幸せへの軌跡−進と雪の婚約物語−

Chapter1−地球への帰還−

 (1)

 西暦2199年9月6日。ヤマトはイスカンダルからの旅を終え、まもなく地球に戻ろうとしていた。佐渡は今、沖田艦長の最期を看取って、第一艦橋へその知らせに入ろうとしていた。

 第一艦橋は、佐渡の気持ちとは逆に喜びに沸き立っていた。それは、まもなく地球へ帰還するということだけではない。
 さきほど、死んだと思っていた雪が息を吹き返したのだ。進が雪を抱き上げたまま踊るように喜んでいる。周りの誰もかもが、その姿をうれしそうに見ていた。

 しばらくすると、雪は地球を前面に見つけたようで、進に体をもたせかけながら地球に見入っていた。

 佐渡は、彼らの姿を入り口からじっと見つめながら、このまま引き返したい気持ちで一杯になった。しかしそういうわけにもいかない。辛くても伝えねばならないことがあるのだ。
 佐渡は、重い足取りで一歩一歩と進んで行った。そして進達のすぐ後ろで声をかけた。

 「古代……」

 「あっ! 佐渡先生! 雪が雪が息を吹き返したんです!」

 「そのようじゃな。よかったな、古代」

 進のこれ以上にないほどの笑顔に対し、佐渡も精一杯の笑顔を返そうとしてみたが、その顔はやはり引きつってしまった。その様子を怪訝に思った進が、すぐに尋ねた。

 「佐渡先生、どうしたんですか? そんな浮かない顔をして……」

 「うん…… 古代、実は……沖田艦長が今……亡くなられた……」

 「!!!」

 佐渡の言葉に、第一艦橋にいた全員が視線を集中させ、言葉を失った。

 「沖田艦長が……」

 進がやっとそれだけを言うと、佐渡は寂しげに頷いた。

 「大往生じゃった。まるで、沖田艦長が死出の旅の途中で、雪を死の世界から押し戻したようじゃな…… お前さんはまだ早すぎるとな」

 「なんてこと……」 雪も言葉が出てこない。

 「すぐ行きます! 佐渡先生!!」

 進が走り出そうとするのを、佐渡は即座に止めた。

 「待て!古代。沖田艦長は目的を達成した事を確認して逝かれたんじゃぞ。これから最後の詰は、艦長代理のお前の仕事じゃないのか。
 まもなく、ヤマトは地球に帰還する。その指揮をとるのは、他でもないお前なんじゃ。今は沖田艦長の前で泣いている暇なんかないぞ」

 厳しい表情でそう告げる佐渡の言葉に、進はぴたりと足を止めた。
 沖田艦長が今一番望んでいる事は、自分の死を悲しむよりも、地球を少しでも早く放射能から救い、復興させることだということは進にもよくわかっていた。
 それは誰もが同じ気持ちだった。皆、泣き出しそうになるのを必死に抑えて、鼻をすすった。

 「わかりました…… 今より、地球帰還に向けて最終段階に入ります」

 進はそう宣言すると、自分の戦闘指揮席に座った。

 「着陸体制に入る。全員部署に着け!」

 「はっ!」

 クルー達は、進の号令にはじかれたように動きだした。それを確かめるように頷いてから、佐渡は雪に声をかけた。

 「雪、体の方は何ともないか?」

 「はい、大丈夫です」

 「そうか、じゃあ病み上がりに悪いが、お前さんは着替えて私を手伝ってくれ。沖田艦長の処置をするからの」

 「はいっ」

 佐渡は雪と連れ立って、第一艦橋を出ていった。

 (沖田艦長……)

 進は、予期していた事とはいえ、沖田の死に直面して自分の心にぽっかりと穴があいたような気がした。
 それは、雪が死んだと思った時の喪失感とはまた違う、寂寥感というべきものかもしれない。

 (2)

 ヤマトは、地球への帰還と同時に、地下ドックに入港し、地球市民の熱烈な歓迎を受けた。
 しかしヤマトの任務はこれからだった。沖田の遺体だけを降ろすと、ヤマトはすぐに地球全域の放射能除去の作業に入った。
 問題の酸欠空気になる欠陥も真田によって排除され、ヤマトは自ら地球上を巡っての除去作業を行うこととなった。

 ほとんど不眠不休の作業の結果、1週間後の9月13日。地表は、人類が再び立つことのできる世界へと回帰した。ヤマトクルー達もやっと、母なる地球の大地を踏むことができたのだった。

 地下都市内の地球防衛軍本部からも、藤堂長官を始め、主だった面々がヤマトの迎えに地上に上がってきていた。他にも大勢の一般市民達が、きれいな空気の戻った地表へと集まっていた。もちろん、ヤマトクルー達の家族もその中にいた。

 進は、第一艦橋から、ぞくぞくと降りて行くクルー達と、それを迎える家族の再会の姿をじっと見つめていた。

 (迎えの家族か…… 俺にはだれもいない。わかってたんだが、やっぱりなんとなくさみしいもんだな)

 「古代君」

 そんな進の姿を見て、雪が声をかけてきた。

 「雪…… もう降りていいんだぞ。ご両親が待ってるんだから、早く行ってやれよ」

 進は、雪が心配げな顔をして自分を見ていたのを知って、できるだけ明るい顔を繕って言った。

 「古代君はどうするの? 今日…… もし、よかったら、うちに来てくれてもいいのよ。両親には私から話すから」

 雪はやはり、進が帰る場所のないことを心配していたようだった。

 「ありがとう、雪。でも今日は遠慮するよ。久しぶりの親子の対面に、他人が邪魔するのは気がひけるからな」

 「そんな、他人だなんて……」

 雪が、他人という言葉に悲しそうにするので、進は慌てて言った。

 「あ、いや、そういう意味じゃなくて…… なんて言っていいかな。いきなり、ご両親に会ってもなんて言っていいか、わからないし、あははは」

 「古代君……」

 雪も進の笑い声につられて微かに微笑んだ。

 「俺の他にも家族が今日迎えにこれないクルーが何人かいるんだ。そんな連中のために、長官が宿舎を用意してくれているそうだ。俺もとりあえずそこへ入るよ。だから心配しないで。明日また会えるから」

 明日、ヤマトクルーには今後の任務についての説明がある。おそらく何日かは休暇もあるだろうが、地球の復興のために、やるべきことは山ほどあった。

 「でも古代君、ちょっと両親に紹介するから、一緒に来てくれない? それくらいならいいでしょ?」

 「あっ、ああ、わかったよ」


 (いきなり挨拶するのかぁ……うーん、苦手だなぁ……けど、いやだとは言えないし)

 進は、苦笑しながらも雪の言葉に頷いた。
 だが実は、雪の方には進を早く両親に引き合わせたい事情があった。
 それは、1ヶ月ほど前、地球との通信が復活した時のことだった。地球側のエネルギーが不足気味だということで、地球の家族との直接の面談はできなかったが、個人個人の家族へ帰還の簡単なメッセージの送信と、その家族からの返信を受信することができた。

 雪は、両親にもうすぐ家に帰れることを簡単に書き送った。その返事がこうだった。

 『雪へ、本当に無事に帰ってきてくれてうれしいです。あなたが地球を救うヤマトに乗ってもうすぐ帰還する話が、あちこちで知れて、お見合いの話が山ほど来てるのよ。もう、どんな条件でも大丈夫よ。早くあなたに見せたいわ。楽しみにしてるのよ。森晃司、美里』

 二人の連名になっていたが、母親が書き送ったのに間違いなかった。このまま家に帰って何も言わなければ、雪は母にお見合い漬けにされそうな予感がしていた……

 (古代君のこと、ママに話さないと…… じゃないと、毎日お見合いさせられそう……)

 第一艦橋へ、各部署からクルーの退艦を知らせる報告が次々に入ってきていた。そしていよいよ最後に、進は第一艦橋のクルーに退艦指示を出した。

 「よし、第一艦橋のみんなも退艦してくれ。明日は、午前9時に地球防衛軍地下司令部に集合して欲しい。今後の業務について、長官から指示がある。以上!」

 「はぁー やったぁ!」 「よし! 帰るぞ!」 相原と南部が笑顔で話している。

 「さて、俺達も行こうか」 「ええ」

 進と雪はそう言って頷きあった。

 「じゃ、古代。お先に!」

 「ああ、ご家族によろしくな!」

 島も進にそう声をかけると、足早に第一艦橋を後にした。島には、両親と幼い弟がいる。その家族がきっと迎えに来ているに違いない。進は、そんな島が少しうらやましかった。

 (3)

 進と雪は、一緒に連れだってヤマトから降りた。するとそこに、藤堂長官がやってきた。

 「古代…… ごくろうだったな」

 そして長官は進に右手を差し出して、握手を求めた。

 「はい…… 沖田艦長にもこの地球を見て欲しかったです……」

 藤堂は、伏目がちになる進の答えを厳しい顔で頷いた。

 「沖田君は、おそらく本望だったろう。こうして、若い君達が立派に役目を果たしてくれたのだからな。
 古代、今日はゆっくり休んでくれ。宿舎は用意してある。あそこの紺色の制服の男に声をかけてくれれば、案内してもらえるはずだ」

 「はい、ありがとうございます。あの……沖田艦長は?」

 「うむ…… ああ……中央病院に収容して死亡確認を……とったよ。彼には近しい親族はいないから、私が責任を持って、いろいろな手配を整えるつもりだ」

 長官の口調がなぜか歯切れが悪かったが、進は、それは沖田の死を悼んでのことだと単純に思った。
 そして周りを見渡すと、第一艦橋から降りた面々が、それぞれの迎えと再会を喜んでいた。

 ちょうどその時、少し離れたところから女性の声がした。

 「雪! 雪! 一体どこにいるの?」

 「ママ!?」

 雪がはっとして顔を上げた。雪を探すその声は雪の母、美里のものだった。すぐに、美里と父の晃司の姿が雪の目に入った。

 「パパ! ママ!」

 二人の姿を確認して駆け寄った雪は、ほとんど1年ぶりに両親の顔を見て、あっという間に涙があふれてきてしまった。母も父も泣いていた。

 「ゆき…… 本当に、雪なのね。ああ、会いたかったのよ」

 美里は、雪を抱きしめると頬擦りしながらそう言った。

 「ママ…… 大丈夫よ。私はこんなに元気に帰ってきたわ。ただいま、ママ、パパ」

 雪は、美里の横にいる、父の顔も見つめながら言った。その姿を、進は少し離れたところからじっと見つめていた。ほっと安心すると同時に、胸が少し痛い。うらやましくもあり、そして入り込めないものを感じたからかもしれない。

 (幸せそうな家族だな。雪は両親にあんなに愛されて…… 俺が入る隙なんかないよな。今日はやっぱりこのまま帰ろう)

 進は、そのまま雪に背を向けて、反対方向に歩き出そうとした。すると、雪が思い出したように、両親の手から離れて進の方に駆けてできた。

 「古代君! どこ行くの? こっちに来て!紹介するって言ったでしょ」

 「えっ! おい! ちょっと、待って……おっおい! 雪……」

 雪は進の手を掴むと、両親の方へずんずんと引っ張って行った。

 「古代さん、もう雪さんに尻に引かれてますよ」

 「やっぱりなぁ…… 絶対尻に引かれると思っていたんだよなぁ」

 そばにいた相原が、雪に手を掴まれて引っ張られて行く進を見て、島と一緒に笑った。

 そして雪は進を連れて、両親の前にやってきた。

 「パパ、ママ、紹介するわ。古代進さん、ヤマトで一緒だったの」

 「あら、そう…… 初めまして、古代さん。娘が大変お世話になりました」

 美里は、礼儀正しく頭を下げた。晃司も黙ったまま、一緒に頭を下げた。

 「は、はい…… 初めましてっ! こ、古代……進です。 あの、僕の方こそ、ゆ……あっ、森さんにはお世話になりまして…… あの」

 進は、突然二人の前に連れ出されて心の準備もあったものではなかった。一体何を言っていいのか、よくわからずしどろもどろになってしまう。
 と、美里はひとり焦っている進が目に入らないように、軽く会釈しただけで、雪を連れて歩き始めようとした。

 「じゃ、雪、早く家に帰りましょ。もう、帰っていいんでしょ。では、古代さん失礼します」

 「は? はぁ……」

 進は、その展開にただあっけにとられていた。

 「ママ! あのね……」

 雪がまだ話しを続けたそうにしたが、美里に上からかぶせるように言われてしまった。

 「さあさあ、話は帰ってからゆっくりしましょ。古代さんだって、ご家族がお待ちよ。お邪魔したら悪いじゃないの。ママも雪に話したいことがたくさんあるのよ」

 そう言うと、美里は再度進に頭だけ下げて、雪を連れていってしまった。父親の方も、にこにこしながら「それではまた」とだけ短く挨拶すると、二人に付いて行ってしまった。
 雪は後ろ向きに進の方を見ていたが、母親にうながされて、とうとうあきらめてしまったようだった。

 進がまだ呆然としたまま、その行った先を見ていると、後ろから相原がやってきて、肩をぽんと叩いた。

 「古代さん! いきなり、ご両親の反対ですか?」

 「い、いやぁ…… そう言うわけでもないんだけど、なんか、雪のお母さんの勢いに圧倒されてしまって…… あの性格、雪はお母さん似だよな?」

 「そ、そうなんですかぁ??」

 (4)

 両親に連れられた雪は、地下都市の自宅へと戻った。
 さっそく帰宅のお祝いだと、雪の母は余り恵まれていないだろう食糧事情の中、いろいろなメニューを出してくれた。雪はその料理をたっぷり食べて、母に礼を言った。それから、さっきの進とのやり取りを話題にした。

 「ママ、さっき古代君を紹介したのに、なんだったの? あんな、そっけない挨拶して」

 「あら、そうだった? だって、さっきはあなたに会えてもううれしくてうれしくて、悪いけど他の方と話してる余裕なんてなかったのよ。それに、あなた、古代さん?でしたっけ? その人だって、家族と会うのが楽しみでしょ?」

 「古代君は…… ご家族は地球にいないのよ」

 「えっ、そうだったの…… それは、悪い事をしたわね。ごめんなさい、雪。でも、だからといって、あなたが面倒を見なければならないわけではないんでしょ?」

 美里は、雪が進をわざわざ紹介した意味をまったく理解していない。

 「それはそうだけど……」

 「ね、ね、それより、見て! 雪! これこれ、こんなに、お見合いの写真が届いてるのよ。雪は地球の恩人のひとりだからって、もう、みなさん、こぞって立候補されてるのよ! どおお? ママはね、今、この方なんかどうかと思ってるのよ」

 美里は、雪に束になった写真を取り出して並べて見せた。行きに通信で見た写真の数より数倍も数が増えている。

 「ママァ…… だから、いきなりそんな話しないでっていってるでしょ」

 雪の困った顔に、父親の晃司がやっと助け舟をだした。

 「そうだよ、ママ。雪は今日帰ってきたばかりなんだから、ゆっくりさせてやろうよ」

 「そ、そうだったわね。もう休む?」

 「ええ…… そうするわ。明日は、出勤だし」

 雪はその日、結局進とのことを切り出す事が出来ずに一日を終えてしまった。

 (古代君、どうしてるのかしら…… 今日はさよならも言えずに別れちゃったし、ママはママで案の定お見合いの話は出してくるし…… ああ、困ったわ)

 (5)

 翌日、ヤマトクルー達は、長官からの謝意を伝えられた後、遠征中の給与振込などの総務的な連絡事項や、今後の業務についての説明を受けた。
 ヤマトは、整備をした後、とりあえずは休艦として海底ドックに保管される事になった。ヤマトクルーへの説明では、緊急時の対応に備えてという話だった。

 進は、3日間の休暇の後、現在建造中の輸送艦隊護衛艦の艦長として、物資輸送を支援する事になった。ただし護衛艦の完成予定は2週間後で、それまではヤマトの航海報告書の作成と、護衛艦の性能チェックを行う事になった。

 雪は、地球防衛軍科学局生活部の配属となり、通常時は、以前と同じく佐渡付きの看護婦として連邦中央病院に務める事になった。

 他の第一艦橋のメンバーも、進と同様に島は、輸送艦の艦長、南部、相原、太田、徳川は、それぞれ、輸送艦または護衛艦の各担当班長となった。そして真田は、科学局の局長として、腕を発揮することになった。

 午前中の全体説明の後、進と雪は連れ立って食堂へ昼食に向かった。

 「古代君、昨日はごめんなさいね。ママったら……」

 「いや、いいよ。お母さん、本当にうれしかったんだな。周りに目をやる余裕なかったみたいで……」

 「もう、はずかしいわ…… でも、私困ってしまって……」

 「何が?」

 「だって…… ママッたら、家に帰ったら……」

 雪は、そこで口篭もって、すぐに言い出せなかった。

 「ん?どうした?」

 「あのね…… 実は、お見合いの写真をね……」

 「見合いぃー!」

 進は、全く想像だにしていなかった事を聞いて、思わず声を高くしてしまった。

 「シー! やだ、大きな声出さないで…… 恥ずかしいじゃない」

 「ご、ごめん…… いやぁ…… いきなりそんな話がでるもんだから……」

 「だから、困ってるのよ!」

 「で、するの? 見合い?」

 進が、目をぱちくりさせながらも、あっさりと他人事のように尋ねたので、雪は怒ってしまった。

 「なっ!! 何よ!古代君! 他人事みたいに……! いいわ、もう…… 私、一番お金持ちでハンサムな人とお見合いして結婚しちゃうから!」

 「えーっ! ちょ、ちょっと待ってよ。いきなりそんなこと言ったって、俺にどうしろっていうんだよ」

 「別に……どうも、してもらわなくてもいいわよ。もう、古代君に相談しないから!」

 雪はすっかりおかんむりで、そっぽを向いてしまった。

 (もう! 古代君のばか…… 俺がいるのに見合いなんかするなってどうして言ってくれないの!)

 「ゆきぃ…… 機嫌直せよ。そんなこと言ったって、俺が見合いするわけじゃないし、どうこう言える立場じゃないじゃないか」

 「立場じゃないって…… だからぁっ!」

 雪が再び進に噛み付こうとした時、島がやってきた。

 「おいおい、おふたりさん、戻って早々にもうけんかかい?」

 「あっ、島君。 だって……」

 雪がふくれっつらで言葉を濁した。視線は恨めしそうに進を見ている。

 「雪に見合いの話があるんだとさ」

 進のそっけない言い方に、島はすぐに雪の怒っている意味がわかった。そして、

 「いいじゃないか、雪、すれば…… きっと、古代なんかよりいい男が一杯いるぞ。した方がいい! うん!」

 「そうかしら? そう……かもね」

 島のいたずらっぽい表情に、彼の意図を理解した雪は、チラリと進を横目で見た。それには、さすがの進も慌てた。

 「お、おい! そりゃないだろ、雪…… 島もとんでもないこと言うなよ」

 「じゃあ、どうするっていうんだ? 古代」

 島がしたり顔でさらに突き詰めると、進は恨めしそうに島を、そして雪を見た。

 「どうするって言われても…… どうしたらいい? 雪」

 「知らないわ。私、お見合いして素敵な人にめぐり合うから……」

 雪はプイッと顔をそむけて席を立った。島も、当然と言う顔で二人を見る。

 「そうそう、雪、その方がいいよ。そうしな」

 心の中で、島が今にも吹き出しそうになっていることなど、進は知らない。とうとうたまらなくなって立ち上がって叫んだ。

 「ま、待てよ。君のお母さんに俺が言うからっ!」

 雪は、進のその言葉を待ってたかのように振リ返った。

 「何を言うの?」

 「だ、だから、あの…… 俺たちが付き合ってるから、だから……その……見合いはさせないでくれって…… 俺も真剣に雪の事…… あの、好きだから……その……」

 進がうつむき加減にしどろもどろにそう言うのを聞いて、雪と島は顔を見合わせてにこっと笑った。

 「ほんと?古代君?」

 「世話の焼ける男だな、古代。最初からさっさとそう言えばいいんだよ」

 島は、あきれたとでも言うような顔をしてそう言うと、雪にウインクした。雪はとてもうれしそうな顔をしている。

 島君ありがとう……と、雪は心の中で島に感謝した。進は照れ隠しに、再びすとんと座ると、残っていた食事をバクバクと食べ始めた。

 そんな二人を眺めながら、島も一緒に座って食事を取り始めた。

 (俺もいつもながらお節介だな…… 好きになった人と親友のけんかの面倒までみてやるなんてさ)

 その日の午後は、各担当部署ごとの打ち合わせが行われることになっていた。
 進と雪は仕事が終わってから夕方に、再度待ち合わせる約束をした。 

Chapter 1 終了

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