初 恋(宇宙戦艦ヤマトIII 第4話〜第9話より)

−第2章−

 (1)

 「なんじゃ、また減っとるな……」

 佐渡が医務室の薬を収納したロッカーを見てため息をついた。精神安定剤や睡眠薬系の薬がここのところ、毎日減っているのだ。チェックボックスを見ると、そのほとんどが女子乗組員たちが使っている。

 「あの…… 女子乗組員が最近少し精神不安定気味な子が多くて……」

 薬の棚を睨んでいる佐渡のわきから、京塚ミヤ子が声をかけた。

 「やっぱりそうじゃったのか…… あの白兵戦以来、どうも雰囲気が暗い気がしとったんじゃが、したが誰も診察には来んな」

 「はい、別に病気ってほどじゃないんですけど、ただ、どうしても落ちつかないみたいで……」

 ミヤ子自身もあまり調子がよくないのか、顔色が良いとは言えなかった。

 「う〜む、そりゃあほっとけば立派に病気になるじゃろう。雪も知っておるのか?」

 「はい、森さんも心配されてるんですけど、どうしたらいいか思案にくれてるみたいで……」

 「ふうっ、ヤマトは戦艦なんじゃからなぁ。戦闘があって当たり前なんじゃ。覚悟を決めるしかないんじゃがなぁ」

 「そうなんですが…… 私もそうですけど、乗艦が決まったときの話とあまりにも違うものですから」

 ミヤ子達がヤマトに乗ると決まったときの防衛軍からの説明では、『ヤマトは太陽系外のパトロールに出る。それにあたって、今まで欠員だった看護師を10数名採用する。経験は不要だが、長旅になるので、健康が第一条件。また、パトロールと言っても、敵がいるわけではないから、心配は要らない』と言われた。

 だから、今回の新人看護師達はみんな軽い気持ちでヤマトに乗った。当然、戦艦に乗るという覚悟などあったものではない。

 それが、出発当日から流れ弾が飛んでくるは、未確認戦艦だ、白兵戦だと、次から次へと大変な事態が押し寄せてきた。彼女達にすれば、ある意味『話が違う!』とパニック状態になりそうなのだ。
 口篭もるミヤ子の言葉がそれを端的に表していた。

 「正直言って…… 乗るんじゃなかったって…… そう思う気持ちも出来ているのも事実です」

 ミヤ子がすがるような視線で佐渡を見つめた。佐渡も困った顔でミヤ子を見返すが、ここは既に宇宙の海のど真ん中。泳いで帰るわけにもいかないのだ。頑張れと言うしかなかった。

 「なにかこうパァッと楽しいことでもやって気分を盛り上げて頑張るしかないのう、なあ、京塚君!」

 「……はい……」

 (2)

 同じ頃、生活班長の執務室では雪の仕事の雑用を、若菜と土門竜介が手伝っていた。惑星探索がいよいよ始まると言うことで、その準備が忙しくなってきたためだ。
 あっちこっちの資料を運んだり、各部署に問い合わせに走ったりと、竜介は元気よく張り切って働いていた。彼も数日前の白兵戦では初めて戦うということの恐ろしさを知った。そして、大切な先輩も目の前で失ってしまっていた。それでも、彼は元気がよかった。
 反対に、若菜の方は元気がない。一生懸命仕事に集中しようとするのだが、ふとあの戦いの光景が頭に浮かんでくると、「いや!」と叫びたくなってしまう。恐ろしかった、本当に恐ろしかったのだ。その場で戦っていた竜介や雪が、なぜこんなに平気な顔をしていられるのか分からなかった。

 部屋の片隅で資料整理をしながら、若菜が竜介に尋ねた。

 「ねえ、土門君…… あなたはあの白兵戦の時、恐くなかったの?」

 「え?…… そりゃあ、恐かったさ、すんごくね。俺、初めて人間を殺してしまったんだ。この手で…… ショックだった。班長に『これが戦いよ!』ってどやされてやっとはっとなったもんだ」

 竜介は持っていた資料を落とさないように抱えて、あいた方の自分の手をじっと見つめた。

 「なのに、どうしてそんなに元気なの?」

 「元気……ってことはないけど、これが現実だって、まじまじと知らされた気がした。これが戦艦なんだ、これがヤマトなんだって。戦いたいとは思わないけど、俺は戦艦に乗ってるんだって、そんな気持ちが自分の気持ちを引き締めるんだ」

 竜介は今度は視線を若菜に向けて、真剣な面持ちで言った。

 「そう……強いわね」

 私にはとても真似できない……若菜の顔がそう言っていた。

 「そんなことないよ、でも、俺は負けない」

 竜介がふと目をあげて見つめた先には雪がいた。じっと見つめる。若菜はその竜介の視線に彼のほのかな思いを感じた。自分が太助に持ったのと同じ思いなのか?……

 「土門君、生活班長のこと好きなの?」

 「えっ!? ええ〜っ! そ、そんなんじゃないよ! うわわわ……」

 あまりにもストレートな質問に竜介は書類を落としそうになって慌てて抱えなおした。

 「でも班長は……」

 艦長のフィアンセなのよ、と言おうとした若菜の言葉をさえぎるように、竜介は立ちあがった。

 「だから違うって! さ、この書類運ぶぞっ! ほらっ!」

 書類を持って隣の部屋に走り出す竜介の後姿を見ながら、若菜はくすっと笑ってから、また小さくため息をついた。

 (土門君って……森さんにあこがれてるのかぁ。そうよね、女の私だってあこがれちゃうくらいだもの。そばにいたら男の子ならきっと…… でも、とても相手にしてもらえるとは思えないけど、気持ちがそうなるのは止められないものね。
 でも……やっぱり、宇宙戦士訓練学校の卒業生の人たちって、戦艦に乗ることの意味を最初から理解している。それなのに、私達ときたら……)

 ここ数日の看護師仲間の口からはぼやきが思わず漏れてくる。若菜も喉のところまで出そうになっている。

 本当に恐かった、あの白兵戦。響く銃声、飛び散る鮮血、倒れた敵に仲間達のうめき声が、今も目から耳から離れない。悪夢にもうなされた。

 (私はどうしたらいいの!? 誰か私をしっかり支えてっ!)

 若菜の脳裏にまた、太助の優しい笑顔が浮かんできた。あれから、何度か食堂やサロンで太助を見かけた。太助は若菜を見つけると必ず「やあ」とニッコリ笑ってやさしい笑顔を向けてくれた。
 若菜にとって、今はその笑顔だけが心の安らぎだった。

 そして、土門の姿を呆然と見送る若菜の様子を、後ろから見ていたのは雪だった。近頃の女子クルーの落ちこみ具合には、雪もとても気になっていた。「もう少し自覚を持って!」と叱咤するのは簡単だが、それだけで彼女達の心が奮い立つとは思えない。怯えてしまっている。あの前向きだった若菜でさえあんな風なのだから。

 (何か少し心を和ませることをしてあげたいわね。何かないかしら? あ、そうだわ……今回の新人さんたちの歓迎会でもどうかしら?)

 その夜、一日の業務を追えた雪は、その相談に艦長室を訪れた。

 (3)

 艦長室で進は航海日記を書き終えて、一息ついた。

 「普通なら、ここで紅茶でも飲みに行こうかって思うんだがな……」

 進は平田を失ってから数日、紅茶を飲んでいない。あの日、長い訓練の後の平田の紅茶。あれが、彼のいれた最後の紅茶だった。今、ティーラウンジに行ったら、きっと「平田、いつものをいれてくれ」と言ってしまいそうで恐かった。呼んでも彼は戻ってこないのに…… 戦いのむなしさを感じてしまう。

 ふと視線を上げて窓から外を見た。外は星の海、いつも変わらない光景が目の前に広がっていた。

 その時、部屋のドアがノックされた。

 「艦長、森雪です。ちょっと相談があって、よろしいですか?」

 (雪だ……!)

 進の心が少しだけ踊った。艦長と生活班長として二人の関係を忘れて業務に当たろうと決めていた。けれど、心のどこかにいつも雪の存在を追い求めてしまう。いけない!と思う反面、この部屋にいるときだけ自分を多めに見てやろう、そう決めた。そうでもしないと、自分が制御できなくなりそうなのだ。

 だから……雪が来たことが嬉しかった。

 「ああ、どうぞ」

 カチャリと音がして艦長室のドアが開いた。雪は手にティーセットを持っていた。

 「仕事中? もし一段落着いたらお茶でもって思ったんだけど……」

 「ああ、ありがとう。今丁度終わったところだから、いれてくれるかい?」

 進が微笑んで雪にテーブルを示す。雪は頷いて、テーブルにカップをセットして暖かい紅茶をそそいだ。紅茶独特の甘い匂いが部屋に広がる。進は艦長室の空気も暖かくなるような気がした。

 「レモン、入れる?」 「ああ、頼む」

 さりげない一言、一言が、地球にいた頃の二人の生活を進に思い出させた。

 (雪……)

 紅茶の香りのほかに、雪の体から漂ってくる何とも言えない甘い香りが進の周りに広がって、進を誘惑する。進は雪に手を伸ばそうとする自分を、もう一人の自分が必死になって押さえていた。そんな進の思惑を知ってか知らずか、雪は紅茶を入れ終えて顔をあげてニッコリと微笑んだ。

 「古代君、どうぞ」

 コトリと置かれたティーカップの音とその香りが、進の上ずった心を現実に引き戻した。
 二人はテーブルに座って紅茶をすすった。「美味しいよ」と進が誉めると、雪は微笑んで「平田さんにはまだまだ届かないかもしれないけど……」と淋しそうに言った。進はその言葉に視線を落とした。

 (4)

 しばらく紅茶の雰囲気に浸っていたが、雪がほぉっとため息をつくと、口を開いた。

 「ね、古代君…… この前、第一艦橋に使いに行った岡島さんのこと、『かわいい』って言ったんですってね?」

 雪の突然のその言葉に、進は口に含んだ紅茶を吹き出しそうになった。

 「な、な…… そんなこと、誰が言ってた?」

 慌てる進に、雪はくすくすと笑いながら、「私にもいろいろと情報網があるのよ」と笑った。どうせアナライザーあたりが注進したに違いない。
 まさか今夜はそれを咎めに来たんじゃないんだろうな。と、進が雪の顔色をうかがうようにそっとその顔を見たが、雪は別に怒っている風はなかった。もちろん、自分だって邪な気持ちでいったわけではない。彼女の動向を危惧して出た言葉だったのだ。

 「あれは……」

 説明しようとした進の焦りを楽しんでるかのように、雪は笑いながら言った。

 「あら……いいのよ、気にしてないわ。かわいい子のことをかわいいって言っても別にねぇ。古代君でもそう言うこと言うのね」

 「だ、だから、あれはっ!」

 進がそこまで言ったとき、雪の顔が急に真顔になった。

 「わかってるわ…… 古代君がどんな意味でそう言ったのかは」

 えっ、となって進が雪の顔を見た。雪は寂しそうに微笑んだ。

 「私はなにも文句言いに来たんじゃないのよ…… それより、あなたがそんなことを漏らしたっていうことは、あなたも私と同じような心配をしているんじゃないかしらって思ったから。いえ、もう心配どころじゃないのかもしれないわ。女の子達、みんな相当参っているみたいなの」

 雪は真剣な面持ちになって進に訴えた。

 「やっぱりそうか…… あの白兵戦が原因……か」

 「それ以前から不安はあったみたいだけど、確かにあれは……目の前で起こったから」

 「出発前にもっとレクチャーしておくんだったな」

 進はちっと舌をかむと、考え込むように腕で顔を支えた。

 「ええ……あの子達の乗艦時の考えが、少し甘かったみたい。でも、もう後戻りできないことも事実だわ。だから、少しづつ彼女達の気持ちを前向きにしたいの。それで……考えたんだけど、新乗組員達の歓迎パーティを開くのはどうかしら? まだしてなかったでしょう?」

 「歓迎会か……」

 「いろんな人と話もできるし、旧乗組員達から心構えを聞かせてもらういい機会になるとも思うのよ。それにパーティっていうイベントで、みんなの気持ちも少しは明るくなるんじゃないかって思って……」

 生活班長は、常に艦内のあらゆることに気を配らなければならない。体の健康も大事だが、狭い艦内では、心の健康を保つことも大切なことだ。雪は、その雑多なことすべてを隈なくチェックし、綻びを見つけてはその対処法を提案してくる。
 進は艦長として、雪の生活班長としての配慮に感謝した。そして進個人としても、雪のそんな様子がとても誇らしいかった。

 「そうだな、よしっ! いいだろう。早々に計画してくれ。それで彼女達の気持ちが上向きになるのならありがたいことだ」

 「ありがとう! 古代君!!」

 進のGOサインに雪の顔も明るくなった。笑顔がまぶしい。そんな顔を見せられると、進はふっと手を伸ばして抱き寄せてしまいそうになる。その衝動を隠し押さえるために、進は敢えて苦言を言った。

 「それでもだめだったら…… 簡単に気持ちを切り替えてくれるだろうか。彼女達の不安が艦内に広がれば、艦全体の雰囲気を沈滞させてしまうかもしれない。そんなことになったら大変だぞ」

 「ええ、でもとにかくやってみましょう! スケジュールを調整して2、3日中になんとかするわ」

 「はりきってるな、雪」

 「もちろんよ、『かわいい』私の部下たちなんですからねっ」

 雪が「かわいい」の部分をわざと強調して言うと、おかしそうにウインクして、艦長室を出ていった。進も苦笑しながら、雪を見送った。

 その後一人になった艦長室で、進は一人考えていた。

 彼女達の気持ちがそれで上向きになってくれればいいんだが。雪は楽観的だが、そう簡単にいかないかもしれない。その時はどうすればいいんだろう。
 今はただ、しばらく戦闘がないことを祈るしかないのかもしれない……

 (5)

 ここ数日、太助の中で何度もフラッシュバックする光景があった。あの若菜の笑顔と、そして警報に怯えた姿が交互に蘇ってくるのだ。気を緩めるとすぐに彼女の顔が浮かんできてしまう。
 あれから、食堂などで何度か会った。若菜は、太助の顔を見ると、にこっと笑ってぺこりと頭を下げた。太助も慌てて挨拶を返す。ただそれだけのことだった。

 (あの子、白兵戦の時は大丈夫だったかなぁ……)

 そんなことを考えていると、太助の作業する手が一瞬止まる。すると、すかさず山崎の叱咤が飛んだ。

 「こらっ! 徳川っ!」

 「は、はいっ! すみませんっ!!」

 慌てて誤ってわたわたする太助に、山崎が大笑いした。

 「あははは…… 何を謝っとる! 何かへましたのか?」

 「あ……山ア機関長! もう、びっくりするじゃないですか!」

 「なんとなく考え込んでるようだったんでな。どうした? 太助」

 太助は考えていたことを思い出すと、思わず顔が赤らんでしまった。任務中に女のことを考えてたなんて言えるわけがない。ところが、そんなことは山崎にはとうにお見通しだった。

 「ふぅ〜ん…… 徳川、お前、好きな子でもできたな」

 「えっ!? ええっ! なんでそんな……! ち、違いますよ!!」

 まるで心の中を見透かされたような山アの発言に、太助は慌てふためいた。それが顔にあっさりとでていて、山崎をまた面白がらせた。

 「いいじゃないか、好きな子ができたくらい。お前も年頃なんだから、今回は女の子も乗ってるからなぁ。ところで、お前は初恋はいつだったんだ?」

 「は、初恋ですかぁ……? うーん…… なんか恋だって言えるほどのものは…… あこがれたって感じだけで……」

 太助はうーんと考えてみたが、今まであまり女っけのない暮らしをしていた自分には、本気で女性に惚れたという記憶がなかった。

 「お前も雪さんには憧れた方か?」

 「えっ!? 雪さんですかっ! と、とんでもないっ!! 雪さんなんか僕にはとてもとても…… それに艦長のフィアンセじゃないですかぁ!」

 びっくりしたように山崎の方をみた太助は、ぶるんぶるんと顔を大きく振って否定した。

 「ほんとかぁ? あんな綺麗な人と付き合ってみたいとかって思わなかったのか?」

 山崎が太助の顔を見てにやりと笑った。

 「い、いやあ…… そりゃあ、初めてヤマトに乗った時に雪さんを見たときはぼーっとなりましたよ。きれいな人だなあって思って……
 でも、全然雲の上の人って感じで…… だって雪さんってなんでもできるじゃないですか。第一艦橋に行けばレーダーをこなすし、医務室では看護師、その上生活班長としてヤマトの中を取り仕切ってて。とても、僕じゃあつりあわないし、だいたい雪さんの前にいたら、かえって緊張しちゃって駄目ですよ.。
 そりゃあ、艦長なら雪さんと対等に渡り合って、その上で二人で安らげるんでしょうけど……
 僕が付き合うとしたら、もっとこう……おとなしい感じで、美人じゃなくてもいいし、別にバリバリと仕事をこなせなくてもいいから、笑顔がかわいくて……」

 そう言いながら、頭の中に現れてくる自分の理想の彼女の姿が、なぜかだんだん若菜の姿と重なってくる。

 「ふうん……あの、若菜って子みたいな人がいいんだ?」

 「えっ!? ええっ! ち、ちがいますって」

 否定する太助の顔には、山崎が見るに、その通りだと書いているようなものだった。

 「お前……嘘が下手だな、ははは」

 「機関長! もうっ……」

 ぷっと膨れる太助の態度を笑いながら、山崎は遠い昔を思い起こすように懐かしい目をした。

 「あははは…… お前の親父さんもあれで結構若い頃はもてたんだぞ。お前だってがんばれば……」

 「親父がもてたって!? まさかぁ、あの顔で?」

 「何言ってる! 男ってのは、ここで勝負するもんだ! 太助!! 親父さんは男にも女にももてたイイ男だったよ」

 山崎がバンと自分の胸をこぶしで叩いて見せた。

 「イイおとこかぁ…… 死んだ母さんもそう言ってたっけな。あーあ……まだまだ親父には追いつけないのかなぁ」

 「あっはっはっは…… そうでもないと俺は思うぞ」

 山崎は、若い太助と若菜の恋に進展があるようにと、心の中で願っていた。

 (6)

 数日が過ぎ、雪の発案によるヤマトの新人歓迎パーティが開かれることになった。新人は全員参加、また他の乗組員も時間内に一度は顔を出せるようにローテーションを組むよう、各班長に指示がまわった。

 そして当日、若菜達新人女性達も、久々の明るいイベントに心を浮きたたせていた。できるだけ多くのクルー達と会話をして、いろいろな話を聞かせてもらうようにという、生活班長の指示を大喜びで受けた。

 若菜も今まで沈滞していた心が少し軽くなったような気がする。大勢の乗組員達が集うパーティ、若菜は太助のことを思った。

 (徳川さんは、来るかしら…… もう一度、ゆっくりお話をしてみたい。そして、これからのこと、頑張れるように勇気を貰いたい……)

 彼女達が、パーティ会場に行くと、すでに多くのクルーが集まっていた。女性陣の到着に会場が沸く。早速女性達は、人の輪の中に入っていった。
 若菜は、みんなと少し離れて、太助の姿を探して一人きょろきょろとしていた。その姿に、雪が目を止めて尋ねた。

 「岡島さん? 誰か探しているの? 紹介して欲しい人がいるのなら、探してあげるわよ」

 「あ…… い、いえ……」

 雪の問いに慌てて否定したが、顔がかぁっとなってくるのがわかった。

 (恥ずかしい…… 徳川さんを探しているなんて言えない……)

 真っ赤になる若菜の初々しさに、雪にも笑みが漏れる。黙って見ていると、若菜は今恥ずかしそうにうつむいていた顔を、またチラッと上げると、目だけで会場内を探っている。
 雪がもう一度声をかけようとしたとき、若菜の目がぱっと華やいだ。その視線の先にあるのは、機関室のクルー達だった。

 (機関班? あ…… そう言えば、この前第一艦橋に行ったとき、徳川君に案内してもらったって言ってたわね。それで……)

 雪はにこりと笑うと、若菜の手を取った。

 「岡島さん、この前徳川君にお世話になったんでしょう? ちゃんとお礼いわなくちゃね」

 「あっ…… あの、は……はい」

 消え入りそうな声で返事した若菜は、雪に連れられて太助達の方へと歩いた。

 「徳川君っ!」

 雪の声に振り返った太助は、その後ろに小さくなっている若菜の姿をすぐに見つけて、「あっ」というように口を開けた。

 「岡島さんがあなたにお礼が言いたいって」

 雪に後ろからひっぱりだされた若菜の姿に、太助はおおいに照れて真っ赤な顔で頭をかいた。

 「えっ!? い、いや……その……」

 「うふふ…… 私はちょっとまだ用事があるから、彼女のエスコートよろしくねっ、じゃあ、岡島さん、楽しんでちょうだいね」

 雪は、若菜を早々に太助に預けると、あっという間に立ち去ってしまった。

 (7)

 ぽつんと置かれた若菜は、何から話せばいいのかわからず、言葉を詰まらせた。

 「あ、あの……」

 「や、やあ、元気そうだね」

 太助も言葉を詰まらせながらも、笑顔を若菜に向けた。その笑顔が……若菜がいつも見たかった、あの笑顔なのだ。若菜の心がふわりと和らいだ。

 「は、はい…… この間は、本当にありがとうございました」

 大げさに腰を深く曲げて頭を下げる若菜の姿に、太助は両手を大きく振った。

 「い、いやぁ、あんなことたいしたことじゃないよ。それより、この前の白兵戦は大変だったね。大丈夫だった?」

 「私はなんとも…… でも、恐かったです…… とても……」

 「そうだよね、初めてヤマトに乗っていきなりだもんなぁ」

 「あれから変な夢を見たり、寝つけなかったり……みんなちょっと参っちゃって」

 「そうだよなぁ……」

 太助が同情するようにうんうんと頷く。太助は、こんなかわいい女の子にあの白兵戦は辛いよな、と心底思った。新人の男どもがこんなことを言おうものなら、バチンと背中を叩いて「ばかやろう! しっかりしろ」と叫ぶところだが、若菜達女性が言うと、同情したい気持ちになる。

 「でも、土門君達はもっと大変なところで戦ったのに、すぐに元気になって……すごいです」

 「あはは…… 宇宙戦士訓練学校から来てる奴は、みんな心臓に毛が生えてるから。あいつらと一緒にされたって困るよね。ま、俺も毛が生えてるうちだけど」

 「はぁ…… やっぱり、私達、覚悟が違うんですね」

 ため息をつき、泣き出しそうになった若菜の顔を見て、太助は慌てた。

 「うわわわ…… だから、ああいう奴と一緒にすることないって……」

 焦る太助の姿が面白くて、若菜は今にも泣き出しそうだった顔を今度はほころばせた。

 「うふふ……」

 「ほら、やっぱり笑っている方がいいよ、女の子は」

 若菜がこくんと頷く。太助がさらに何か言葉をかけようとしたその時、遠巻きで見ていた機関室の他のメンバー達が声をかけてきた。

 「徳川さん! 抜けがけずるいですよ!! 紹介してくださいよぉ!」

 「べ、別に俺は独り占めなんかしてないよぉ! こちらは岡島若菜さん……」

 それから、我も我もと自己紹介をする機関班の面々に囲まれて、若菜は久しぶりに明るい気分になってパーティを楽しんだ。太助をはじめとするみんなのあったかい心遣いを感じながら。
 ただ、話をするにしたがって見えてくる彼らの宇宙戦士としての姿を見ると、自分とは歴然とした差があることを否定することはできなかった。

 (今の私じゃあ、徳川さんとレベルが違いすぎる。どうしたら、みんなのようになれるんだろう……)

 太助は少しばかり不満だった。もう少し、若菜と二人で話してみたかった。だが、若いメンバー達と楽しそうに話す若菜を見ていると、これでいいのかなぁという諦めにも似た心境になる。

 (俺ってやっぱり、引き立て役の方が似合ってるのかもな……)

 同じヤマトで働いていると言っても、遠く離れた職場にいる二人にとって、その思いを伝え合うことはなかなかむずかしいことだった。

 (8)

 一方、パーティを企画した雪は、一通り会場を巡って挨拶を済ませた後、隅の方で一息ついていた。この和気藹々の雰囲気に満足していた。

 (これで、女の子達も少しは気持ちがほぐれてこれからもがんばってくれるといいのだけど……)

 持っていたコップのウーロン茶を一口飲むと、ほっと安堵の息を吐いた。その時、ぽんと肩を叩く者があった。

 「ご苦労さん!」

 「あら……古代く……艦長……」

 笑顔の進に、雪は一瞬今の立場を忘れそうになった。時々ふっとそうなることがある。今日の進はそう錯覚させるような笑顔を見せていた。

 「ちょっと打ち合わせが長引いて今来たんだが、盛況だね」

 「ええ、よかったわ。女の子達も楽しそうだし……」

 「ああ……」

 「例のかわいい彼女もいるわよ。でも、彼女のお目当ては太助君みたいだけど……」

 ちらりと流し目で進の顔を見ると、進はうれしそうに笑っていた。もちろん、これでもし悔しそうな顔でもされたら、雪も心穏やかではいられなかっただろう。心配していたわけではないけれど、進のそんな表情になんとなく安心してしまう自分がおかしかった。

 「そうか、太助か…… なかなかいいところ見てるじゃないか、彼女は……」

 「あらっ、残念じゃなかったの?」

 「馬鹿なことを言うな」

 わざとらしく憎まれ口をたたく雪に、進はコツンと軽く拳固を浴びせた。そして二人で顔を見合わせて笑う。進とこうして笑顔をかわすのも久しぶりだ。パーティの雰囲気が、進の心を少しでも和やかにしたのかと思うと、別の意味で雪も嬉しかった。

 パーティは盛況に終わった。これで女性乗組員達の気持ちが少しでも前向きになることを雪は祈らずに入られなかった。

 (9)

 パーティが終わって数日後、ヤマトはケンタウルス座のアルファ星第4惑星からのSOSを受けた。急遽、その惑星に向かうことになったヤマトに再び緊張が高まった。
 一旦は収まったかに見えた女性クルー達の不安が再びここに来て浮上してきたようだった。医務室でミヤ子が佐渡に尋ねた。

 「先生、ヤマトはまた戦いにまきこまれるんでしょうか?」

 「んー、不安かのう?」

 「はい…… やっぱり、私達って戦艦に乗るのを間違ってたような気がしてきて……みんないろいろと……」

 口ごもるミヤ子のその後の言いたいことは、佐渡にはよくわかっていた。

 (長官は、.なんでこんな娘達をヤマトに乗せたんじゃい? そんなに危険はないと楽観しすぎとったのかのう?)

 確かに最初の戦闘が早すぎた。白兵戦が追い討ちをかけた。心を紛らすようにと開いたパーティの後、まわりに明るい雰囲気が戻ったと安心していた矢先の再び戦闘の予感に、女子クルー達はせっかく取り戻していた心の平静を十分に確保する間もなく、再び不安が湧き上がってきてしまったのだ。

 (もう少し、あともう少しだけ……時間が欲しい。彼女らにはまだ実戦は早過ぎるんじゃ。アルファ星では何もないことを祈っとるぞっ)

 佐渡は、視線を落とすミヤ子の背中を見ながら、どうすることもできない自分が腹立たしかった。

 (10)

 佐渡の願いもむなしく事はどんどんと重大な方向へ動き出していた。
 ケンタウルス座アルファ星第4惑星に着き、ヤマトのクルー達ほとんどが偵察をかねた上陸をしている間に、一旦は引いたという謎の敵の攻撃が始まった。留守番役の真田副長の指示の元、生活班や飛行科の新人まで動員して、やっとのことでミサイル攻撃に耐え、古代艦長以下の帰着を無事に迎えた。
 ミサイル攻撃は予想したほど執拗ではなく、艦長らの帰着後まもなくやんだ。しかし、ヤマトは、ミサイルの発射元方向でもあり、最初の探査対象惑星のあるバーナード星へと向かうことになった。

 「ヤマト、バーナード星に向けて発進!」

 進はそう命令して、ふとレーダー席を見た。いつも雪が座っているレーダー席に太田が座っている。そう言えば、さっきの敵のミサイルの発信源も太田が探っていた。

 「雪はどうした? 彼女は、上陸してなかったはずだな。どうしてここに来ていない?」

 皆が顔を見合わせた。誰も気づいていなかった。急な戦闘で、進をはじめ誰もが自分の作業をするのが精一杯だった。

 「それが……」太田が帰着するまで代わりにレーダーを操作していた坂東が口を開いた。「あの……生活班長は、医務室の方が手を離せなくて……それで僕が代理で……」

 「ん? 怪我人がそんなに大勢出たのか?」

 そんな報告はここには上がってきていない。それについては、坂東にもわからなかった。

 「さあ……? ただ、生活班長にそう頼まれて」

 進は首を傾げた。

 「わかった、まあいい。坂東は自分の部署に戻っていいぞ」

 「はいっ!」

 (11)

 ヤマトはバーナード星に向かって飛び立って数時間が経ち、第一艦橋も落ちつきを取り戻したことを確認すると、進は医務室へ向かった。
 進が医務室に入ると、佐渡と雪、そしてアナライザーが一息着いているところだった。進の見たところ、周囲に怪我人の姿はなかったが、2人とも疲れきった顔をしている。

 「佐渡先生、怪我人が大勢出たんですか? 特に第一艦橋に報告は来ていないし、どうしたって言うんですか?」

 「あ……艦長……」 進の姿を確認して、雪が驚いて佐渡の方を見なおした。

 「ん? ああ、すまん、すまん…… 艦長自ら確認に来てもらうとは……申し訳ない。いやぁ、そのなんだ……怪我人はおらんのじゃがの……ちょっと疲れが出たものが多くてなぁ」

 佐渡が言いにくそうに言葉を選びながら、とぎれとぎれに話した。ちらちらと雪の方にめくばせをしている。雪も視線が進にまっすぐ向いてこない。

 「疲れ? 誰がですか?」

 進の質問に、佐渡と雪が顔を見合わせて困ったような顔をした。

 「いったいどうしたって言うんですか? 雪!君も第一艦橋に来れないほどのことがあったって言うのか?」

 進の語調が激しくなった。はっきりとしない二人への苛立ちが現れている。その姿に佐渡は観念したように、雪の方を見てから、ボソッと話し始めた。

 「……実はのう…… 看護師達がな、突然のミサイル攻撃を受けて、ちょっと気が動転してしもうてなぁ。攻撃と同時にいきなり数人が倒れてしもうたんじゃ。他の者もほとんどが看護するより自分の震えを押さえるのが精一杯の状態で…… それで、わしと雪とアナライザーがそれにかかりっきりになってしもうたんじゃ。雪はさぼっていたわけじゃないぞ」

 雪も何とかフォローしようと言葉を捜して進に訴えた。

 「上陸許可も出て、ちょっと気を緩めてしまってたのが原因だと思うわ。でももう、みんな落ち着いたし、今度からは気持ちを引き締めてるから、もうそんなことないと思うのよ……だから大丈夫よ」

 二人の訴えに、進は黙ったまましばらく表情を変えなかった。3人の不思議な沈黙があった後、結局、進はそれ以上何も尋ねることはしなかった。

 「……わかりました。後のこと、よろしく頼みます」

 進はそれだけを言うと医務室を後にして廊下に出た。それを、雪が慌てて追いかけてきた。

 「古代君!」

 歩き出した進の歩みが止まり、後ろを振り返った。 「どうした?」

 「……ごめんなさい……彼女達をうまく盛り立ててあげられなくて……」

 「いや、仕方がないさ。君の責任じゃない。もう、今日はゆっくり休んだ方がいい、お疲れ様」

 進は、うなだれる雪にやさしく声をかけると、かすかに微笑んでそのまま立ち去っていった。

 「古代君……」

 進の後姿を見送りながら、雪は複雑な心境だった。

 (12)

 女性クルー達は、ほとんどがもう落ち着いていた。しかし、ミサイル攻撃の時、何とか体を動かして他の看護師達の世話ができたのは、京塚ミヤ子と岡島若菜の二人だけだった。しかし、その二人でさえ、自分を叱咤激励して何とか体を動かすのがやっとという状態で、戦闘が終わりヤマトが発進すると、二人にも、どっと疲れが出た。

 「岡島さん、大丈夫?」

 「はい……なんとか…… でも、まだなんだか体が震えてるみたいで……」

 若菜は自分の体の震えを押さえるように、両手で自分の体を抱きしめた。声がまだうわずっている。自分の体が自分の者でないかのように不思議な痺れを感じていた。

 「わたしもよ…… あの白兵戦のことが思い出されちゃって……」

 「わたしも…… ミサイルが当たったわけでもないのに、すごく動揺しちゃって……」

 「私達、これからどうなるのかしら?」

 ミヤ子の不安な問いに、若菜は大きくかぶりを振ってうめくように言葉を搾り出した。

 「だめっ! こんなんじゃ、私だめですよね! ああ、こんなことになるなら、もっと、もっと……勉強しておけばよかった。もっと経験が欲しかったです……」

 思わず涙がでてくる。悲しいのか、恐いのか、悔しいのか……? 若菜は、その涙の意味を、自分自身でもわからなかった。

 (13)

 そして、女子クルー達の運命を決める事件が数日後に起こった。バーナード星第一惑星に着いたヤマトは、その星に移住をしようとしていた家族をみつけた。
 彼らを救助した矢先、ヤマトはこのバーナード星で敵の反射衛星砲らしき攻撃を受けた。しかし、右往左往しながらも、進達の必死の捜索が功を奏して、敵基地を波動砲で破壊することに成功した。

 一方、助け出した家族3人のうち、父親とその息子は星の風土病にやられ、佐渡の必死の治療の甲斐もなく、帰らぬ人となってしまった。ただ一人、その息子の妻、山上トモ子だけが残された。さらに、彼女は妊娠していることがわかった。

 その報告に第一艦橋に駆け込んできた雪がふと言葉を漏らした。

 「なんとかトモ子さんを地球へ返す方法はないのかしら?」

 その言葉に、進ははたと気がついた。そうか、今ならまだ地球の支配圏内だ。連絡すれば、パトロールの駆逐艦か警備隊が近くにいるはずだ。彼女を地球に送り届けてくれるかもしれない、それに……

 「そうだ! 女子乗組員を地球へ送還しよう」

 進のその言葉に、雪は驚いてすぐに反論した。

 「私は嫌よ!」

 しかし、進はその言葉が聞こえなかったかのように、第一艦橋のメンバーに向かって説明を続けた。星間戦争に巻き込まれた今、女子乗組員をこれ以上危険にさらすわけにはいかない、というのが理由だった。

 「古代君!! 私はイヤ!!」

 再び、雪が抗議した。しかし、雪の叫びを進はまるで意に介しない。島が雪に助成しようと口を開きかけたとき、進はまた言葉を続けた。

 「相原、ケンタウルス座アルファ星区域の警備隊および、地球防衛軍にこの旨を報告して、即刻対応してもらうよう依頼してくれ」

 「古代君!!」

 その声に初めて進はちらりを雪の顔を見たが、何も言わずに残りの指示を進めた。

 「ちょっと、艦長室に戻っている。相原、連絡がついたら、報告してくれ。それから……用のある者は、こっちに来るように伝えてくれ」

 それだけを言うと、進は表情を変えず、また雪の方も見ようともせず、くるりと振り返ると、第一艦橋から出ていってしまった。そのあまりにも毅然とした態度に周囲の者も何も言えずに、進を見送るしかなかった。

 (14)

 進が第一艦橋を出ていってしまった後、雪が今にも泣き出しそうな顔をしてポツリと言った。

 「古代君……ひどい……」

 第一艦橋の皆が雪の顔を見た。誰も何も言うことができない。
 その時、それまで黙っていた島がため息をついて雪の肩を叩いた。

 「ふうっ…… あいつめ。雪、艦長に用があるんなら、艦長室に行って来い」

 「えっ?」

 「今、艦長がそう言ってたじゃないか」

 「あぁ……」

 「古代だって、君が「はいそうですか」って降りるとは思ってないさ。あいつのことだ、人前で雪だけは帰さないなんて言えないんだろう? わかるだろ、あいつの性格…… ほら、行ってきちんと話しつけて来いよ」

 「島くん……」

 「確かにそうだ!」 「そうそう、間違いないですよ、雪さん!」

 やっと他のメンバーも元気になって雪を後押しした。その励ましに、雪の顔に少し明るさが戻った。

 「そうね、他の女子乗組員だって、勝手に帰されたくない人だっているかもしれないわ、行って話してくるわ」

 雪が気を取り直して、進の後を追うように第一艦橋から駆け出て行くと、島がもう一度大きくため息をついた。

 「ふうーっ! またあいつらの喧嘩に巻き込まれるかと思ったよ」

 「あっははは……」 どっと笑いが広がる。

 「でも雪さん、本当に降ろされたりしないんでしょうね?」

 相原が心配そうに言うと、島がにやっと笑って答えた。

 「まさか……雪は他の女子クルーとは違うぞ。どんなことがあったって、ヤマトを降りるもんか。ま、艦長室で謝るはめになるのは、きっと艦長の方さ」

 「あははは…… しかし、艦長も突然思いついたように言い出すから……」

 南部が困ったように両手を軽く上げて苦笑した。いつものことだ、とでもいいたげに。だが、真田が腕組みしつつ、こう言った。

 「いや、艦長は前々からそのことは考えていたようだ。女子乗組員達の間に不安が広がっているっていうのは、もう随分前から話がでていたからな」

 「ああ…… 俺も、彼女達は地球へ帰してやった方がいいような気がする」

 真田と島は、進からこの前のケンタウルス座アルファ星の事件のことも聞いていた。進が女子乗組員達の今後を憂慮していたことは、十分に知っていたのだ。山上トモ子の件は、進に最後の決断する良い機会を与えたに過ぎなかった。

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