Semi−Double (for 「古代主義【コダイズム】さま)

 
 古代進と森雪は、自他共に認めるアツアツカップルのフィアンセ同士。付き合い始めてあっという間に結婚話が進み、付き合ってちょうど1年後に結婚式をするはずだった。が、いろんなアクシデントの結果、それがあっさりと流れてしまった。

 といっても、別に喧嘩したわけでも婚約解消したわけでもなく、二人はいつもラブラブなのだ。そして月日は経ち、二人は夜を一緒に過ごす仲になった。進が宇宙勤務から帰ってくると、雪は進の部屋に入り浸りの半同棲状態。今は、恋人以上夫婦未満の生活を楽しんでいた。

 実は、雪は進と一緒に暮らしたかった。進がいないとき、雪は自分の部屋に戻る。が、進の部屋は誰も住んでいない。そして進が帰ってくると、雪の部屋の住人はいなくなるのだ。
 これでは、一部屋分無駄にしているようなものだ。部屋の賃貸料だってバカにならない。結婚はまだいいとしても、しまり屋の雪としてはこの無駄をどうにかして省きたい。それには、一緒に暮らすのが一番いい。
 ただし、自分から押しかけるのはいやだ。やっぱり、進から「一緒に住もうか」と言わせたいのだ。さて、どんな風に言わせようか、雪は今その事を考慮中だった。

 そんなある日、進は地球で休暇中。雪もそれにあわせて休みを取った。そして今朝、遅めの朝食−ブランチってやつだな−を取ったばかりだった。

 「ああ、うまかった」

 進が満足げに腹を押さえた。朝から、食パンを3枚、サラダ、ハムエッグ、ソーセージにコーンスープをぺろりと平らげ、デザートだと言ってバナナとりんごにキーウィまで食べた。今は食後のティータイム。雪はニコニコ笑っている。

 「古代くんってホントよく食べるわね」

 「君だってその体の割りに食べてるじゃないか!」

 人のことは言えないと進は苦笑する。そう言われると確かにそうだ。雪はペロッと舌をだした。

 「だって、お腹がすいたんだもん!」

 「だよな、腹が減るさ。昨夜(きのう)だってあんなに運動すれば、なぁ」

 進がにやり、流し目を送る。その頭を雪の手が平手打ち−ペチッ!

 「ばっか、えっち……」

 「い、いってぇなぁ、ホントのこと言っただけなのに……」

 進は尻すぼみに声を小さくしながらブツブツ。雪はくすりと笑う。いつもの二人の恒例行事のようなものだ。

 「さぁて、片付けなくちゃ。古代くんの方がたくさん食べたんだから、食器洗いお願いね」

 「えぇっ〜!」

 「私はベッドメイクしてくるから……」

 不満そうな進の声など知ったことじゃないと言った感じでさっさと立ちあがる雪に、進は従うしかなかった。

 「……へいへい」

 雪は進に台所をあずけると、軽やかに寝室の方へ歩いて行った。雪を見送ってから、進は仕方なく?食器を洗い始めた。

 「ちぇっ、人使い荒いよなぁ、雪のやつは。だいたい俺の休暇ってのは、宇宙勤務で疲れた体を癒すためにあるんだからだな! 本当は、ゆっくりとソファーに座ってくつろぐべきなんだ!」

 「古代く〜ん! 何か言ったぁ?」

 「言ってねーよぉ〜!」

 雪のいないところでは文句を言っておきながら、実は本人を前にしては全くそんな事言えないのだ。だいたい、言えた筋でもない。雪だって働いているのだ。今も、進は一昨日からずっと休みだが、雪は昨日たっぷり仕事をしてきた。下手したら、反論されてかえって仕事が増えないとも限らない。

 「やっぱ、俺って尻にしかれてるのかなぁ?」

 進が鼻にシャボンを付けたまま、ちょいと首を傾げる。はい、進君、よくお分かりで。完全にしかれてます!

 「ま、いっか」

 進は、あっさりあきらめて、今度は鼻歌交じりに食器を洗い出した。結局、なんだかんだといっても幸せなのだ。

 二人分の朝食の食器などたいしたことはない。食器洗いはあっという間に終わった。進は「さぁて」とソファーに座って今朝の新聞を広げた。一面から順番に一通り目を通しても、雪は寝室から戻ってこない。

 「おっそいなぁ、何してんだ、あいつ?」

 進は、立ちあがって寝室に向かった。ドアを開けて中を見ると、雪はメークの済んだベッドの上で何やら雑誌を広げていた。

 「何やってんだ? 雪」

 「あら、古代くん。ね、ちょっと見て」

 雪が手招きをして進を呼んだ。

 「ん?」

 「この雑誌のインテリア、素敵でしょう?」

 雪は、インテリア雑誌を開いて見ていたようだ。

 「ふうん……」

 進もベッドの上にどっかと座り、雪に手渡された一冊を広げて眺めた。確かに、広い部屋にシンプルなインテリアが置かれた部屋は居心地がよさそうだ。

 「いいね」

 「でしょう? 古代くんの部屋もまだまだ殺風景よねぇ。もう少し家具でも入れたら?」

 「いいよ、俺の部屋は…… めったに使わないんだから」

 「こんなに広い部屋をだもの、ひとりで住むのはもったいないわねぇ」

 「ん……そうだけど……」

 ああ、じれったい。このあたりで進には雪の意図を感じ取って欲しいのだが、筋金入りの朴念仁くんは全く気付いてない。雪はさらに体を進に摺り寄せると、自分の持っている雑誌を進に見せた。
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(by めいしゃんさん)
 「ねえ…… このベッドもいいと思わな〜い?」

 「ん?」

 雪の示した雑誌のページにあったのは、キングサイズの広々としたベッド。二人が大の字で寝てもよさそうだ。すっきりしたフォルムのデザインはどんな部屋にも似合いそうだし、進の趣味にもあっている。進もそのページを覗きこんだ。

 「うん、いいね。ゆっくりできそうだ」

 「ねぇ……」

 雪がちらりと横目で進を見る。妙に色っぽい。

 「このベッドだと二人じゃ狭すぎなぁい?」

 「そうだなぁ、けど狭い方がさぁ、こうくっついて……」

 雪の熱い視線に答えるように、進が雪の肩を抱いて引き寄せる。雪がくすぐったそうに喉を鳴らした。

 「うぅんんっ…… でも、ゆっくり眠れないでしょう? それに今はそんなに暑くないけれど、夏になったら暑いわよ」

 「そう言われてみればそうだな」

 「ねえ、買ったらぁ? 大きなベッド」

 「けどさぁ、新しいベッド買ったって、めったに使わないんじゃもったいないし、雪、君が来て使うかい?」

 「えっ? 来てって……?」

 雪の顔がぱっと明るくなった。それって一緒に住むって言う事よね?と畳み込んで尋ねようかと意気込んだ。が、やっぱり進から言わせたい。もう少し誘導尋問をしてみようと思う。

 「俺がいないときもさ…… 使えばいいじゃないのかな、って思ってさぁ」

 「だけど……」

 雪が困った顔で進を覗き見る。

 「だけど?」

 「それじゃあ、私の部屋はいつ使うの? もったいないわ、ふた部屋借りてるの」

 「あっそうか、じゃあだめか」

 あっさりあきらめる進。がくん! 雪は思いっきりがっかりした。

 「あ、あのねぇ……」

 「あ〜ん?」

 進は全くわかっていない。とぼけた顔のこの男、殴ってやろうかと雪がムッとする。

 「んっ、もぉぉぉぉぉ!!」

 「???? 雪はどっちがいいんだよ?」

 雪の恐い顔のわけがわからず、進は情けない顔で尋ね返した。

 「私はぁ! 無駄な事したくないだけ!!」

 ぷいっと言い放って顔を背けた雪の言葉で、やっと何かを合点したようで、進は手を打った。

 「あ、そうか、二つ部屋借りるのもったいないんなら、一つ返せばいいんだよな。いいよ、雪。俺いないときここにいて」

 「古代君がいないとき……だけぇ?」

 雪が最後の駄目を押した。進の胸にしなだれ寄って手でその胸をなぞる。

 「あ…… い、いや……も、もちろん、俺が帰ったときも一緒にいて欲しいよ。ずっと、ここにいろよ」

 「古代くん……ええ、いいわ。うふん」

 作戦成功! 雪はにっこり。進に抱きついてキスをした。進も雪を抱きしめる。いい雰囲気だ。さっき起きたばっかりだけれど、ここまで迫られて男として黙っているわけにはいかない。

 「じゃあ、さっそくこのベッドの使い納めでも……」

 進が雪の胸元にそっと手をさし入れようとしたが……

 「だ〜めっ! 朝っぱらから!」

 済ました顔の雪に、ぱちんとその手をはたかれて、進は顔をしかめた。

 「いってぇ! そうあっちこっちペチペチ叩くなよ! だいたい、君がベッドの上でそんな下着のまんまでいるから俺だってその気に……だな……」

 雪はシルクのキャミソールとボクサータイプのパンツ姿。確かに見ようによっては下着に見える。

 「あらっ、これ下着じゃないわよ。へ・や・ぎ! ブラはつけてないけど、パンティだってはいてるし」

 ウエストのゴムをちょっとひっぱって自分の下着を覗いた。進も身を乗り出して覗きこんでくる。

 「んっ! もうっ!!」

 ペチッ! 進は、今度は額から鼻の頭をべったりと叩かれてしまった。

 「いってぇぇぇっ!! だから、叩くなって……」

 真っ赤な顔で唸る進の姿を見て、雪はくすくす笑ってベッドからすっと降りた。

 「と・に・か・く!! さ、出かけましょう。私着替えるから、古代くんはそのままでもいいわ。靴下だけは履いてね」

 「で、でかけるって、どこへ?」

 今、押し倒そうとしていたのに、今度は出かけると言われて進は慌てた。

 「もちろん、か・い・も・の! ベッド買うんでしょう? それに、こっちに住むのなら私も必要なものあるし。さあ、はやくっ!」

 すっかり乗り気になった雪を止められる者は誰もいない。進はしぶしぶ了解するしかなかった。

 「わかったよ、ちぇっ」

 こうして、雪の同棲計画は目的を達成した。

 その日、進は雪に引っ張られるように連れ回され、一日中買い物に付き合わされた。帰宅した進は、どんな訓練をした日よりも疲労困憊していた。その証拠に、その夜は狭いセミダブルのベッドの隣に愛する雪が眠っているのにもかかわらず、進は手を伸ばす間もなく睡魔に負けた。

 そして数日後、進の部屋に大きなベッドが届き、雪は自分の部屋を引き払った。

−お し ま い−

この作品は、めいしゃんさんの「「古代主義【コダイズム】」のオープン記念にお贈りした作品です。
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(背景:Angelic)