Happy Birthday Dear YUKI (宇宙戦艦ヤマト全シリーズより)

《3》 21years in 2202 (『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』,あいオリジナルストーリー『絆−君の瞳に映る人は−』より)

 この年、進と雪は二人で同じプロジェクトに参加していた。進にとっては珍しく約2ヵ月の地上勤務の予定だった。二人にとって初めて平和な地球で迎える雪の誕生日。夢のようにすばらしい誕生日を迎えられる……はずだった。

 ところが、このプロジェクトリーダーの上条諒の存在が進の心に大きく圧し掛かっていた。雪の幼なじみで、地球防衛軍の誇る科学者の一人。その彼が雪に対して並々ならぬ興味を持っていることは明白なのだ。

 昨日の沖田艦長の戦没記念日にヤマトの仲間達と会って、少しは心が和んだ進だったが、諒と雪の二人の姿を見ると、また、大いに不安を感じないわけにはいかなかった。

 (今年の雪の誕生日、ゆっくりと過ごせる初めての誕生日だ。今はあいつのことなんか忘れて雪と二人で楽しみたい…… プレゼントは何がいいんだろう。どこへ行こうか……)

 今日の仕事を終え、雪を乗せて走る車の中で進は考えていた。

 「古代君? どうしたの? 何か考え事?」

 「あ、ああ…… 今年の雪の誕生日、何が欲しいかなって思ってね」

 「えっ? あ…… 覚えてくれてたのね」

 「当たり前だろ。忘れるわけないだろ。プレゼント何がいい? どっかレストランでも行く?」

 「そうねぇ…… プレゼントは、真っ赤なバラの花束とシンプルなネックレスがいいなっ」

 「げっ! ネックレスはいいとして、バラの花束…… そんなもの恥ずかしくて買えないぞ」

 「どうしてぇ? いいじゃないの。たまにはそんなプレゼントくれても…… ほんとなら請求しなくても思いがけなくプレゼントされるのがいいんだけど…… 古代君にそれを期待するのは無理だってわかったから。指定させていただくわ!」

 そうすまして言う雪に進は返す言葉がない。はあーっと一つため息が出た。

 「なによぉ!」

 「わ、わかった、わかった…… なんとか買ってくから…… 食事は? いいの?」

 「そうねぇ……」

 雪は、地上勤務になってからのことを考えていた。進は諒に対してなにかとつっかかり、諒の雪への態度に顔を硬直させる。そのことが気になっていた。

 (古代君…… 私と諒ちゃんの間を疑ってるのかしら? 自分に自信がないのかしら? 私はこんなに古代君のことを思っているのに、古代君のことだけを…… 私のこの思いを古代君にわかってもらえたら……)

 雪はどうしたらわかってもらえるだろうと考えていると、あの英雄の丘での佐渡との会話が思い出された。

 『愛し合う男と女が結ばれるというのは、自然な事じゃぞ』
 『雪、お前から迫ってやればいいじゃないかぁ』

 (佐渡先生…… あの時はそんなことって思ったけど、古代君だって私のこと欲しいって思ってるわよね…… だって、時々私を見る目、とっても熱く燃えてることがあるもの…… その度にちょっと心配して、ちょっと期待するけど…… 古代君、そんな表情すぐに隠してしまうから。
 でも…… 私達が結ばれれば、古代君だってもっと私をしっかりつかまえていてくれるはず…… 結婚式が延びるまでは結婚するまではって思ってたけど、今は、いつ結婚することになるのかわからないし、それなら先に結ばれても……いいわ、古代君となら)

 「なんだよ、雪? ずいぶん考えこんで」

 「えっ? ああ、あのね…… 私、どこかに行くよりゆっくり二人で過ごしたいなって思って…… 食事をケータリングサービスで取って、古代君の部屋で食べましょうよ、ね! 私、仕事柄とっても美味しい料理を宅配してくれるレストランを知ってるし」

 「ああ、それでもいいよ。雪の手料理よりはいいかもな」

 「ん! もう! へらず口ね!」

 「あははは……」

 プレゼントも雪の思惑も決まって、後は誕生日を迎えるだけ…… 二人の心を強く結びつける記念日に、なるかもしれない雪の21歳の誕生日まであと2日。

 誕生日の朝、雪は遅刻しそうになった。今夜進と過ごすかもしれない、そう思うと、着ていく物をあれやこれやと考えると決まらなかった。いつもは制服に着替えて出勤するのだが、今日は制服はロッカーに置いてある予備を着るつもりで、私服にするつもりだった。そして、その前に、ランジェリーも新しい物を数種類出してきては、どれをつけるかに真剣に悩んでしまった。

 (だって…… 古代君に、見られちゃうかもしれないのよ、初めて…… どれがいいかしら…… ああん! どうしよう!!)

 そんな事をしていたので、いつもなら迎えに来た進が下で待っているとすぐに降りてくるのに、今日に限って雪があまりにも降りてこないので、進はわざわざ雪の部屋まで上がってきて急かすはめになってしまった。
 進に急かされた雪はやっとのことで、着衣を決めて、その後はフルスピードで司令本部へ行った。なんとか遅刻だけはまぬかれたが、進に『たるんでるぞ!』としかられてしまった雪だった。

 そして夕方、雪と進はその日のプロジェクトの仕事を終えようとしていた。特に揉める点もなく、予定通り5時には今日の仕事を終えることができた。

 「雪さん、ちょっとお渡ししたいものがあるんですが、少しいいですか?」

 帰宅寸前に諒が雪に声をかけた。雪は、会議の書類か何かだと思って気軽に諒の部屋に入った。

 「なんでしょうか?」

 「うん…… はい、これ。雪ちゃん、今日誕生日だろ?」

 「えっ? まあ!きれい…… 覚えてくれてたの?」

 諒が出してきたのは、きれいな化粧箱に入った花束だった。大輪のカサブランカを中心として赤いバラ、ピンクのカーネーションなど色鮮やかな花々がラッピングされていた。

 「当たり前だろ? 雪ちゃんの1歳の誕生日のお祝いから一緒にケーキを食べてたんだからね。ほんとは、ブーケにして渡した方が素敵なんだけど、こんな場所だからもって歩くのはずかしいだろうって思ってね。これくらいなら、古代君も許してくれるかな?」

 「え、ええ…… ありがとう、諒ちゃん。素敵なお花だわ」

 例えどれほど進のことを愛している雪といえども、美しい花を貰ってうれしくないはずがない。雪の脳裏に進のしかめっ面が散らつかないではなかったが、その花の美しい誘惑には勝てなかった。雪は諒のプレゼントをうれしそうに抱きしめた。

 「じゃあ、今日は楽しい誕生日を過ごしておいで。また、明日」

 「はい…… ほんとうにありがとう!諒ちゃん」

 雪はニッコリ笑うと、諒に頭を下げた。諒も笑顔を見せたが、まだ仕事が残っているのか、手を軽くあげるとまた机に向かって書類を見始めた。

 雪はもう一度花を見た。華やかな花々に思わず笑みがもれる。その表情のまま、雪が諒の部屋から出ると、目の前に進が立っていて、雪はぶつかりそうになった。

 「こ、古代君! びっくりするじゃない? あら、もう今日は誰もいないのね。早いわね、みんな」

 「今、みんな帰ったよ。それより、なんだよそれ」

 進の顔がこわばっている。雪が持っているのが、あきらかに書類などではないことは誰にでもわかることだ。

 「あ…… ああ、諒ちゃんがね、あの……誕生日だからって…… お花…… あ、諒ちゃんって昔はいつも誕生日って言うとプレゼントくれてたから、きっとそれを思い出して……」

 「ふうん…… よかったな」

 『よかったな』という進の声はちっとも『よく』なかった。

 (ああ、やっぱり古代君、不機嫌になっちゃった…… でも、返すわけにもいかないし……)

 「帰るぞ、雪」

 困っている雪に背を向けると進はさっさと歩き出した。雪もあわてて走ってその後に続いた。

 「古代君?」 後ろからでは進の表情が見えずに雪は進を呼んだ。

 「…………」 進は答えずにどんどん歩いていく。

 「こ・だ・い・くん!」 雪は、もう一度声を大きくして進を呼ぶ。

 「ん? さあ、プレゼント買いに行こう。どうした?」

 やっと振り返った進の顔はさっきのこわばった顔ではなくて、いつもの笑顔だった。よかった……雪はほっとした。

 「ううん…… なんでもないの」

 雪は、進に追いつくと進の腕にスッと自分の腕を通した。進は雪に微笑みかけると、持ってやるよと、雪のもらった花束の箱をつかんだ。雪は一瞬進がその箱をどうにかしてしまうんではないかとドキドキしたが、そのまま進は箱を腕を組んでない方で小脇に抱えて歩き出した。

 (よかった…… 古代君、あまり気にしていないのかな?)

 雪の安心とは裏腹に進の心は右へ左へと揺らいでいた。

 (あいつが雪にプレゼントを渡すだろうとは思ってたが、花束か…… いつもキザな野郎だ。この前、雪は花束を『請求しなくても思いがけなくプレゼントされるのがいいんだけど』って言ってたけど、その通りじゃないか…… くそっ、恥ずかしげもなくやるもんだ。
 雪も雪だ。うれしそうに抱えて部屋から出てくるんだからな。なんだよ、俺に花束くれっていってたくせに、あいつに貰ったらあんなに喜んでる。な・ん・な・ん・だよ!
 ……っていったって、今日は雪の誕生日なんだもんな。今日のところは我慢しなくちゃな。雪との夜を楽しく過ごしたいし、それに…… 雪、俺の部屋でゆっくり過ごしたい……か。それってやっぱりOKのサインなのかな……? あいつのことなんか忘れよう、今日はもう誰にも邪魔されないんだから) 

 雪を車に乗せると進は、ショッピングセンターへ走らせた。もう2年以上も前になるが、雪にプレゼントした婚約指輪を買った店へ行く。

 (エンゲージリングを買ってもらって以来だわ、このお店…… 去年の誕生日、何もなかったら結婚式だったのに。でも…… ううん! 自分で決めたことだもの。結婚のことは今は何も言わないって……)

 2年も過ぎたその店に1度しか来てない客のことを覚えている店員もいるはずもなく、二人はなにごともなかったように、今日はネックレス売り場へと歩いた。24金、18金、プラチナ、銀とさまざまな貴金属のネックレスが並ぶ。ペンダントになったものも多い。ペンダントトップも、金属製のものもあれば、宝石をはめこんだものもある。

 「迷っちゃうわね…… ふふふ」

 「楽しそうだな、雪は。女ってどうしてこう言うものが好きなんだろうな?」

 「古代君にはわからないのよ。うーん、いつもつけてたいから、シンプルなのがいいわね。小さなペンダントが付いたのもいいわね」

 「ま、めったに買ってやれないから、買うときはいいものを選んだ方がいいぞ」

 「ほんと! うれしい!!」

 迷いながら見つめる雪に店員が数個のペンダントを出して勧めた。

 「こちらのタイプが今人気ですのよ。ペンダントトップの裏に英語で刻印できるんですよ。プレゼントには最適ですわ。ネックレス部分もプラチナですから、一生ものですわ」

 「まあ…… 素敵ね。私の思ってた通り、シンプルだし、ずっとつけてても気にならなさそうだし……」

 雪は、店員に勧められて首にかけてみた。ほっそりとした首に光る銀色の輝きは、店内の証明に照らされて美しく輝いていた。

 「どう? 古代君?」

 「ん? いいよ」

 進の口癖だった。雪がなにかを身につけて進に尋ねると、進の返事は判で押したようにいつも同じなのだ。『また同じこと言ってる』雪はそう思ったが、言及するのはやめて、そのペンダントにすることにした。

 「じゃあ、これにするわ」

 「プレゼントですね? 裏の刻印の言葉はどういたしましょう?」

 店員は、進に向かって尋ねる。

 「えっ!? あ、あの…… …………・・」

 雪は進が裏の刻印も雪に好きな言葉を選ばせるのかと思って待っていたが、進は少し考えて小さなメモになにかを書いて店員に渡した。体を使って雪に見せないように書いているようだったので、雪はのぞくのはやめた。

 「古代君? なんて書いてもらうの?」

 「うん? まあ、月並みな言葉だよ。後でな……」

 進はちょっと恥ずかしげに笑った。しばらくして、店員は刻印をして来て進に確認を取った後、リボンのついた小さな箱に入れて持ってきた。進はそれを受け取ると雪と一緒に店を出て、進の家に向かった。車を走らせる進に、雪は尋ねた。

 「ところで、ね、古代君? 花束は?」

 「もう貰ったからいいだろ……」

 進はぶっきらぼうに答える。その答え方が気に入らなくて雪はふくれっつらになった。

 「古代君から欲しかったのよ!」 雪も腹が立ったので、強い口調で返す。

 「いいじゃないか、上条に貰ってうれしかったんだろ! そんな立派な花束貰ったのに、欲張ることないじゃないか」

 それにカチンときたのか、いつもの進らしくない吐き捨てるようないい方に、雪は驚いた。

 「! 古代君!! ……やっぱり怒ってたのね…… 諒ちゃんにプレゼント貰ったこと……」

 雪の声が尻つぼみに小さくなっていった。

 「別に……怒ってなんかいないよ。 ごめん、いい方が悪かった…… 花は生き物だから。一度にたくさんはもったいないよ。その花を大事に長く咲かせてやらなきゃ。俺は、また来年プレゼントするから……」

 言いすぎたと思った進は、言葉を柔らかくして言いなおした。

 「わかったわ……」

 雪も、小さな声で頷く。上条諒の存在が二人の間にちらちらと諍いの種を作ってしまう。わかっているのにいらついてしまう進と、進とは違った意味で諒の事を大切にしたい雪の心が微妙にすれ違ってしまう。そのずれがこれから広がってしまいそうで、進も雪も恐かった。
 けれど今日だけは、その度に二人とも『今日は雪の誕生日』という呪文でいつもの二人に戻るのだった。

 進の部屋に着いてほどなく、予約していたケータリングサービスの料理が届いた。雪が温めたり最後の仕上げをしている間に、進はテーブルの用意をした。
 今日の料理のメインはフィレ肉のステーキ、進はストックしてあった赤のワインを一本取り出した。進は、雪の家に遊びに行った時に、雪の父親の晃司からワインについての薀蓄を聞いて以来、自分でもワインを買って飲むようになった。たまたま買って美味しかったワインのことを晃司に話すと、晃司はうれしそうにそれにまた薀蓄を傾けるのだった。晃司とのコミュニケーションを図るにはうってつけだった。
 料理を並べ終えると、ワインをついで二人で乾杯した。

 「雪、21歳の誕生日おめでとう」

 「ありがとう、古代君…… 初めてね、私の誕生日を古代君と二人でこんなにゆっくりと過ごせるのは……」

 雪はうっとりとワインを見つめて話す。

 「ああ、来年も、再来年もこうして過ごせるといいな」

 進もゆったりとした表情で笑みを返した。

 「ええ……」

 じんわりとしみじみと幸せを感じる……二人だった。

 食事を終えて二人で食器を片付けると、進はまだ残っていたワインを2個のグラスに注いでリビングに持っていった。雪も続いてリビングに行くと、二人で並んでソファに座った。

 「はい、雪。誕生日のプレゼント……」

 「ありがとう…… 開けていい?」

 雪の問いに進が黙って頷いた。そして雪がその箱を開ける。中身は知っているが、あのペンダントトップには何が書かれているのだろうか…… 雪は心が踊る自分を抑えられなかった。

 「あ…… 古代君…… うれしい……」

 雪の目が少し潤む。ペンダントを握ってそれを胸に当てて抱きしめた。ペンダントトップに刻まれていた言葉……それは……確かに月並みな言葉だった。けれど、雪にとっては一番幸せな言葉……

  “I Love You Forever  from Susumu”

 雪はそのネックレスをテーブルの上に置くと、進の胸に飛び込んだ。進も雪を抱きしめる。顔を上げる雪の面前に進の顔が降りてきて、雪の唇を奪った。
 『熱い……』雪にはいつにも増して進のキスが熱く感じられた。

 「わたし…… 今日、帰りたくない……」

 進に熱い視線を送って雪はつぶやいた。雪の瞳がすがるように進を見つめる。

 「いいのかい? 本当に……」

 進の言葉に雪は黙って頷いた。進はもう一度雪にくちづけをすると、雪を抱きしめたままソファーに押し倒した。微かに震える手で、雪の胸元のボタンをひとつ、ふたつ外し、そっと手を指し入れた。ビクッと雪が電気に触れたように動く。その度に進の手も緊張で止まる。

 進は雪のブラウスのボタンを全部外して肩からはずした。白い肌が暗めに変えた照明にも輝いて見える。雪は恥ずかしさに目を閉じている。微かにまつげが揺れているのが進にもわかった。進は大きく上下する雪の胸元を見つめていたが、たまらなくなって唇を首筋から胸元へはわせた。

 「はぁ……んん……」

 雪が進の唇に反応して微かな声をあげる。そんな声が進をさらに誘惑する。進は顔を上げると、雪の胸のフロントホックに手をかけた。パチンと小さな音が聞こえたかと思うと、雪の美しいふたつの丘陵があらわになった。

 「…………」 進はその美しさに息を飲んで声にならなかった。そっと触れる。また、雪がピクンと動く。進の手は恐る恐るその柔らかく弾力のある胸を被った。

 (ああ、私……今日、古代君とひとつになるのね…… 愛してる……)

 少しの不安と大きな期待が雪の胸の中で膨らんでくる。これで、身も心もひとつになれる。二人の心はもっと近づける。雪は進をもっと身近に感じられるようになる事がうれしかった。

 雪を見つめる進も、これから二人が行うであろう行為のことを考えていた。雪は自分にすべてを預けてくれた。自分が雪を求める気持ちを雪は感じてくれていたんだ。そう思うと心が踊り、胸が高鳴った。結ばれる事で今心にわだかまっていたことが晴れていくのではないかと思った。ひとつになりたい…… 進は全身で雪を求めていた。そして、進が顔を雪の胸に埋めた時……

 『ピンポン! ピンポン! ピンポン!…………』

 激しい呼び鈴の音がしたかと思うと、ドンドンとドアを叩く音もする。数人の男性の声がドアの外から聞こえてきた。

 「古代さん! いるんでしょう? 開けてくださいよ!!」

 「おーい!古代さーん!! 美味しいワイン持ってきましたよ!」

 「古代! 居留守使うなよ、早く開けろ!」

 「な、なんだ……?……あいつら……だ……」

 慌てて顔を上げた進は雪と顔を見合わせた。あの様子では既にいくらか酒が入っているようだ。とても知らぬ存ぜぬで終わりそうもなかった。

 「くそっ!!」

 進は悪態をついて、雪の上から降りて、立ち上がり、ドアホンを押して答えた。

 「はい…… 島に南部たちだな? 今開ける、ちょっと待ってろよ」

 雪も慌てて床に落ちた衣類を拾って身につけ始めた。焦ると余計に手が震えてなかなか上手に服が着れなくて、顔はかーっと熱くなってくるし、走りだしたい気分になったが、大きく深呼吸をして自分を落ち着かせると、なんとか身繕いを終えた。

 「いいかい? 雪?」

 進の声に雪が頷くと、進はすぐに玄関に行ってドアを開けた。

 「おお! やっと開いた! 古代さん!! 早く開けてくださいよ。もう!」

 相原が少し酔っているのかなんとなく赤っぽい顔で笑った。後ろに、南部、島、太田が並んでにこにこしている。

 「こんばんは、みなさん」 進の後ろから雪が声をかけて微笑んだ。

 「あれ? 雪さんいらしたんですか? あちゃぁ…… 俺達お邪魔虫だったみたいですよぉ!」

 南部が頭を掻いて笑った。

 「いいのいいの。こいつだけいつもいい思いしてるんだから、たまには邪魔しても…… なぁ、古代」 とは島の弁。

 「ああ、いいよいいよ……」

 進はもうどうにでもなれという感じで開き直って言った。

 「飲みに来たんだろ? 今日は雪の誕生日なんだ。みんなでお祝いしてくれよ」

 「ああ、そういえば今日でしたね、誕生日! いやあ、おめでとうございます、雪さん。そうそう、ワインを持ってきましたから、みんなで乾杯しましょう!」

 太田が陽気に笑ってワインを高く持ち上げた。

 「ありがとう、太田さん…… ふふふ」

 雪もすっかり毒気を抜かれたような気分で訳もわからず笑ってしまった。さっそく、人数分のコップを出したり、簡単なつまみを用意したりと忙しく動き出した。

 結局、やってきた一行は雪の誕生日祝いだと言っては乾杯、皆の健康に乾杯、などと適当な事をいいながら、ワインを飲み干していった。進も、一緒になって酒を傾ける。すっかり、3日前の宴会の続き状態に陥ってしまった。

 しばらく飲んだ後で、南部が進に耳打ちした。

 「古代さんが落ちこんでると困ると思って、みんなで押しかけたんですけど、まずったですね。この時間に雪さんがいたってことは…… もしかして…… ねぇ、古代さーん? ふふふ…… いいところまで行ってたんでしょう?」

 「な、なんぶ……」

 焦る進に南部はしたり顔でさらに言葉を続けた。

 「図星ですね。うーん、やぶへびだったわけですね…… ま、でもしかたないか。ね、古代さん、こういうことが一回か二回あれば、後に感動が高まっていいですよ。そのうち、ベストシチュエーションを僕達が設定して差し上げますから…… ははは」

 2202年の雪の誕生日、よかったのか悪かったのか…… 雪はちゃんとプレゼントも貰えたし、いいムードにもなったけど、お節介なお友達の来襲にお預けをくらってしまった二人。
 もし、この日に結ばれていたら、古代君があんなに悩む事もなかったかもしれないと思うと、南部君たちの罪は結構重い?かも……

−お わ り−

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