4年目のサプライズプレゼント

 


 南部家を出た進は、次に訪れる先を考えた。

 (大田は今航海中だったな。まあ、あいつにに聞いたって、おいしいレストランのチケットでもって言うのが関の山だろうし……
 相原には一度世話になってるしなぁ〜 どっちにしたって、花束でレストラン、とかって南部と変わらん話をしそうだしなぁ。
 なんかこう、もっと雪が目をぱちくりさせて驚いて喜ぶものがないもんかなぁ?
 あ、そうだっ! あそこがあるな!)

 ということで思いついて足を向けたのは、島大介宅だった。
 島はもちろん今も古代進の一番の親友であるし、何よりもその妻も雪の親友である。
 つまり、雪の好みならここが一番じゃないかという結論に達したのだ。

 早速連絡してみると、島たちもまだ正月休みで在宅していた。

 「よぉ、よく来たな!」

 と、突然の友の訪問を笑顔で迎えてくれた島の家に入ると、リビングでは、やっと歩き始めたばかりの愛娘里恵香と、優しい笑顔の奥方綾乃がいた。

 「いらっしゃい、古代さん。明けましておめでとうございます。今日は雪と守君たちはいないのね?」

 「ああ、雪は仕事で、奴らは保育園なんだ。おおっ、里恵香ちゃん、おっきくなったなぁ〜」

 「ほら、里恵香。おじちゃんにこんにちはしなさい。それから、こうやって手を出してお年玉頂戴っていうんだぞ!」

 ニコニコしながら娘をけしかける島も、すっかりお父さんが板についている。だが、「おじさん」という言葉には、進も聞き捨てならなかった。

 「おい、こら、おじちゃんはないだろ! 俺はまだ20代だぞ!」

 「何言ってやがる! 2人も子供がいりゃあ立派なおじさんだよっ!」

 「ちぇっ、ったく……」

 「うふふ……」

 相変わらずの軽快な会話の応酬に、綾乃はおかしそうに笑った。そしてその隣から、里恵香が意味不明な言葉を発しながら、進の前に手を差し伸べた。

 「ま〜ま〜」

 にっこり笑った子供の笑顔には、誰も勝てはしない。

 「わっははは…… さすがお前の娘だな。ちゃっかりしてるぜ、はい、これどうぞ」

 進はここにくる前に用意しておいたお年玉の袋を、里恵香に差し出した。すると里恵香は嬉しそうにそれを手に握り締めた。

 「いいのよ、古代さん。里恵香なんて、まだ何にもわかってなくてやってるんだから。もう、パパったら変なことさせないで」

 綾乃が恐縮気味に、里恵香の手から袋を取ろうとすると、島がそれを止めた。

 「いいんだ、もらっとけ、もらっとけ! どうせ後で二人ぶんやらんきゃなんないんだろ?」

 と、進を見てにやりと笑う。もちろん、進もそれに笑い返した。

 「そういうこと……」

 「ははは……」 「まあっ、うふふ…… そうだったわね、守君と航君にあげないと。ちょっと待っててくださいね」

 綾乃はくすくすと笑いながら、年明けに会った時にあげようと、既に用意してあったお年玉の袋を取り出し、進に手渡した。



 しばらく雑談してから、進は肝心の質問に入った。

 「それで、今日はちょっと相談があるんだけど。綾乃さんに聞きたいことがあってね」

 「あら、何かしら?」

 綾乃が娘を胸に抱きながら尋ねた。

 「実は……雪が今年の結婚記念日に、ずっと思い出に残ろる品物をプレゼントして欲しいって言うんだけどさ、何がいいだろう?」

 その質問に、島がん?という感じに小首をかしげて進を見た。

 「品物? 雪なら古代さんがいればいいって言うんじゃないの?」

 綾乃がニコッと笑う。

 進と雪の仲については二人が付き合い始めてまもなくからずっと知っている彼女の言葉は的を得ている。進も照れたように頷いた。

 「はは…… まあ、いつもならそうなんだけどさ。でも残念ながら、今年は俺地球にいないんだよ。だから、代わりに何か贈ろうと思って」

 「そう、それなら、そうねぇ〜〜」

 綾乃が夫の顔を見て首を傾げると、さっきまで黙って話を聞いていた島が、ニヤニヤと笑い出した。

 「あの鈍感ニブチン君だったお前が、そんなことをちゃんと考えられるようになったのかぁ。俺は嬉しいぞっ!」

 「っるさいっ!」 「わっははは……」

 島は、ばしりと進の背中をたたきながら大笑いだ。じゃれあう親友達を笑顔で見ながら、綾乃は昔のことを思い出していた。

 「うふふ…… そう言えば、いつだったか、古代さん、雪の誕生日に手紙と花束に添えて指輪をあげたことあったでしょう。あの時はごく喜んでたわよ」

 同棲時代の雪の誕生日のことだ。あの時は、進が不在だった。後で雪から聞いたのだが、友人達がやってきて誕生日パーティをしてくれたらしい。
 そのさなかに進からのプレゼントが届いて、皆にたっぷりからかわれたのだと、雪が楽しそうに笑っていたことを思い出した。

 「ああ、あれなぁ。あの時は初めて花束なんか贈ったから、注文する時緊張したのを覚えてるよ。
 けど、花束はおととしもあげたし指輪もなぁ。アクセサリーってのはワンパターンで芸がないんって言われそうだしなぁ。
 第一、雪がどんなのが好きなのか、未だにさっぱりわからないんだよ、俺」

 進が苦笑しながら答えた。

 「それは言えてるな、はっはっは」

 ありがたくもないが、島が同意する。進はアクセサリー類を選ぶセンスがあまりない。だからそういう類(たぐい)のものは、妻と一緒に選ぶようにしているのだ。

 ということで、今回、妻を驚かせるものとしては不適切だった。すると、また綾乃が提案した。

 「じゃあ、小物かなにかは?」

 「うん? たとえば?」

 「宝石箱とかかわいい置物とか?」

 「ふむふむ……」

 そう言えば、と進は思った。雪はそういう小さなインテリアを見て歩くのは大好きだった。

 「でもただの小物ってだけだと、ちょっとインパクトが足りないかしらねぇ。芸がないって言われるわよね?」

 「うっ……う〜む」

 「何かそれにもう一捻りできるといいんだけど……女性って、何かさりげないいわくや意味が篭ってたりするとすごく嬉しいものなのよね〜 ねぇ、旦那様!」

 こういうチャンスに、綾乃も夫にアピールするのを忘れない。思わず島と進は、顔を見合わせてこっそり眉をしかめあった。

 全くどこの女房殿も抜け目ないな、なんて目と目で言い交わしていたりして……

 「はは…… 次のときまでに考えときますよ、奥さん!」

 「ぷっ……お前も頑張れよ! そうだな、これから街に行ってそういうの探してみるよ」

 正月早々長居は禁物。このあたりが潮時と、進は立ち上がった。

 「じゃあ頑張っていいもの探してあげてね」

 「お前のお手並み拝見ってとこだな」

 などという励ましと揶揄を受けて、進は島家を後にした。

 が……「小物」などはどうか、という曖昧なものは見えたものの、結局これ!という確定的な物は見つからず、進は途方にくれていた。

 (参ったな、もう、あてがないよなぁ〜〜〜)

 いよいよ自力で探すしかないのかと、妻との約束をちょっぴり後悔し始めた進であった。

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