幸せへの軌跡−進と雪の婚約物語−

Chapter7−プロポーズはママから?−

 (1)

  あれから、数ヶ月がたち、季節も冬がそろそろ終わろうとしていた。あの、合コンの後、付き合い出したカップルは残念ながらいなかったようだ。ただ、絵梨は南部とたまに遊びに出かけているようなことを話しているという。ただし、二人ともに他にもBF,GFがいるようで、気軽な異性の友達といったところらしい。
 千佳は、真田のファンになったようだったが、それ以上の進展は聞こえてこなかったし、綾乃は島を気に入っていたが、残念ながらあれ以来、島とは会ってもいないようだった。

 進は、相原と一緒に護衛艦の勤務を続けていた。出航先も、太陽系の各惑星を巡り、この前は第11番惑星までも足を伸ばして、1ヶ月以上も地球に帰還しなかった。だが、地球に戻ってくると、進は雪と共に過ごす時間をできるだけ作ってくれた。それが、雪の一番幸せな時だった。けれども、進が行ってしまうと、雪はやはり淋しい気持ちを抑えられない事もしばしばだった。
 美里は、そんな雪にそろそろ話を進めてはどうかと切り出した。

 「ね、雪。古代さんとこれからのこと、何か話し合ったりしないの?」

 「これからのことって?」 雪は、母親に聞き返した。

 「当然、結婚とかよ」

 「結婚!? そんなこと…… だってまだ、私達19歳よ」

 「あら、今年で20歳になるじゃないの」

 「そうだけど……それでも……」

 「雪はまだそんな気は全然ないの?」

 「えっ?…… そんな……」

 「女の子ですもの、考えるわよね、好きな人との結婚…… 結婚って言えば、夢物語みたいだけど、実際は、そうじゃなくて生活よね。でも、あなた達なら、金銭的にも生活の心配はないし、古代さんも、誰も家族もいないんじゃ、何かあっても困るでしょう?
 現に、古代さんの車だってあなたがほとんど使ってるようなものだし、お給料の管理もあなたがしてるって言ってたでしょう? 古代さん、きっと家族が欲しいのよ。パパとママだって、息子が出きると思って楽しみにしてるのよ」

 「ママ…… でも、私からなんて…… そんなこと言えないわ……」

 「じゃあ、あなたはその気はあるのね?」

 「結婚……したいわ。だってせめて地球にいるときくらい、古代君とずっと一緒にいたいもの……」

 「わかったわ、今度古代さんが来たら、ママがそれとなく聞いてあげるから」

 「えっ? だめよ、古代君きっとそんな事まだ思ってないもの…… 私困っちゃう……」

 「別に結婚を迫ったりしないから、心配しなくていいわよ。それより、あなたはその気があるのなら、ほんとに気を入れて花嫁修行してよ! そうじゃなきゃ、ママはあなたをお嫁さんに出せないんだから…… 食べる事くらいちゃんとやらないと、古代さんに嫌われるわよ」

 「また、それを言うぅ!……頑張ります!!」

 母との会話をきっかけに、雪は進との結婚について本気で考えるようになった。

 (2)

 「古代艦長、もうすぐ地球ですね」 相原が、地球到着の最終連絡をすませて進に言った。

 「うん、今回は、ちょっとしたハプニングもあって驚いたな」

 「地球に着いたら緊急手術だそうですけど、ぎりぎり間に合いそうだっていうから、よかったですよ。それより、古代さんは心はもう地球でしょ?」

 「ば〜か! お前はどうなんだよ。あの時の彼女たちの誰かでも気にいらなかったのかい?」

 「ええ…… 僕はもうちょっとおとなしい人がいいなあ…… 看護婦さんって、血を見ても動じない人達ばかりだから、僕なんか気おされちゃって…… 南部さんは、うまくやってるようですよ。といってもあの人、一体何人彼女がいるんだか…… みんなお友達らしいけどね」

 「ふうん…… そうなんだ。もてるんだな、南部って」

 「古代さんだって…… 年下のファンがいたり、年上のお姉さんに迫られたり……」

 「こ、こら! 変なこと言うな! 俺は別にもてなくてもいいんだ」

 「ですよねぇ…… いとしのGFがいますもんね。かえってもてた方が話がややこしいですもんね。ああ、いいなあ…… ね、古代さん、まだいい話はでてないんですか?」 

 「なんだ? いい話って?」

 「またあ、とぼけちゃってぇ…… 結婚ですよ、結婚! まだ、プロポーズしてないんですかぁ?」

 「ええっ! な、何言い出すかと思ったら…… し、してないよ……」

 「早くすればいいのに。雪さんのご両親も公認の仲なんでしょ?」

 「それは、そうだけど…… まだ、若いって言われそうだし」

 「古代さんもまだ、遊びたい?ですか?」

 「だから、それはないっていってるだろ!」

 「じゃあ、いいじゃないですか。早く決めれば?」

 「お前、人のことだと積極的だなぁ……」

 結婚…… 進はその事をまったく考えないわけではなかった。形だけではあったが、見合いという形で雪の両親から認めてもらい、雪の事を頼むと言われてから、進は、雪との結婚の事を時々考える事があった。

 進には、家族といえる者はいなかった。雪や雪の両親が自分の家族になってくれたら、どんなに安らぐだろうかと思うことがしばしばある。ただ、自分の年を考えると、雪の父親あたりから、まだ若すぎると言われるのではないかと思ったり、また、雪自身もまだ、色々とやりたいことがあるんではないんだろうかと思ったりもして、結婚について、雪に言葉に出して言ったことはなかった。

 長い宇宙の旅から帰ってきたら、家で雪が進の帰りを待っていてくれる。それは、進にとって憧れの家庭の第一歩だった。

 (3)

 進たちの輸送船団は今回も無事に任務を終えて、地球に帰ってきた。今日は、雪も休みを取って進を迎えに来ていた。護衛艦が到着してから、進が出てくるまで、今回は少し時間がかかっていた。雪は、何かあったのかと心配していると、進が出てきた。

 「古代くーん!! おかえりなさい」

 「雪! ただいま」 いつも繰り返される恋人達の再会シーンだった。

 「今日は、少し出てくるの遅かったのね?」

 「うん、ちょっと、病気になった人がいて、そのことでちょっと時間がかかったんだ」

 「そうなの? 大丈夫だったの? その人は?」

 「ああ、命に別状はない。けど、しばらく入院らしいんだ。次の出航先は、また、タイタンなんだけど、補充要員が決まらないと出発できなくて、今度の出航日は未定なんだ」

 「そう、病気の方には悪いけど、たまにはしばらく地球でいてくれればうれしいな」

 「こらこら…… でも、ゆっくり雪と会えるのはうれしいよ」

 地球の復興は、瞬く間に進み、地上は、首都圏を中心に多くのビルが建ち並んでいた。その復興を支える、進たちの物資の輸送船団は、休みなく地球と惑星間を飛びつづけていたのだった。

 進と雪は、エアポート近くの喫茶店に入った。

 「ね、私達の家も、地上に引っ越したのよ。パパとママが、明日にでも遊びに来てって」

 「ああ、そうなんだ。ありがとう、明日行くよ。俺ももう、地上で住むところ探さないとなぁ」

 「どんなところがいいの?どうせ、あなたはほとんど地球にいないんだから、また私の仕事ね、部屋探し、ふふふ」

 「よくわかってるじゃないか。あははは……」

 「で、どんなところがいいの? ワンルームのシンプルなの? フローリングの床がいいのかしら?」

 雪の質問で、進はマンションの部屋の事をあれこれ考え出した。考え出すとだんだん真剣になってきて、さっきの相原との会話が頭に浮かんできた。結婚したら住むのはどんなところがいいんだろう。進は、プロポーズもまだしていない当の雪が、目の前にいるという意味も忘れてそんなことを考え出した。

 「うーん、ある程度の広さは欲しいな。台所にリビングと、部屋は最低2つ…… 2LDKっていうんだっけ?」

 「え? 2LDK?? どうしてそんなに広いところがいるの? 誰かと部屋をシェアするの?」

 「だって、それくらいの広さはいるだろ?雪も……」

 「えっ?」 雪は、進が雪との暮らしを考えていた事に気付いて、驚いて進を見た。

 「あっ…… ああ、いや、その……」

 進は、やっと今目の前に雪がいるという現実に気付いた。と同時に、カーっと顔が火照るのがわかった。雪もそれがわかって恥ずかしそうに微笑んだ。

 「と、とにかく、広い方がゆったりしてていいだろ? そういうことで…… 頼むよ。あ、さあ、出よう」

 進は都合が悪くなって、話を切り上げると、レシートを掴んで、雪を置いてさっさと席を立った。雪もあわててその後に続いた。

 (古代君ったら…… 古代君も、もしかしたら私との結婚の事を考えてくれてるのかしら…… それならいいのに…… でも、あの調子なら、プロポーズなんていつになるんだかわからないわね)

 雪は、進の気持ちにうれしくなった。ほんのちょっとした一言が雪を幸せな気分にしてくれる。進のなにげない言葉を雪はいつも大切にしていた。

 (4)

 翌日は、雪も休みを取って、進の訪問を待った。昨日送ってもらって、進は雪たちの新しいマンションを覚えた。

 このマンションは賃貸だった。遊星爆弾で、他の人々と同じく以前の持ち家を無くした森家だったが、これからどんな街ができていくのかわからない今は、とりあえず持ち家を持たず、借りることにした。3LDKのゆったりした造り。リビングに、両親の寝室と雪の個室に、フリーの部屋が1つあった。

 新しく建造された東京ニューシティーの少しはずれの住宅街、マンションがどんどんと建ち並んでいた。ここから中心部までは、エアカーで30分。通勤には快適な環境だった。

 晃司は仕事でいなかったが、美里は進の訪問にはりきって家の中の掃除をしていた。

 「ねえ、雪。古代さん、その気ありそうだった?」

 「う、うん…… 古代君も地上のマンション探したいって…… 結構広い部屋が欲しいような事言うのよ」

 「まあ!! それじゃ、可能性大だわね。楽しみ!」

 「ママぁ…… ママは、いつも古代君と私のこと勝手に決めちゃうんだから…… 振り回さないでよ! 最初は反対して他の人とお見合いさせたかと思えば、今度は古代君を巻き込んでお見合いなんかさせるし……」

 雪は、先にくぎを刺しておかないと、また美里がとんでもない事を言い出しかねないと心配していた。

 「いいじゃないの。私は雪に幸せになって欲しいだけなんだから。古代さんって切羽詰れば強そうだけど、そうでないと、なかなかうまく言い出せないって感じでしょう? プロポーズだって、待ってたんなら、いつになるかわからないわよ」

 美里は、進の性格を既に熟知していた。

 「ママったら…… うふふ…… その通りなんだけど」

 (5)

 そんな会話をしていると、玄関のベルが鳴った。進が来たようだ。

 「こんにちは。 ああ、あったかいなぁ。やっぱり家の中は……」

 「いらっしゃい、古代君。外はまだ寒いでしょう? さあ、お上がり下さい」

 「これ、おみやげ」 進は、ほかほかとした包みを雪に渡した。

 「なあに? …… 鯛焼き? あったかい! なつかしいわ。こんなの売ってたの?」

 「うん、途中で新しい店が開いてて売ってたんだ。冬だから熱々がいいかなって思ってさ。 たいしたことないけど、いつもご馳走になってばかりだもんな。ほんとはもっとましなおみやげがあったほうがいいんだけど……」

 「いいのよ、そんなこと気にしなくても…… ママ、見て! 鯛焼きだって!」

 雪は、うれしそうに美里に叫んだ。リビングから美里も顔をだした。

 「いらっしゃい、古代さん。すみませんね、おみやげなんか買ってきてもらって」

 「おじゃまします。 いえ、おみやげって言うほどの物じゃないんですけど、いつもごちそうになってばかりで、こちらこそすみません」

 進は、いつもの笑顔で頭を下げた。美里は、最近、この進の笑顔を見るのが大好きになっていた。とても、防衛軍で艦隊を指揮している護衛艦艦長とは思えないかわいらしい笑顔だった。

 (6)

 進の持って来た鯛焼きをさっそくあけて、雪がお茶を入れた。温かい暖かうちに食べた鯛焼きはなつかしく美味しかった。しばらく談笑して、昼食の時間になると、雪は席を立って台所に行った。簡単ではあるが、今日の昼食は雪が一人で用意するらしい。少しは、料理の腕もあがったようだ。進は、リビングのソファーから部屋を見回して、美里に言った。

 「やっぱり、地上はいいですね。昼間はこんなに明るい。当たり前のことなんですけど」

 「ええ、そうね。地上に引っ越してきて、やっぱり今までより気分がいいわ。古代さんも地上でマンションを探したいんですって?」

 「あ、はい…… 僕はあまり地球にいないんで、また、雪さんにお世話かけますけど……」

 「どんどん使ってやってちょうだい。雪はあなたのためなら、なんでもしたいんだから」

 美里に笑顔でそう言われて、進は少し照れてしまった。

 「は……はい…… すみません」

 美里は、雪が台所で一生懸命料理をしているのを確認すると、進に小声で言った。

 「ね、古代さん。なんだか、マンションは広いところをお探しなんですってね。何か思ってることでもおありなの?」

 美里のするどい質問に、進はびくっとしてしまった。

 「あ…… あの…… その……」

 進は、雪との暮らしを考えているとはいえなくて言葉を濁した。しかし、美里はそんな進の気持ちをいち早くキャッチした。

 「ね、あなたたち、結婚したら?」

 「へ?」

 美里のあまりにもストレートな言い方に進は、呆然としてしまった。そして、思わず

 「は、はい……」 と返答してしまった。

 「よかった! これで決まりね。雪には、そのつもりで部屋を探すように言っておくわ」

 美里は大喜びで、立ち上がらんばかりだった。

 「あ、あの、ちょっと待ってください!」 美里の様子を見て、進は慌てて制止した。

 「あら? どうしたの?」

 「あの、僕は、まだ、雪さんにプロポーズもしてませんし、お父さんにもお許しをいただいてないのに……」

 「ふふふ…… それは心配しなくてもいいわ。パパはあなたのこと気に入ってるし、遅かれ早かれそうなると覚悟してるから。雪もそうでしょ?」

 「いえ…… でも、やっぱり、これは雪にまずプロポーズしてからってことで…… あの、お願いしたいんですけど……」

 進が必死になって懇願するので、美里も一旦上げていたテンションを下げた。

 「まあ、そうね。また、私が勝手に決めたって雪に攻められそうだものね。じゃあ、そうしましょ。でも、早い目にね。古代さん!」

 「……はい、わかりました…… 今度の仕事から帰ってきたら、きちんとご挨拶に来ます」

 進は、やっとのことで、美里の暴走を止めた。しかし、気がついたら進は汗だくになっていた。

 雪が食事の仕度をして、進たちを食卓に呼んだ。進と美里が行くと、チキンライスとサラダ、スープが並んでいた。見た目はなかなか美味しそうだった。やってきた進の姿を見て、雪は不思議そうに言った。

 「古代君、どうしたの? なんかすごい汗…… 部屋の中、そんなに、暑かった?」

 「いや、そんなことはなかったよ。さっき、マンションをあがってくる時、階段で来たから暑くなってしまったんだよ」

 進は、苦し紛れの言い訳をした。美里はまったく涼しい顔で笑っている。雪は、それ以上聞くわけにもいかず、そのままになった。そして、雪の料理は…… 今日は成功だったようだ。進もお代わりして食べていた。

 その日、夕方に帰ってきた晃司とともに、4人で夕食を囲み、夜も更けてから進は席を立った。雪は、帰っていく進をマンションの1階まで見送った。

 「今日も、ごちそうさま。お昼も夜もとても美味しかったよ」

 「ありがとう…… 古代君」

 「明日は雪は休みかい?」

 「ええ、お休み貰ったの。古代君がいるから、こんなときに休まなきゃって思って」

 「じゃあ、どこかへ行こうよ。地上でもずいぶんいろいろなところができてるし、お礼に明日はごちそうするよ」

 「ほんと!! うれしい!」

 「じゃあ、明日。10時に迎えに来るよ。おやすみ!」

 (7)

 翌日、進は時間通り雪を迎えに来ると、エアカーで出かけた。まだ、一部ではあるが、緑が復活して、小さな公園も作られはじめていた。木々が増えれば、それに付随して小さな動物たちも増えてくる。今はまだ冬なので、木々の緑も少ないが、もうすぐ来る春には、いっせいに緑が萌え出すだろう。地球の復旧は、見渡す限りの場所で進んでいる。

 二人は、その日一日、公園の芝生に寝転んだり、森を歩いたり、地下にいた頃あこがれていた、本当になにげないことをして過ごした。人の姿はまばらで、森の中に入ると、ちょっとした死角ができる。そんなところで、二人はそっとくちづけをした。誰もいないのを見計らってのくちづけだったが、顔を離すと少し恥ずかしくてふたりして苦笑した。そんなことを何度しただろうか…… あっという間に時間が過ぎていった。

 そして、夕方。進の通信機がなった。相原からだった。

 「こちら、古代。どうした? 相原」

 「古代さん、艦医の補充が決まったそうです。明日、艦隊の総点検をしたら、明後日からタイタンに出航だそうです」

 「わかった。明日、8時には、ドックに入る」

 「お願いします。…… あれ? 雪さんと一緒ですか? いいなあ……」

 「よけいなこと言わなくてもいいよ。まだ、連絡するところあるんだろ。早くしろよ」

 「あははは…… はい! 了解しました」

 「ということみたいだ……」 進は、苦笑して雪に言った。

 「もう、出航が決まったのね。艦医って、病気になった人って、お医者様だったの?」

 「そうなんだ、医者の不養生って、よく言ったもんだよね。自分が盲腸だってことに気付かずに腹膜炎を起して、もう少し地球への帰着が遅かったら、あぶなかったらしいよ」

 「そうなの…… それで、かわりのお医者様を探してたのね」

 「うん、たぶん、今回だけの臨時で誰かが入ると思うけど、戦争中と違って怪我する者もめったにいないし、暇な仕事だよ。艦医といっても、ま、風邪と腹痛くらいかなぁ…… 患者って言うと、ははは……」

 雪は、医者という言葉に、とっさに希の事を思い出した。まさか、それがほんとうに的中しているとは、その時の雪は思いもしなかった。

 「さて、明日から仕事だな。そろそろ晩飯でも食べて帰るか」

 約束通り、夕食をごちそうした進は、雪を車に乗せると、家まで送った。車を止めて雪を降ろした進は、車の中から雪に言った。

 「この車、俺の家の方に置いておくから、また、使ってくれていいよ。それから…… 今度、タイタンから帰ってきたら……」

 そこで、一旦言葉を止めて息をすい、また、意を決したように進は言った。

 「この前のスーツ着て、雪んちに行くから……」

 進は、恥ずかしそうにそう言うと、さっと車の窓を閉めて走り去ってしまった。

 (えっ? 古代君? 今のは……??? 確かに、スーツを着て家に来るっていったわ…… もしかして、それって……)

 雪は心の中に幸せの予感をたっぷりと感じて、自然と顔がほころぶのがわかった。

 (8)

 翌日、雪はいつもどおり出勤すると、綾乃が雪の医務室に駆け込んできた。

 「ね、ね、聞いて! 私、明日から第15輸送船団の護衛艦の看護婦としてタイタンまで出張なのよ。第15って言ったら古代さんの艦でしょ?」

 「えっ? 綾乃が? 古代君の艦に? じゃあ、もしかして艦医の方が入院した代わりって?」

 「そうなのよ。間宮先生なの」

 「!…………」

 「びっくりでしょう? 間宮先生がそんな仕事を引き受けるなんて…… あれほど腕の立つ新進の外科医なのに、何を思ったんだか…… 今回限りの2週間だけの仕事だけどね。自分の手術の都合をわざわざあけて希望したらしいわよ」

 「どうして……?」 思わず雪はそうつぶやいてしまった。

 「わからないわ…… でも、間宮先生が行くっていうから、私もたまにはそんな仕事も面白いかなって思って同行することにしたの。雪と代わってあげられればいいけど……」

 「そんなことはできないわ。間宮先生の医務室付きの看護婦でないもの、私は」

 「そうよね…… もしかして、雪、間宮先生のこと、心配してない?」

 「心配?」

 「だって、あの時の合コンで、間宮先生、結構古代さんに話しかけてたし…… もしかして、誘惑されないかって……」

 「まさか! 仕事で行くのよ。二人とも……」

 そうは言ったものの、雪は、あの時、希が進に何か言って進の顔を赤らめさせたりしていたことを思い出すと、なんとなく不安な気持ちが浮かんできた。

 「でも雪、心配しないで。私がちゃんと見張っててあげるから。ね!」

 「心配なんかしてないってば…… だって、古代君、今度帰ってきたら……」

 「何?」

 「ううん…… 内緒!」 雪は昨日の進の言葉を思いだして笑顔になった。

 「なんかあやしい笑い! でも、幸せそうだから大丈夫そうね。私これから先生と艦の方に行って準備に入るの。またね!」

 綾乃は、それだけを言うと忙しそうに出ていった。

 (古代君の艦に、間宮先生が…… ううん、でもなんでもないわ。だって、古代君、今度帰ってきたら、きっと…… プロポーズしてくれるつもりなんだもの。待ってるわ、古代君)

 雪は、余計な心配をしないように、昨日のあの幸せな感覚を思い出していた。

 (9)

 護衛艦の最終チェックをしていた進の元に、新しい艦医が到着したと連絡が入った。

 「わかった。今から、医務室に挨拶に行くよ」

 進は、そう答えると、艦橋のチェックは、他のメンバーに任せると医務室へ急いだ。医務室へ入ってその艦医を見て進は驚いた。

 「間宮……先生……」 新しい艦医は、あの合コンに来ていた美人医師、間宮希だった。

 「こんにちは、お久しぶりね。古代・・・艦長」

 希は、医者の白衣を着ていてもその華やかな美しさは変わらなかった。一瞬、進は挨拶するのも忘れてしまった。

 「短い間ですけど、よろしくお願いしますね。古代艦長」

 そう言って、手を差し伸べる希の姿にやっと我に帰ってた進は、握手を返した。

 「こちらこそ、よろしくお願いします。まさか、間宮先生が代理の艦医だとは思ってなかったもので、驚きました。そんなに忙しい仕事でもないと思いますから、ゆっくりやってください。でも、なぜまたこんな仕事を受ける気になったんですか?」

 「ふふ…… 気まぐれかしら? あら、そんなこと言ったら失礼ね。でも、一度こんな戦艦に乗ってみたかったのよ。代理が見つからなくて防衛軍も困ってたみたいだから、私が申し出たら二つ返事でOKだったわ。戦争中じゃないから、だれでもよかったんでしょ?」

 「そんなことはないですが…… 逆に、もったいないくらいです。とにかく、タイタンまでの旅を楽しむくらいの気持ちでいてください」

 進は、ニッコリと笑った。そこへ、看護婦の綾乃が入ってきた。

 「こんにちは、古代さん!」

 「ああ、佐伯さん、あなたもご一緒だったんですか? よろしくお願いします」

 「ふふ…… 雪じゃなくてごめんなさいねっ! でも、古代さんの働きぶりは雪にちゃんと報告するから……」

 「あははは…… それはおっかないなあ。手を抜いてられないな」

 「そうですよ、古代さん! どうぞよろしくお願いします」

 綾乃は、相変わらずの元気者で明るい笑顔を向けた。綾乃の笑顔は、患者によい励ましになるだろう。雪ほどの美人ではないが、綾乃のやさしい笑顔は人を魅了する。

 第15輸送船団は、新しい艦医を得て、翌日予定通り出航していった。

 (10)

 護衛艦のタイタンへの旅は、いつも通り、順調だった。違うことといえば、やたらと病人が多いことだった。特に、どこが悪いのかわからない乗組員が、医務室に常に数人いる。もちろん、美人の艦医を一目見ようとする者たちだった。

 進がたまたま、ちょっと手を切って医務室に薬をつけに行った時もそうだった。

 「古代艦長、どうなさったんですか? 艦長も、間宮先生詣で?」

 綾乃が出てきて、笑いながら言う。

 「いや、ちょっと塗り薬が欲しかっただけだから、佐伯さんでいいですよ。でも、大変でしょう? 間宮先生、僕からみんなに注意しますよ」

 中から、その会話を聞いていたようで、希が叫んだ。

 「古代艦長ですか? いいのよ、乗組員の方達が入れ替わり立ち代わり来てくださるから、楽しいわ。気になさらないで」

 「だそうです」 綾乃は塗り薬を進に渡すと、両手をあげて苦笑した。

 「間宮先生は、やさしいんですね。じゃあ、お言葉に甘えさせていただきますが、問題があったらいつでもどうぞ。佐伯さんも大変ですがよろしくお願いします。どうもありがとう」

 進は、そう言うと、医務室を出ていった。進は、希が面倒だと言わずに対応する姿に本当に感心していた。また、綾乃は、進が希に好感を抱いているように見えて、雪ではないがやきもきしていた。

 (11)

 タイタン到着まで、あと1日と迫った日。進は、夜の就寝前に艦内を巡回していた。ヤマトの半分の大きさしかない護衛艦の巡回はあっという間におわる。今回の旅も、平穏無事に前半を終われそうだった。自室に戻って、寝ようとした時、非常灯だけがついた薄暗い休憩室に、人の気配がした。この時間に待機クルー以外の人間が起きていることはめったになかった。今日の、メイン艦橋の後半の待機員は相原だったが、彼の交代時間まではまだ少しあった。

 「誰だろう? 今ごろ……」 進は、休憩室に入っていった。

 するとそこには、希が窓際に立って、今にも泣きそうな顔をして窓から宇宙を見つめていた。

 「間宮先生……?」 進が声をかけると希ははっとして振り返った。

 「古代艦長……」

 「どうなさったんですか? こんな時間に、もしかして、昼間疲れすぎて眠れないんじゃ?」

 「いいえ、違うのよ。そうじゃないの……」

 そこまで言って、希は言葉を切った。話していいものかどうか思案しているような様子だった。そんな様子に進は、黙っていられなくなった。

 「僕でよかったら、話を聞きますよ。話した方が気が済むのなら……」

 「ありがとう、古代さん…… でも、いいのよ。タイタンが近づいてちょっと感傷的になっただけだから」

 「タイタン……? ひょっとして、タイタンのゆきかぜのことですか? あの時に知り合いが乗っているって言ってましたよね」

 「!!」 進が、あの時の希の言葉を覚えていた事を知って、希ははっとした。

 「ゆきかぜは、僕の兄が艦長だった艦です。その艦に誰が乗ってたんですか?」

 「…………」

 希は、少しうつむいたまま、進に尋ねられても答えなかった。進は、希がゆきかぜに乗っていた人物のことを思っているのだと感じて、希の答えを聞かずに話し出した。

 「イスカンダルで兄に会って、沖田艦長と一緒にゆきかぜの最期のことを聞きました。兄は、あの艦がもう長距離を航行することができないことを知っていました。直前の整備が間に合わなかったんです。それでも、あの冥王星での決戦に行かずにはいられなかった。そして…… やはり地球側の大敗に終わって、沖田艦長から撤退命令がでました。

 兄は、ゆきかぜがもう撤退する余力もなくなっていることを知ると、沖田艦長の命に逆らって敵に突入して行ったんです。無謀な事だと思われたかもしれませんが、沖田艦を間違い無く逃すためには、自分が盾になることが一番だと思ったそうです。

 しかし、残った艦員まで道連れにすることは忍びなくて、退艦命令を出したそうですが…… ゆきかぜの乗組員は誰もが退艦を拒否したそうです。兄と一緒に最期まで戦うといって。

 ゆきかぜ爆発後に、息のあった兄は、ガミラス艦に捕らえられましたが、その艦も遭難してイスカンダルのスターシャさんに救われました。おそらく、イスカンダルだったからこそ、兄は助かったんでしょう。でも、兄はあのゆきかぜの乗組員の事を忘れた事はないと言っていました。いつか、彼らの元に行って先に逝かせたことを謝りたいと……」

 進がゆきかぜの最期について話し始めると、希は最初はじっと黙って聞いていたが、だんだんと肩が震えだし、最後には嗚咽をあげて泣き出してしまった。

 「うっうっうっ……」

 「とても大切な人が乗っていたんですね? 間宮先生……」

 泣きつづける希に、進はそっと手をかけた。年上でいつも笑顔の絶えない堂々とした希が、今はとても小さく見えた。希は、進の言葉に絶えきれなくなって、進の胸に倒れこむようにすがって泣きつづけた。進は、希があまりにも痛々しくて、小さな子供をあやすように、頭をなぜた。

 しばらく、泣いていた希だったが、やっと落ち着いたように進から離れた。

 「古代さん、ごめんなさい。取り乱してしまって…… そう、あなたの言うとおりよ。あの艦には、私の婚約者が…… 乗っていたの。 あの戦いに行く前に、彼は死を覚悟していたわ。私にもわかっていた、それが…… でも、止める事はできなかった、あの時、あの時代……」

 希は、遠くを見つめるようにしながら話した。

 「いつか、機会があったら、タイタンへ…… ゆきかぜのところへ行ってみたい。ずっと、そう思っていたのよ。そんな時にこの話があって、私は、すぐに飛びついたわ。でも…… タイタンが近づくにつれて、そこへ行くのが恐くなったの。
 たぶん、彼がもしかしたら、ひょっこり帰ってくるんじゃないかって、思っていたいのかもしれないわ…… ゆきかぜを見て、その死を確信することが耐えられないかもしれない…… どうしたらいいのかしらって、そう考えると、眠れなくなって…… でも、ここまで来たんですもの、必ず見て帰るわ。でも…… やっぱり辛い……」

 希はその揺れ動く心をどうすることもできなかった。

 「間宮先生…… タイタンに着いたら、僕が一緒に行きますよ」

 希が、一人でゆきかぜを見ることは耐えきれないことだと思った進は、思わずそう切り出していた。

 「えっ?」

 「兄と一緒に戦った方への敬意を表しに…… 僕の意志です」

 「古代さん…… ありがとう…… ほんとはこんなこと頼んじゃいけないのかもしれないけれど、今回はお願いするわ。私、とても一人では耐えられそうもないの……」

 希は、進が思った通りの本心を明かすと、やっと涙をふいて笑顔を見せ、そして、部屋を出ていった。進は、希の淋しげな後姿をじっと見送ると自分も部屋に戻った。

 (12)

 タイタンについて、二日目、進の休暇の日になった。事前に希には、伝えてあったので、希もその日をオフにできるようにしているはずだった。進と希がゆきかぜのところに行く事は、希が好奇の目で見られても困ると思い、誰にも内密にしていた。

 進が、先に行って、探査艇を借り受けた。採掘場の視察という名目だった。後から出てきた希を乗せると、探査艇は飛び立っていった。

 その頃、医務室に相原がやってきた。留守番に綾乃がいた。

 「あの…… 間宮先生はいらっしゃいますか?」 相原があまりいいとは言えない顔色をしていた。

 「あら、相原さん。今日は、先生、休暇なのよ。緊急なら、基地のお医者様をお呼びしますけど……」

 相原の顔色の悪さが綾乃に病気を想像させた。

 「あ、いや、病気じゃないんですがね…… 今日、間宮先生、誰と出かけたんですか?」

 「えっ? 誰とって? 基地か自室の方で休んでるんじゃないんですか?」

 「それが、この艦は降りたことはわかってるんですが、基地にはいないんですよ」

 「??? どういうことなんですか?」

 「古代艦長と探索艇で出かけたって、いうヤツが基地にいましてね」

 「ええ!! 古代さんと? どこへ?」

 「……わかりません…… それに」 相原はここからさらに小声になった。「おととい、見たんです。古代艦長と間宮先生が抱き合っているところを……」

 「ええ!!」 「しー!!」 綾乃の驚きの声を抑えて、続けて相原が言った。

 「僕は、12時からの待機当番で自分の部屋をでて廊下を歩いてたんです。そしたら、休憩室に二人がいて……」

 「人違いでしょ? まさか……」

 「僕の目は2.0です。暗闇でも間違いませんよ。あれは絶対に古代艦長と間宮先生でした。しばらく抱きあった後、少し話をしてたようですが、何言ってたかは聞こえませんでしたが、間宮先生泣いてたようだし…… なんかあやしい雰囲気でしたよ」

 「じゃあ…… 今日も?」

 「こっそり、デートとか……?」 相原は大胆にも言った。

 「ちょっと待ってよ。雪の事はどうなるのよ!」

 綾乃は、雪に進の事を見張っていてあげると言ったことを突然思い出した。

 「だから、心配して、ここへやってきたんじゃないですか? 間宮先生がどこかにいらしたら心配ないなと思ったもんだから……」

 「うーん……」 「ふぅー」 二人は同時にため息をついた。だが、ここで二人がとやかく言っても解決できる問題でもなかった。

 「とりあえず、今日、二人が帰ってきたら様子を見てみましょ。ね、相原さん。あの二人が本当にあやしいのかどうかも…… それから、このことは私達だけの秘密ね」

 「はい、もちろん」 二人の密約は完了した。

 (13)

 「これが、ゆきかぜ……」

 進に案内されて、希はゆきかぜの前に立つと、じっと見つめたまま動かなかった。凍りついたゆきかぜの姿は、1年以上前に進が見た時となんらかわることはなかった。そしておそらく、これから何十年とかわらない姿をさらしていくだろう。

 外部からみる限り、人の姿は見えなかった。あちこちに大きな穴があいているので、おそらくここに墜落する前に、乗務員達はすべて宇宙に投げ出されたのだろう。そして、今、地球の開発に忙しい人々は、このゆきかぜのことなど顧みる人はほとんどいなかった。それゆえ、ゆきかぜはそのままの姿でここにあるのだった。

 「あの人は、これに乗って、最期の時を迎えたのね…… でも、きっと地球防衛軍の戦士として誇りを持って……」

 希の声は震えていた。それもそのはず、希の目からは涙がこぼれ始めていた。それを、希は必死になって留めている。進はその希の姿に、言葉をかける事ができなかった。どれくらいだかわからないが、ずいぶん長い間、希はそのままの姿で立ち尽くしていた。そして……

 希は、ゆっくりと目を閉じてそして再び目を開けると、

 「さようなら、均さん…… 私はこれから新しい人生を歩いていきます…… あなたも安らかに眠ってください」

 そう言って、手をあわせて祈った。その姿には、重かった過去と決別する希の思いが現れていた。進はただただ、黙ってその姿を見つめていた。

 「ありがとう、古代さん。帰りましょう…… もう、これでいいわ。あの人の事を、やっとあきらめることができるわ」

 探査艇に戻る頃には、希の涙もかれていた。

 「ねぇ、古代さん。私、前にあなたにヴァージンじゃないって言って、からかったでしょ?」

 「えっ? は、はい……」 突然の話の振りに進は驚いた。

 「うふふ…… また、そんなに緊張しなくてもいいって。あれは、うそじゃないけど、でもたった1回っきりなの。あの人と…… だから、実は教えてあげるほど何も知らないのよ。でも、幸せだった…… あの人とたった1回でも結ばれた事が…… わたしが生きて来れたのもそれがあったからって言ってもいいすぎじゃないと思うわ……

 ね、古代さん、雪さんと早く幸せになりなさいね。今、やっと平和な時がきたんだもの。もう何事も起こって欲しくは無いけれど、でも何があるかわからないわ。だからこそ、大切に思っている人を掴んだら離しちゃダメよ」

 「はい……」

 希の言葉は、進の胸をうった。それは、愛する人を失う事になってしまった人間の切実な訴えだったから。進は、雪の事を思い、そして、帰ったら必ず雪にプロポーズしようと決心していた。

 (14)

 進と希は、護衛艦に戻ってきた。涙はもう消えていたがやはり希にはショックが大きかったようで、歩く姿も頼りなげで、進はそのまま付き添って、希の部屋まで戻ってきた。

 「もう、大丈夫よ、古代艦長。ありがとう」

 「少し、休んだほうがいいですよ」

 進は、希が部屋に入るのを確認すると、医務室へ向かった。医務室につくと、そこでは綾乃が一人待機していた。

 「佐伯さん……」

 「あっ、古代艦長…… 何か?」

 「間宮先生だけど、少し疲れがでたみたいで今部屋で休んでいるんだ。後で一度様子を見に行ってあげてくれないかい? 大したことはないとは思うが……」

 「はい…… あの、古代艦長?」

 「今日、間宮先生とご一緒だったんですか?」

 「えっ?……」 一瞬、返答に困った進は沈黙したが、はっきりと否定した。「いや…… さっき基地で……会っただけだよ。あまり元気がなさそうだったんで、部屋まで送っていったんだ」

 しかし、進のその沈黙と話し方がなんとなく不自然な事で綾乃の疑惑はさらに広がってしまった。

 (古代さん、なにか隠してる……)

 綾乃は、食堂で相原を見つけると、休憩室に呼び出し、その事を言うと、相原はやっぱりという顔になった。

 「古代さん、あの合コンの時にも、間宮先生に誘惑されてたんだよね。僕は聞いてしまったんだ。あーどうしよう! きっと二人の間に何かがあったんだ。古代さんだって男ですからねぇ。あんな美人に誘惑されて……」

 「相原さん…… どうしよう。雪にどう言ったらいいのかしら?」

 「やっぱり、内緒にした方がいいですよね。古代さんだって、ちょっとした浮気でしょうから…… 間宮先生だって、まさか本気ってことはないですよぉ!」

 「そ、そうね…… これは、やっぱり私達二人の秘密にしましょう。だって、雪ったらこの航海に出る前とっても幸せそうだったんですもの。私達さえ黙ってたら、古代さんだって一時の気のまよいだってわかって…… ね、そうよね、相原さん!」

 「は、はい……」

 綾乃と相原は、二人への疑惑を大きく膨らませながらも、それは誰にも言わない約束をした。そして、彼らの疑惑の目の中で、護衛艦は帰途についた。

 帰りの航海中も、進は、希の様子をうかがいに何度か医務室にやってきては、希と小声で話して行った。綾乃には言葉の端々しか聞こえてこない。

 「もう、忘れます 」 「だから心配しないで」 「でも、そう簡単に忘れら」 「いいえ、もう思い出にしなければ」 「地球へ帰ったら」 「僕もご一緒」 「だめよ」 「僕のあ……責任」

 綾乃の不安を満杯にして、第15輸送船団は、2週間の旅を終え地球に帰還した。

 (15)

 いつものように、休みを貰った雪は、進を迎えに来ていた。この2週間、雪の心の中は、進が帰ってきたら……という楽しみな気持ちと、希が一緒に航海に出ていることへの何といっていいかわからない不安が交差していた。

 (古代君の顔を見たら、きっとこんな不安はなくなるわ…… もうすぐ会える)

 雪は、進の希望の部屋をあたって、何箇所かの候補を決めていた。それも、今回の帰還の間に相談したかったし、なによりも、帰ってきたら、進が改まって雪の家を訪問したいと言っていた事が気になっていた。
 母の美里は、自信ありげに、当然結婚の申込だと言っていたし、父もそれに反対するようなそぶりはみせていなかった。雪は、あと数日で幸せの絶頂にいるはずの自分を想像していた。

 進より先に、綾乃が出てきた。

 「綾乃! おかえりなさい!!」

 「あっ…… 雪…… お迎え?」

 綾乃は、雪の顔を見ると、一瞬顔をこわばらせたかのように見えたが、すぐに笑顔になって答えた。

 「どうしたの? 綾乃? 少し顔色悪くない?」

 雪の綾乃の様子への鋭いチェックに綾乃は、動揺しそうになったが、なんとかごまかした。

 「大丈夫よ。なれない船旅で、地球に着いたら疲れが出たのね。ゆっくり休めば直るから……」

 「そう? それならいいけど…… 古代君、元気にしてた?」

 「えっ? ええ…… 大丈夫……みたい。すぐにでてくるわ。じゃあ、私はこれでね!」

 綾乃は、なぜか逃げるように帰って言った。雪は、いつもの綾乃らしくないように思えたが、それは、はじめて船で宇宙を旅した綾乃の疲れの現れだと思った。

 その後、希も降りてきて、雪は挨拶をした。希は相変わらず美しかったが、なぜか少し淋しげに見えた。それでも、希は明るい笑顔で雪に話しかけた。

 「雪さん、古代さんのお迎えね。いいわね。古代さんにはさんざんおのろけを聞かされたわ。ほんとに妬けちゃうくらいよ」

 希にからかわれて、雪は恥ずかしそうに微笑んだ。そして、希にのろけていたという進のことを思ってひとりうれしくなっていた。

 そして、最後になって、進は相原と一緒に出てきた。

 「お帰りなさい、古代君…… 相原さん」

 雪は、進の顔を見て大喜びで声をかけた。進も雪の顔を見て微笑んだ。しかし、相原だけはその笑顔をこわばらせていた。しかし、恋しい人にであった二人が相原のそんな表情に気付くはずは無かった。

 「じゃあ、古代さん、僕はこれで……」 相原は、そそくさと二人から離れて行った。

 (古代さん、雪さんの顔を見たら、もう大丈夫ですよね。僕は何も知らないし聞いてませんからね)

 (16)

 いつものように、エアポート近くの喫茶店に入った二人は、無事の再会を喜んだ。

 「ね、古代君、割といい部屋が見つかったのよ。明日にでも見に行かない? それとも…… あの…… 家に来るって言ってたけど……」

 雪は、家に来るかどうかと聞きながら自分の顔が火照るのがわかった。

 「あ、そうかい? 助かるよ。でも、明日はちょっとダメなんだ。…… あ、あの相原がさ、なんか……付き合って欲しい事があるっていうんだよ。だから、あさってでもいいかい?。今回ちょっと休みが多く取れて、5日あるから。ゆっくりするんだ」

 進が明日の予定を少し言いよどんだが、雪は気付かなかった。いつもの雪ならすぐに進のうそは見ぬくのだが、今日ばかりは自分の幸せばかり思って他のことに注意がいかなかった。

 「あらそうなの? そういえば、相原君、あんまり元気そうじゃなかったように見えたわね。何か個人的な事で相談でもあるのかしら? わかったわ。じゃあ、あさってね」

 「うん、あさって、君の家に迎えに行くよ。部屋を見に行こう。あ、ご両親もいるかい?」

 「あさって? うん、今日金曜だから、明日とあさってはパパもお休みよ。家にいると思うわ…… 何か話でも?」

 雪は、少し期待して尋ねた。

 「あ、ああ…… あさって話すよ」

 進は、今ここで言えばいいのにと自分でも思っていながら、その一言が出てこなかった。けれども、雪は進が何を言おうとしているのか確信した。そして、幸せを実感していた。

 (17)

 翌日、進は希の墓参りに同行する事になっていた。帰りの艦の中で、希は地球へ帰ったら、今まで一度も行けなかった婚約者の墓参りに行くと言った。それに、進は、兄の代理としてついて行くことにしたのだった。兄なら必ずそうすると思ったから。

 しかし、進は雪にその事を話せなかった。雪は以前の合コンの時に希のことを気にしてた。それだけに、雪は何か変に勘ぐるのではないかと心配したからだった。次の日にプロポーズをしようとする相手に、不安な気持ちを持たせるよう事は進はしたくなかった。
 そのうち、機会を見て、今回の希の話はしよう、進はそう思っていた。

 雪は、その日も休みを取っていたのだが、前日の夜に、中央病院から、緊急手術があり、人手が足りないからと出勤の要請が入った。雪は、一日延びた進の訪問の日に休みをもらうためにも、出勤を了承した。

 出勤すると、休暇中のはずの綾乃も来ていた。同じく動員がかかったようだった。

 「雪? せっかく古代さんが帰って来てるのにあなたもなの?」

 「綾乃の方こそ、疲れてるのに…… それに、今日は古代君、相原君と何か用があってどっちにしても会えなかったのよ」

 「相原……さんと?」

 「ええ…… 何か?」

 「う、ううん……なんでもないわ…… そう、相原さんと……」

 綾乃があまりにも考え込むような言い方をするので雪は気になった。

 「何かあったの?」

 「えっ?! な、何もないわよ…… 何も!」 綾乃の否定の仕方がなぜか不自然だった。

 そこへ、佐渡がやってきた。

 「あれ? 雪? どうしてここにいるんじゃ?」

 「あ、佐渡先生。緊急手術に看護婦が足りなくて、昨日の夜、急に動員がかかたんです」

 「そうか、今日来る途中に、古代のヤツ、いい服来て車に乗っておるのを見たから、てっきりお前さんとデートだと思っとったが……? どこへ、行ったんじゃ?」

 「え? いい服?」

 「ああ、あれはスーツだったなあ」 何も知らない佐渡は普通に答える。

 「!」 綾乃の顔色が変わった。その表情を雪は見逃さなかった。

 「綾乃! 何か知ってるのね? どういうことなの? ねぇ! 綾乃!!」

 「…………」 綾乃は、答えられなくて顔をそむけている。

 「なんか……悪いこと言ったかな……」 佐渡が心配そうにするので、雪はその場を取り繕った。

 「あ、佐渡先生、なんでもないです。古代君、相原さんとなにか用事あるって言ってましたから……」

 「そうか…… ま、それならいいが、なら明日休んでいいぞ、雪」

 「はい、ありがとうございます」

 (18)

 佐渡はそれだけ言うと、雪たちの控えていた部屋を出て行った。雪は、佐渡が出て行った事を確認すると、もう一度綾乃にただした。

 「綾乃…… 教えて…… 古代君どこへ行ったの? あなた何か知ってるんでしょ?」

 「…… 雪…… ほんとは内緒にしておきたかったんだけど…… 古代さん、もしかしたら、今日間宮先生と……」

 「間宮先生……!? どういう意味? 二人の間に何かあったの?」

 「………… わたしにはそれ以上は言えないわ。確実な事は何も知らないのよ。私も、ただ、相原さんが……」

 「相原さん? 相原さんが何か知ってるってこと?」

 「とにかく、雪、明日古代さんと冷静に話し合って見て、ね、きっと私達が何か誤解したんだと思うの。本人に確かめるのが一番いいわ…… ね」

 綾乃は、もうそれ以上何も言わなかった。雪の友人としてこれ以上雪を傷つけるような言葉を言うことができなかった。

 「わかったわ…… まだ、手術までは時間があるわね。私、相原さんに連絡してみるわ。もし、相原さんが古代君と一緒にいれば、何も心配する事もないんだもの……」

 雪は、それだけを言うと、部屋から駆け出した。そして、相原の連絡先を聞くために、雪は科学局の真田のところへ行った。

 「真田さん! 相原さんの連絡先を教えてくれませんか?」

 「ああ、雪? どうしたんだ? そんな切羽詰ったような顔をして、相原の家族に何かあったのか?」

 「あ…… いえ、相原さんの家族じゃないんです…… あの、ちょっと急に確認したい事ができて…… 連絡先教えてもらえませんか?」

 「ん? ああ、いいが、これがそうだよ」

 雪は、真田が示した通信機の画面から、相原に送信した。呼び出し音がして、相原は、パジャマ姿のまま、通信画面に登場した。

 「あれ? 雪さん、どうしたんですか?」

 「……!! 相原さん…… 家……なの?」

 「ええ、そうですが…… だって、昨日帰ってきたばかりですから、今日は休みですよ。古代さんだって…… ! 古代さんがなにかあったんですか?!」

 「古代君…… どこへ行ったの?」 雪は、相原に聞くでもなく、そうつぶやいた。

 「えっ……」 雪のその声を聞いて、相原は顔色を変えた。

 「相原さん、何なの? 古代君と間宮先生が今日出かけたのね?」

 「え…… 知ってるんですか?」 相原は雪が何かをつかんだと思って聞き返した。

 「知っている……? やっぱり何かあったのね…… 教えて! ねえ! 相原君!!」

 相原はしまったという顔をしたが、時既に遅かった。

 「相原君!!」

 雪に必死に迫られて相原は困ってしまった。それまで黙っていた真田が、そこで声をかけた。

 「相原、話してやれ。ここまで話して先を言わなかったら、雪が混乱するばかりだ。お前の知っていることを話せ。後の事は、二人の問題だ。雪、何を聞いても落ち着いて、取り乱すなよ」

 「……はい……」

 真田に促されて、相原は観念して自分の見聞きした事を話し出した。

 「あの…… 古代さんと間宮先生がタイタンに着く直前に、夜遅く、艦の中で抱き合っているのを見たんです。それから、タイタンでも二人でどこかに出かけたみたいで…… それと、綾乃さんの話だと帰路では、間宮先生は、もの思いにふけることが度々あったし、古代さんは間宮先生のことをずいぶん心配してたらしいです。医務室で、『忘れないと』だの『思い出にする』だの言ってたって…… それだけなんです……」

 「それだけって…… 抱き合ってた? 二人で出かけた? 忘れないと?」

 雪は、さっきの激しい様子がなくなり静かな口調になった。しかし、それは冷静になったというよりも、余りにものショックで言葉が出ないというのが、正解だった。

 「雪さん…… あの、何か理由があるかもしれないですよ。だから、あの、古代さんと話してみてください…… 雪さん……」

 相原は、心配そうに声をかけた。

 「相原さん、お休み中にごめんなさい。わかったわ、古代君とちゃんと話してみるから…… 心配しないで」

 雪は、震えてきそうな声でそれだけ言うと、通信を切った。

 「雪…… 古代ときちんと話してみろよ。きっと、笑い話になるはずだから」

 真田には、雪がそうとう動揺しているように見えた。

 「真田さん…… 今日、古代君、相原さんと出かけるって言ってたんですよ。それなのに、相原さんは家にいて……」

 「しかし…… 古代に限って…… 間宮さんだってなぁ」

 真田が、二人のフォローをするが、雪の耳には入っていないようだった」

 「お邪魔してすみませんでした。私、今から仕事なので、行きます……」

 「ちゃんと話するんだぞ」

 雪は、それには答えず頭だけ下げると部屋を出て行った。

 (19)

 雪は、綾乃のいる控え室に戻ると、黙ったまま、手術の準備を始めた。

 「雪? どうだったの?」 綾乃は心配げに聞いた。

 「遅くなってごめんなさい。早くしないと手術に間に合わないわ。さあ」

 雪は綾乃の質問に全く答えなかった。綾乃には、それは何か言うと泣き出してしまうのを、必死に抑えているように見えた。綾乃はそれ以上は言及せず、二人で黙々と作業を続けた。忙しくすることで、なにもかも忘れてしまえるかもしれないと、雪は思っていたのかもしれない。

 夕方近くになって、手術は無事終了し、雪と綾乃は仕事から解放された。着替えおわり私服に戻って、やっと綾乃は雪に声をかけた。

 「雪? 大丈夫?」

 「ええ…… 私……」 雪の目からポロリと涙が一粒こぼれ落ちた。

 「きっと、何かの間違いよ。だって、雪と古代さんっていつもずっと仲良しだったもの」

 綾乃は、慰める言葉を捜しながら雪に話しかけた。

 「ありがとう…… 私、これから古代君の部屋に行ってみる…… 相原さんが言ってたこと聞いてみるわ。とてもこのままじゃ、帰れない……」

 「一緒に行こうか?」

 「ううん…… 大丈夫よ。心配しないで、綾乃。ごめんね、いろいろ心配してくれてたんでしょう?」

 「雪……」

 雪は、涙目で綾乃に向かって微笑むと、帰っていった。そして、地下都市へ降りて行くと進のマンションに向かって歩いて行った。歩きながら、雪はなさけなくて、それでも公衆の中でボロボロ涙を流すわけにいかず、胸にずっしりと重みと痛みを感じていた。

 進の部屋の前に来て、チャイムを押したが、反応はなかった。まだ、帰って来ていないようだった。雪は、そのまま、進の部屋の前に座りこんだ。とても立っていられなくて、座ったまま、頭を下げた。涙がとめどなく流れてくる。

 (どうして? どうしてなの? 古代君…… どうして……私に何を秘密にしているの?)

 雪は心の中で叫んでいた。

 (20)

 30分も待たないうちに、足音が聞こえて雪は顔をあげた。それは、帰ってきた進だった。

 「雪……? どうしたんだ?」

 雪が部屋の前で座り込んでいるのを見て、進は驚いた。何か不吉な事でもあったのかと思った。

 「古代君…… どこへ行ってたの? そんなスーツなんか着て……」

 「え?」

 「私、相原さんに連絡したのよ…… そしたら、相原さんは家にいたわ……」

 「!!」 進は、雪が言いたい事が何なのかわかったようだった。

 「とにかく、中へ入ろう」 進は、雪をうながして部屋に入った。

 「雪、相原から何を聞いたんだい?」

 進は動揺する自分を冷静にさせようとできるだけ静かに言った。

 「あなたと希さんの事…… 艦内で抱き合って立って…… タイタンでは二人でどこかへ出かけていたって…… それにあなたと希さんが妙な会話をしていたって!! そして、今日も! 私にうそをついて、そんな格好で希さんと!!」

 雪は、抱いていた疑問を一気に進にぶつけた。進は、雪がその全てを間違って理解している事に気付いて、説明しようとした。

 「雪、これには訳があるんだ。聞いてくれ!」

 だが、今の雪には進の説明を冷静に受け止める余裕などなかった。とめどなく浮かんでくる、怒りと悲しみだけが雪を支配していた。

 「いま、相原君たちから聞いた事は本当なの? それとも、相原君の錯覚?! 答えて!!」

 「…………それは…… 本当だ……でも!」

 進は、もう雪に対してうそや取り繕いをいうことはできなかった。今、正直に全てを話すつもりでそう答えたが、それは雪に嫉妬の炎に火をつけることになってしまった。

 「いや!!! 言い訳なんか聞きたくないわ!! わたし…… わたし…… 今まで、古代くんの事…… わたしがばかだったのよ!」

 「雪! 話を聞いてくれよ!」

 「何を聞けって言うの! 抱き合ってたっていうのに? 二人っきりで一日中出かけてたって言うのに! どんないいわけがあるっていうのよ!」

 雪は、どんどん冷静さを失って行く。自分でも抑えようのない何かに突き動かされているようだった。そんな雪の姿に、今度は進まで、腹が立ってきて、爆発してしまった。

 「雪!! そんなに俺が信じられないって言うのか!」

 「どうやって信じろって言うの!」

 進の言葉に雪はかぶせかかるように言い返す。もう、それは話をするという状態ではなかった。

 「くそっ! もういいよ!! そんなに信じられないっていうんなら、勝手にしろ!」

 「古代君…… 古代君なんか、だいっ嫌い!!」

 雪は、そう言うと、泣きながら進の部屋を飛び出して行った。雪の飛び出して行った出口を見つめながら、進は動く事ができなかった。訳のわからない怒りのため雪への思いやりを忘れてしまっていた。

 雪も進への『話を聞いてみる』という配慮に欠けてしまっていた。進が他の女(ひと)と何かあったことを聞くこと自体が雪には耐えられなかった。そして、進が雪にうそまでついていたということが許せなかった。

 どこをどう歩いたのか、雪は、地下都市のはずれまで来ていた。このまま、このはずれで固まってしまいたいような気持ちになって、ひとり泣いた。泣いて泣いて、どんなに泣いても進のことが思いだされてしようがなかった。

 けれど、進のところに戻る気にもなれず、そのまま、歩きつづけ、やっと一台のエアタクシーを見つけると、地上の自宅に戻った。当然、そのような顔で帰った雪は、美里に問いただされた。

 「どうしたの? 雪? さっき、古代さんから電話があったのよ。帰ってるかって、何かあったの? なんだか、古代さんずいぶん心配してるようだったわよ。電話かけてあげなさい」

 「…… 嫌よ! 古代君なんか、顔も見たくない!」

 雪はそう言い放つと自分の部屋に駆け込んだ。その日、雪は美里から何度声をかけられても部屋を出ようとはせず、また、自室にかかる電話を取ろうともしなかった。

Chapter 7 終了

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