ロマンチックになれない!?

 
 ところがその時、私の夢心地を一気に目覚めさせる事件が起こった。
 ふと何気なく窓の外を眺めた私の目に入ってきたのは……

 「え〜っ!?」

 その光景が信じられなくて、思わず大声が出てしまった。だって、そこには一人宇宙遊泳している相原君がいたんだもの!

 たいへんだわっ!! 相原君、どうしちゃったっていうの!!! すぐに誰かに知らせて彼を助けてもらわなくちゃ。

 気が動転していた私は、自分がどんな格好をしてるのかも、部屋に艦内電話があることもすっかり忘れて、いきなり部屋を飛び出してしまったの。

 そうしたらちょうど部屋を出たところで、古代君と島君に出会ったの。古代君達も相原君を探してたみたいだった。私は、相原君のことを伝えた後、駆け出していった古代君達を見送ってから、私も着替えようと部屋に戻った。

 「あぁっ……!!」

 その時初めて、私は自分がどんな格好をしていたのかに気が付いた。

 「や、やだっ! どうしよう!」

 あっという間に、顔がカーっと火照ってきて、心臓は飛び出しそうにバクバクし始めた。どうしよう…… この格好を古代君に見られたなんて、あ、島君もいたわっ! やだ、やだっ。恥ずかしいっ!!

 それでも私は今は任務大事と、必死に自分を落ち着かせて、制服に着替え始めた。

 艦内に非常配備の放送が入り、相原君救出のためにブラックタイガー隊が出立したことがわかった。
 それから私は医務室に駆け込み、緊急事態に備えて忙しく動いているうちに、その恥ずかしさやいろんなことを忘れていた。

 そして数時間後、相原君を救出したという報が入って佐渡先生共々大喜び! 相原君が戻って来るのを医務室で待っていると、古代君が彼を連れてやってきた。

 えっ!古代君っ!

 私は古代君の顔を見たとたん、さっきの格好で出会ったことを思い出してしまった。

 ダメよ、雪! 変な顔したら、古代君にばれちゃう! 絶対にポーカーフェイスよ!

 心臓が飛び出しちゃうんじゃないかと思うほどの焦る心を、必死に押さえ込んで、顔色を変えないように一生懸命取り繕った。

 でも、どうしよう、古代君に何か言われたら……!?

 だけど、古代君は相原君を私達に預けると、すぐに私に背を向けて、部屋を出ていってしまった。出ていく彼の後姿を見ながら、私はなぜかものすごく拍子抜けしたような気分になった。

 あら? 彼、どうって思わなかったのかしら? 見てなかった?それともあまりの格好にあきれられてしまったの?
 ちょっと不安にもなったけど、彼に何も言われなくて、どっちかと言うとほっとした。いいほうに考えよう、って思った。

 そうよね、一瞬のことだったし、相原君のことが心配で、私の格好なんて気にならなかったのかもしれないわ。
 私は勝手にそう解釈した。

 そして、相原君の診断を終えた私は、深夜遅く自室に戻った。
 結局、そのあとはいつものパジャマに着替えて眠ることにした。さっきまで着ていたネグリジェは、また丁寧にたたんで包みに入れると、再びクローゼットの奥にしまいこんだ。

 ロマンチックな夜を過ごす計画は、相原君事件のおかげで、とんでもない夜になってしまった。

 そのあとは、すぐにバラン星の決戦があったりして、この件についていろいろと考える暇もなかった。
 古代くん達ももちろんそのことには全然触れなかったし、やっぱりあんまり慌ててたので私の格好なんて見てなかったんだわって、安心した。

 そして……ひとときのロマンチックな夢を見たあのネグリジェは、包みに戻されたまま、それから地球に戻るまで開くことはなかった。

 だって……あのネグリジェを着たら、また何かよからぬ事件が起こりそうで恐かったんだもの。

 でも…… いつか、また……
 そう、今度は古代君と一緒に夜を過ごせるようになったら、着てみようかなっ。

 そんな日が、いつか……来るといいな。きっと……いつか。

 あれから数年がたち……

 私達は、あの頃私が夢見ていた二人きりの夜を……もう幾夜も過ごしていた。

 ある夏の日、月のきれいに見える夜のこと。彼との熱いときを過ごした私は、ベッドの中で彼の胸に抱かれて眠っていた。
 夜中にふと目を覚ました古代君は、突然あの時のことを話し始めた。

 彼は、どうしてあんな衣装を着てたのかって問う。ただちょっとロマンチックになりたかっただけよ、ととぼける私に、彼はニヤリと笑って言った。

 「ロマンチックねぇ…… じゃあさ。今もう一度見せてくれないか? ロマンチックになるために」

 「えっ?」

 渋る私に彼はさらに強引に迫ってきた。

 「あれからしばらく、俺達眠れなくて大変だったんだぞ! その借りを返させろよ」

 うふふ…… 古代君ったらやっぱりちゃあんと見てたんだ。恥ずかしかったけど、私、彼の望みを叶えてあげたくなった。だから、私、とっておきの笑みを浮かべた。

 「それじゃあ、あっち向いてて」

 



 その夜、私と彼は…………あの時の無念を取り戻すかのように、とってもロマンチックで?熱い夜を過ごした。

おしまい

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(背景:トリスの市場 ライン:Pearl Box)

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