TAKE OFF!! for the FUTURE
  (宇宙戦艦ヤマト2,宇宙戦艦ヤマト−新たなる旅立ち−,PSゲーム『さらば宇宙戦艦ヤマト〜愛の戦士達〜』より)

−Chapter 3−

 (1)

 佐渡の電話に、進は会議が終了したのですぐに地下中央病院へ行く、と告げた。3人が中央病院の外科病棟のナースステーション前まで行くと、そこで佐渡が待っていた。

 「おお、来たか! どうじゃった?会議は。」

 「なんとかお咎めなしですよ。佐渡先生。ご心配かけました。」 真田が答えた。

 「そうか・・・ とりあえず、第一関門突破じゃな。それでこれからのことは・・・」

 「佐渡先生! それより、島は?」

 佐渡がどんどん質問をしそうなのを、進はさえぎって尋ねた。

 「おおそうじゃ、島はさっき意識をとり戻した。話も普通にできるし、一安心じゃ。地球とヤマトの状況を聞きたがったんだが、今古代が来たら話すと、わしからは何も言っておらんぞ。それでいいんじゃろ?」

 「はい・・・ ありがとうございます・・・」

 「長い時間はだめじゃが、一時間くらいならかまわん。普通ならあまりショックを与えるな、と言いたいところじゃが、島のことじゃ、話してやらんとよけいにイライラしてよくないだろう。それにあいつならきっと乗り越えられるじゃろう。
 真田は、わしと一緒に病室へ戻るんじゃ。会議の様子も聞かせてもらいたいしのう。そっちは、雪と二人でいいな。」

 「・・・はい・・・ 真田さん、本当にありがとうございました。あとは、ゆっくり養生してください。」

 進は、そういうと真田に頭を下げた。

 「わかった、島のことは頼んだぞ。」 真田は頷くと、佐渡に連れられて病室に入って行った。

 二人を見送ると、進と雪は顔を見合わせて頷きあった。

 「じゃあ、行こうか、雪。俺達がテレサさんと会った最後の人間だからな。」

 「ええ・・・」

 (2)

 進たちは島の病室の前まで行くと、部屋をノックした。『はい』と小さな声が聞こえた。確かに島の声だった。その声に導かれるように二人は病室に入った。進たちが入ると、島は首だけ動かして進と雪を見た。

 「よっ! ご両人。・・・俺は生きてるみたいだな。」

 島が微かに笑いながら言った。進たちはゆっくりと島のベッドに近づいていった。

 「島・・・ 何日も眠ってたんだぞ。目が覚めるまで心配だったんだからな。」

 「すまないな、心配かけて・・・ けど、俺はどうやって助かったんだ? 確か、デスラー艦との白兵戦の始まる時にヤマトから吹き飛ばされて・・・ 長い夢を見ていたなぁ・・・ ははは・・・ テレサのいる夢だった・・・ もう・・・いないのにな・・・」

 島は自嘲気味にテレサのことを口に出した。

 「島君・・・ ごめんなさい・・・ 私を助けようとして・・・」

 雪がかすれそうな声で島に謝った。

 「ばっか、違うよ。俺が不注意だったんだ。気にすることはないよ、雪。」

 島は雪に笑いかけてそう言うと、進に向かって尋ねた。

 「古代・・・ 地球は救われたんだな? ヤマトはどうなったんだ? みんなは無事か?」

 「ああ・・・ 地球は救われた・・・ ヤマトもなんとか・・・ だが、大勢死んだよ。徳川さん・・・ 加藤、山本、斉藤・・・ 帰って来れたのは20人足らずだ・・・」

 「・・・そうか、あの後・・・」

 島は天井を向いたまま、死んでいった者たちに黙祷を捧げるように目を閉じた。進は、ゆっくりとデスラーとの戦いの後からの戦況を話し出した。島は黙って天井を見たまま聞いていた。

 「・・・それで、最後に巨大戦艦がその中から現れて・・・」

 「え!! なんだって、それじゃ、ヤマトはどうやって・・・!」

 「・・・・・・全員退艦することになった・・・ 負けたんだ、俺達は。」

 「しかし、ヤマトもお前たちも地球も無事じゃないか!? どうして???」

 「俺は・・・ 退艦すると見せて一人、ヤマトに残ったんだ・・・ ヤマトと共に巨大戦艦に挑むために・・・」

 「なんだと! 古代!! お前!!」

 島が声を荒げて起きあがろうとしたが、頭がくらくらするのかすぐくず折れてしまった。

 「島君! 無理しないで!」

 雪はふらつく島の体を支えるとゆっくりともう一度島を寝かせた。それでも島は体を斜めに向けて進の方を見た。

 「お前! 死ぬ気だったのか・・・ ばかやろうが! 雪をどうするつもりだったんだ・・・」

 「もちろん、地球に帰すつもりで・・・ 救命艇に乗ったと思ってたんだが・・・」

 進はその後の言葉を出す代わりに雪の方を見た。その姿に島は雪がどうしたのかすぐ気がついた。

 「雪も残ってたのか・・・ ふー、お前たちときたら・・・ どうしようもないヤツらだな。」

 島のあきれる姿に、進も雪も苦笑するしかなかった。

 「真田さんに怒られただろう? 古代?」

 「ああ、おもいっきり殴られた・・・」

 「当たり前だ・・・ 俺も元気だったら一発お見舞いするところだぞ・・・」

 そう答えてから、島はふと肝心なことを聞いてないことに気付いて聞き返した。

 「しかし、どうやってその戦艦をやっつけて帰ってきたんだ? お前たちは。」

 「それは・・・ 実は・・・ テレサが・・・」 進は最も辛い話に入って、言葉を詰まらせた。

 「えっ!? テレサ? どういうことだ! 詳しく話せ!」

 島がまた体を起そうとするのをまた雪と進が二人して抑えると、進はまた話し始めた。さっきの戦況の話を聞く時と違って、島はその話を聞きながら、わなわなと体が震え出すのを止められなかった。

 「そして・・・テレサは、お前を助けたあと、敵戦艦と最期の戦いに旅立ったんだ・・・」

 「・・・テ・レ・・・サ・・・」

 進の話を聞き終えると、島はしぼりだすような声でテレサの名を呼び、掛けられたシーツを両手が白くなるほど強く握った。島は、悲しみ、辛さ、怒り、そして他にも表現しようのない様々な感情が湧き上がってきた。そんな島の姿を進も雪も凝視できなかった。

 (3)

 「テレサは・・・俺のために死んだっていうのか・・・ ばかな・・・ どうして、俺のために・・・」

 テレサは自分の血液を島に輸血しつづけた。その結果、自分が生きられるだけの血液を体内に残せなくなった。自分の死を確信したがために、本当は戦いたくなかったズォーダーとの戦いに自らを追いやって行った。島はそう解釈した。つまり、テレサを死に至らしめたのは、まぎれもなく自分であると・・・

 「島・・・」

 「そうだろ! 古代!! そうじゃないか! そんなにしてまで俺は生きたくはなかったよ・・・ くっ・・・」

 島にとって、テレサを残したままテレザート星が爆発した時よりも、ずっとずっと耐えられない事実だった。島の目からは自然と涙が湧き上がってきた。

 「島・・・ テレサの気持ちもわかってやれ・・・」

 進は島をなぐさめる言葉を探した。

 「なんだって!古代。テレサの気持ちだって! お前、もし雪がそんなことしたらどうする! どう思う!! 古代! お前は、ありがたく生かせてもらうのか!!」

 「・・・・・・」

 島の言うことは当然だった。進が自分に置きかえて考えても島が慟哭する気持ちは、痛いほどわかった。
 そう、あの時・・・ デスラーと対峙して倒れた時に雪が間に割って入ったことを、ヤマトに帰ってから聞いたとき、一歩間違えばどうなっていたかわからないと、背中がゾクっとしたことを思い出した。
 もし、あの時、雪が致命傷でも受けていたりとたら、進はおそらく自分を責めただろうし、もしかしたら・・・ もう地球の土を踏んでいなかったかもしれない。

 「でも・・・ 島君をヤマトに連れてきたあの時のテレサさん、幸せそうだったわ・・・ わたし、テレサさんの気持ちも分かるような気がするの。」

 愛する人を思う気持ちは雪には痛いほど分かっている。自分の身を犠牲にしても愛する人を守りたい。男でも女でも人を深く愛すればそう思うのは当然のことだと思った。

 「雪・・・」

 「そうだ・・・ テレサさんからのメッセージがあったんだ。」

 その時、進は島のポケットにしまってあったホログラムカプセルのことを思い出した。

 「メッセージ?」

 「ああ、これだ。一つは地球の医者宛だったんで、佐渡先生に渡した。たぶん、お前の状況を説明した物だったと思う。そして・・・これが、お前宛だった。」

 進が胸のポケットから出した小さなカプセルを島は黙ったまま見つめた。すぐにでも見たい! だが、見るのが恐い・・・ 島の心の揺れがその瞳に映し出されていた。それでも島は、ゆっくりと手を伸ばして、進の手のひらからそのカプセルを取った。
 カプセルには、ボタンが付いていてそれを押すことでどこででもホログラム映像が見られるようになっているようだった。

 「私達、遠慮した方がいいわね?」

 島が、何も言わずにカプセルをにらんでいる姿を雪は気遣って言った。進も、そうだな、と頷いて部屋から出ようとした。

 「待ってくれ・・・ 一緒にいて欲しい。俺一人で見る勇気が・・・ない。頼む、古代、雪。」

 (4)

 島の声に進と雪は足を止めて、再び島の前に戻った。島は、ゆっくりと手を動かすと、カプセルのスイッチを押した。
 ボーっと映像らしきものが立ちあがってきたかと思うと、それは島の足元あたりで焦点をあわせて一つの立体映像になって現れてきた。それは、まぎれもなくテレサの姿だった。映像のテレサは、本物よりもずっと小さいながらも、まるで生きているかのように微笑み、透明感のあるあの美しさがそのままに目の前に現れていた。

 『島さん・・・ これを見ていらっしゃると言うことは、気がつかれたんですね。本当によかった・・・』

 映像のテレサが微かに揺れて微笑を浮かべる。だが、それを見つめる島の顔は今にも泣き出しそうな悲しげな表情をしていた。

 『島さん・・・ 古代さんと雪さんから私のことを聞かれて、きっとあなたは後悔していらっしゃるのでしょうね。あなたのために私が命を捧げたと思って・・・
 でも、島さん、それは違うのです。私は、いずれこうなる運命でした。私の祈りが、テレザートの人々を滅ぼしてしまった時から、私は自分の存在を持て余していたのです。平和を祈ることはできても、私に出来ることは破壊しかありませんでした。私の心が乱れれば、様々なものに影響を与えてしまいます。それは、島さん、あなたもご存知でしょう?
 そして・・・ 我がテレザートを容赦無く踏み潰そうとしたズォーダーとはいつか雌雄を決するつもりでした。でも、私の力では、あの白色彗星のままではとても太刀打ちできなかったのです。
 けれども、地球艦隊とヤマトがあの彗星を取り去り、都市帝国も沈黙させることに成功した時、私は自分の取るべき道を見つけたのです。そう、ヤマトは地球に帰らなければならない。地球のこれからのために。
 私は、私の全身全霊を込めた祈りに答えてくださったヤマトとその乗組員の方のために・・・ お役に立ちたかった。
 そして、島さん、あなたにもヤマトが必要です。ヤマトにもあなたが・・・』

 正面をじっと見つめて話していた映像のテレサが、少し伏目がちになって、また顔をあげた。

 『島さん・・・ ズォーダーとの勝負をつけるつもりで、地球近くまで来た私の目の前にあなたが現れた時はどんなにうれしかったことでしょう・・・ もう一度、もう一度だけ・・・ 島さんに会いたいとどんなに思いつづけていたことか・・・ それが叶ったのですから・・・
 でも、あなたは宇宙を漂流していたせいで、意識を失っていました。あなたの目を開かせるためなら私はなんでもしたかった・・・ だから、私の血をあなたに差し上げました。生気を失っていたあなたの顔がだんだんと赤みをさしてくるのを見たとき、私はどんなにうれしかったことか・・・
 私のこの世界での命は、ズォーダーとの決戦を決意した時からもう既に存在しなくなっていたのと同じだったのです。だから、あなたに私の血を差し上げたことで、却って私の命をもう一度生かせる道を見つけることが出来た、ということなのです。
 ですから、島さん、悲しまないで・・・ 私は今本当に幸せな気持ちなのです。生きてください、島さん・・・ そうすることで、あなたの中で私はいつまでもあの美しい地球で、あなたと一緒に生きることが出来るのですから・・・ 
 ありがとう、島さん。私は幸せでした・・・ そして、これからもずっと幸せなのですから・・・』

 テレサの映像はそれだけのことを話すと、すぅっと消えた。島はだがその消えてしまったあたりをじっと見つめたまま動かなかった。進も動かない。わずかに、雪の目から流れ出る涙だけが病室の中で動くものだった。

 しばらくして、島がやっと口を開いた。

 「ありがとう。古代、雪・・・ でも今は、一人にしてくれないか・・・」

 進と雪はお互いの顔を見合わせると病室からそっと出ようとした。ドアについている曇りガラスから外を見ると、誰かが立っている姿が見えた。ドアを開けると、目の前にいたのは青い顔をした綾乃だった。

 (5)

 「綾乃・・・?」 雪が小さな声で話しかけたが、綾乃は返事をしない。「あやの・・・? どうしたの?」

 二度目の雪の声にやっと綾乃は我に返った。

 「さっき夜勤で来たら、島さんが意識を取り戻したって・・・ だから、検温を代わってもらってきたの。」

 仕事の話をするが、綾乃の心の中は今はそれ以外のことで一杯だった。

 「島さん・・・ あのテレサさんと愛し合ってたの?・・・」

 「綾乃、聞いてたの? 今の話。」

 綾乃は黙ってコクンと頷いた。雪はふうっとため息をつくと、状況の見えてない進を待たせておくと、綾乃の手を引っ張って、島の病室の前から離れた。
 脇の長いすに綾乃を座らせて自分も座ると、雪は島とテレサの話をして聞かせた。綾乃は、じっと耳をそばだてていたが、視線が宙に浮いているようで、焦点が合ってなかった。

 「だから・・・ 島君、今はとても辛い状況なの・・・ 綾乃の気持ちもわかるけど、今は・・・今は島君には時間が必要なのよ。そのうちきっと立ち直って・・・ その時には、綾乃の気持ちを受け止めることができるかもしれないけど・・・ 今は・・・」

 雪は綾乃の気持ちを傷つけないように注意をしながら、一生懸命説明した。綾乃はしばらくの間、また視線が宙を動いていたが、やっと下に落として答えた。

 「わかったわ・・・ 雪、ありがとう。」

 綾乃は無理に笑顔を作って立ちあがると島の病室の方へ歩き出した。

 「綾乃!」

 「検温しなくちゃ・・・ 大丈夫、私は大丈夫よ。島さんのことを考えたら私の気持ちなんて・・・」

 綾乃はそのまま振り返らずに島の病室に入って行った。進は目の前を通過する綾乃の姿を追い、そして、視線をその後ろで立っている雪に移した。雪の方へ歩いて行くと、わけを尋ねた。

 「どうしたんだい? 綾乃さん・・・ 今の話を聞いていて?」

 「ええ・・・ それに、綾乃・・・ 島君のことが好きなのよ。」

 「えっ?」

 「合コンの前からあこがれてたみたいだったけど、本気で好きになったみたい。でも・・・ 今は彼女も辛いわね・・・」

 「そうか・・・」

 「いつか、島君の傷がいえたら・・・ きっと・・・」

 雪と進は島の病室のドアを見つめた。

 「そうか、綾乃さんが・・・ けど島のヤツ、大丈夫かな・・・ 後を追ったりしないだろうな。」

 「それは大丈夫よ。島君の体には、テレサさんの血が流れてるのよ。島君がそれを自分で断ち切るなんてそんなことするわけ・・・ないわ。」

 「・・・そう・・・だな。けど、辛いな・・・ 島も、綾乃さんも。」

 それぞれの気持ちを思いやると、やるせない気持ちになる進だった。

 (6)

 進と雪は、再度佐渡に会ってクルー達の病状を確認すると、病院出口に向かって並んで歩いていた。二人と入れ違いに島の家族が病院に入ってきた。二人は家族に挨拶すると、島の状況を話した。テレサとの事は、島に任せた方がいいとの判断で何も言わなかった。ただ・・・大勢の犠牲者が出た事を知ってショックを受けているとだけ告げた。

 「古代君、今日はもう帰って休んだ方がいいわ。昨日もあまり寝てないんでしょ?」

 「君だって、同じだろ? でも・・・ 君のご両親にも会ってきちんと謝らないと・・・」

 「うちの方は・・・ 気にしなくても、いいのよ・・・」

 「だけど・・・」

 「あ、結婚式のことは、当分そんな状態じゃないって言ってあるから・・・」

 雪は顔をあげて寂しげに笑いかけたが、言葉を言い終えると視線をまたそらした。

 「ごめんよ・・・」

 進は、『そんなことはないよ、すぐ式のことを決めなおそう』と言ってしまいたい衝動に動かされたが、ヤマトや地球のこと、死んでいったみんなのこと、島を初めとして病院で回復を待っている者のことを考えると、とてもそんな気分になれなかった。

 (結婚式のこと、雪と話し合わないといけないな。今のままの気持ちではとても祝い事なんて・・・ 雪はわかってくれるだろうか。あんなに楽しみにしていたのに・・・ )

 病院を出て、駐車場までの道々で、進を見るのをあえて避けているような様子で歩く雪を見つめながら進は心の中で何度も詫びた。言いたい事があるはずなのに、と思うと、進の心は熱くなった。

 「雪・・・」

 そう言うと、進は雪をその場で抱きすくめた。地球へ帰ってきてから初めてのことだった。突然の事に驚きながら、雪は進の胸に体をもたせかけた。広い胸に埋もれるととても幸せな気持ちになる。進の手が雪の体を強く縛り、雪もそれに負けないくらい強く抱き返す。

 抱きあったまま、雪は顔をあげて進を見た。疲れのせいか雪の髪が顔にかかっている姿がひどくやつれて見えた。進はその髪をそっと耳にかけてやると、雪のあごを軽く持ち上げて、キスをした。

 雪の唇はいつもやわらかくて、あたたかだった。むさぼるようにその唇を求めながら、このまま全てを忘れて雪とこうしていられたら・・・ 甘美な誘惑にそのまま浸っていたい思いに駆られる進だった。

 だが、現実はそれを許すはずがなく、しばらくして進は抱擁を解いた。

 「これからのことは、今はまだ・・・決められない。でも、中止にした結婚式の後始末のこともお詫びしないと・・・ とにかく明日の朝、君の家に行くよ。それから・・・ できたら、死んだヤツらの家族に会いに行きたいんだ。」

 「古代君・・・ 明日1日しかないお休みなのよ。ゆっくり休んだ方がいいんじゃないの?」

 「じっとしていられないんだよ、今は・・・ わかってくれ。」

 伏目がちに話す進の姿に、雪は防衛会議で無罪放免になったからといって進の心がまだまだ晴れていないことを痛感した。

 「そう・・・ わかったわ。生活班で留守家族のことは可能な限り把握してるから、連絡とれるところを探してみるわ。みんな地下都市に移ってると思うから、どれだけ連絡とれるかわからないけど。明日は、私も付き合うから。」

 「ありがとう・・・ 明日、9時ごろ行く。送っていこうか?」

 「ううん、車に乗ればあっという間だもの。古代君は歩いてすぐでしょ? 早く帰ってとにかく少しでも休んで、ねっ!」

 雪の進の体を心配する気持ちが痛いほど伝わってくる。進は素直にそれに従うことにした。

 「わかったよ。おやすみ、雪。」

 「おやすみなさい。」

 雪は進の唇にもう一度軽くくちづけすると、車の方に走っていった。進の目はその後姿を追い、エアカーが走り去るまでじっと見つめていた。

 (7)

 その日、一番眠れぬ夜をすごしたのはやはり島大介だった。進たちが帰った後、すぐに綾乃が検温にきて、やさしい笑顔で島の回復を喜んでくれた。友達として接してくれる彼女のさりげない態度に、本当なら感謝の気持ちを伝えないといけないのだろうが、今の島には、とても他人を思いやる余裕がなかった。もちろん、綾乃の心の中の島への思慕の念など知る良しもなかった。
 その後、両親と弟がやってきた。3人とも自分の無事を泣いて喜んでくれた。ありがたいと思った。こんなに自分を心配してくれている家族がいることを・・・ だが、それも今の島の心を和らげることはできなかった。
 なぜか笑顔がこわばる島の姿を見、両親も次郎も仲間を亡くした無念だろうと思った。一人にしてほしいという島の求めに、3人はしばらくして帰って行った。

 一人になって、もう一度テレサのホログラムを見ようかと思って、スイッチに手をかけるが、どうしてもそれを押すことが出来ない。彼女の姿を再び見たい気持ちと、見るとわいてくるだろうとてつもなく大きな寂寥感、空虚感を一人で受け止めきれないような気がするのだ。

 「テレサ・・・」

 一言、つぶやいてみた・・・ 胸がぎゅっと痛くなる。その胸を右手でグッと押し、その心臓の動きを手に感じると、今自分が生きていることを実感する。だがそれは、テレサの命と引き換えに成り立っているのだ。

 「テレサ・・・」

 涙はでてこない・・・ 悲しすぎると涙もでてこない、という話を聞いたことがある。俺はこれからどうすればいいのか・・・ どう生きるべきなのか・・・ 島はこれほどまでに『生きる』ことを考えたことがなかった。

 眠れぬまま、ただ目をつむって夜をすごす。長い長い夜が明けて外が薄明るくなっても、島の心に日は射してこなかった。

 夜の見まわりで数度島の病室を訪れた綾乃が、島が眠られずにいることに気付き、一人涙していたことは、誰も知らなかった。

 それぞれに、思いの深い夜が過ぎ、新しい1日がまた始まった。

Chapter 3 終了

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