星のペンダント(『ヤマトよ永遠に』より)

−第2章 ふたたび−(その2)

 (25)

 ところが、少女に連れて行かれた先にいる人々を見て、南部は自分の目を疑った。

 「あっ!」

 そこに立っていたのは、揚羽、南部、古代の3夫婦だった。星羅にひっぱられてやってきた南部に、進はにっと笑ってウインクした。

 (ま、まいったな、あのバルコニーの再会は、古代さんたちの画策だったのか。ということは、目の前にいる俺のオヤジとお袋は別にすると…… 揚羽!?)

 南部はさらにくらくらする頭をなんとか整理して、星羅に向かった。

 「き、君は…… 揚羽の……?」

 星羅はちょっと罰が悪そうな顔で南部の顔を見て、そして雪の顔を見た。雪がニッコリ笑ってうなづくと、安心したように南部に向かって自己紹介した。

 「私、揚羽星羅です。揚羽武は私のお兄様です」

 「!?◎△×!」

 南部は息を飲み、口をぽかんと開けたまま、しばらく微動たりしなかった。じっとその少女を見つめ、ゆっくりと目線を揚羽夫婦へと移した。
 目が会うと、揚羽蝶人が口を開いた。

 「康雄君、事情は古代さんから伺いました。君が星羅の命の恩人だったなんて…… 縁というものは不思議なものですね。娘を助けてくれて本当にありがとうございました」

 「南部さん、娘を救って下さってありがとうございます。この子はずっとあなたにお会いしたいって口癖のように言ってたんですよ」

 揚羽の両親に頭を下げられて、南部はやっと開いた口を閉じて頭を下げ、答えた。

 「い、いえ…… 当然のことをしたまでで……」

 まだ、この状況が信じられないというのが、南部の正直なところだ。

 「よかったなぁ、南部。3年間探しつづけた心の君に会えて」

 進が嬉しそうに、いや可笑しそうに笑いながら言う。

 「ば、馬鹿なことを言わないでください。古代さん! 揚羽さんが誤解されるじゃないですか!!」

 「何を誤解だ?」 とほけた顔で進は答える。

 「だから……」 南部は答えられない。

 「星羅さんもずっと会いたくて探してたんですって。よかったわね、南部さん!」

 「違いますって!」 更に焦る南部。

 「康雄、お前が揚羽さんのお嬢さんとなぁ…… いやあ、揚羽さんとの共同プロジェクトの成功パーティで、お前達二人が再会を果たせるとは、父さんはうれしいよ。お前が、どんな素晴らしい女性を紹介しようと言っても、全然首を縦に振らないわけだ」

 「あのペンダント、どこかで見たと思っていたら、揚羽のお祖母様の物だったんですってねえ。どうりで昔に見たはずだわ。でも、よかったわね、康雄。こんな可愛いお嬢さんが見つかって…… 本当にご縁ってどこにあるかわからないわねぇ」

 南部の両親は、すっかり上機嫌になっている。誰も南部の否定する言葉を聞いていない。星羅は南部の隣でて嬉しそうに頬を染めている。

 「みんな、何を誤解してるんですか! 僕はただ彼女を助けただけで…… 何もそれ以上は……」

 その南部のいいわけに星羅が急に顔色を変えた。

 「南部さんは、星羅のことお嫌いなんですか?」

 星羅に涙目で見つめられては、南部もはたと困ってしまう。

 「ち、違うよ。嫌いだなんて……」

 「好きだよな!」 進が代わりに答える。

 「いや、だから……その…… そういうことじゃなくて……彼女はまだ子どもなんだから」

 南部の顔が真っ赤になった。その顔に雪がくすくすと笑う。

 「南部さんがそんな顔するのを初めてみたわ。いいじゃないの、少しくらい若い方でも……ねぇ、星羅さん」

 「はい…… 私、これから一生懸命色々勉強して、南部さんにふさわしい女性になりたいです」

 「ほほう、それは頼もしいですな」

 南部の父がうれしそうに微笑む。

 「父さん!馬鹿なことを言うなよ。揚羽さんに失礼だよ」

 「この娘がまだまだ子供だと言うことは十分承知しておりますわ、康雄さん。とてもあなたのお相手になんて……」

 星羅の母が微笑みながら星羅を見る。やっとまともな返答が貰えたと南部がホッとした時、彼女は南部の母に向かって言葉を続けた。

 「これからいろいろと勉強させないと、とても南部さんのお相手にはなれませんものね。学校のお休みの時にでも、南部のお宅に行儀見習に預かってもらえませんでしょうか?」

 南部の口がまた大きく開いたまま固まった。進と雪は堪えきれずにくすくすと笑い出す。さらに、南部の母も嬉しそうに答えた。

 「まあ、うれしいわ。私、息子が一人でしょう? ですから、娘を持つことに憧れてたんですのよ。いつでもいらっしゃいな、星羅さん。お待ちしてますわ」

 「はい……」 星羅はとても嬉しそうだ。

 「母さん!」

 焦る南部以外の人々の心はまさに一つになっていた。みんな、すっかり二人をカップルとして認めたようだ。
 そして、その姿を見ていると、南部もだんだんそれでいいのかもしれないと思えてくるのだった。

 (揚羽星羅……か。まさか、あの子が揚羽の娘だったなんて。俺が一番嫌ってた世界の人間じゃあないか。
 けど……それは、俺自身も彼女のバックグラウンドを気にしているってことなんじゃないか?
 そうだ。人をその人自身で評価しようとしてないのは俺の方だ…… 彼女はあの時のまっすぐな視線を俺に向けてくれたあの少女なのだから。俺が惹かれたあのまっすぐな輝く瞳。
 彼女は確かにまだ若い。俺が彼女にふさわしい男かどうかはわからないけど、確かに、俺は彼女に惹かれている。これだけは事実なんだ。自分の気持ちに素直になってみるのもいいかもしれない。
 今はまだ、先のことはわからない。でも、彼女の成長を見守っていくのもいいんじゃないか。
 何年でも待つさ。彼女が大人の女性になる日を。そしていつか、彼女が大人になった時、自分の方を向いていてくれたなら、それは俺にとって一番幸せなことなんじゃないか……)

 南部康雄、24歳。この日、彼はただの人と人として心の底から愛せる人を見つけた。
 揚羽星羅、15歳。この日、彼女はずっと思いつづけていた星のペンダントの王子様に再会する事ができた。

 彼らの恋は今始まったばかりだ。そしてそれは前途多難なものなのかもしれないが、二人なら乗り越えられるに違いない。

 (26)

 南部の顔が穏やかになって星羅を見つめ始めたことに、進と雪は気付き、二人で頷きあった。パーティもそろそろお開きに近くなった。

 「南部さん、揚羽さん。私たちはそろそろお暇(いとま)いたします」

 進が皆に声をかけた。南部は星羅と思い出話に花を咲かせているようだ。進たちの暇乞いの声に、照れたように二人で頭を下げた。
 それぞれに別れの挨拶をすると二人はパーティ会場を出た。帰りの車の中では、今日の話題で盛り上がり、間もなく、二人の乗った車は自宅マンションの駐車場に滑り込んだ。

 「よかったわね、南部さんも星羅さんも……」

 「うん、ちょっと年の差はあるけど、星羅さん、若いのにしっかりしてるみたいだから、ちゃんとやってくさ。ご両親も認めてくださってるみたいだし」

 「ふふふ…… 南部さん本人より周りの方が乗り気になってたわね。話が早いんだもの。今日再会したばかりだって言うのに……」

 「確かにね。南部も苦労しそうだな。ま、惚れた弱みだ。なんとかするさ。それより、雪、『女のカン』ってのは当たるもんだなぁ」

 進が感心したように言う。雪も得意そうに顔をツンとあげて笑う。

 「うふふふ、そうでしょう? すごいでしょ」

 「ああ、驚いた…… ところで、そのよく当たる『女のカン』で僕が今何しようと思っているかわかるかい?」

 「愛する奥様にあっつーいキスをしたいんでしょう?」

 「あ・た・りっ!」

 誰もいない夜の駐車場の車の中で、進は雪を抱きしめて熱いキスをした。そのキスがいつまで続いたのかは、誰も知らない。


 (余談その1)

 あっという間に年の差9歳を乗り越え、中学生と付き合う事になってしまった南部君。確かに、彼もそれなりに苦労は耐えないようだ。
 さっそくデートに誘い連れて行った先は、当然中学生らしく遊園地。遊具にきゃっきゃと喜ぶ星羅に苦笑しながら、当分保護者気分でやっていくかぁと、あきらめ顔だ。けれどなぜか嬉しくてたまらない。
 そして、『お兄様の事をヤマトの方々からもっといろいろ聞いてみたい』とせがむ星羅の申し出を断わりきれずに、10月のヤマト水没の慰霊会に連れて行くことになり、当日、進や相原を始めとするいつもの連中から、大いにからかわれ、冷やかされたのだった。
 ちなみに、あの手の早い!?と噂の南部君が、まだ手を握っただけでキスもしていないらしい……とは、相原の情報だった。

 (余談その2)

 揚羽と南部という2大財閥の本来ならば跡取となるべき二人がカップリングした事で、両家の両親は困ったのではないかと心配になる御仁は多いのではないだろうか? でも、大丈夫! 以下南部、揚羽の父親達の会話をご覧ください。

南部「揚羽さん、この二人の事は私にとっては非常にうれしいことなんですが、揚羽さんの方はお困りではないのでしょうか? お嬢さんにはしかるべき養子をとお考えなのでは? それに我が不肖の息子は、防衛軍を辞めると言わんのですが……」

揚羽「いえいえ、もう子供達には好きな道を好きな人と歩いてもらおうと思っているのです。ですから、お気になさらないで、この二人を温かく見守ってやろうではありませんか」

南部「そう言っていただけると、本当にありがたいですな。しかし、揚羽さん、まだあきらめるのは早いですぞ。我々はまだまだ若い。孫の代まで現役で頑張れば……」

揚羽「というと?」

南部「つまり……ですな、あの二人に期待するのはあきらめましたが、その子供達、そう我々の孫ですが、そっちに期待しようではありませんか! 3、4人もいれば1人や2人は財界に興味を持つものもいるやも知れませんぞ」

揚羽「おお! それはよい考えですなぁ。二人にはたくさん子供を作ってもらって…… 隔世遺伝というのに期待しますか!! これからあと30年は頑張らねばなりませんなぁ。あははは」

南部父「あっははは…… その意気です!」

康雄&星羅「ぞくっ! なんだか今背筋が寒〜くなったような…… は〜くしょん! 誰か噂してるのかなぁ?」

−おわり−

も一つおまけ……ミカさんが描いてくれた星羅ちゃん

一杯書いてくれた説明はデジカメではちょっと読みづらいです……ごめんなさいm(__)m

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