやいていた。新婚旅行のはずが、ヤマトで未知の敵に向かって宇宙を旅してるなんて…… 雪は自嘲気味に笑ってしまった。
ミー君の他に雪の乗艦を知っているのは、佐渡と島だけだった。その二人も雪に口止めされていた。
『簡単には帰れないところまで行ったら話すから……』
佐渡は、雪の食事をそっと運んできてくれる。島は、暇を見て医務室に来ては、進と艦の様子を知らせてくれる。進とは、あの誕生日の日以来会っていない。
その時ミー君が、僕が様子を見てきてあげるよ、とでも言うかのようにニャーと一鳴きすると、雪の膝から降りて医務室から駆け出してしまった。
この旅に出ることは、3日前の突然の結婚式延期の連絡からはじまった……
進から、結婚式の延期の連絡が入ったのは、結婚式の前日だった。自分が提出した重要議題が防衛会議の議題となるため、オブザーバーとして参加しなければならない、というのだった。
進は今回の航海から帰ってきた時から、何か引っかかるものを感じていたようだった。そしてあのメッセージを解析したときから、進も真田も緊迫していたことも、雪は知っている。でも…… 雪にとって、やはり結婚式の延期は悲しかった。
『わかってくれ…… 地球の危機かもしれないんだ』
そう言う進に対して異議を言うことは、進をよく知っている雪にはできなかった。それから、両親に事情を説明した。母は、すぐには納得しなかった。父は、男としてなんとか理解したようだった。雪が毅然とした態度を取りつづけたことで、やっと母は、しぶしぶ頷いた。
そして、3人で手分けして、結婚式の延期を各方面に告げた。忙しさがその辛さを少しだけ忘れさせてくれた。
そして、当日。進は、防衛会議の後、雪の自宅に来た。両親に頭を下げる進に父も母も、何も言わなかった。何も言えないほど、傍で見てもわかるほど、進の表情が険しかったのだ。おそらく、進の出した議題は防衛会議で歯牙にもかけられなかったのだろう。進は雪を誘うと、地下都市へ向かった。
「宇宙全体の幸せがなかったら、僕らの幸せもないんだよ」
地下都市で1年前のことを話しながら、進はそう言った。それは、進が暗に結婚式の無期延期と、そしてまた、再び戦いのために旅立とうとしている事を言いたいのだと、雪にはよくわかった。
「あっ、そうだ! 古代君ちょっと待っててね」
雪は、笑顔でそういうと、進が見えないところまで走っていった。そしてそこでやっと涙を流した。
「古代君が……行く。また戦いに……」
ガミラスとの戦いの後、もうそんなことはよもや起こるまいと思っていた雪だった。進とささやかな幸せをつかむつもりだった。平凡でもいい、笑顔が絶えない家庭を…… 家族の愛情を忘れて久しい進のために、雪はそんな家庭を作ってあげたかった。なのに……
「でも…… 私は……」
雪はすぐに思いなおした。そして、進のもとに戻りながら思っていた。
(私はどんな事があっても古代君についていくわ。あの人の行くところなら、たとえそれが戦火の嵐の中だとしても…… 私だってヤマトの戦士なんですもの)
「古代君、お待たせ。行きましょう…… 今日は、予定がまだあるの?」
「すまない、これから真田さんとちょっと打ち合わせしたい事があるんだ。今日、雪の20歳の誕生日なんだよな。おめでとう…… なにもしてやれなくてごめんよ」
進は雪の誕生日を忘れてはいなかった。雪はそれだけでも充分にうれしかった。
「いいのよ。古代君、地球に何かが起こるのね。新しい脅威が?」
「ん? いや、大丈夫だよ。地球には直接関係ないかもしれないし……」
進はあまり深刻な話をして雪を心配させまいとした。
「でも、行くんでしょ?ヤマトで、指令部の命令を無視してでも……」 雪は切り返した。
「! 雪…… わかってたのか……」
「私も行くわ!」 間髪をいれずに雪はそう訴える。
「馬鹿言うんじゃない! そんな必要はないんだよ。君は、地球に残って僕の帰りを待っていて欲しい。必ず帰ってくるから…… いいね」
進はそう言うと雪の体を強く抱きしめた。進は雪まで巻き込むつもりはなかった。
「帰ってくるよ、今宇宙で起こっていることを確かめたら…… 必ず、君のもとに…… だから、待っててくれ、雪」
進のその言葉は、自分に言い聞かせるためでもあった。進も不安だった。今どんな脅威に地球が晒されているのかまったくわからない。そんな中に地球防衛軍の支援もなく飛び出していこうとしている。本当にもう一度地球に帰って来れるかどうかなんてわかるわけがなかった。
(そんな旅に雪を連れていけるわけがない…… 愛してる、雪。けど、俺は君を幸せにしてやれないかもしれない…… 君は、地球で幸せに暮らして欲しい。万一、戻って来れたら、それまで雪が待っていてくれたら…… その時は……)
進の苦しい胸中を雪が察しないわけがなかった。
(古代君は私のためにああ言ってくれている……)
「……わかったわ…… 必ず帰って来てね」 雪は進の胸の中でそうつぶやいた。
今の雪には進の負担を少しでも軽くしてあげることしかできなかった。ここで駄々をこねることが、進の気持ちを重くするだけだと言うことは、雪には百も承知だった。
だが、自分がこのままじっと進の帰りを待っているつもりのないことも、雪にはよくわかっていた。
(でも私は…… どんなことをしてでも、ヤマトに乗ってみせる)
「雪…… 」 「古代君!」
雪は進にもう一度抱きつくと、自分から唇を重ねていった。
翌日、雪は中央病院に出勤した。本来ならば休暇中だったが、結婚式が延期になったのに家にいてもすることがなかった。第一、家にいては何も情報が入ってこない。佐渡のところにいればヤマトから必ずなんらかのアクションがあるはずだと思っていた。
「雪…… 大変じゃったな。ま、すぐに落ち着いて結婚式もできるようになるから、心配するな」
佐渡は佐渡流の陽気な調子で雪をなぐさめてくれた。
「ありがとうございます。とりあえずは休暇は返上して、バリバリ働きますから……」
「まあ、忙しい方が気が紛れるじゃろう…… 頼むよ」
(古代は雪を今回は置いておくつもりなんじゃな…… それがいいさ、こんなかわいい娘に苦労させる事はないからな……)
その時、佐渡の医務室の電話がなった。看護ロボットが取ってそれを佐渡に渡した。それは、島からのヤマト乗艦について相談したいという主旨のものだった。
「うん、うん…… よし、会おう…… 雪、ちょっと出かけてくるからな・・・ 留守を頼むぞ、帰りはちょっと遅くなりそうじゃ」
佐渡の様子に雪はすぐにヤマトの事だとわかった。
「先生、私も行きます……」
「雪、お前は、この前の旅で充分過ぎるほどの仕事した。今度は地球に残って、いいお嫁さんになる準備でもしておくんじゃ」
佐渡は説得をしようとしたが、雪は聞き入れるはずがなかった。
「いやです! 私を仲間はずれにしないでください。私もヤマトの戦士です!」
「むう…… しかしなぁ、雪。古代もそう言っておるんじゃろ?」
「…………」
佐渡を見つめる雪の目は、決して譲らないといった強い意志を感じさせた。佐渡は仕方なく、くいっと指を手前に曲げて雪を連れていく意志を示した。
「先生……」 雪の目が緩んで笑顔になった。
「わしゃぁ知らんぞ。古代になんて言われるか……」
英雄の丘には、島が待っていた。わからない事がたくさんある、その上、規律違反を犯してまで出航する必要があるのか、防衛軍の一員としての島はそれを悩んでいた。
「……まだ、未知の部分が多すぎるような気がして……」
「島、わしは行くつもりじゃよ……」 迷う島を相手に佐渡はきっぱりとそう言った。
「海の男は海が住みいいだけじゃよ。宇宙と言う名の海がなぁ……」
その佐渡の話をじっと聞いていた島が、今度は雪の方を向いて言った。
「雪…… 君も行くのか?」
それに対して雪は黙って頷いた。
「いやぁ…… 雪は残った方がいいと思うんじゃガな。古代もそのつもりらしいし…… 島、それこそ説得してくれや」
佐渡が情けない声で島に懇願した。
「いやよ、佐渡先生! 私は行くわ! 古代君の行くところならどこだって!! それに私もヤマトの戦士よ! 古代君が私を心配してくれてる事はわかるけど…… でも、じっと待ってなんかいられないわ!」
雪の強い口調に、島は思わず苦笑いした。
「雪らしいな。古代の奴は雪に残れって言ったのか? あいつ、まだ雪のことをわかってないなぁ…… 雪が結婚式をドタキャンされて、黙って待ってるような女(ひと)じゃない事くらいわかりそうなもんだけど。 いや、それとも……自分の大切な婚約者のことともなると、俺も古代のようになるのかもしれないな……
けど佐渡先生、説得したって無理ですよ。雪はヤマトの第三艦橋にぶら下がってでも行くに決まってるさ。なあ、雪」
「ええ……」 雪は島にそう言われてニッコリと笑った。 「島君も、行ってくれるでしょ?」
島は、さっきの佐渡の話や今の雪の姿を見て、自分の心のわだかまりが解けていくのを感じた。ヤマトが起つ! それに一緒に行かなくて自分に何が残るというのだ!
「ヤマトが行くんだもんなぁ。そうだよな! みんなが行くんだもんなぁ…… 規則なんてくそ食らえ! だ!! 雪に負けてられないよな」
「ありがとう、島君…… だけど、私が乗ることは古代君にはしばらく内緒よ。すぐに知らせたら、無理矢理降ろされちゃう……」
「わかったよ」
「わしも共犯かぁ…… 古代に後で怒られるのぉ……」 今度は佐渡が苦笑いした。
「あら? ミー君どこへ行ったのかしら。あちこち歩いてたら、叱られるわ……」
雪は、ちょっと医務室の外を探してみようと、医務室から出た。そこへ、ミー君が飛び込んできた。ホッとしてミー君を抱き上げた雪が、ふと顔を上げると、そこにはミー君を追いかけてきた進が立っていた。
「!!!」 進は、目の前にいる雪の姿を見て、それが幻ではないかと目を疑った。
雪は進の姿を見ると、黙って医務室へ戻っていった。
(見つかってしまった…… ちょっと早かったわ…… 古代君、なんて言うかしら)
進は、雪の後を追って医務室に入ってきた。
「君は誰だ!」
雪だとわかっていて、進は強い口調で聞いた。雪も負けてはいない。
「地球防衛軍、科学局生活部 森雪!」
「乗員名簿に載っていないな!」
「それは……」
強い口調でやりあう二人に、佐渡がおろおろして雪をフォローしようとする。
「あのなぁ今回の事はわしのミスじゃからの、けんかはいかんぞ、けんかは……」
佐渡は、そう言いながらミー君を抱くと、医務室から出ていった。二人きりにしてゆっくり話し合わせようと思ったのだった。佐渡が出ていったのを確認すると雪は、さっと振り帰ると、ロッカーまで行って、看護婦の制服を脱ぎ出した。
「な、何をするんだ?!」
「退艦します」
「待て、こんなところからどうやって地球に帰るつもりなんだ」
「退艦しろと言ったのは古代君でしょ。宇宙遊泳でもなんでもして帰ります!!」
「命令だ。隊員服を着ろ。艦長代理として、森雪に旧任務を命ずる!」
そこまで言って、進の表情が急にやわらかくなった。呆然として進を見つめている雪にゆっくりと近づきながら、静かに話した。
「ばかだよ、君は…… 地球にいれば平和に暮らしていけるのに、こんな危険な旅へ紛れこむなんて、無茶だ……」
進の柔和な表情とその言葉に、雪の目には涙があふれてきた。
「私もヤマトの仲間の一人よ。みんなが行くならわたしも一緒に…… 古代君のそばにいたかったのよ!」
「雪……」 進は愛情込めて雪を呼んだ。
「古代君!」 たまらなくなって、雪は進の胸に飛び込んだ。
「私は、古代君のそばを離れない…… どんなことがあっても…… 私……」
涙でつまって雪はそれ以上言葉がでてこない。そんな雪に進は初めて自分の気持ちを話し出した。
「雪…… ごめんよ、僕にはわかってなかったんだな。雪の気持ちが…… 雪の想いが…… 心の底では僕も君にいて欲しかったんだ。心細かったんだ。島もいる。真田さんもいる。南部も太田も相原も! 徳川さんだって…… でも、なぜか俺の心の中に大きな穴が開いているような気がしていた…… なぜだろうって思った…… それは雪、君がいなかったからなんだ。
地球の、いや宇宙の危機に地球を飛び出してきたのはいいが、なにをどうやっていけばいいのかわからないまま、僕は不安で一杯だった。そんな時、僕を見て僕を励ましてくれる君がいてくれたら・・・ 本当はそう思っていたんだ。ありがとう、来てくれて、雪」
進の雪を抱きしめる手に力が入る。
「古代君……これからはいつも一緒ね」
「ああ、これからは、僕達はいつでもどんな時でも一緒にいるって約束するよ。雪! 僕と一緒にいて欲しい」
「ええ、ええ! 古代君! どこまでも一緒に行くわ……」
雪はもう一度進の胸の中に顔をうずめた。進の心臓の鼓動が雪の耳に響いてくる。生きてる! 進も雪も今この時を共に生きている! 雪にはそれが言いようもないほどうれしかった。
これからの旅でどんな辛い目にあうことがあっても、進と……ヤマトと一緒ならなんでも耐えられる。雪はそう思った。
雪を気遣い地球に残そうと思った。だが、雪はそれでもついてきてくれた。もう、離さない。何があっても雪と共に……ヤマトのみんなと一緒に道を切り開いていこう、進は体に力がみなぎってくるような気がした。
雪にとって2日遅れのBirthday Present…… それは、進の言葉、『いつでもどんな時でも一緒にいるよ』。雪にとってどんな宝物よりも大切な、進の愛のこもった言葉だった。
−お わ り−
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