島君の失恋記念日(宇宙戦艦ヤマト 第23話より)

雪を巡って島と古代が恋のライバルでも会ったのは、周知の事実ですが、いつのまにか古代と雪がツーショットになってて、島君っていつ雪の気持ちを知ってあきらめたんだろう?って思ったときに、私の大好きなあの展望台の記念写真のシーンがうかんできて…… それで、できたエピソードです。
 (プロローグ)
 
 地球の危機を救うため、イスカンダルへの長い旅にでたヤマトは、今、マゼラン星雲を目前にしていた。ガミラスに遊星爆弾を撃ち込まれた地球が滅びる前に、ヤマトは急いでイスカンダルの放射能除去装置を貰い受け、帰りつかなければならない。ヤマトは今、その使命の前半を終えようとしていた。時に、西暦2200年、4月……

 (1)

  マゼラン星雲も間近になり、スターシャからの誘導電波も入って、ヤマトの艦内はガミラスとの戦いの日々を忘れさせる穏やかな航海が続いていた。古代進は、通常の勤務をまもなく終えて休憩時間になろうとしていた。雪も先に休憩に入って、進は、雪を展望室に誘って記念写真をとろうと考えていた。

 (しばらく、雪とゆっくり話してなかったよなぁ…… たまには、ゆっくり話しもしたいなぁ。 最近、ひとりでボーとする時間があると、雪のこと考えてしまう。大事な任務の旅だと思いながらも、雪への気持ちがどんどんひろがっていく。けど、狙ってる奴もたくさんいるみたいだし……この前は、食堂で島とずいぶん楽しそうに話してたし、やっぱり島が一番要注意だな)

 そんなことを考えていると、ちょうどそこへ、島大介が休憩が終わって第一艦橋にやってきた。

 「よぉ、古代。休憩行っていいぞ」

 「島か。今行こうと思っていたんだ。ところで、雪はどっかにいたかい?」

 「ああ、今話してきたところだよ。今後の航海班長の腕に期待してるってさっ。今は、サロンでなんだかむずかしい本読んでるぞ。知ったかぶりして、話かけると大変なめにあうぞ」

 島が、ニヤニヤしながら言った。

 「ふん、ちょっと、デートでもさそうかと思ってね」 進が負けじと言った。

 「デ、デートォ! なに言ってんだよ。 ここはヤマトだぞ!」

 島が、まゆをしかめてどなった。

 「まあまあ…… そう興奮するなよ。展望室に誘って、マゼラン星雲などをバックに記念写真でもとろうと思ってね」

 こんどは進の方が、ニヤニヤと笑って言った。島は、まだおもしろくないような顔で進の顔をにらんでいた。進は、島がまだなにか言いたそうにしているのを制するように歩き出した。

 「まっ、そういうことだから、後で写真を見せてやるよ」

 「けっこうだよ!」

 (古代のやつ! 雪は、古代のことが好きなのかなぁ。俺とも楽しそうに話はしてくれるけど、雪が時々古代を見つめる視線、あれがなんとなく気になる。あいつも俺も告白したわけでもないし、雪だってまだ…… 古代なんかに負けてたまるか)

 島は、第一艦橋をでていく進を見送りながら考えていた。島にとっても、進にとっても、雪は初恋の相手だった。二人は、宇宙戦士訓練学校以来、何かにつけてライバルだった。そしてよき友でもあった。まさか恋のライバルにもなるなんて、島は古代との様々なつながりを痛感していた。

 (あいつとは一生いろんな意味でライバルだな)

 (2)

 休憩時間でサロンで読書をしていた雪を見つけると、進は声をかけた。

 「やぁ、雪! ちょっと展望室からマゼラン星雲を見ないかい?」

 「あら、古代君も休憩? もう、あんまり時間がないんだけど少しならいいわよ。マゼラン星雲とても、きれいに見えてたはずだわ」

 (でも、古代君にも そんなロマンチックな趣味があったかしら)

 そんなことを考えながらも、古代から誘われて心のなかではうきうきしながら、雪は進と一緒にサロンを出ていった。

 「ちょっと、レンタルサービスに寄ってポラロイドカメラ借りて行くから」

 ヤマトの艦内のレクレーション施設として、ビデオ、カメラ、MDデッキ等様々な備品を貸し出してくれるのが、レンタルサービスコーナーである。もちろんここも、森雪の生活班の管轄であった。

 「あら、古代君、手回しがいいのね。予約してたの?」

 「あったりまえだよ。ヤマト一の美女とマゼラン星雲をバックに写真をとれるチャンスなんてなかなかないんだから、準備万端整えないとね」

 「うふふふ……今日はとてもお上手ね。誰に、ならったのかしら?」

 「ちぇっ。俺だっていつでもお世辞の一つや二つは言えるよ!」

 「?! お・せ・じ……!! あらっそっ、どうせね。お世辞ですわよね!」

 雪は、お世辞という言葉にちょっとムッとしてぷいとそっぽをむいた。

 (あっ しまった!お世辞じゃなくて本当のことっていわなきゃなんないんだ。あちゃぁ……)

 「あっ!いや。雪ちゃん。違うんだ。あの、お世辞じゃなくて、あの……」 

 あせった進は、その失言をさらりと、とりけせずに真っ赤な顔をして説明しようとやっきになった。そのあせり方がおかしくて雪は笑い出してしまった。

 (古代君らしいわね。女の子の扱い方に不慣れなのは、天下一品ね。でも、それが古代君のいいところだものね)

 「ふふふふふ……」

 雪が、笑い出したので、進はほっとして、レンタルコーナーが見えたのを良いことに走っていった。

 「すみません、古代進です。ポラロイドカメラをレンタル予約してたんですが……」

 進の声にすぐカメラをだした係員は、雪の姿も確認して言った。

 「あっ、森班長、こんにちは。 いいですね。お二人で記念写真ですか?」

 「そうなの、どうしてもっていうから。しかたなくねっ…… ふふふ」

 雪は、軽くウインクをすると、冗談っぽくさらりとごまかした。雪は自分がヤマトの乗組員の憧れの的になっていることを知っていた。自惚れているわけではないが、火星で死んだイスカンダルの美女サーシャにも似ていると言われ、乗艦以来、ヤマトの若い独身乗組員の間ではいつも注目の的であった。

 艦内でも誰が雪のハートを射止めるかなどと、噂をする乗組員も珍しくはない。雪にももれ伝わってくるその噂では、雪にあこがれる若者は多いものの、高嶺の花とあきらめている者も多く、本気で争っているのは、やはり第一艦橋勤務の艦長代理の古代進、航海班長の島大介、そしてアナライザーの3人(?)で、アナライザーは別として、古代と島の一騎討ちという下馬評らしい。

 雪も当然二人の態度から、自分に気があることも知っていたし、最初は、どちらかと言うと島の方が誠実そうでいいのではないかと思ったこともあった。けれども、そんな冷静な判断とは別に、雪はだんだんと進から目が離せなくなっていく自分に気づいた。

 (古代君が好き……いつのまにか彼の姿を追ってしまう私……)

 それでも、ヤマトの使命や自分や進たちの役割を考えると、地球に帰るまでは言葉に出すまいと心に決めている雪だった。

 (でも……時々態度にでちゃうのよね)

 進とたまたま二人っきりになると、なんとなく浮かれてしまうし、ビーメラ星での事件の時は助けにきたヤマトの乗組員の中に進を見つけると、一目散に駆け込んでしまった。

 (あの時はアナライザーにも悪い事したし、きっと他の上陸隊員に私の気持ち気づかれたかもしれないわ)

 そんなことを考えていると、雪は自分の体がポッと熱くなったような気がした。

 「さっ 早く行こうぜ」

 しかたなく、と言われてちょっとおもしろくない進は、カメラをつかむと一人でづかづかと歩き出した。

 (古代君ったら、ふくれてる)

 雪はかわいそうなようなおかしいようなそんな気分で進の後を追った。

 (3)

 側面展望室からは、マゼラン星雲がちょうど斜め前方に見えて絶好のカメラポイントだった。進と雪は並んで宇宙空間をみつめていた。進は、雪からただよう、なんとなくいいにおいを心地よくかいでいた。雪も、のどかなたわいもない会話をしながらすごす時間が少しでも長く続いて欲しいと思うのだった。

 「あれが、マゼラン星雲ね。スターシャさんにもうすぐ会えるのね」

 「うん、あと一息だ。ガミラスももうあきらめてくれればいいんだが、そう言うわけにはいかないだろうがな。必ずイスカンダルに行ってコスモクリーナーDを持ってかえるぞ!」

 「期待してるわ。艦長代理さん」

 冗談めかして笑いながら言う雪に、進はその笑顔をまぶしく感じた。今この世界には二人しかいない、そんな気持ちがわいてきて、進は有頂天になっていた。

 「じゃあ、写真撮るぞー!雪はそこに立っていて……よし!撮れた」

 進は雪に立たせて写真を撮ると、次は自分も入って撮るつもりで言った。

 「よぁしいいか。今度はセルフタイマーだぞ。……んーと、よし」

 タイマーをセットした進は、雪の隣にかけてくると、雪の肩にぐるっと手を伸ばした。

 「ささささ……」

 「ん!? うん!!」

 パチン……

 「おっ いてっ」

 カシャッ……ジー

 雪が、肩に乗せた進の手をパチンとはたくと同時に、カメラのオートシャッターが降りた。写真には、進が思いっきりたたかれた右手を振って、顔をゆがめたところがきちんと写っていた。

 「ひでえな」

 写真をみながら進が愚痴ると、雪もくすくすと笑いながら言った。

 「ふふふふ……いいじゃないの。子供達にパパとママの青春を語るときの思い出になってよ」

 「あぁ、それもそうだな」

 「じゃぁ、私は仕事があるから。古代君。ありがとう」

 「うん、じゃぁな! 女の子ってのは、発想がませてやがんなぁ。子供達にパパとママの青春を語る時だとよ……はん?パパとママァ? 誰のことだ???」

 (4)

 雪は、展望台を出て、廊下を歩きながら、さっきの写真のことを思い出して、思わず笑みがもれてきた。進が雪の肩に手を伸ばしたとき、一瞬ドキッとした雪だったが、ここはまだ毅然としなければと思い、進の手をはねのけた。
 その後の自分の言った言葉を、自分で思いなおして見るとなんだか少し恥ずかしくなった。言ってしまった後で、進が聞きとがめたら、『冗談よ』で済まそうかとも思ったのだが、進はそのまま聞き流してしまった。

 (あんなに大胆なこと言ってしまったわ。でも、古代君たら軽くうけながすなんて……!! もしかして、古代君って私の言った意味わかってないのかしら? もし、古代君が私の言ったことを、理解してたらあんなそっけない反応しないわよね。でも、そしたら、古代君ってとっても鈍感……よね)

 雪は、ひとりでに浮かんでくる笑顔を他の人に見咎められないようにしながら、医務室へと歩いて行った。

 (5)

 進が、雪の言った言葉の意味がつかみとれずに、撮った写真と雪が出て行った出口を見比べていると、突然声がした。

 「はははは!ええなぁ、若いもんはぁ!」

 ヤマト艦医の佐渡酒造だった。進と雪が来る前から、展望台に来ていて、片隅でいつものごとく酒を楽しんでいたようだった。

 「あれっ 先生、そんなとこで見てたんですか?」

 「しかし油断するなよ、昔の人は、言うておる『百里の道を行くものは、九十九里をもって半ばとせよ』とな。
 たとえば、100キロの旅をするとして、99キロまでにいったときに、ようやく半分まで来たと思えっちゅうんだ。今のわれわれに当てはまる言葉じゃないか。この船の誰一人イスカンダルを見たものはおらんのだ。そこに何があるのか、何がおこるのか、終わってみなくちゃわからんのよぉ」

 大酒をくらいながらも、佐渡は若者達の言動をよく見ている。緩めるところは緩め、締めるところは締める。佐渡は、浮き足立つ進の気持ちを上手に引き締めてくれた。

 「ありがとうございます。先生」

 進は、佐渡の言葉で、今後の航海への期待と緊張感を強く感じた。そして、ヤマトの重大な使命のこと、そのヤマトを自分が艦長の代理として動かさなければならないことを……

 そして……さっきの雪とのやりとりのことなど、すっかり心の中から吹き飛んでしまった。

 (6)

 その日の夕方、進と島は一緒に夕食をとることになった。イスカンダルからの誘導電波のおかげで航路が安定して、島は上機嫌だった。

 「スターシャさんのおかげで、俺はすることないよ」

 島は冗談半分に笑って言った。

 「ああ、だが、島。油断はするな、今日佐渡先生からも『百里の道を行くものは九十九里をもって半ばとせよ』ということわざのことを聞いたよ。気を緩めるわけにはいかないからな。」

 進の言葉に、島も大きくうなずいた。

 「うん、確かにそうだ」

 ちょうどそこへ、進がカメラを借りた時の係員が食事にやってきた。

 「古代さん、森さんと写真うまくとれましたか?」

 そのからかい口調に、進は軽く答えた。

 「もっちろんだよ。ばっちりさ!」

 「はははは…… 本当ですかぁ? 今度見せてくださいよ!」

 その係員は、興味津々といった口調で言った。

 「だめだ! これは見せられないよ。二人だけの秘密だからな」

 「ひゅー、あやしい発言ですねぇ……」

 「なんとでも、言ってくれ」

 進は得意げな口調で言ってのけた。島がその会話が気になったのはいうまでもなく、思わず聞いてしまった。

 「古代、雪とどんな写真を撮ったんだ?」

 「ん? まぁ……二人で並んで、肩を組んでだな」

 進の説明に島は思わず前のめりになって言った。

 「おいっ! 古代ちょっとその写真を見せてみろよ」

 「だめだって……人に見せるような写真ではないんだって……」

 進は、雪にはねのけられたまま写っている写真を島に見せれば、笑われるに決まっている。あせって隠そうとしたが、島があまりにもしつこく迫るので、しかたなく見せることにした。案の定、島は大笑いした。

 「あっははは!! なんだこの写真はぁ! 古代、お前雪の肩に手をやろうとして……あっははは……」

 「ちぇっ、 いいじゃないか!うう……」

 進はうまく言い返せなくて、言葉に詰まってしまった。と、その時、忘れていた雪の言葉を思い出した。

 「そういえば、雪の言ってたパパとママの思い出って、なんだったんだろう??」

 「なんだ?それ……?」

 「いや、雪が、この写真がパパとママの青春時代を語る思い出だとかどうだとか…… 雪の両親のことかな??」

 「えっ!? この写真が、パパとママの青春時代を語る思い出だって言ったのか?雪が?」

 島は、雪が言った言葉の意味をすぐに理解した。

 (雪が……古代に!?…… そうか……雪は古代が……好きだったのか)

 島は、目の前が真っ暗になる思いがした。雪のラブコールをそれとは気づかずにいる進ののんきな顔を見ながら、島は自分の顔から血の気が引いていくような気がした。

 (なんで古代が気づかなくて俺が気づくんだよ!! 俺は告白する前に失恋だぞ……)

 「どうした?島?」

 進が島の顔色が悪くなったのに気づいて聞いた。

 「いや、なんでもないよ。古代。 あっ、ちょっと用を思い出したから先にいくよ。ま、その写真大事にしろよな。じゃあな」

 「あっ う、うん……そうするよ」

 (島はどうしてあんなに顔色を変えて出ていったんだろう?)

 進は、あわてて食堂をでていく島を不思議そうに見つめていた。進が、その意味を理解したのは、ずいぶんと先になってからのことだった。

 (7)

 島が食堂からでて廊下を歩き出すと、雪が一人で食堂に向かって歩いてきた。

 「あら、島君。お食事終わったの?」

 何も知らずに明るく話しかける雪の姿を見るのが、今の島には少々辛かったが、今彼女にそんなことを訴えて見てもしかたがないことだとわかっていた。辛い気持ちを跳ね除けるように、島は冗談を言った。

 「ああ、終わったよ。コーヒーは飲んでないけど、いれてくれなくていいからねっ」

 「ん!もおー! 私のコーヒーだってずいぶん美味しくなったのよ」

 「はははは……わかった。わかった。まぁ、どんなコーヒーでも、古代なら美味しいって飲んでくれるさ なぁっ ユ・キ!」

 「なっなによ!」

 雪は、自分の気持ちを見透かされたような気がして、赤くなった。

 「見たぞ、古代と撮った写真」

 「えっ? あらぁ……古代君怒ってた? ふふふ」

 「パパとママの青春時代の記念にするんだってね」

 「えっ? し・島君。あの……それ……」

 雪は、びっくりしてしどろもどろの返事をするのがやっとだった。そして島がその話を聞いて、雪の気持ちを知ったことに気づいて、顔中がかぁーっと熱くなるのを感じた。実際、雪の顔は真っ赤だった。

 「あははは…… 真っ赤だそ、顔。けど、古代のやつは、君の言ったことぜんぜんわかってなかったぞ。君もこれから苦労するぞ。超ドンカン男だからな、古代は」

 「島君ったら……もう」

 雪がうれしそうにほほを染める姿の横目で見ながら、島は、手を振って雪とは反対方向へ歩いていった。雪は古代の話に幸せそうな笑顔を見せていた。いつもの気丈な雪の姿とは少し違った、年頃の女の子なんだな、と感じさせる姿だった。その姿に、島は本当に今失恋したんだと実感した。

 (8)

 島は、廊下をあてもなく歩き始めた。雪との出会いのことが頭に浮かんできた。進と二人で火星基地で見つけたサーシャという謎の女性に魅了されたこと、その記憶がさめないうちに出会ったサーシャそっくりの女性が雪だったこと……
 島が見つけて進に声をかけたその瞬間、二人は同時に雪に一目惚れした。その後、ヤマトで一緒に旅をすることになり、雪は辛い旅の中の一つの光明だった。

 (雪……俺だって結構本気だったんだぞ……って言って見てもしかたないけど。古代かぁ……アイツに惚れる気持ちは俺だってわかる。正直バカのいい男だからな…… けどやっぱり苦しいな)

 島は、ふと医務室の前に来ているのに気がついた。

 (佐渡先生いるかな……)

 医務室には、誰も患者はいなかった。島はその奥にある佐渡の私室へ入っていった。

 「佐渡先生……」

 「なんじゃ、島か。ん?顔色が悪いのぉ、風邪でもひいたのか?」

 「いえ……僕の病は……草津の湯でも直せないってやつでして……」

 「ん? あははは 恋の病か? そりゃわしがいかに名医でもなおせんな。ははぁん……雪にふられたか?」

 「……はい……告白もしていないのに…… 雪の気持ちが古代にあることを知ってしまいました……」

 「そうか、まぁ……そういう時は、これじゃこれ!」

 佐渡は、いつも握っている一升瓶を高くあげると、島に勧めた。ほとんど、酒など飲まない島だったが、今日ばかりはすぐにコップを手にした。佐渡がそのコップになみなみと酒を注ぐと、島はそれを水を飲むように一気に飲み干した。

 「島、今日は飲め。飲んでウサを晴らしたら、また、明日からはがんばれ。おまえの腕にヤマトの道はかかっているんだ。古代も雪も……みんなおまえに期待している。仲間だからなぁ。明日からはまた仲間としてヤマトの旅をもりたててくれよ」

 「先生…… 俺は雪が好きだったけど、古代も好きです。だから、二人を応援したい。応援できるようになりたい……けど…… 今日だけは泣かしてください!!」

 島は、声を絞り出すようにして、そう言うとまた酒をあおった。辛い気持ちを佐渡の前に吐露してみると、少し楽になったような気がした。島は、そのまま畳の上で眠ってしまった。

 西暦2200年、4月25日、島大介の初恋は淡くも消えた……


 (エピローグ)

 「ママ、またその写真見て笑ってるぅ!」

 「だって……ふふふふ」

 「いっつもなんだから、ママは。ママがパパをとっても愛してるってことはわかったからぁ。でも、もう行かないとパパの艦(ふね)が到着しちゃうわよ。パパは、いつも時間厳守なのよっ!」

 「はいはい」

 「ねぇ、ママ。この写真を撮った頃のこといつか話してくれるっ言ってたでしょ。私ももう15歳よ、聞かせて」

 「そうね。じゃ、パパを迎えに行く車の中で話してあげるわ。パパとママの青春時代の思い出を……」

 西暦22××年、地球は十数年来の平和を享受していた。ヤマトや地球のため戦った者たちのことは人々の胸の奥底で、静かに眠っていた。

−おわり−

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