絆−君の瞳に映る人は−

--- Chapter 5 ---
                                 

 (1)

 防衛会議にあと10日と迫った日、最後の詰めに、諒はイカルス天文台にいる真田をたずねることにした。まだ、決定しかねる案件が何件かあり、真田の判断が必要になったからだった。
真田も、元々プロジェクトメンバーに入っていたのだが、彼には長官からの極秘任務があり、イカルス天文台を離れる事ができずにいた。イカルスへは、諒みずから出かけることにし、進と雪が同行することになった。

 エアポートから、進が高速艇を操縦して、イカルス天文台へ向かった。イカルスへはその日のうちに着き、さっそく真田が出迎えにきて、3人に声をかけた。

 「よっ! 上条、元気そうだな。古代、雪。久しぶりに会うなぁ。まだ、結婚してないのか?」

 「まだですよ、真田さん。その時はちゃんとご招待状だしますわ」

 雪は、軽く笑って真田に答えた。進はというと、また、その話かとでもいうように不機嫌そうな顔をする。その表情が雪には気にいらなかった。

 (最近の古代君、すっかり無口になってしまって…… どうしてもう少し心を開いてくれないのかしら。このプロジェクトが終わるまで、自分の殻にとじこもるつもりかしら。私、最近、古代君の考えてる事がわからなくなってしまったわ)

 雪のそんな視線を、進は避けるようにしていた。

 (雪は、どうしてそんな目で俺のことを見るんだ。仕事が忙しくて休みもない。仕事にくれば、上条さんが雪を連れまわしてばかり…… 俺はどうすればいいっていうんだ。そんな目で見ないでくれ。雪。)

 進と雪は、お互い思うことを十分伝え合う時間もとれないまま、仕事の忙しさの中に埋没して、お互いの心を見失いそうになっていた。

 (2)

 その日のうちから会議が始まり、打ち合わせも順調に進んだ。夜になると、真田は3人を食事に誘った。しかし、進は、疲れているからと言って、食事もとらずに部屋に戻ってしまった。雪は、進を追いかけたい気持ちもあったが、久しぶりに会う真田に悪いような気がしてそれができなかった。

 「雪、古代の奴どうしたんだ?顔色もあまり良くないようだし……」

 真田は、さすがにいぶかしがって雪に尋ねた。

 「古代君、ここんとこ、徹夜続きだったから…… 本当に疲れているんだと思うわ」

 雪もそれ以上言うことができなかった。まさか、諒とのことで気まずくなっているなどという事を、諒本人の前で言うわけにはいかなかったから。

 「そうか…… それならいいが。それじゃ、上条と雪と3人で行くか」

 真田は、二人を連れて食堂へ向かった。その途中で、3人は多くの若者達が訓練を続けているのを見た。

 「あら、あの人達は?」

 「うん? ああ、宇宙戦士訓練学校の生徒だよ。今、特別選抜された生え抜きたちがここで最終訓練を受けているんだ。もう1ヶ月もすれば、一人前になる」

 そう言われて、雪はもう1度、若者たちの姿を見ると、その中に美しい一人の少女の姿を発見した。

 「まあ、ずいぶんかわいい訓練生もいるのね。彼女なら、男子生徒達の憧れの的ね?」

 雪がそういうと、諒も同意した。

 「ああ、本当だ。雪ちゃんに似てるよ。もう少し、幼い感じはするけど、美人だね」

 真田は、横から、その姿を覗くと言った。

 「ああ、真田澪だ。優秀な訓練生だよ。」

(by めいしゃんさん)

 真田澪…… 実は、彼女こそ、スターシャの忘れ形見、守の一人娘、サーシャであった。雪はサーシャが人に預けられていることは知っていたが、誰に預けられているのか知らなかったし、また、数ヶ月前まだあんな赤ん坊だった娘が、こんなに成長しているとは思いもしなかった。
 しかし、もう二度とこのサーシャと会うことがないのだということも、このときの雪は、知るよしもなかった。

 サーシャの事は守と出来るだけ誰にも詳しい話をしないようにしようと話し合ったので、それ以上雪には詳しい説明をしなかった。進がいたら気づいたかも…… 真田はそう思った。
 そしてまた、真田は、二人に目をもどして言った。

 「上条、君は雪とずいぶん親しそうだな」

 真田は、諒がさっき雪のことを『雪ちゃん』と呼んだことに気づいたのだった。

 「えっ? ああ、僕は雪ちゃんとは幼なじみなんですよ。10年ぶりにこの仕事で再会したんです」

 「そうなのか、そりゃぁ、びっくりしただろうな」

 「はい、こんな美人になって現れたんですから……」

 諒は、雪の顔をみて微笑みながらそう言った。真田は、それ以上は何も聞かなかったが、進の不調との関連を何か感じたようだった。その夜は食事を済ませると、それぞれの部屋に帰った。

 雪は、食堂でおにぎりを何個か作ってもらうと、進の部屋へ行った。

 「古代君、私よ。入っていい?」

 「うん……どうぞ」 相変わらず、不機嫌そうな返事だったが、了解の返事に雪はホッとした。

 「古代君、お腹すいてるでしょ、これ食べて」

 雪は、さっきのおにぎりを進に差し出して、ポットからお茶を入れた。進は、黙ってそのおにぎりをつかむと、もさもさと食べ始めた。

 「古代君、大丈夫? どこか具合でも悪いの? 最近、仕事が忙しくてあなたの部屋にも寄ってないけど、ちゃんと食事してるの?」

 「うん、まあ……」

 「うん、まあって……体を壊したらどうするの?」

 雪は、進のあまりにもそっけない返事にイライラしてきた。

 「なにか、不満があるのなら、言ったらどうなの? どうして、そんな顔ばかりするの?」

 「…………」 進は、黙ったまま答えなかった。

 「古代君!」

 「俺は……俺にもわからない…… どうしていいのか。どう言っていいのか……」

 「古代君! 私、あなたの気持ちがわからなくなったわ。こんなこと始めてよ」

 雪の目に涙がたまってきた。声が涙声に変わる。

 「俺は……」

 「もう、いいわ、私、寝ます!おやすみ、古代君。」

 雪は、そう言うと、涙を指でぬぐいながら、進の部屋を出て行った。

 (雪…… 俺は君と上条さんを見ていると、だんだん自信がなくなってしまうんだ。上条さんの方が雪を幸せにしてやれるんじゃないかと思うと、どうしようもなくなる。それでいて、上条さんが君を見つめるだけで、俺の心から、理性がふき飛んで行きそうになってしまうんだ。雪、俺は君が好きだ。大好きだ。けど、俺がまた、君を置いて宇宙に出ていかなければならなくなったら…… 君を不幸にしてしまうんじゃないだろうか? この二つのジレンマで俺はどうしていいのかわからないんだ)

 進は、雪が出て行った扉に向かって、心の中で叫んでいた。しかし、彼の叫びが雪に通じるはずはなかった。

 (3)

 翌日の早朝、地球から緊急通信が入った。佐藤からだった。

 「上条副所長、出張中申し訳ありません。実は、第25項目のリストを木島がミスして、廃却してしまったんです。あれがないと滞ってしまう件が多数ありまして、副所長のところに、コピーがなかったかと思いまして…… 防衛会議の日程が迫っているので、大至急必要なんですが……」

 諒は、突然の大ミスに驚いたが、冷静にその対処を考えた。

 「あれは、リストの状態ではもうないはずだ。だが……確か……雪さん、あれの前段階の資料がありませんでしたか?」

 「ええ、確かにそれは私が管理しているディスクの中に入っています。でも、私が行かないと、私の声紋と指紋でプロテクトをかけてあるんです。機密事項だと伺っていたものですから」

 「ああ、助かった。しかし、それを修正しないといけない。それは、僕が行かない事にはどうしようもないな…… 真田さん、聞いてのとおりです。大至急地球に帰らないといけなくなりました。真田さんは地球へ来れませんか?」

 「うーん、私は今動くわけにはいかないんだ。こっちの任務が最終チェックに入っていて…… そうだ、古代をもう1日貸してくれないか。昨日、資料は全部見たが、古代がいれば問題なく全て話は通じると思う。どうかね。帰りは、物資輸送船が明後日着くから、その艦に便乗できるよう手配するから。」

 「いやぁ、それでしたら、助かります。古代君、お願いしていいですか」

 「分かりました」

 ここでは、進はそう言うしかなかった。また、雪と諒を二人にしてしまう…… 進の心の中は激しく動揺していた。

 「じゃあ、僕と雪さんは、至急、地球へ帰ります」

 あわただしく、帰還することになった諒と雪は、地球へ戻って行った。

 (古代君……)

 雪も進の気持ちをつかみきれないまま、心を残してイカルスをたった。

 (4)

 雪たちを送り出した後、真田と進は、最後の仕上げに向けて、全力で討論を繰り返した。それは、ほぼ24時間を要し、仮眠をはさんでの長い作業が終了した。進は、いつもながら、真田が膨大な量の最新の情報をキャッチしていること、そして、それを自在にいかして、新たな案を創出する能力に舌を巻いた。

 「真田さん、やっぱり最後に相談できてよかったです。これで、このプロジェクトの大部分は完成すると思います」

 進は、プロジェクトの完成が見えてきてうれしかった。

 「そうか、上条のプロジェクトに、古代と俺がアドバイザーだからな。完璧だな。ははは」

 「上条さん…… 誰と話しても誉める人ばかりです。本当に立派な人だ」

 真田は、伏せ目がちにそう言う進のさみしそうな表情を見つめていた。

 「古代……お前、そうとう参っているみたいだな。昨日の朝、先に帰る雪を見送る目も見ていられんかったぞ。上条が雪に惹かれる気持ちは良く分かる。だが、雪もそんなに上条に惹かれているのか?」

 「雪は……わからない…… けど、上条さんとの仕事振りを見ると、本当に息があっているように見える。雪は、上条さんのような人といた方が幸せなんじゃないかって……思えてくるんです」

 「雪の気持ちはどうなる? 本当に上条の方を好きになったのか? そうじゃないと思うがな、俺は。雪もお前の気持ちをつかみかねているんじゃないか?」

 「真田さん、俺は本当に雪を幸せにできるんでしょうか?」

 「古代、お前、雪を幸せにしてやりたい、と思っているのか」

 「当然でしょう。俺が最初で最後愛した女(ひと)です。幸せにしてやらなかったら、なんにもならない」

 「……雪は、幸せにしてもらいたいって、思ってるんだろうかな」

 「どういう意味です?」

 「わからないなら、雪に直接聞いてみろ。古代、お前の本当の気持ちを雪に伝えろ。上条がどんなにすばらしい人間でも、それと自分を比べる事はよせ。お前はお前だ。上条とは違う魅力を持った、古代進なんだから」

 「……真田さん、俺にはまだ良く分かりません。けど……」

 「少しでもはやく帰りたいってところだろ?古代。輸送船は明日にならないと着かないからな。よし、俺がひそかに開発している小型実験機があるんだが、それの地球へのテスト飛行を引き受けてくれないか。小型ながらワープ機能もついている。あれなら、今から飛べば今夜には地球に着ける。もちろん、実験機といっても、俺が既に何度も乗って小ワープも実験済みだし、近々地球まで飛んでみたいと思っていたところなんだ。手続きは俺がすぐ行ってやる。防衛軍基地の第4ドックの林のところに届けてくれれば言いから。どうだ、やれるか? 古代。」

 「はい、わかりました」

 進は、今日中に帰って雪に会いに行こうと思った。どういって話したらいいか、まだ、考えがまとまってはいないが、真田の話を聞いて、雪に自分の想いを正直にぶつけようと思った。

 (古代にサーシャを紹介しようかと思ったが、今回はやめよう。今のあいつには他の事を考える余裕はなさそうだ。今は、他のことを考えさせないようにしたほうがいいな。サーシャとは、また近いうちに会わせる事ができるだろうから…… 守が来て紹介すればいいんだがな)

 サーシャと進、二人の運命の糸がからみあうのは、もう少し先のことになった。

 (5)

 一方、地球に急遽帰還した二人は、大急ぎで佐藤たちの待っている書類を作成し始めた。雪が取り出した資料を、諒はすごい勢いで最編集していった。雪もその作業を手伝ったが、その手際のよさに、雪も感嘆してしまった。

 (諒ちゃん、あざやかだわ。すごい)

 雪の諒への気持ちは、尊敬と、幼い頃からの憧れ、それが入り混じったものだったが、最近の諒の視線からは、それ以上のものを求めているのがわかった。進とうまくコミュニケーションが取れないことで、雪の心にかすかな揺らぎが生じているのも事実だった。

 「ふうっ! よし、これでいい。佐藤、後は頼むぞ」

 諒と雪は、地球に帰ってから一睡もせずに資料を完成させた。

 「はい!ありがとうございました。副所長、今日のところはお休みになってください。後は我々がやります。最終決定稿は、古代さんが明日帰着してからになりますから」

 佐藤は、諒たちに感謝の言葉を言うと、走って行った。

 「うん、そうだな。そうさせてもらうよ。雪さんも、もう今日はいいから、家へ帰って休んでください」

 「ええ、ありがとうございます」

 雪は、地球に帰ってからの忙しさが自分の気を紛らしてくれたことに感謝していた。進との気まずい別れのことを思い出さずにすんだから……

 「雪ちゃん、家まで送るよ。」

 諒は、佐藤がいなくなると、いつもの調子で雪に話しかけた。

 「いえ…… 上条さんこそ、お疲れでしょ? 早く帰って休んでください」

 「君といると疲れなんて飛んで行ってしまうよ」

 ドキッとする諒の愛の告白にも似た一言に、雪は答えを失った。

 「…………」

 「ね、雪ちゃん。今晩、ちょっと付き合ってくれないかい?」

 「? なんですか? まだ、解決できてなかった点があったんでしょうか?」

 「違うよ、完全にプライベートなことなんだよ」

 「プライベート?」

 「今日、義父(ちち)の主催パーティーがあってね。前々から、出席を促されていたんだけど、このプロジェクトを抱えていたものだから、行けるかどうかわからなかったんだ。けど、ちょうど今日手があいたし、たまには、雪ちゃんもそんなパーティーに出て見るのも、社会見学でいいかなって思ったりして…… いや、何も下心はないって、ちゃんと、今日中に家にも送り届けるから」

 諒があまりにも一生懸命いうので、雪はおかしくなった。諒の誘いに乗ることが、どういう結果になるのか雪には不安でもあったが、今夜一人で過ごし、また進のことを考えて思い悩むくらいなら、きらびやかなパーティーで何もかも忘れてしまいたい、という気持ちになった。

 「じゃあ……お言葉に甘えて。でも、そんなパーティーに来て行くお洋服あったかしら……」

 「そんなに気にしなくても、ちょっとおしゃれなワンピースで十分だよ。それに、雪ちゃんなら何を着ていても誰よりもきれいだから」

 諒は、こともなげに雪の心をくすぐる言葉を投げかける。進ならとても言いそうにないだろうと、雪は心の中で思った。

 (6)

 諒は一旦雪を家に送り届けて、再び夕方の5時に迎えに来た。雪の部屋のベルが5時丁度に鳴った。

 (諒ちゃんも時間厳守なのね。古代君もそうだわ…… いけない、また、古代君のことを考えてる……)

 諒は、始めて見る黒のスーツ姿だった。諒にはそれがとても似合っていた。きっと、どんな女性でもその姿にはボーっとするのではないかと思うくらい素敵な姿だった。

 「諒ちゃん、素敵よ、かっこいいわ」

 雪は、素直に諒を誉めた。

 「雪ちゃんも素敵なドレスじゃないか…… もちろん、中身はもっと素敵だけど」

 「ありがとう」 雪はにっこり笑って答えた。

 諒と雪がパーティーに行くと、二人は注目の的になった。諒は、こんなパーティーにはめったに出席しないらしく、今日、諒に会えたことを周りの人々は大喜びで話しかけてくる。さらに、諒がとても美人を連れてきている、ということで、さらに周囲の羨望を集めていた。

 「上条さん、そろそろお決まりなんですか?」

 諒と雪が、婚約者か何かだと思い込んで話し掛けてくる人も少なくはなかった。諒は、それにあいまいな返事を繰り返していた。雪も今日限りの世界だと思うので、特に何も言わなかった。パーティーに出席している若い女性達が、諒と並ぶ雪を羨望のまなざしで見ていることは、雪を晴れがましい気持ちにさせた。

 (たまには、こんな世界を覗いて見るのもいいわね)

 「雪ちゃん、義父(ちち)を紹介するよ」

 諒はそう言って、恰幅のいい男性を連れてきた。隣には、先日会った諒の母がいた。

 「はじめまして、お嬢さん。今日は、諒に付き合ってくださってありがとう。どうぞ、ゆっくりして行ってください」

 諒の義父は、やさしい笑みで雪に話しかけた。

 「雪ちゃん、この間はありがとう、楽しかったわ。今日はゆっくり楽しんでいってね。それから、諒の事よろしくお願いするわね」

 「はい、あの……」

 諒の母、香に『諒をお願いするわ』と言われて、雪は当惑してしまった。何か少し誤解されているのかもしれないと、雪は思ったが、雪がなにか言おうとしたときには、香は夫と共に別の客の相手を始めていた。

 (7)

 しばらくして、雪に話しかける声がした。

 「雪さん! どうしたんですか、こんなところへ……あっ、もしかして上条さんと……」

 その声は、南部だった。

 「あら、南部君。どうしたの?あなたこそ、珍しいんじゃない。こんなパーティーに来るなんて」

 雪は、南部の困ったような顔を無視して行った。

 「暇にしてたら、父に引っ張り出されてしまってね。それより雪さん、古代さんはどうしたんですか?」

 「古代君? 今、イカルスの真田さんのところにいるわ。明日には帰ってくるけど……」

 雪は、せっかく、進のことを今だけは忘れようとしているところに南部が現れたので、不愉快になってツンとした顔で言った。

 「イカルスって、じゃあ、古代さんに内緒できてるんですか?」

 「別に私がどこへ行こうが、いちいち古代君に了解もらわないといけないことはないわ」

 南部が、あまりに非難めいていうので、雪はムキになってしまった。

 「それは……そうなんですけど……」

 雪の語気の強さに、南部はすっかり気おされてしまった。南部は、雪と進が本当にこのまま、別れてしまうのではないかと、いてもたってもいられなかった。自分にその責任の一端があるような気がしたから。

 一方、雪が南部と話している間に、香達が諒のところに来ていた。

 「ね、あなた、雪さんって素敵な方でしょ」

 「うむ、諒。美しい人だな、地球防衛軍の長官秘書だっていうじゃないか。私達があんなに見合いを勧めても、ウンと言わなかったわけだ」

 「義父(とう)さん、母さん、違うって言ってるだろ。まだ、そういう仲じゃないんだよ。雪さんに変なこといわないでくれよ」

 「でも、お似合いだったわ」

 「とにかく、僕は雪さんの事は好きだけど、ちょっと待って欲しいんだ。うまく行けば、必ずすぐに報告するから……」

 「まあ! ほんとに諒はその気があるんですね」

 「ああ、でも、彼女は今は他の男(ひと)と婚約中なんだ。まだ、結婚が決まってないからといっても、軽はずみな発言で僕と彼女を困らせないでくれよ」

 「わかったわ、でもあんなかわいい人を、婚約しただけで、ほおって置く人なんかより、諒の方がずっといいことが、雪ちゃんにもすぐわかってもらえるわよ」

 母と義父が離れて行くと、諒は、もう一度雪を見つめた。そして、意を決するようにつぶやいた。

 「僕の気持ちは決まっている。今夜、彼女にはっきりとそれを伝えよう……」

Chapter 5 終了

Chapter 4へ   Chapter 6へ

トップメニューに戻る    オリジナルストーリーズメニューに戻る    目次にもどる