4年目のサプライズプレゼント

 


 翌朝のこと。今日は雪奥様だけがご出勤だ。

 仕事に出かける奥様を見送った進は、いつもの休みなら子供と過ごすのだが、今日は急遽旧友宅を訪れようと決め、子供達をいつもの保育園に預けることにした。

 飼い犬のいずらに餌をやると、進は子供達を連れて家を出た。そして保育園に子供達を預け、まずは南部家に向かった。



 ちなみに進が旧友宅を訪ねるつもりになったのは、一応新年の挨拶に行くという名目だったが、本当は他でもない昨夜の奥様の頼みごとのためであった。

 ――それを見るたびに今年の結婚記念日を思い出すような記念になるものが欲しいの。

 という、奥様からのかぐや姫の難題並の注文を安請け合いしてしまった旦那は、朝、目がさめてから途方にくれたのだった。

 (いったい何をプレゼントすりゃあいいっていうんだ!?)

 気が利く旦那と威張ってみたものの、この旦那、まだまだ奥様サービスは修行中の身。そんなに都合のいいプレゼントなんてすぐには思いつくわけがない。安易に花を贈ろうなんて思っていたのが、すっかりあてがはずれてしまった。

 翌朝、妻には笑い混じりで、「期待してないから……」なんてことを言われてしまったからには、男古代進、さらに後に引くわけにはいかなくなった。



 ということで、とりあえずはヤマト一のプレイボーイ?と自称する南部に助けを請うことにしたのだ。

 南部の住む邸宅を訪問すると……最近はすっかりプレイボーイを返上した(と本人は主張している)彼らしく、年下のかわいい恋人が遊びに来ていた。

 「あけましておめでとうございます、古代さん」

 南部の隣で礼儀正しく挨拶する若い娘の名は、揚羽星羅。若干18歳の初々しい娘だ。

 「あけましておめでとう、星羅さん。今年もまだこのおじさんに付き合ってやってるのかい?」

 「おい、こらっ! 勝手なこと言いやがって! なんで俺が付き合ってもらってんだよ!」

 照れ隠しに大声で叫ぶ南部の隣で、星羅は嬉しそうに頬を染めた。なんとなくこの二人、さらにしっくりきたように見えるのは気のせいだろうか。

 (もしかして、南部の奴……手を出したのか?)

 などと思うと、進は少々南部が羨ましくなった。

 (18歳かぁ〜〜 い〜よなぁ〜〜)

 おっと、妻の耳に入れば、これは誤解を招く発言だ。
 が……進が18歳の星羅に邪(よこしま)な気持ちを持ったわけでは決してない。もちろん、今の妻に不満の一つもありはしない。
 ただ、初々しい星羅を見ていると、出会ったばかりの頃の18歳の妻を抱いてみたかったなどと、今頃になって思ってしまったわけである。
 いくつになっても、若い女に心をそそられるのが男の性というものだろうか。まあこれくらいは、世の奥様方も許してやって欲しいものだ。

 どちらにしても、今日は南部に下手につっこんでしまって、相手の機嫌を損ねるわけにはいかない。今日のところは、進は笑ってごまかすことにした。

 「ははは、すまんすまん、冗談だよ」

 「ったく、勝手にぬかしてろよ。で、今日はどうしたんだ? 奥さんと子供たちはどうした?」

 「女房殿は正月早々仕事だし、子供達は保育園に行った」

 「で、暇なもんで遊びに来たってわけか?」

 「まあ、俺もお前の恋路を邪魔するつもりはなかったんだが…… ちょっと聞きたいことがあってな」

 と話題を振った進の顔を見て、南部はすぐににやりと笑った。

 「なんだ? もしかして今年の結婚記念日のことか?」

 「えっ!? はぁ〜 相変わらずそういうことには、さすが察しがいいなぁ」

 プレイボーイの名に恥じないチェック振りに、進も感心してしまう。

 「当りかぁ、ははは…… だけど、毎年のように花束渡してレストランで食事ってのじゃ、だめなのか?」

 「うん……それができればいいんだが、今年は、俺当日地球にいないんだよ」

 「あ、そっか。それで?」

 「まあ、あいつが言うにはな、地球にいないのは仕方ない。けど記念になる思い出の品をプレゼントして欲しい、とこう来たんだよ」

 「ふむ……記念になる、ねぇ」

 「なんかいいもんないか?」

 「う〜ん、そうだなぁ」

 南部は、しかめっ面で天井を仰ぐようにしばらく考えてから、隣にいる恋人に尋ねた。

 「星羅なら何がいい?」

 南部に視線を向けられると、星羅は頬を染める。それから上目がちにうっとり南部を見上げた。

 「私は……南部さんがいてくだされば十分ですけど、いらっしゃらないのなら、南部さんから電話を貰えれば、それだけで嬉しいわ」

 「うん、でもそれじゃあ形に残らないだろう?」

 優しいまなざしで見つめる南部に、星羅は首を左右に振ってから、もう一度熱いまなざしを南部に送った。

 「私の心にはちゃんと残ります」

 「星羅……」

 南部の顔が思わずほころんだ。見つめ合う恋人同士は、二人の世界に入りつつある。
 とそれを破ったのは、一人恨めしそうに二人の向かいに座っている進だ。

 「うぉ〜〜〜っほん!」

 「おおっと」 「あらっ、(ぽっ)」

 慌てて星羅から手を離した南部は、ごまかし半分におざなりな返事を返してきた。

 「やっぱ、花でいいんじゃないのぉ? ドライフラワーとかにしておければ残るしさぁ」

 「…………ふうっ、俺、帰るわ。邪魔して悪かったな」

 進はそれ以上尋ねるのをあっさりとやめてしまった。

 (こりゃだめだ……)

 かつてのプレイボーイも、若い恋人とルンルン恋愛中の恋ぼけ君には、真剣に進の悩みに答える暇などありそうもないらしい。

BACK    NEXT

トップメニューに戻る    オリジナルストーリーズメニューに戻る

(背景:pearl box)