4年目のサプライズプレゼント

 


 2209年も滞りなく明け、正月が明けてから帰還した夫を交えての少し遅めの正月休みを過ごした1月のある日のことである。

 2歳半になった長男守ともうすぐ7ヶ月になる次男の航を寝かしつけた、若きパパとママは、リビングのソファに並んでどっかりと座り、やっと二人の時間を持つことができた。

 「はぁ〜 やっと寝たな。ギャングどもはぁ」

 昼間からさっきまでの戦争?を思い出しながら、若きパパは大きく伸びをした。

 「うふふ……ええ、今日もお風呂場すごかったわね」

 夫と息子二人で入った風呂場に、後から入った雪は、風呂じゅうに散らばったおもちゃにシャンプー、石鹸などを片付けるのに大変だった。

 「ったく、大騒ぎだよ!」

 進が小さなため息をつくと、雪はクスリと笑った。そして夫の胸元に、ついっと自分の体を預けた。

 「いいじゃないの。パパが帰ってくると守はやけに張り切るんだもの。私と入るときは、お兄ちゃん顔してなかなかえらいのよ」

 「相手見てるんだよなぁ、あいつは……」

 「ふふふ……」

 夫の胸元を人差し指でいじくりながら、妻はまたおかしそうに笑った。その笑い声と胸をたどる指の感触が、進の五感をくすぐった。

 「さぁてと、そろそろ寝るとするか。今日は……いいだろ?」

 「え?なにが?」

 わかっててわからない振りをする妻を、進はぐいっと抱き寄せて荒々しく唇を奪った。

 実は、先日正月明けに進が帰還してすぐ、妻の実家森家にみんなで里帰りをした。昨日までは森家に滞在していたのだ。妻の実家でのお泊りは何かと落ち着かず、結局最愛の妻に手を出すこともできずに、お預け状態だったのだ。

 つまり……今年の二人の姫初めは、まだということになる。夫君としては、そろそろ我慢の限界というところだろう。

 「とぼけるなってっ!」

 「うふん……」

 おっと、妻の方の我慢も限界に来ているらしい。とろんとした妻の瞳が、期待のほどを表しているようだ。
 もちろん、夫たるものその期待に答えねばならない。進は勇んで妻の手を引き、二人の寝室に向かった。



 深夜。
 二人の睦み事は、今夜も無事に激しく!?第一ラウンドを終えた。幸いに今夜は次男坊の夜鳴きもなく、十分にお互いを堪能できた二人は、すっかりご満悦で、ベッドの中のけだるい倦怠感を楽しんでいた。

 「来週には、あなたはまた宇宙に行っちゃうのね」

 ちょっぴり寂しそうに、そして恨みがましそうに雪が甘えると、進は苦笑いした。
 宇宙での仕事を続けることは、妻も認め勧めていることなのだが、毎回宇宙に旅立つ前になると、この繰言を繰り返されるのだ。

 「ああ、それが仕事だからな」

 「この間のクリスマスは、散々心配させられたんだから、しばらく地球(ここ)にいてくれればいいのに……」

 素肌を摺り寄せるようにして、雪は甘えた声で訴えた。

 昨年末のクリスマスは、月面基地の火事のとばっちりを受け、進は忙しい思いをしたし、雪はその進が一時行方不明になったこともあって、しなくていい心配をすることになった。その代わり、夫婦で月面でのクリスマスの夜を過ごせたのではあったが……

 「ははは……あれは申し訳なかったよ。けど、それとこれは別だろう? 俺たちの艦隊に何かあったわけでもないからな」

 それはそうなのだ。進たちの太陽系第3艦隊は、正月明けに無事帰還した。そしてこの休暇を終えると、再び宇宙へと飛び立つ予定になっている。

 「でも……」

 と雪が不満げに小さな声を漏らした。

 「でも?」

 進が首を傾げると、雪は上目遣いに夫を見上げた。

 「今年の結婚記念日は、一緒にいられないのよね」

 「あ、ああ…… まあそういうことになるな。しようがないよ、毎年毎年ってわけにもいかないだろう? クリスマスは予定外に会えたし、少し遅い正月休みは一緒に過ごせたんだからさ」

 そっちのほうか、と進は思った。古代家の年末年始はイベント尽くしだ。そしてその締めくくりが、15日の二人の結婚記念日というわけだ。

 「それとこれとは……別なの!」

 目を三角にする妻を軽く抱きしめると、進は耳元で囁いた。

 「はっはっは、そう怒るなって。その代わり、当日には花でも贈るように頼んでおくからさ」

 今までにも成り行きで何度か花束を贈ったことがあったが、妻はいつも喜んでくれたことを、進とて学習している。今回もそれを嬉しそうに受け入れると思っていたのだが……

 「花?」

 その妻の反応振りが、進には心なしか不満げに聞こえた。

 「なんだ、不満か? いつも君は花束が欲しいって言ってるじゃないか。直接買うのは恥ずかしいけど、ま、注文するくらいなら俺だってできるし。俺もなかなか気が利く旦那になっただろ?」

 「う〜〜ん……そうなんだけど……」

 考えるような仕草の妻の態度に、夫はむっとしてしまった。昔は鈍感で鳴らした?古代進としては、これでも十二分に気を遣ったほうなのだ。

 「なんだよ! 嫌ならいいよ。ああ、もうやめたやめた! せっかく俺が……」

 「あら、ごめんなさい。怒ったのなら許して。ただね……」

 ふてくされる夫を慌ててとりなしながら、雪は甘い声で囁いた。

 「ん?」

 愛妻の甘い声には、夫はすこぶる弱い。

 「花は何日かすると枯れちゃうでしょう。だから……ずっと残るものがいいなって……思ったりしたの」

 「残るもの? じゃあ、長期保存できる花にするか? ドライフラワーとかブリザーブドフラワーとかあるんだろう?」

 「そうじゃなくて〜〜 それを見るたびに、今年の結婚記念日に貰ったんだって、ずっとずっと思い出せるようなものがいいんだけどぉ」

 「なんだかむずかしいなぁ……」

 進の奥様対応が一ランクUPしたと思いきや、雪はさらにステップアップさせようと狙っているらしい。

 「うふふ、ねぇ、気が利く旦那様になったんでしょう? だったら、何か考えてみてよ」

 「う〜〜〜ん……」

 うなり声を上げて、そのあと沈黙してしまった夫に対して、雪はさらに甘い声でにじり寄った。

 「その代わり、あなた明日はお休みでしょう? 今夜は特別サービスし・て・あ・げ・るっ!」

 雪がブランケットの中にもぐりこんだ。それを合図に、進がくすぐったそうに、いや……そうに声をあげ始めた。

 「うおっ、わわわ…… はひっ、や、やめろ! あ、いや、やめないでくれ。あぅっ!」

 つまり、やめて欲しくないらしい。

 「んっ…… はふっ、ねぇん、いいでしょう?」

 さらに妻は攻めながら、さっきのおねだりを繰り返した。

 「わかったわかった。わぉっ!! はぁあああ…… いい…… くっ、はぁ、ま……まかしとけってぇっ! ああ、雪っ!」

 奥様の特別サービス!?に、頭に血が上った夫は、思わず安請け合いしてしまたのであった。

 その後の夫婦のお楽しみは、皆様のご想像のままに…… とにもかくにも、二人がその後快眠できたことは間違いないことであった。

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