Happy Birthday Dear YUKI (宇宙戦艦ヤマト全シリーズより)
《4》 22years in 2203 (『ヤマトよ 永遠に』,『宇宙戦艦ヤマト3』 及びあいのオリスト『湯けむりの中で』,『たまには……』より)
今年の誕生日はさみしいな……
進がいつものように宇宙勤務に飛び立っていったのは、もう2週間も前のこと。出発の日、二人はいつものような会話を交わした。
「古代君、今日からまたね。行ってらっしゃい」
「ん…… 行ってくるよ。雪も仕事無理しすぎるな。残業もほどほどにな」
「は〜い。ね、古代君っ、今度帰ってくるのはいつ?」
「9月12日だ……って雪は知ってるだろう? 長官秘書殿!」
「まあ、ね…… で、古代君。何か言うことなぁい?」
「何かって?」
「ううん……別になかったらいいの…… さ、遅れると大変!! 行きましょう」
「ああ、体に気をつけてな」
「ええ、あなたこそ」
部屋を出る前に、もう一度唇を重ねて別れの挨拶をする。そして、二人は連れ立って家を出、雪の見送りを受けて進はコスモエアポートに消えた。
そして今日は9月の8日。明日が雪の誕生日だ。
古代君、今度帰って来たときは、もう9月12日なのに…… 私の誕生日のこと、なぁんにも言ってくれなかったわ。ふうっ…… 古代君のことだものね、きっと忘れちゃってるんだわ。この前の古代君の誕生日にはちゃあんとお祝いしてあげたって言うのに…… 古代君のばか!
って言っても、しかたないっか。彼にこういうことを完璧にこなすことを要求するのが間違ってるわね。うふふ…… そういう鈍感なところがまたかわいいんだから。帰ってきたら、忘れてたでしょうって、いじめちゃうからねぇ! そういえば、今まで私の誕生日、毎年忘れないでいたことのほうが奇跡だったのかも。
さぁて、そんなこと一人で考えていても仕方ないし、こんなときはパーっとやってやるわっ!
こうして雪は自分の誕生日を自分で祝う算段を始めた。
まず手始めに電話。相手は、佐伯綾乃。この前も二人の喧嘩の巻き添えになった彼女は、雪の大切ななんでも話せる友達だ。綾乃が電話に出るとさっそくお誘いをする。
「綾乃…… ねぇ、明日の夜あいてる?」
「ええ、彼氏もいない私は毎日予定なしよ。明日は、日勤だから5時であがれるし。あら? 明日って、雪の誕生日じゃない? 古代さんはいないの?」
「彼はう・ちゅ・う!! 誕生日のことなんかな〜んにも言わないで言っちゃったわ!」
「あら、まあ……」
「もう知らないんだから!!」
ふてくされたようにため息混じりに話す雪の声に、綾乃は苦笑する。
「また、喧嘩に巻き込まれるのは嫌よ! 今度は、食事だけではすまないわよ!」
「別に……喧嘩なんかしてないわ。ただ、ちょっと悔しいから自分で思いっきり盛り上がろうって思って」
「そう? あ、きっと、古代さん帰ってきてから何かしてくれるわよ。でも、まあ当日いないんじゃ寂しいわね。そうだわ! 千佳と絵梨も誘ってお祝いに行くから」
とりあえず雪の誕生日を祝ってやろうと綾乃も考えた。
「いつものメンバー? でも、急に言っても無理じゃあ」
「うふふふ…… でも二人とも雪と古代さんの愛の巣を見に行きたくてうずうずしてたのよ。予定なんか断わったって来るに決まってるわ」
雪が進と同棲を始めたことは、中央病院の元同僚たちにも伝わっている。結婚はしていないものの、したも同然に仲の良い二人の噂はもれ聞こえてくる。その二人の暮らしを覗き見したいというのは、以前から3人で話していたところだった。
「やだぁ、もうっ! でも、大勢でわいわい出来るんだったらうれしいわ」
照れているが、悪い気はしない。部屋を片付けなくちゃ……などと思いながらうきうきしてくる雪だった。
「じゃあ、明日。そうね、プレゼントとテイクアウトの惣菜をたくさん買いこんで行くから、雪はデザートとお酒だけ用意してくれる? 6時ごろまでには行くわ」
「ええ、いいわ。じゃあ、待ってる」
商談成立だ。明日は、雪の部屋で女だけで雪の誕生日パーティが盛り上がる運びとなった。
翌日、通常勤務を終えた雪は、帰りにちょっとした買い物を済ませると家路についた。デザートとして果物と、もちろんバースデイケーキを買った……自分で買うのもちょっと悲しいなぁと思いながら。
そして、6時を少し過ぎた頃、玄関のベルがなった。
「は〜い」 と、玄関のドアを開けると、綾乃、千佳、絵梨がにこやかに立っていた。
「雪、お誕生日おめでとう!」
3人は口々にそう言いながら、部屋に入ってきた。
「ドキドキするわ……なんだか」 と絵梨。
「綺麗な部屋ね」 きょろきょろしながら話すのは千佳。
綾乃は何度か来たことがあるので、少し余裕のある表情で笑っている。
「や〜ねっ! そんなに見ないで、なんだか恥ずかしいわ。さ、こっちに座って、どうぞ」
雪がはにかみながら、皆に席を勧めた。3人はそれぞれに座ると、さっそく持ち寄ったご馳走を開いて宴が始まった。まずは、ワインで乾杯。雪の誕生日を祝う言葉とともに食事を始める。気楽な女同士のパーティに、皆のアルコールの消費スピードも速い。
最初は職場の噂話やいろんな人の消息話などをしていたが、やはり訪問者の聞きたいことは、雪と進の暮らし振り。ちらちらと話題をふってくる。
「古代さんって家にいる時は、何してるの?」 「別に……ごろごろしてるわよ。TV見たり、音楽聴いたり」
「ご飯とかは雪が全部作ってあげるの? それとも、彼も作る? 家事も手伝ってくれるの?」 「たまにね…… 古代君、わりとお料理上手なのよ」
「それから……」 「もう! なあに? 根掘り葉掘りっ!」
3人がくすくす笑う。彼女たちの質問に、赤くなったりそらをつかったりして答える雪の姿はとてもかわいらしい。そして、雪が抗議しても質問はおさまるどころかエスカレートして行く。アルコールも程よくまわり、女同士で遠慮のない質問が飛ぶ。
「ねえ、雪。一緒にお風呂入ったりするのぉ?」 「えっ!? さ、さぁ……」 真っ赤になる雪。
「ああ! ごまかしてるってことは……」 「そうそう、やっぱりねぇ。どっちが誘うの? 『進さんっ、お風呂沸いたわ。一緒にはいらなぁい?』なあんて言うのぉ?」 「きゃぁ〜! やだっ! 想像しちゃうっ」
雪の顔はワインの赤にも負けない色になる。 「もうっ!」
そしてまた、お酒が進む。随分飲んだ。ワイングラスの空瓶が数本…… そうすると、いかに女性と言えども自然が呼んでくる。
「あ、ちょっとトイレ……」
千佳が立ちあがって少し酔いがまわってきているのか、ふらふらと歩き出した。そして、目に付いたドアのノブを握った。
「あ、そこは違うわっ!」
雪が焦って止めようとするが、間に合わなかった。千佳はその部屋のドアを開けて……そして叫んだ。
「きゃあ〜!! うふふっ! 間違ってベッドルーム開けちゃったぁ」
千佳はけらけらと笑いながら大声で叫んだ。
「え? 何々?」
残りの二人も立ちあがり雪を押しのけて覗き込む。雪は3人の後ろであたふたするばかり。今回の来訪のために念の為、掃除はしてあったが、やはり恥ずかしい。
「やだぁ、ほら千佳、トイレはこっちよ」 雪が千佳を引っ張り出して連れて行った。それをいいことに残りの二人が寝室の様子を物色する。戻ってきた雪が慌てて二人をリビングに押し戻した。
「もうっ! 酔っぱらいは困るわねぇ。ふうっ」
酒のせいか、恥ずかしさのせいかわからないが、真っ赤な顔の雪はため息をつく。今日皆が来たら、きっとこんな風になるだろうな、とは思っていた。皆にからかわれるのは恥ずかしいのだけれど、実はちょっぴりうれしい雪だった。なんとなく、笑みがこぼれる。
「あー 雪ったら、にまにましちゃってぇ! 古代さんと愛し合ってる時のことでも思い出してるんじゃなぁい?」
絵梨がまた突っ込みをいれてくる。
「えっ……」 半分当たっているから、雪は言い返せない。恥ずかしそうに笑うしかなかった。
「いっつも仲良さそうね。雪と古代さんって……」
絵梨がうらやましそうに言葉を続けた。戻ってきた千佳もそれに同意する。
「そうそう、二人で歩いてるのちらっと見たことあるけど、もうなんだかくらくらきそうなくらい熱い雰囲気よねぇ」
「あら、でもねぇ、たまには喧嘩するのよ、この二人……」
綾乃が割って入り、雪が慌てて止めるのもきかずに、先日の二人の喧嘩の話を始めた。
「でね、私の部屋に泊まったのはいいけど、雪ったら酔っぱらって、一緒に寝てる私を古代さんと間違えて迫ってくるんだからぁ! 『古代く〜ん!』って」
「きゃははは……」 笑う二人。 「あやのぉ〜! いじわるっ!」 すねた顔の雪。
「その上、喧嘩してるはずなのに帰りたぁいって言い出すし、しまいには迎えに来た古代さんに私の目の前で抱きついちゃうのよぉ! それを呆然と見るのはかわいそうな私……」
本当に情けなさそうに話す綾乃に、絵梨と千佳はお腹を抱えて笑い出した。雪は綾乃をひじでつっついて抗議する。
「んっ! もう、綾乃ったら……」
「うふふ、ああ、すっきりしたぁ。島さんに話しただけじゃまだ足りなかったんだもの! いいじゃないの、仲がいい話なんだから……」
そのとき何を思ったのか雪が突然表情を暗くした。
「でも…… 古代君、私の誕生日忘れてしまったのよ。ひどいわ……」
笑っていた二人もその言葉に急にシーンとなる。アルコールのせいで喜怒哀楽が少しばかり激しくなるのか、今困ったように笑っていた雪なのに、目に涙をためてうるうるし始めた。雪も自分でもよくわからないが、なんとなく悲しくなってきた。
「古代君、もうわたしのことなんかどうでもいいんだわ……」
思わぬ雪の涙に周りの3人が慌てだし、それぞれに慰めの言葉を考え始めた。
「ちょっと、雪、それは考えすぎよ。きっと、うっかり忘れただけよ。古代さんが帰ってきたら私がきつく叱ってあげるから…… ねっ」
綾乃が雪の肩を抱いて慰める。
「そうよ、そうよ、雪! 古代さん、ちょーっと忘れただけだってぇ! きっと帰ってきたら思い出してプレゼントしてくれるって」
絵梨もフォローに必死だ。
「ほんとにそう思う? 古代君、思い出すと思う?」
雪が涙目で3人に問い掛けると、3人は大きく首を上下に振った。「うんうん!!」 まるで子供をいいきかせるように真剣に優しく……
その表情に雪の顔も少し安らいだ。3人はほっと一息して顔を見合わせる。夫婦!?喧嘩に巻き込まれたら大変だ、とでも言いたげに。
その時、ピンポーン……とドアベルがなった。時間はもう8時。こんな時間に誰が? 4人は顔を見合わせた。もう一度、ドアベルがなる。雪がはっとしてドアホンにでた。
「はい……」
「こちら、○○運輸です。日時指定のクール便をお届けにあがりました」 ドアホンの向こうで声がした。
何か届物らしい。外の様子を写すカメラにも、手に持てるくらいの細長い箱を持った運送屋が立っていた。雪がドアを開けると、その男性は、ニコニコとして玄関に入ってきた。
「森雪さんのお宅ですね」 「はい……」 「日時指定の荷物です、どうぞ。あ、ここにサインをお願いします」
そして細長い箱を手渡すと、雪のサインを受け取って早々に帰って行った。業者が帰ってから雪はさっそくその箱を見た。差出人は……『古代進』
「古代君!」
思わず雪は大きな声で叫んでしまった。後ろから、女性3人が駆けつけ、雪の荷物を覗き込んで口々に言う。
「古代君?? 古代さんからの贈り物なの?? じゃあ、誕生日プレゼントじゃないの?」 「そうよ、きっとそうよ」 「よかったじゃない、雪!」
雪は信じられないといった表情で、その箱をもってリビングに戻った。皆も元の席についた。
「早く開けてみて!!」 3人が目を見開いて促す中、雪はその包みを開けた。
「あっ!」 「まあっ!! きれい!!」 「素敵っ!!」
それは美しいピンクのバラの花束だった。綺麗に整えて箱に入っている数を数えると、22本。今日誕生日を迎えた雪の年の数だけ入っていた。
「古代君……」 雪の目から思わず涙が零れ落ちた。
「まだ中に入っているわ」 絵梨が花の足元の方にある小さな箱と手紙を見つけ出した。 「ほら、雪」
小箱を開けると、それは……小さな宝石のついたファッションリングだった。
「指輪……」
雪が小さな声でつぶやいて指にはめて見た。それは雪の左の薬指にぴったりはまった。
「素敵ぃ!!」 3人が同時に叫び、うっとりとその指をみつめた。
「古代君……」 雪がまたそうつぶやいた。周りの声は雪には聞こえてこない。
「雪ったら、やっぱりすんごく幸せもんじゃないの!」 「うんうん! 古代さんやっぱり誕生日忘れてなかったんだわ!」 「ああ、うらやましいっ!!」
そんな会話がされているのにも気がつかず、雪はじっとその花と指輪を見つめていたが、はっと気がついて手紙の封を切った。
その手紙には、こう書かれていた。
雪へ
22歳の誕生日おめでとう。今年の誕生日は、一緒にいられなくてとても残念だ。だから、誕生日の日に着くようにプレゼントを送ることにしたよ。時間も遅くしたから、雪が帰宅してくれてるといいんだけど。残業しすぎないようにって言ったのを守ってくれてたら大丈夫かな? 君を驚かせたくて、黙ってたんだけど、僕が君の誕生日を忘れたと思っていたかい? それだったら、ごめんね。花は……去年、欲しいって言ってたよな。けど、誰かさんに先を越されて贈りそこなったから、約束通り今年贈ることにしたよ。それから、指輪は……ピンクサファイアだそうだ。サファイアって青いのばかりかと思ったら違うんだね。お店の人に選んでもらったんだけど、以前贈ったエンゲージリングは雪は大事にしすぎてるのかあまりしてるのを見たことがないから、いつでも気軽に使えるようにと思って…… 指輪のサイズは大丈夫だよね? 雪の宝石箱から指輪を一つ借りて店に持って行ったから、間違いないだろう?でもさ、花や指輪のプレゼントを贈るっていうのは、正直言って、やっぱりかなり恥ずかしいね。だから、今回はちょうどよかった。それに、手紙だと口では言えないことも伝えられるような気がする。だから、今から僕の気持ちを書いてみることにするよ。うまく書けるかどうかわからないけど。雪、君にはほんとうはもっと別の指輪を贈らないといけないよね。最近、そのことが気になっているんだ。あれからずっと君は何も言わずに待ってくれている。僕はそれに甘え続けているんだ。もう、何ヶ月も一緒に暮らしていると言うのに……去年のあの湘南の別荘の後、僕はずっと自分の中に持っていた不安な気持ちがだんだんと薄れて行く予感がした。けどそんな時に、あの事件が起こった。僕はまた君を守りきれなくて…… その上、兄さんやサーシャのことがあって、僕はまた君への言葉を飲み込んでしまった。ただ、君の部屋が被害にあったことが、逆に僕には幸いしたのかもしれない。そのおかげで君と一緒に暮らせるようになったんだから。雪、僕の君への気持ちは、初めて君を好きだと気付いた時から変わっていない。いや、もっともっと深くなっていると思う。だから、今度こそ、君に伝えたい言葉を必ず見つけだすよ。もうすぐ見つけられると思う。もう少しだけ、待っていて欲しい。でももし、不幸にして、また何かが起こって君への言葉を伝えられなくなったとしても、必ず覚えていて。僕の気持ちは変わらない。いつも、いつまでも変わらないから、僕を信じていて欲しいんだ。必ず……君と二人で幸せになりたいから。愛してる、愛してる、愛してる……雪。 進より
その手紙を手に持ったまま、雪は動かない。その瞳からは美しい涙の粒が一粒ニ粒と床に落ちた。さっきまで騒いでいた3人も嬉しそうに微笑んで雪の姿を見ている。そして、雪はやっと顔をあげた。
「あ……ごめんなさい。なんだか自分だけ浸ってたみたい……」
雪は涙を拭くと照れ笑いして、進からの手紙を綾乃に差し出した。綾乃は「いいの?」という表情をしたが、雪は黙って頷いた。とても嬉しい手紙だから、幸せな言葉が一杯あるから、みんなにも見て欲しかった。そして……綾乃も絵梨も千佳もニッコリと微笑んだ。
「さ、またまた幸せな雪ちゃんにあてられながら飲むかぁ!」
絵梨がそう言って笑った。残りの二人も同調する。
「そうそう! 今日の所は、おんな4人で多いに盛り上がりましょう。また、雪を酒のつまみにして飲もうよっ!」
2203年9月9日、雪の22歳の誕生日。最愛の進と一緒に過ごせなかったけれど、女友達の温かい友情と、進の優しい愛情たっぷりのプレゼントとラブレターが、雪を幸せにした。そして、このラブレターは進から雪への最初でおそらく最後のラブレターになるにちがいない。
3日後、帰還した進を迎えに来た雪は、人目もはばからずターミナルで進の胸に飛び込んだ。
「古代君、お帰りなさい。それから……とっても素敵なプレゼントをありがとう」
「気に入ってくれてよかった……」
「手紙もありがとう」
「手紙? なんのことだっけ」
進は照れ笑いしながら、とぼける。が、雪の左手の薬指の指輪を見て取ってうれしそうに笑っていた。
ところで、これにはもう一つ余談がある。
先日の二人の喧嘩のとばっちりをうけた綾乃に、後日進が改めて会って謝った時、こっそりこんなことを聞いた。
「ねえ、綾乃さん。雪が最近、左手の薬指に……その……指輪をしてるって聞いたんだ。銀の細いのを。結婚したのかって聞かれたんだけど、俺、そんな指輪買ってやった覚えはないんだ。あの時、例のカメラマンのことでバカみたいに理性を失ったのも、その話を聞いた直後で、もしかしたら、そいつから貰ったんじゃないかって思ったら、どうしようもなく腹が立ってきて…… 変なヤキモチやいてしまったんだ。でも、違うみたいだし…… 綾乃さんは何か知ってるかい? 雪には聞きづらくて……」
「うふっ、ああ、例のナンパ撃退リングね。」
「え?」
「あれねぇ、雪が自分で買ったのよ。雪ったら、一人で歩いてるとすぐ声かけられるんですって。それがわずらわしいって。そんな時にあの指輪をキラッと見せたら、ねっ、既婚者に見えるでしょう? だ・か・ら……」
「あ…… そうだったのか」
「でもね、あの指輪を自分で買って左の薬指にしてる雪の本当の気持ちも、古代さん、わかってやってちょうだいね」
「……わかって……るよ、綾乃さん」
このときの会話が、進のこの誕生日プレゼントと手紙を生み出したのだった。
−お わ り−