分岐点1−(2)
  兄さん、僕のフィアンセです
(宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ちより)

 (1)

 イスカンダルは、消えた。そして、スターシアも逝った…… 残されたのは、スターシアの夫、古代守と遺児のサーシャ。その二人を乗せてヤマトは一路地球へ向かった。

 古代守とサーシャの二人を、周りの人々は遠巻きに見ることしかできなかった。それは、弟の進も同様だった。目の前で最愛の人を失った兄に、何をどう言って慰めていいのかわからない。
 この前の戦いで、テレサを失った島にも言葉が出なかったが、いつも憧れ尊敬していた兄に対しては、さらに言葉がでなかった。進から見ると、守は自分達を助けに来たヤマトのクルーに対して、感謝と遠慮からか、努めて辛さを見せないようにしているようで、却って痛々しく感じられるのだった。だから、進は雪にこう頼んだ。

 「雪、兄さんとサーシャのことを頼むよ。兄さん一人じゃ、赤ん坊の世話も大変だろうから、様子を見てやって欲しいんだ。それと…… 僕達のことだけど…… 兄さんに話すのは帰ってからでもいいかな?
 兄さん、スターシアさんを亡くして、今すごく傷ついてると思うんだ。だから、僕だけなんかそういう話をし辛くて…… ごめんよ」

 「わかってるわ、古代君。私達のことは急がなくても、帰ってからゆっくり聞いてもらえばいいじゃないの。気にしないで。サーシャちゃんのことは気をつけて様子見るようにするわ。だから、心配しないで、艦長代理!」

 「こらっ!ちゃかすなよ。……すまない、雪。頼んだよ」

 二人はニッコリと微笑みあった。

 (2)

 古代守は、意外に自分が冷静なことに驚いていた。深く愛しあっていた最愛の妻、スターシアを失ったことは、言いようもなく悲しいことだった。だが、その後を追おうとか、悲嘆に暮れて何も手につかないということはなかった。すべてはサーシャのおかげだと思う。この小さな娘が自分を支えてくれているようなそんな気がしていた。
 そして、進…… いつも自分の尻ばかり追っかけていた小さな弟が、今は立派になってヤマトを指揮している。このことも、守にとっては心の支えになった。そして、今まで何もしてやれなかった弟が幸せになることを切に望んでいた。

 ヤマトが地球に向けて発進して数日たった昼時、守がサーシャとあてがわれた部屋にいると、雪がサーシャを連れに来た。今回の航海にヤマトに乗っている唯一の女性クルーだ。その上、スターシアに似たところがあるせいか、サーシャはすぐに雪を気に入ってなついた。

 「古代さん、少し休んでください。お昼ご飯でも、ゆっくり食べていらして。私、しばらくサーシャちゃんとサロンで遊んでますから。あの……古代君…弟さんともゆっくり話してないでしょう? 彼も今食事休憩中だから、食堂にいると思います」

 「ありがとう、森さん。お言葉に甘えさせてもらうよ。進とも少し話をしたいと思ってたんだよ。頼むよ。けど、手におえなくなったら、いつでも呼んでくれよ」

 「はい…… わかりました」

 雪はニッコリ笑うと、サーシャを抱き上げて出ていった。サーシャもうれしそうに笑っている。

 (いい娘(こ)だな。スターシアも気にしていたが、以前イスカンダルで会った時より、一段ときれいになってしっかりしてきたな。進もあんな娘と付き合えれば心配いらないんだが…… 
 だけど…… あいつには無理か、ちょっとレベルが高すぎるだろうかなぁ。大体あいつは女の子と付き合ったことだってあるんだろうか? ヤマトの艦長代理になって、宇宙戦士としては立派になったようだが……)

 守はそんなことを考えながら、自室を出た。

 (3)

 廊下を歩いていると、すれ違うクルーたちが緊張した面持ちで、しかし、きちんと頭を下げる。皆、なかなか好感の持てる雰囲気だ。艦内の規律がきちんとしている証拠だ。

 (進のやつ、結構ちゃんとやってるみたいだな)

 自分の記憶の中の弟はまだやんちゃ坊主なのだが、そろそろ認識を改めないといけないらしい。
 食堂に着くと、進は数人の仲間と食事を始めるところだった。

 「進!」

 守の声に進は入り口の方を振り向いた。

 「兄さん! 食事かい? 一緒に取ろうよ」

 進は嬉しそうに笑って、仲間に断わると食事のトレーを持って守に近づいてきた。守も食事トレーを取り、二人で空いたテーブルを探して席についた。

 「サーシャは?」

 「今、森さんが見てくれてる」

 「あ、そうか……」

 「いいのか? 彼女も仕事あるんだろう?」

 「いや、大丈夫だよ。帰りは訓練も少ないし、普通の航海の時は、雪がいなくても大丈夫だから。サーシャのこと心配してたから、僕からも頼んだんだ。面倒見てやってくれって」

 ニッコリ笑いながら話す進の姿を守は頼もしげに見た。

 「なんだよ、兄さん。そんな顔して見て……」

 「いや、お前も立派になったもんだなぁって思ってな」

 守の言葉に進はちょっと顔を赤らめた。

 「やだな、兄さん。まだまだだよ…… それより、どうだい?ヤマトの乗り心地は?」

 「快適だよ。クルーの雰囲気もいいし、感心してたところだよ」

 「よかった…… 地球に帰るまでゆっくり過ごしてくれよ」

 そう言いながら、進は探るような目で兄の姿を見つめた。進の奴、俺のこと心配してるんだな、そう気付いた守は思わず笑みがもれた。

 「進…… 俺のことは心配要らんぞ。俺にはサーシャがいる。あの子には俺しかいないんだからな。スターシアのためにも、あの子を立派に育てないと。それより、進、お前の方はどうなんだ?」

 「どうって、何が?」

 「いろいろさ、どうやって暮らしてるんだ? イスカンダルから帰ってからどうしてた? どんな仕事してたんだ? 一人で暮らしてるのか? いつも食事はどうしてた? 彼女でもできたか?」

 「な、なんだよ、兄さん、矢継ぎ早に! ちゃんとやってるって! 僕だってもう20歳過ぎたんだよ。もう大人なんだから……」

 「あっはっはっは…… そうだったな、すまんすまん。な、進、今晩でも仕事終わったら俺の部屋に来ないか? サーシャは眠ったらめったに朝まで起きないから、ゆっくり積もる話でもしよう」

 「うん…… わかったよ」

 進は、兄が昔と変わらず少し強引なくらいの調子で話し、笑顔もあったことを喜んだ。兄弟は久しぶりの会話を楽しんで食事を終え、食後、二人は連れ立ってサロンに向かった。

 (4)

 サロンでは、雪がサーシャと遊んでいた。他にも数人のクルーがいて、サーシャの相手をしようとしていた。ところが、サーシャは雪にはすっかりなついているものの、他の人には人見知りでもするのかむずがって抱っこさせないようだ。雪はそれを面白そうに見ている。守は、そんな雪の姿をほほえましく思いながら、ふと隣の弟の方を見た。

 (ん? 進……彼女のこと……惚れてるのか?)

 まぶしそうに雪を見つめる弟の姿を、守は見逃さなかった。その時、雪が二人に気付いて近づいてきた。

 「あら、古代君達、もうお食事終わったの?」

 「うん、ありがとう、雪。ちょっと、コーヒーでも飲もうかと思って」

 「じゃあ、私がいれるわね。あ、古代君、サーシャちゃんお願い」

 ひょいと赤ん坊を手渡されて進は焦った。

 「えっ? ええっ!! ちょ、ちょっと……!」

 サーシャは一瞬不思議そうな顔をしたが、そのままむずがることもなく進に微笑んだ。

 「うふっ、さすが叔父様ね。サーシャちゃん泣かないわ」

 雪もうれしそうにサーシャと進の顔を代わる代わる見て微笑んだ。進も姪に気に入られたことがまんざらでもないのか、おっかなびっくりの顔が得意そうな顔に変わった。守はそんな二人の様子を見ながら考えていた。

 (へえ…… なかなか似合ってるじゃないか、あの二人。これは、なんとしても進をけしかけてやらないとダメだな。よーし!)

 そんなことを思っている守は、二人が既に婚約までしているとは知るよしもなかった。

 (5)

 2201年も終わりの日のことだった。古代守は、このヤマトに乗ってから数日は、誰とも話をしていなかった。サーシャと二人でヤマトの中に慣れることと、心を落ち着かせることに費やしていた。進ともゆっくり話がしたかった。親友の真田ともそうだった。真田も、イスカンダルの戦いの後の修理作業に忙しいかったようだが、昼に進に確認したところ、それも大体終わったと言うことだ。

 (あいつとも、一杯飲まないとなぁ……)

 夜になってそんなことを考えていた時、進が守の部屋にやってきた。そして、守が質問する形で、進は地球と自分のその後のことをゆっくりと話した。
 まずは、沖田艦長の最期のこと…… 二人して心から冥福を祈った。そして、地球の復興と進の仕事のこと、白色彗星との戦いのこと。ひとつひとつを丁寧に話す進を、守は黙ってじっと聞き入った。弟がずいぶん大人になったこと、しかし、それだけにひどく辛い思いをしたことも感じた。

 (進のやつ…… 苦労したんだなぁ、まだ20歳になったばかりだというのに……)

 守は進の両肩に手をドンと乗せ笑った。

 「よくやってきたな、進。俺は嬉しいよ、お前がこんなに頑張っていてくれて」

 「……やだなぁ、兄さん。僕はまだまだ迷うことばかりなんだ。だから、これからは兄さんがいてくれるのがとてもうれしいんだ。僕も一人じゃないって思えるから……」

 二人っきりと言うこともあってか進はすっかり守に甘えている。そんな進の姿も、兄にはうれしく感じられた。そして…… 今度はプライベートのことを聞き始めた。

 「ところで、進。地球のことも仕事のこともよくわかったが、お前はどんな暮らししてるんだ?」

 「どんなって、今は、一人でマンションを借りて住んでるよ」

 「へええ…… 自分で食事なんかも作ってるのか?」

 「ま、まあね……」

 そう答えながら、進の頭の中には、雪のことが浮かぶ。雪はよく進の部屋に来て食事の世話をしてくれていた。それが、兄にもなにか感ずるものがあったのか……

 「ん? それとも、誰か作ってくれる娘(こ)でも見つかったか?」

 たたみかけるように守が質問した。進は、この航海中には雪のことを紹介するつもりにしていなかったものだから、何をどういっていいかわからず焦ってしまう。

 「ま、まさか…… いないよ、そんな娘(こ)……」

 「なんだ、情けない奴だなぁ、20歳にもなって…… けど、好きな子くらいはいるだろう?」

 「えっ? あ、いやぁ、その……」

 いっそのこと、雪との婚約のことを言ってしまえば簡単なのだが、そのあたりがうまく対応できないのが、進の不器用なところだ。隠すつもりでいたものだから、どうも言葉がでてこない。

 「困ったやつだなぁ、進は…… あの、森雪って子はどうなんだ?」

 守のいきなりの的を突いた質問に、進は真っ赤になって絶句した。

 「え…… あ、あ……」

 「あっははは、なんだお前、顔に思いっきり出てるぞ! ははは、好きなんだ? 彼女のことが」

 「兄さん!! いきなり、なんで雪の話が出て来るんだよっ。彼女は……」

 ただの同僚だ。と言ってしまえば嘘になる。といって、いきなり実は……と切り出せない。進の言葉はそこで詰ってしまった。

 「彼女は?」

 「もう、いいじゃないか。とにかく、そういう話は地球に帰ってからしようよ。ここはヤマトの中だよ、仕事中なんだからっ!」

 叫ぶようにそう答えて、進はやっとのことでその話を打ち切った。守も進の焦り様にそれ以上追及することはやめた。が、だいたい弟の気持ちはわかったというところだ。

 「まあいい。今日のところはこれで許してやるよ。あまり遅くまで付き合わせたらお前の明日の業務に支障が出るな。ありがとう、進。また、来てくれよ」

 「ああ、兄さん…… お休み。あの……」

 「ん? どうした?」

 「……兄さんは……大丈夫なのかい? こんなこと聞いていいかどうかわからないんだけど、辛いことがあって…… 僕ができることがあれば……」

 言いにくそうに進が話す。スターシアの死の事を言っているのだ。守は、弟の気遣いに感謝して微笑んだ。

 「ありがとう、進。彼女の事は、少し気持ちを整理したら聞いてもらおうと思っているんだよ。そのうちに……な」

 恐る恐る兄の顔を見る弟に、守はそう答えた。進の顔にほんの少し安堵の表情が見えた。

 「そう……か、わかったよ、兄さん。じゃあ、おやすみ。また明日」

 「おやすみ」

 そして、2201年は静かに終わりを告げて、2202年を迎えた。その正月の日、展望台で雪に受けた質問をきっかけに、守は、進と雪にスターシアの選んだ道について話す機会を持った。守は話しながら、自分が少し冷静にスターシアの思いを見つめられる事に気付いた。
 そして、寂しさは消えないが、目の前にいる二人の姿に、スターシアと自分の分もこの二人に幸せをつかんでもらえそうなそんな予感がしたのだった。

 (進と雪さんは、互いに好きあっているみたいだ……)

 並んで自分の話を聞く二人を見て、守は確信を持った。

 (6)

 翌日、守は真田からの連絡を受けた。手がすいてきたから、相談したいと言っていた事を聞こうというのだった。相談したい事というのは、サーシャの事だ。イスカンダル人と地球人の間に生まれたサーシャには、守が危惧する問題が何点かあった。
 相談の結果、佐渡先生にも聞いてみようという事で、サーシャを抱いた守と真田は、医務室に向かって廊下を歩いていた。

 その頃、展望室では、休憩時間が一緒になった進と雪が話をしていた。

 「古代君、お兄さん落ちついてきたみたいでよかったわね」

 「うん、サーシャの事では君にいろいろ世話になってすまないなぁ」

 「うふふ…… 何言ってるのよ。サーシャちゃんは、あなたのお兄さんの子供、あなたの姪っ子でしょう? だったら私にとっても……」

 雪はちょっと頬を染めた。「私にとっても姪みたいなもの」そう言いたかったのだ。

 「ああ、そうだよな、雪はおばさんかぁ。あはは……」

 「まあっ! おば……っ! なんですって!!」

 「あ、いや、あっははは、ごめんごめん……」

 「んっ! もうっ! でも、サーシャちゃんって今何ヶ月くらいなのかしら? もう、離乳食もたくさん食べてるし、はいはいも上手。言葉だってもうマンマくらい話すでしょう?」

 「ん? うーん、俺はよくわからないけど、それがどうかしたの?」

 「だから、もう一歳近いと思うんだけど…… 私達がイスカンダルを立ったのは、2年前の5月の末だったでしょう? 赤ちゃんがすぐできたとしたら、ちょうど9ヶ月か10ヶ月ってところかしら?」

 雪は、さすがに看護婦だけあって、胎児の月齢と赤ん坊の月齢を計算したようだった。進にはさっぱりだったが……

 「へええ、そうなんだぁ。ってことは、サーシャの製造年月日は、俺達がイスカンダルを出てすぐってことなんだなぁ。あっははは…… さすが、兄さん、やることは早いなあ」

 進は、ニヤニヤしながら答えた。

 「いやだぁ、古代君ったら、製造年月日だなんてっ! もう……」

 雪は顔を赤らめた。

 「あっ…… いや、あ、その……」

 思わず漏らしてしまった言葉に雪が反応して、進も赤くなってしまった。互いの顔を見てまたカッと熱くなって、けれども、その場をごまかそうと、頭をかきかき進はわけもなく大笑いした。

 「いやぁ、あははは……」

 「うふふふ、あはは……」

 雪も一緒になって笑い出した。何の話をしても、結局は楽しい恋人達だった。

 その時、展望室の前を、真田と守が通りがかった。二人の大きな笑い声が廊下にまで響いていた。

 「ん? あの笑い声、進の声だな? もう一人は、女性……ということは、雪さんか?」

 守はその声を聞きとがめた。

 (7)

 「ははは…… あいつらまた展望室でデートしてるんだな」 真田が、苦笑して答えた。

 「また?」 守が不思議そうに尋ねる。

 「ああ、ヤマトの名物のひとつだよ、展望室の奴らのデートは」

 「えっ? 名物って? あの二人どういう関係なんだい?」

 守が真面目に尋ねるので、真田は驚いて立ち止まった。

 「お前、まだ進から聞いてないのか?」

 「どういうことだよ、真田。進が彼女に惚れてるのは気がついたし、彼女もまんざらでもないな、とは思っていたんだが……」

 考えるような格好をする守を見て、本当に知らないんだな、と思うと真田はまた苦笑してしまった。

 「進の奴、兄さんのお前に何も言ってないのか? 困った奴だな。まあ、あいつのことだから、お前の事気遣って……」

 「なんだよ、教えろよ。真田!」

 守の迫力に真田は両手を挙げて降参するような格好をした。

 「わかった、わかった…… 佐渡先生との話が終わったら、ゆっくり説明するから……」

 守と真田は、ちょうど医務室の前に来ていたので、話は一旦中断して医務室へ入っていった。

 (8)

 しばらくして医務室から出てきた二人は暗い顔をしていた。

 「古代、どうする? サーシャの事…… このまま、地球には連れて行けないんじゃないか? サーシャは成人するまで地球に置くことは危険だ」

 「ああ、地球に着くまでに考えてみるよ」

 「わかった。俺も何か手だてがないか問い合わせてみるよ」

 「すまないな」

 しばらく考え込んでいた守だったが、それを降りきるように顔をあげた。

 「サーシャのことは少し調べてもらってからだな…… 仕方ない…… それより進たちの事だ。ちゃんと教えろよ、あの二人は、恋人同士なんだな? 付き合ってるんだろう。なのに、進の奴、ごまかしやがって!」

 さっきの事を思い出した守は、怒鳴るような声で話す。その声にサーシャがびっくりして父親の顔を大きな目をあけて見つめた。

 「まあまあ、落ちつけ、古代。進だってお前の状況を考えてあまり余計な事を言わない方がいいと思ったんだろうから」

 「何いってるんだよ、真田!! 自分の恋人が隣にいるのに兄貴に紹介しないなんて、俺にも彼女にも失礼だろうが! だいたい、どういう付き合いなんだ? あの二人は……」

 真田の必死のフォローにも守の剣幕は納まらない。どういう付き合いかというのを答えれば火に油を注ぐのは必至だ。しかし、これでまた下手に隠したら、守は怒り狂うかもしれない。覚悟を決めて真田は話した。

 「あの二人な…… 実は、もう婚約してるんだ。それも、結婚式も決まってた…… 白色彗星との戦いで延期になってしまったがな」

 「な・ん・だ・っ・て〜〜〜!!!」

 すれ違ったクルーたちが驚いて二人を見るほどバカでかい声で守は叫んだ。サーシャの顔が泣きそうにゆがんだ。

 「おいおい! とにかくお前の部屋に行こう。ゆっくり説明するから」

 真田は、守を促して廊下を急いだ。守の部屋に入ると、真田は、進と雪の付き合いについて知っていることを順番に説明した。守は黙って一点を見つめるようにして話を聞いていた。

 「と言うわけだ…… いいカップルだぞ。あの二人は……深く愛し合っている」

 真田の話が終わってもまだ黙りこくっていた守だったが、ふっと一息ついて相好を崩した。

 「そうか、そうだったのか…… 進…… よかったよ、本当に」

 そして顔をあげて笑った。しかしそれは普通の祝福の笑顔には見えない。『不敵な笑い』とでも言うのだろうか? その笑みの意味を測り兼ねて真田が尋ねる。

 「おい、古代?? どうした?」

 「進の奴め、こんな大事な事を兄貴に内緒にするなんて。絶対にアイツから自分で言わせてやるからな! 俺が知ってることは進たちには内緒だぞ、いいな! 真田!!」

 (9)

 ヤマトの地球への帰還の旅は順調だった。第一艦橋でもリラックスムードだ。すっかり操艦に慣れた北野が、一日のワープ予定を無事終らせた。

 「ワープ終了、目標地点との誤差は0.01宇宙キロ。ほぼ予定通りの航路を航行中」

 「よし! 北野いいぞ。古代、今日のワープはこれで終わりだ」

 北野の報告を確認して島が進に向かってニッコリ笑った。

 「ふうーっ! 了解」

 訓練のない通常航行の日は、その日の予定のワープを終えると、ほぼ全員がフリーとなる。

 「さぁ、飯だ、飯だ! 古代、行くか?」 島が進に声をかけた。

 「ん? いや…… 俺は……」

 進は兄の様子でも見に言って食事に誘おうかと思った。が、島は違ったふうにとったようだ。

 「あ、そうか…… すまん、すまん。今日は夕食前にデートタイムか? 今日はどこへ行くんだ? 古代君に雪さんっ!」

 島が二人を交互に見て茶化した。島の言葉に第一艦橋のみんながどっと沸いた。

 「もうっ! 島君ったらぁ……」

 「ばかいえっ!」

 二人して照れているが否定するわけでもない。戦闘の心配のほとんどない航海というのは、なごやかなものだ。しかし進は、このままここを出たら島の言うとおりだと思われてしまうのも気恥ずかしくて、島を誘った。

 「飯、行くぞ、島!!」

 「だから邪魔しないってさぁ」 島は笑いながら手を振った。

 「あたし、サーシャちゃんが気になるから古代さんのお部屋に寄ってみるわ。お二人さん、お食事お先にどうぞ」

 照れている進をフォローするように雪はそう言って、先に第一艦橋を出ていった。その姿に島はまたくくっと笑った。

 「残念だったな、古代。兄さんに取られちまったな、彼女!」

 「何ばかなこといってんだよ!」進は島の頭を軽く小突いた。「雪はサーシャのことが気になるだけだ」

 (10)

 進たちが食堂で食事をほぼ取り終えた頃、サーシャを抱いた雪が守と一緒に食堂へ入ってきた。食堂がざわめいた。

 「おい、あの3人なんか妙に似合ってないか?」

 「うん、本当の親子みたいだよなぁ。雪さんと古代守さんもいい雰囲気だぞ」

 「おいおい! 雪さんは、古代艦長代理のフィアンセだぞ。それはまずいんじゃないか」

 「けど…… わかんないぞ、男と女ってのは……」

 勝手なことを噂しあう輩もいる。進の耳に入らないように話しているはずなのにそんな話はなんとなく聞こえてくる。それに島が目ざとく反応する。


(by めいしゃんさん)

 「おい! 古代、大丈夫か? ほんとにいいムードだぞ、あの二人……」

 もちろん冗談で言っていることは、島のにやけ顔でわかるのだが。

 「ばーか、俺の兄さんだぞ。そんなわけないだろ?」

 進がへっちゃらな顔をすると、もっといじめてやりたくなるのが島の心境だ。さらに突っ込む。

 「そんなことわからんぞ。弟の婚約者だとはいえ、雪はスターシャさんに似ている。最愛の妻によく似た女性が親切にしてくれれば、男心は……」

 「そんなことあるはずないよ。それにまだ雪のことは紹介してない」

 「え? 言ってないのか? 兄さんに? どうして?」

 「兄さんが大変な目にあったのに、俺だけ幸せそうにするわけにもいかないからな。地球に帰ったら折を見て話そうと思って……」

 「ああ、そりゃあ余計に危ない危ない、お前、変に気を遣うより早く言っといた方がいいぞ」

 島のからかいの言葉に追い討ちをかけるように、守と雪はさらに笑顔で談笑している。守も雪も進がいるのに気付いていないような雰囲気だ。島の手前、平気な顔をした進も心の中に少し不安がもたげた。

 (兄さんが……? まさか……)

 (11)

 守は進の存在に気付いていた。そして自分達の方を見ていることも。それがわかっていて、わざと雪にいろいろと話しかけて雪の注意を自分のほうに向けていた。サーシャのことを話題にすれば、雪はいくらでも興味深げに話に乗ってくるのだ。

 「雪さんは本当に赤ん坊が好きなんですね」

 「ええ…… だってとってもかわいいんですもの。それになんだかサーシャちゃんって他人(よそ)の子に思えなくて……」

 進の姪っ子だと思って見ると、サーシャは何よりも増してかわいい。それに、進の兄と自分に似ていると言われるスターシアの子供だ。もしかしたら進との子供もこんな感じかしら、などと思い始めると、もうかわいくてしかたがなくなるのだ。

 (古代君と私の赤ちゃん…… いつ、私の腕に抱くことができるのかしら? サーシャちゃんみたいにかわいいわね、きっと)

 サーシャを見つめる雪の温かな視線に、守は雪の思いを感じ取った。

 (彼女は、サーシャに自分と進の間の子供の姿を見ているのかな? 真田は結婚の延期は二人が決めた事だといっていたが、本当のところはどうなんだか…… 進には早く白状させて、二人には幸せになってもらわないとなぁ。進の奴をつっついてやるか……)

 雪はそんなこととは露知らず、サーシャをあやしながら食事を始めていた。守も食事を始める。
 一方、進の方は島たちからつつかれた。

 「おい、古代、行ってお兄さんから雪を取り返してこいよ!」

 「だから……!」

 進が言い返そうとするが、周りはみなニヤニヤと笑って聞く耳を持たない。進も実は何を話しているのか気になりだしていた。

 「仕方ないな……」

 進はしぶしぶを装って立ちあがると、守たちのほうへ歩き出した。

 (12)

 進が数歩近づいたその時、守が雪の耳元で何かを告げ、その瞬間に雪が顔を真っ赤にして守をみつめた。守のしぐさと雪の反応に進は一瞬足が止まってしまった。

 (な!? 兄さん、雪に何を言ったんだ? 雪があんな顔するなんて……)

 進の心に漣(さざなみ)が立った。守がそっと雪に耳打ちこととは……

 「雪さんはサーシャを見てると、進との子供の事でも想像してしまうのかな?」

 「えっ!?」

 その言葉に雪は赤面した。不意に耳元でささやかれたことに加え、その言葉は雪が今心の中で思っていたことにピッタリだったのだ。まるで心の中をすっかり見透かされたようで、雪は顔が熱くなるのを感じた。

 (古代君とのこと、知ってらっしゃるの?)

 そう尋ねようとして顔を上げた。守は、ニッコリ笑っている。はたからはちょうど見つめあっているように見えた。

 「あの……」

 「雪!!」

 雪の声を打ち消すように進が声をかけた。守も雪もその声に顔を上げた。

 (13)

 「古代君!!」

 「あ、進か……」

 雪は守との会話とサーシャをあやすのに忙しくて進たちが自分を見ていることに気付いていなかった。だから突然目の前に現れた進に驚いてしまった。その驚きに他意はなかったのだが、守の余裕を持った笑みを見、さっきの雪の赤面を見ていた進にとっては、何か含んだものがあるように思えてしまった。

 「雪さんには、本当に世話になってるよ。今でもすぐサーシャのお母さんになれそうなくらいだよ、雪さんは…… ねぇ」

 「いえ……そんな……」

 雪はその言葉を誉め言葉として受け止め、謙遜した。しかし、優しく囁くように雪に話す守の声と、雪の恥ずかしそうな笑顔が、進の心を更に波立たせる事になっていたとは雪も気付かなかった。進は、二人を前にして顔がこわばるのを感じた。そして、自分でも気付かないうちに、こう言っていた。

 「雪、明日、救護関係の訓練をするんだったよな。ちょっと、そのことで確認したい事があるんだ。来てもらえないか?」

 「明日の訓練? あら?でもあれは、内容は任せるって昨日古代君が……」

 今回のヤマトの航海の目的は、新人達の訓練。その一環として生活班を中心にした救護訓練を明日に予定していた。だが、その訓練も何度か行ったものでたいして問題はないはずだったので、雪は進のその言葉にびっくりしてしまった。

 「ちょっと気になるんだ。仕事なんだ、来てくれ!」

 進の語調が強くなる。

 「……? わかったわ。あの古代さん……」

 雪は進の不機嫌の理由が理解できなかったが、仕事だという進に反対する理由もなく、了解し、サーシャを守の方に差し出した。

 「ああ、すまなかったね。サーシャをこっちへ。けど食事がまだだろう? 進、食事くらいさせてやったらどうなんだ?」

 守の言葉に進は表情を変えずに答える。守の目が笑ったことに進も雪も気付かなかった。

 「……待ってるから、早く済ませろ」

 進は表情を変えずにそっぽを向いたまま、雪の目の前の椅子に座った。

 「古代君、ちょっと待ってね」

 雪は、慌てて残っていた食事を済ませて席を立った。それと同時に進は黙ったまま、先に立って食堂から出ていった。雪は食器を片付けると駆け足で進の後を追った。

 (14)

 二人が出ていったとたん、守が抑えていた笑いを堪えかねて笑い出した。

 「くくく…… はははは…… サーシャ、今の叔父さんの顔見たか? あははは…… あいつ、さっきの俺の態度をきっと誤解したぞ。あははは……」

 言葉のわからないサーシャにだけ聞こえるような小声で守はそう言って笑った。サーシャはただ父親がうれしそうに自分に微笑んでいる事がうれしくて微笑を返した。

 その時、島が守に歩み寄ってきた。さっきの様子を進の後ろから見ていた島はまさかとは思いながら、進と同じ危惧をしたのだった。

 「あの…… 古代さん」

 「ん? 島……君だったかな? 何か?」

 「はい、島です。あ、いえ、あの……守さん、古代と雪は……」

 「わかってるよ」 守がさらっと答える。

 「え?」

 「真田から聞いている。あいつが雪さんとのことを自分で言い出さないんで、ちょっとからかっただけだ。心配しなくても大丈夫だよ」

 「ああ……なんだ。ははは、そうなんですか?」 島はほっとしたように笑った。

 「すまないね、君達にも心配かけたかな?」

 「あ、いえ、ちょっと……いい雰囲気だったもので」

 「そうかい? それは惜しい事をしたかな? でも、彼女の頭の中も進のことで一杯みたいだから……」

 守は、サーシャを抱き上げてあやしながら島の方を向いて笑った。

 「つまり、お兄さんのほうが一枚上ってわけですね?」

 「ふふふ、まあな。ということだから、あいつには黙っててくれ。自分のフィアンセくらい、自分で紹介させないとな」

 「はい、了解しました!」

 島は守のいたずらっぽい笑みに満足した。周りには、いつの間にか第一艦橋のいつもの面々が寄ってきていて二人の会話を聞いていた。皆大きく頷きながら二人と一緒に笑った。進と雪のことになると、第一艦橋は心が一つになる。いじめているのか、気遣っているのか…… そのあたりは紙一重ではあるのだが。

 「古代、あんまり弟をいじめるなよ」

 後ろから守の肩をポンとたたいて、真田が苦笑しながら一言釘をさした。

 (15)

 廊下を先に歩く進にやっと追いついた雪が声をかけた。

 「古代君!! どうしたの? そんなに問題でもあったの?」

 「…………」 進は黙ったまま答えない。歩調も緩みそうもなかった。

 「古代君!!」

 二度目の雪の声に、進はやっとそこに雪が来ている事を思い出して歩みを緩めた。一瞬、なぜ自分がここを歩いているのか、なぜ雪が後ろから来ているのか、進にはわからなくなってしまっていた。

 「あ、ああ…… 何?」

 「何?じゃないでしょう。明日の訓練のことよ。あ……ほら、そっちじゃなくて、こっち! 医務室の私のデスクに置いてあるから……」

 とぼけたことを言い、どこへ行くつもりなのかも判っていない進の態度を不思議に思いながら、雪はその手を引いた。

 「あっ…… い、いや……ちょっと見せてもらいたいだけだから……」

 進はやっと自分がさっき言ったことを思い出したが、まさか守から雪をむりやり引き離してくるのに使った方便だとは言うわけにもいかず、言葉を詰らせた。

 「まあ、いいわ」

 進があまり話したがらないので、雪はそれ以上は尋ねるのをやめて、二人は雪のデスクに向かった。

 (16)

 デスクに着くと、雪はすぐに明日の計画書を出して進に手渡した。

 「はい、古代君。どうぞ、ゆっくり見てちょうだい」

 「ああ……」

 進は、脇の椅子に腰を下ろすと、その計画書を1枚1枚見るような振りをしてめくっていった。当然、内容に問題があるわけではない。前回も何も問題なく訓練は行われている。整然とまとめられた書類は雪の企画管理力の高さを表していた。だが、進の目にはそこに書かれている文字は何も入ってこなかった。頭の中では、さっきの兄の態度と雪の反応が繰り返しリプレイされていた。

 (兄さんが雪のことを…… 雪も……? サーシャのお母さんになりたい? そんな……)

 「まさかな……」

 「えっ? なにがまさかなの?」

 進が夢想の末、思わず口に出てしまった言葉を、雪が聞きとがめた。

 「え? ああ、いや……俺の思い違いだったみたいだ。問題ないよ。すまなかった、食事中に……」

 進はそう言うしかなかった。困った顔で進にそう言われると雪のほうも笑うしかない。

 (何を思い違いしたんだか、さっきの剣幕はすっかりおさまったようね。変な人……)

 「うふふ……いいわよ、古代君。問題がないのならよかったわ。それより、あなたちょっと顔色が悪くない? 具合でも悪いの?」

 「いや……なんでもないよ…… つ、疲れが出たのかな……」

 「そうねぇ、この前の戦いの後、地球での一ヶ月間でもいろんなことがあったし、訓練航海に来たと思ったら、いきなりこんなことになったんですもの…… 古代君、疲れてるのよ」

 「うん……」

 疲れていると決めつける雪に、『違う、君と兄さんのことが気になってしまった』などと言えるわけがなく、進は力なく頷いた。

 「それじゃあ、生活班長としては、ほぉっておけないわね、古代君!」

 雪はニッコリ微笑んだ。

 「え?」

 「イメージルームで治療しましょう。体の疲れは睡眠を十分に取れば治ると思うけど、精神的にも疲れてるようだもの。少しリラックスした方がいいわ、ねっ!」

 「あ、いや…… けど……」

 「いいのいいの、今夜はもう仕事もワープもないし、付き合ったげるから、ね!」

 雪は、尻ごみする進の手をひっぱってイメージルームへ向かった。

 (17)

 イメージルームに着くとさっそく雪は準備に入る。

 「古代君、何がい〜い?」 「……なんでもいいけど……」

 「だぁめ! ちゃんと自分で選んで!」 「う、うん…… じゃあ、海辺の風景で」

 「BGMは?」 「いらない……波の音だけ……」

 「OK! そこに座って待ってて」

 パタンと音がして直ぐに映像が写し出された。砂浜と打ち寄せる波、浜には小さな小屋のようなものがある他は建造物は何も見えなかった。後ろには、一本の細い道路が走るだけで、直ぐに山が迫っている。どこにでもありそうな小さな浜辺だ。
 進は椅子をよけてそのまま床にゴロンと寝そべって目を閉じた。ザザーン、ザザーンという静かな波の音だけが耳に入ってくる。心は、少年の頃過ごした三浦の海に飛んでいた。

 (兄さんと一緒によく浜辺で遊んだっけ……)

 進の心の中に、いつもまとわりつく自分とちょっと迷惑そうな中学生の兄の姿が浮かんでくる。そして、夏の日差しと小さな少女の姿…… なんとなく覚えている昔の思い出がよみがえる。進は女の子を思い出した時、ふと雪がいることを思いだした。

 「雪……?」

 「なあに?」 イメージルームのコントロールエリアから雪が顔を出す。

 「こっちに来ないか?」

 「ええ……」

 進の誘いで雪はその隣にちょこんと座った。進はひとりごとをつぶやくように話し出した。

 「思い出したよ、昔、兄さんがよく連れていってくれた浜辺の事を…… 俺と兄さんは10歳も年が離れてるだろ。今思えば、俺と遊ぶのなんか兄さんは面倒だっただろうと思うよ。俺は兄さんが大好きでいつもそばを離れたがらないしさ。仕方なく、お母さんが連れていってやれって言うもんだから……ね」

 進が苦笑しながら話した。

 「でも、いいわねぇ。兄弟がいるのって…… 私にはうらやましいわ」

 「ははは…… ないと欲しくなるもんだからな。兄さんは大好きだったし、俺の憧れだった。兄さんは子供の頃から優秀だった。何をしても簡単にこなしてしまう。父さんも母さんも期待してた。けど、一方で俺は兄さんには何も勝てるものがなくて、よくすねてたよ。宇宙戦士訓練学校に行ってからだって、兄さんが帰ってきたら、親戚までそろって兄さんを囲んで宴会だもんな。俺は、ひとり部屋にこもっていじけてさぁ」

 「うふふふ…… 想像しちゃう、その姿。でも、古代君だって立派な宇宙戦士になったじゃない」

 「まだまだだよ、俺は…… 兄さんには何もかもかなわないような気がする。兄さんが望めばなんでも兄さんに取られてしまうような気がして……」

 進の脳裏にさっきの雪と守のやりとりが浮かんできた。兄さんが望んだら、雪も兄さんの方に行ってしまうんじゃないか……そんな不安が急にわいてくる。

 「そんなことない。お兄さんはとても立派な人だと思うけど、古代君とは違うもの。古代君には古代君にしかできないことがある。私、そう思う」

 雪はそんな進の不安をきっぱりと否定した。真剣な眼差しで話す雪を、進はじっと見つめ返した。

 「雪…… ありがとう」

 微笑を返す進の顔の上に雪の顔がゆっくりと降りてきた。そして、そっと二つの唇があわさった。進の両手が雪の背中に回り、ぎゅっと抱きしめた。互いの唇を通して伝わる温かさと、心と心が伝え合う温かさが進を幸せな気分にしてくれる。

 (雪、愛してる。雪はいつでも俺のことを思ってくれている。この温かい唇も心も俺だけの……雪なんだ。あんなことで俺がすねてたって仕方ないんだよな。あれは俺の思い違いなんだ、きっと)

 (18)

 しかし、その夜一旦消えかかった進の不安な気持ちをまた復活させるかのように、それから数日間の守の行動は進をいら立たせた。
 まるで、進たちの休憩時間を知っているかのように、守は雪の前に現れてサーシャを口実に雪を連れ出す。進が雪の姿を探すと、必ず守とサーシャとともに、展望室にいたり、サロンにいたりする。守は、進と雪が出会うのを邪魔しているようにしか思えないのだ。

 そしてある日、進が夕食後、雪と連れだってサロンに行こうとしていた時だった。廊下を歩いていると守が後ろから駆け足でやってきた。

 「あ、雪さん、ここにいたんですか? ちょっと時間取れませんか? サーシャがどうもむずがってしまって手を焼いているんですよ」

 進は思わず『またか!』と思ってしまうが、サーシャが、と言われると文句が言えない。元々、兄にも雪にもサーシャの事は雪に頼るようにと言ったのは、自分なのだから。

 「ええ、じゃあすぐ行きますわ」

 雪はいつも嫌な顔一つせずに即対応する。また、進は廊下に一人取り残された。早足で遠ざかる守と雪の後姿を見ながら、進の口からはため息が漏れた。そこに、後ろから声がかかった。

 「古代……」

 「あ、真田さん」

 「また、兄貴に雪さんを持ってかれたのか?」

 「ち、違いますよ……サーシャが……」

 「サーシャか……いい口実だな」

 真田がチラッと進の顔を探るように見る。

 「え? それ、どう言う意味ですか?」

 「ふふふ、古代、お前兄貴に雪のこと紹介してないんだろう? ちゃんと紹介しておいた方がいいぞ。友達の俺が言うのもなんだが、守は……手が早いぞ」

 「なっ! なんてことを、真田さん!」

 「失ったものの悲しみを癒してくれるのは、それと同質の物が一番……だからなぁ」

 「…………」

 「早いとこ、きちんと話しとけ。帰ってからなんて言ってたら、手遅れになっていたってことにならんようにな」

 (まさか…… ま・さ・か……)

 顔色を失った進が呆然と立ち尽くす横を、真田はそれ以上何も言わず通り過ぎていった。

 (守の奴、第一艦橋のスケジュールを教えろに始まって、今度は俺にこんなことを言わせやがって…… ああ言え、こう言えってセリフまで指定するんだからどうにもならんな。お前が悪者になるのはかまわんが、俺まで巻き込まれるのはごめんだ。あの古代の顔をお前に見せてやりたいよ。この世の終わりみたいな顔してたぞ。とっとと、白状させてやれよ。意地悪な兄さんよぉ!)

 真田は心の中でそうつぶやいていた。

 (19)

 真田の言葉が気になった進は、兄の部屋に行ってみようかと歩き出したが、また立ち止まってしまった。

 (兄さんが雪を……だなんてそんなことあるわけないさ。最愛のスターシアさんを亡くしたばかりだって言うのに、そんなはずは……)

 不安に思う心を自分で叱咤するようにもう一つの自分が叫ぶ。しかし、不安な自分がまた頭をもたげる。

 (やっぱり真田さんの言うとおり、兄さんに今すぐ話したほうがいいんだろうか)

 元々こういったことが苦手な進である。その上、今はヤマトでの航海中ということもあって、プライベートなことは極力避けるつもりなだけに、なかなか言い出せない。しかし……
 進はほぉーっと大きなため息をついた。

 結局、進は心を落ち着かせようと射撃訓練場へ行き、コスモガンを撃ちつづけていた。1時間余り撃っただろうか、いつもなら100%を誇る命中率が、今日は90%を切りそうになる。自分の内なる不安がそのまま表に現れているのが明白だった。

 「今日の古代さんは変ですね」 と隣で撃っていたクルーに言われてしまった。

 (だめだ……こんなことじゃ、いけない!)

 進は射撃訓練をやめて廊下に出た。そして、足は勝手に兄の部屋へと向かってしまう。その時、前方から雪がやってきた。

 「あら、古代君!」 いつも変わらないさわやかな笑顔だ。

 「雪…… あ……あの、サーシャの機嫌は直ったのかい?」

 進は平静を装って雪に尋ねる。

 「ああ、あれねぇ、うふふ…… それが、古代さんったら可笑しいの。一緒に慌てて行ったら、サーシャちゃんったらぐっすり眠ってるのよ。古代さんも苦笑い。でもせっかく来てもらったからお茶でもって言ってくださって、今までおしゃべりしてたの。お兄さんはホントにお話が上手ね。もう、私いろいろと話し込んじゃって……」

 楽しそうに話す雪の姿に進はだんだんと腹がたってきた。そして、雪を突き放すように手で払いよけると進は走り出していた。

 (なんだよ! 雪はそんなに兄さんと話してて楽しかったのか! 兄さんだって、サーシャがむずがってたって嘘だったんじゃないのか? 雪を連れて行く口実だったんじゃないのか!? やっぱり真田さんの言ったとおりなんだ! 兄さんのバカヤロウ!)

 「古代君? 古代君!? どうしたの……?」

 雪の声は進の耳には入ってこなかった。雪はしばらく驚いてその後姿を見ていたが、進の走って行った先の予想がついたのかその後を追った。

 (20)

 進は守の部屋の前に来ると、ノックもせずに部屋に飛び込んだ。

 「兄さん!!」

 ベッドに寝そべっていた守が顔をあげた。

 「ああ、進か……どうした?」

 進は半分眠たそうなとぼけた顔の兄の顔を見ると、今まで勢いをつけてきた気持ちが急にすっとひいてしまった。わけのわからない嫉妬心に動かされてきた自分が恥ずかしくなって口篭もった。

 「あ、いや…… なんでもないんだ…… あ、兄さん寝てたんだね、また明日にするよ」

 都合が悪くて、くるっと振り返って部屋から出ようとする進に、守は苦笑しながら椅子を勧めた。

 (そろそろ来る頃だと思ってたよ、進)

 「まだ時間は早い、寝てたわけじゃない。いいじゃないか、まあ座れ、進。なあ、あともう少しで地球だな。旅は順調なんだろ?」

 とりあえずは当たりさわりのない話題をだす。

 「う、うん…… 予定通りに帰れると思うよ。ふぅー、ねえ、兄さんは帰ったらどうするんだい?」

 進は勧められた椅子に座ると、大きく息をついて話題を探した。

 「ん? 仕事か? サーシャのことか?」

 「どっちも…… それから住むところとかも…… 僕の部屋に来てもいいんだよ。2LDKあるんだ、広いだろ。兄さんとサーシャがいても大丈夫だよ」

 進がモジモジしながら言うのに、守はきっぱりと断わった。

 「嫌だね」

 「えっ?」

 「お前、この年になって兄さんと一緒に暮らしたい、はないだろ?他に暮らしたい相手くらいいるだろうが……」

 「え? あ……」

 「本当にいないのか? あの雪って子はどうなんだ? 好きなんだろう?」

 「あ、あの……それは……」

 ひょんなところから、雪の話が出てきて進は焦った。今さっき、「雪は自分のものだ!」と宣言するつもりで勢い込んで入ってきたはずなのに、兄に面と向かうと口から出てこないのだ。

 「なんだ、はっきりしないなぁ。まだ、告白もしてないのか? ふうん…… じゃあ、俺が貰うぞ」

 守が涼しい顔でさらっと言った言葉に進はびっくり仰天した。

 「え〜っ!?

 「『俺が貰う』って言ったんだ」 守はあっさりとその言葉をもう一度繰り返した。

 「に、兄さん!! だって、兄さんはスターシアさんをなくしたばかりで……」

 「ああ、とても悲しくて辛い。だが、サーシャのためにも悲しんでばかりはいられない。雪さんはサーシャのことを本当によく面倒見てくれる。美人だし気立てもいい。ま、お前も惚れてるくらいだからわかるだろ? けど、お前がぐずぐずしてるんだったら、俺がプロポーズして……」

 「ちょ、ちょっと待ってよ! 兄さん!! それは、ダメだよ!」

 まさか兄がそこまで考えていたなんてと、進は焦りまくってしまった。

 「どうして? 恋愛は自由だろう? まあ、俺は子持ちだからハンデはあるかもしれんが、まだまだお前には負けんぞ」

 守が笑う。進はその自信たっぷりの笑顔にたまらなくなって叫んでしまった。

 「だめだ! だめだ!! 雪は絶対にだめだ〜!!

 「だから、どうしてだ? 俺は彼女が気に入ったんだ。明日にでも彼女に言って……」

 進の焦り具合など意に関しないと言った風に守は強固にその決意を変えようとしなかった。進の頭にカーッと血が昇る。雪がこの前イメージルームで言ってくれた、『古代君はお兄さんとは違うわ』の言葉がよみがえる。俺は俺なんだ、兄さんの後ばっかり追いかけていた小さな子供じゃないんだ。兄さんにだって渡せないものはある! そんな思いが湧き上がってくる。

 「そんなのはだめだっ!! 彼女は……ぜーったいに兄さんには渡さない!!」

 その時、守の部屋のドアが開いて雪が入って来た。ベッドから外を向いている守は気付いたが、ドアを背にして大きな声で叫んでいた進は当然気付かなかった。

 「彼女は……彼女は……雪は、僕の……フィアンセだ!!

 一瞬、場が沈黙した。

 「あ……」

 言い放ってしまってあっと顔を赤くする進。その後ろで雪が両手を口もとに持っていって目を丸くしている。そして……守はしてやったりといった顔で満面に笑みを浮かべて静かに言った。

 「やっと言ってくれたか、進。その言葉待ってたぞ」

 (21)

 「え……?」 守の意外な言葉に進は驚いた。「知ってたの? 兄さん」

 「ああ、お前たちのことは数日前に真田から聞き出したんだ。だが、お前がなんにも言ってくれないから、俺は怒ってたんだぞ。こうなったらどうしてもお前の口から言わせようと、ちょっと芝居を打っただけさ。いろいろ画策してると気が紛れて楽しかったよ、あははは……」

 「な、なんだって!? じゃあ、さっき兄さんが言ったことは……」

 「そう、全部冗談だよ。なんで俺がお前の彼女を狙わなきゃならん。なあ、雪さん」

 すました顔で守は進の後ろにいる雪に声をかけた。

 「え、ええ……」 「雪!?」

 進はそこで初めて後ろに雪が立っているのに気付いた。

 「雪! さっきの話聞いてたのか!?」

 進の声が裏返っている。アレを聞かれたのかと思うと、恥ずかしさが沸いてくる。

 「あの…… さっき、古代君が顔色変えて駆けて行ったものだから、もしかしてお兄さんとお話してたことを誤解したんじゃないかと思って、この部屋まで来てみたの。でも部屋の前で迷ってたら、古代君の声が聞こえてきて……古代君怒ってるみたいだったから、部屋に入ったら……」

 「ふーん、雪さんはどこから聞いてたのかな?」 守がにやけつつ尋ねる。

 「あの……」 雪が顔を真っ赤に染める。 「『雪は絶対にだめだ〜!!』ってあたりから……」

 進もその言葉にかあっと一気に顔面の体温が上がった。真っ赤になってちらちらと互いを見る二人。その姿を嬉しそうに眺めていた守が言った。

 「さて、進。そろそろ、そこのお嬢さんを俺にきちんと紹介してくれないかなぁ」

 「兄さん! もういいだろう!」

 「だめだ。ちゃんと紹介しろ」

 進は照れくさくてその場を逃げ出したい心境だったが、守の言葉は有無を言わさない響きがあった。

 「……」

 腕を組んで目は笑ってはいるが、自分を睨みつけている兄。恥ずかしそうにうつむき加減に進を見つめる雪。進は二人を交互に見やってからやっと大きく深呼吸をして、後ろの雪を肩を抱いて自分の隣に引き寄せた。そしてはにかみながら静かに声を発した。

 「兄さん、彼女は森雪さん。僕の大切な人……僕のフィアンセなんだ」

 進は守にまっすぐ向いてそう言うと、雪の方を見た。その瞳はとてもやさしく、雪にも挨拶を促した。雪も進にかすかに微笑を返してから、守の方を向いて、

 「森雪と申します。どうぞよろしくお願いします」 と、深々と頭を下げた。

 「こちらこそよろしく頼みます、雪さん。進、よかったな。兄さんは本当にうれしいよ」

 こうして、進の兄へのフィアンセの紹介は、進の思惑よりも数日早く無事完了した。そして、3人は同時に笑った。
 温かい空気が流れた部屋で、守が眠っているサーシャをやさしい眼差しで見つめながら、もう一度しみじみと言った。

 「本当によかった……」

 それは、サーシャを通して愛する妻スターシアに伝えた一言だったのかもしれない。

 (22)

 それから、守は艦の内線を取ると真田を呼び出した。

 「真田、進がやっと白状したぞ。祝いだ! 酒を調達して来てくれよ」

 ほどなく真田が佐渡からくすねてきた(貰ってきた?と真田本人は言っていたが……)一升瓶とコップを持ってやってきた。4人それぞれのコップに酒を注いで、守の音頭で乾杯だ。

 「進と雪さんの今後に乾杯!」

 守はまだ酒が入っていないというのに、既に上機嫌だった。酒が進むと、守と真田は進と雪を冷やかし始めた。
 守は二人の出会いや好きになったきっかけはなんだとか、ファーストキスはいつどこでした?とかを遠慮なく聞くし、真田はヤマトの中での二人のいろいろなエピソードを守に聞かせ、大受けさせた。その度に、進は真田の話を止めようと焦るし、雪は頬を染めて困った笑顔を見せた。
 そして、最後に守と真田が今回の進の宣言までの経緯を話す。

 「真田さんもグルだったんですか?ひどいですよ。あんなこと言うなんて……」

 守の部屋に来るきっかけになった今日の真田の脅しを、進が責めた。

 「あははは…… お前が早く言わないからこんなことになるんだぞ。俺は巻き込まれて困った方なんだからな。守の奴がこう言えああ言えっていったんだからな」

 真田は苦笑いだ。

 「あんなことって?」

 雪が不思議そうに進に尋ねるが、進は当然答えられないので、ごまかそうとする。

 「い、いや……たいしたことないよ、ははは」

 「いやぁ、あの時の進の顔を守と雪にも見せたかったなぁ。なあ、コ・ダ・イ!」

 「やめてくださいって……真田さん」

 真っ赤になって抗議する進の姿を見て、守は肩を震わせて笑った。なんとなく察した雪は進をつっついた。

 「もう、古代君ったら……やあね、ばかっ」

 雪に睨まれて照れ笑いする進の姿をまぶしそうに見ていた守が口を開いた。

 「しかし……本当によかったよ、進。お前がこんなに素敵な女性と愛し合って結婚の約束をしているなんてなぁ。最初は信じられなかったよ。
 イスカンダルにいても、お前はどうしているんだろうってずっと気になっていた。両親も早くに亡くしたし、近い親戚もいない。地球では天涯孤独のお前が、寂しくて泣いてるんじゃないだろうかって心配だった。
 俺の中ではお前はまだまだ子供のままだったんだな。だが、いいかげんにお前も一人前の大人だって認めないとならないな。うれしんだよ、進。本当にうれしいんだ。
 それなのに、そんな大切なことをお前は隠そうとするし……」

 「兄さん……すまない。兄さんが辛い目にあったのに僕だけ……幸せだって自慢するみたいで言えなかったんだ」

 「へんな気遣いするな、二人だけの兄弟だぞ。お前がうれしいことは俺もうれしいんだから、な!」

 「うん……!」

 兄と弟の心が温かく触れ合った瞬間だった。そして守は、今度は雪に向かって話した。

 「雪さん、こんな弟であなたも苦労が多いと思いますけど、よろしく頼みます。こいつがふらふらしそうになったら、ぎゅっと手綱を引いて起動修正頼みますよ」

 「うふふ…… はい、確かに承りました」 雪はニッコリ微笑んだ。

 「おいおい! 雪! 兄さん!!」 進は焦った。

 「あっはっは」 真田と守が大笑いした。

 (23)

 守の部屋での宴会は夜遅くまで続いた。守と進はまた昔の思い出を語り合っている。その姿をほほえましげに見つめる雪に真田が話しかけた。

 「雪は、守が君たちのことに気付いているってわかってたのか?」

 「ええ、守さんったら、私に古代君のことばかり話すんですもの。きっと気付いてらっしゃるんだろうな、って思ってました」

 「そうか…… 知らぬはあいつばかりなり……か」

 「うふふふ、古代君なりにお兄さんに気を使ってたんですけどね」

 「まあな、あいつなりのやさしさだから、兄貴だってありがたいと思っているさ」

 「ええ」

 そう答えて、またいとおしそうに進の姿を見る雪に、真田は少し意地悪な質問をしたくなった。

 「ところで、なあ、雪。もしも……守があの冥王星の戦いから無事戻っていたとしたら、守もヤマトに乗っていただろうな。とすると、戦闘班長は守だったかもしれないな。そして進はその下で砲術班かブラックタイガー隊ってところかな」

 「そうかもしれませんね」 雪は頷いた。

 「それでだ。あの古代兄弟と一緒にヤマトで旅をしたとしたら、君はどっちに惚れてただろうね」

 真田が口元をちょっと曲げて笑った。

 「え?……」

 真田の意地悪な問いに雪は一瞬目を見張って眼前で話し込んでいる古代兄弟の方を見た。が、ほとんど間を置かずにふっと微笑んで答えた。


(by めいしゃんさん)

 「それは……もちろん、古代君ですわ」

 雪は淀みなく、はっきりとそう答えた。が……

 (古代君か…… どっちも古代君なんだがなぁ)

 真田はまだ聞きたい気もしたが、もうそれ以上は追求するのを止めた。今あるこの現実だけが真実で、もしも……は存在しないのだから。

 雪もただ微笑みを返すばかりで何も言わず、再び二人の姿を目を細めて見つめていた。


 時に、2202年1月。
 最愛の人を亡くした辛さを克服しようと努めて明るく振舞う兄と、最愛の人をやっと再会した兄に紹介し祝福された弟。
 最愛の人がたった一人の兄に出会えたことを心から喜ぶ弟のフィアンセ。
 友が弟やそのフィアンセに囲まれて悲しみから立ち上がろうとしていることを我が事のように喜ぶ友人。
 そして、彼らをとりまく心優しきヤマトのクルー達を乗せ、ヤマトは2度目のイスカンダルへの旅を終え、間もなくなつかしい地球に到着しようとしていた。

−お わ り−

1−(1) 運命(さだめ)−星に殉じた最後の女王−へ
2−(1) もうひとりの生還者 へ

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