“愛”の誕生秘話
(BGMは『まきびと羊を』)
今年のクリスマスももうすぐおしまい…… 今日は12月25日。昨日は、家族4人と1匹で過ごす初めてのクリスマスイブだった。
守は、パパと一緒のクリスマスイブにおおはしゃぎ。航(わたる)は、まだ何が何だかよくわかっていないが、お兄ちゃんがうれしそうにするので、一緒にはしゃぐ。それと一緒にいずらもご機嫌。
「うわぁぁい! パパァ〜 こっちだよ! はやく!」
「だめよ! 今度はママのところよ! ねぇ、パパ!」
とんだりはねたり大騒ぎ。めったにいないパパの取り合いを子供達と一緒にする困ったママの姿も……
そして……結局、イブの夜は、パパと一緒にサンタクロースを待つんだとくっついて離れない守に、夫を取られて雪は航に添い寝。
サンタさんに会うまでは寝ない、と頑張る守をなんとか寝かしつけ、イブの夜を妻とロマンチックにと、もくろんだ進が見たものは、航と雪の無邪気な寝顔。
しかたないか…… と、一人でワインを少し飲んで、進もご就寝。
やはり、恋人時代のようなロマンチックなクリスマスイブにはほど遠かったけれど、幸せで暖かな家庭の風景……
翌朝、サンタのプレゼントに狂喜乱舞の守と航。子供の喜ぶ姿を見るのは、親にとっては一番幸せな瞬間だ。進と雪もうれしそうに子供達を見つめていた。
そして…… クリスマスの晩のこと。昨日からはしゃぎまくっていたせいか、守も航も今夜は早々にダウンしてベッドの中でぐっすりおねむ。
進と雪は、寝支度を整えた上で、今日こそは二人だけのクリスマスパーティとしゃれこんだ。パジャマ姿の進は、昨日飲みかけたワインを取り出し、つまみにチーズやサラミを用意する。
ちょっと色っぽいネグリジェ姿の雪は、今日はお客さん。じっとワインが出てくるのを、リビングのソファに座って待っていた。
「さ、用意できたよ。乾杯!」
「ありがとう、あなた……」
進の差し出すワイングラスを受け取って乾杯すると、雪もすっかりリラックスモードへ…… 薄明かりの中で、カチンというグラスの当たる音が響いた。
しばらく、ワインとつまみをつっつきながら、とりとめのない話をする。そんな静かな時間も、最近はなかなか作れなくて少なくなっていたから、不思議なくらい新鮮だ。
「昨日は楽しかったわね。守も航も…… いずらだってもう大騒ぎ。おかげで今日は片付けがたいへんだったけどね」
「あはは……まあな、けどよかったよ。長官秘書殿のご配慮で、クリスマスに休みが取れて、感謝しております」
ふざけて、丁寧口調で話しながら頭を下げる夫の姿に、雪はくすくすと笑ってささやく。
「ほんとに感謝してる? それなら、私にもクリスマスプレゼントをちょうだいな」
「えっ!?……」 言葉がつまる進。
「あら? どうしたのかしら? まさか、古代家のサンタさん、子供達にはあんなに素敵なプレゼントを持ってきてくれたって言うのに、大切な奥様には何にもなしなの?」
いじわるっぽく言う雪に、進はたじたじ…… 実は、買っていない。今年は俺がいるんだから、子供達へのプレゼントは俺が買う!とはりきっていた。
といっても、進が航海から帰ってきたのは24日の午後。帰宅途中に買いに行ったはいいが、なかなか決められず、悩んで悩んでやっと買ってきた。が、そのせいで、妻へのプレゼントのことは考える暇も買ってくる余裕もなかった。
ここ数年は、クリスマスにいなかったこともあって、プレゼントはおざなりになっていた。今年はあげないとすねるだろうな?と思っていたのにこの始末…… 相変わらずの自分の不手際に、雪は怒ってるのだろうかと恐る恐る顔を覗きこんだ。
あれ? にこにこしてるな…… どうしてだ? 進が不思議そうな顔で自分の顔を見るので、おかしくなって雪は笑った。
「いいのよ、古代サンタさん…… 私は欲しいものは……うふふ……」
そう言って頬を染め、しなだれかかる妻にピーンときた夫。あ、そうか、欲しいのは俺ってことか。と、したり顔。
「じゃあ、体で払うってことで、いいのかなぁ……奥さん!」
「もう! いやぁねぇ……その言い方!」
と言いつつ、まんざらでもなさそうな返事に、進はいよいよ調子に乗って、そのままソファーに押し倒す。
「いやん……こんなところで…… もう、あなたったらぁ……」
いやん、といいながら、抵抗しない妻。よぉし、これはどんどん行くしかないぞ!と、さっそくネグリジェの中に手を忍ばせ、雪の体をなぞっていく。
前のボタンをはずすと、豊かな胸が目の前に現れる。白くてまぶしくて、目を細める進に、雪は未だに少し恥ずかしそうに体をねじらせる。
(胸は少し大きくなったかなぁ……)
子供を産んでもあまり体型の変わらない妻の姿は、今でも進の自慢の種だ。
このままここでもいいけれど、せっかくのクリスマスの夜はゆっくり愛し合いたい…… 進は、久々に妻を抱き上げてベッドに連れて行った。
子供部屋とは部屋続きだが、ドア一つ隔たりがある。遊び疲れて熟睡している子供達には、隣の小さな声など聞こえることはない。
久しぶりのクリスマスナイトに、進の心と体は燃えていた。
「ねぇ、進さん…… 私の欲しいクリスマスプレゼントは……ねっ…… あ、ああん!」
妻のどこを愛したら喜ぶかを十分に知っている進の愛撫に反応しながら、雪が言う。
「えっ? 俺? じゃないの?」
見当が外れたかと、一瞬、進の動きが止まった。
「うふん♪ あの……ねっ…… あたし、今度は女の子が欲しいの」
「へ?……」
目を真ん丸くして妻の顔を見下ろす進に、雪がぽっと頬を染める。
「だ・か・らぁ…… おんなのこ……よっ!」
雪が恥ずかしそうにもう一度繰り返して、進もやっと理解した。
「あ、ああ…… 女の子か…… よぉし!オッケー! ばっちりプレゼントしてあげるよっ!」
ちょっぴり的ははずれてたけれど、想像通りの展開に二児のパパは三児のパパになるべく大ハッスル。
雪も幸せ、進も幸せ、結婚ン年目の夫婦は倦怠期を乗り越えたのか、なかったのか…… 今夜もあっつく燃えあがったのだった。
そして…… 次の年、9ヶ月遅れのクリスマスプレゼント。ママと同じ誕生日にかわいいかわいい念願の女の子が誕生しましたとさ……
名前は……
「僕達の愛の結晶だから……名前は『愛』にしよう」
パパの一言で、古代家の初めての女の子の名前が決まった。
愛…… アイ…… あい…… ん?なんか聞いた事のある名前……
えっ? もしかして、ひょっとして…… あいって?
あっ! なーんだ!!
相変わらずずうずうしい『古代君と雪のページ』のオーナーだこと……!
−お し ま い−
(背景:Queen’s Free World)