進の手がふと止まる。映像は、どこかの静かな海の風景。
「昔の三浦の海みたいだなぁ……」
ふと子供の頃のことが甦ってくる。懐かしさがこみ上げてくる。胸が締めつけられる。こんな夜はふとしたことでセンチメンタルになってしまうのだ。
父や母とそして兄と遊んだあの浜辺。進の心のふるさとはいつもそこにあった。
テレビの番組は、孤児だったある青年の母親探しがテーマだった。ドラマ仕立てで話が進んでいく。
子供の頃、遊星爆弾の投下で父を亡くし、逃げ惑う中で母と離れ離れになったという青年は今、高校生だという。ということは、進より5、6歳若い。母と別れたのは、まだ小学校前だろう。そんな子供に両親を探すすべもなく、他の兄弟や親類もいなかった彼は施設で育ったらしい。そんな彼が今、テレビを通じて母親を探しているのだ。
「なんだか、昔のことを思い出すなぁ」
進の両親も同じ頃遊星爆弾の犠牲になった。進は離れ離れになったのではなく、間違いなく両親を亡くしてしまったのだ。あのバス停で微かに残った父と母の洋服の切れ端がそれを端的に表していた。
あの日を境に、進の人生は180度変わった。生物を愛し争いを嫌う内気な少年は、その日から消えた。ただ、ガミラスへの復讐だけが生きる証になり、そして少年は戦う事を選んだ。
「あの時、母さんが生きていたら……俺の人生はどうなっていたんだろう」
たぶん……宇宙戦士にはなっていなかったに違いない。母のそばを離れる事など考えられなかっただろう。ヤマトに乗ることもなかったはずだ。兄を思い、地下都市でただひたすら大勢の市民たちと一緒にヤマトの帰りだけを待って過ごしていたかもしれない。
「そうしたら、雪にも出会ってなかったかもしれないな」
進は「ははは」と声に出して笑った。 「それも困るな……」少し複雑な気分。
そしてまたテレビの画面を見る。また海辺の風景が映る。その青年も海辺で育ったらしい。母と過ごした思い出があるのだと、その海辺を青年に扮した役者が歩きながら説明している。そして、つぶやく……『かあさん……どこにいるんだい?』
進の意志ではないのに、瞳から涙がポロリと落ちた。
「かあさん……」
自分でも思わずつぶやいていた。「かあさん」それだけで温かい気持ちになる。胸が締めつけられる……素敵な言葉だ。もう、10年以上口にしていないその言葉。
雪と結婚して、雪の母親の事を「おかあさん」と呼んでいる。だが、それとこれとはまた違うのだ。切ない言葉……
進は黙ってテレビに見入った。ラストはお決まりの再会シーン。助かったものの一時記憶を無くしていた母親は、別の男性と結婚して子供も生まれた。だから……別れた息子を探すに探せなかったと、詫びて泣く。いいんだよ、と許す息子。抱き合う二人の熱い涙。
いつもなら、お涙ちょうだいの番組に、進も鼻で笑う事が多いのだが、今日はどうも彼に自分をダブらせてしまう。一緒になって泣いた。
(もしもあの時母さんが生きていて、突然僕の目の前に現れたら……)
ありえない事なのに、そんな空想をして、テレビの二人に自分と自分の母を重ね合わせ、三浦の浜辺で再会する姿が思い浮かんできた。
「か・あ・さん……」
進はもう一度そう呼んで涙を落とした。一人の夜は、センチになる……
(背景:ゆんPhoto Gallery:Photo by (c)Tomoyuki.U )