時は消え、すべては新たに〜“さらば宇宙戦艦ヤマト”私だけのエピローグ〜
                       (さらば宇宙戦艦ヤマト−愛の戦士たち−より)

「さらば宇宙戦艦ヤマト」のラストシーン……非常に辛く悲しいものでした。若者たちがあんなに簡単に次々と死んでいく事は、あまりにも悲しい……けれども、実はその後にこんなドラマが起こっていたとしたら……
あい流「さらば宇宙戦艦ヤマト」……ヤマトが巨大戦艦に挑んだ後、実はこんなラストシーンが用意されていたのだった!?
なんでもありだったヤマトですから、こんなのもありってことで……

ちなみに、このお話はあいワールドの本筋から外れた特別編です。1周年記念に特別に作成したパラレルストーリーです。

 目前の巨大戦艦、もうヤマトにはなす術は残っていなかった。古代新艦長の最後の命令は『全員退艦せよ』…… 島航海長以下18名は沈痛なる思いで、艦長命令に従った。時に2201年11月某日……

 (島……頼んだぞ、地球のことはお前に任せた…… みんなのこと、よろしく頼んだぞ)

 進は、第一艦橋の自席前に立ち、きりっと敬礼しながら、万感の思いを込めて、離れていく救命艇を見送った。不思議と涙は出てこない。

 「さらば我が友……さらば我が同胞……さらば……地球よ」

 短い人生の中のさまざまなことが頭に浮かんできては消えていく。死んだ両親のこと、イスカンダルに暮らす兄とその妻スターシアのこと、そして……雪の両親のこと……
 雪の両親……彼の人たちは自分をまるで本当の息子のように愛してくれ、見守ってくれていた。その二人の掌中の珠を奪い、そして自分も去ろうとしている。彼らの悲しみを考えると心が痛んだ。

 「すみません……お父さん、お母さん…… どうか、僕と雪のことを許して下さい」

 許されないと思いつつも、そう心の中で念じずにはいられなかった。

 救命艇が見えなくなるほど離れた時、ようやく進は後ろを振り返り、レーダー席の雪の方へと歩いていった。雪はまるで眠っているかのように安らかな寝顔を見せている。今にも目を覚ましそうな顔をしてレーダー席の背もたれに体をあずけていた。

 「雪……行こうか」

 進は最愛の人の亡骸をそっと抱き上げ、艦長席へゆっくりと歩いていった。この時の進の脳裏に浮かんだのは、あの時と同じ感覚……イスカンダルからの帰路の出来事と同じ、あの感覚……なのだろうか。

 (ちがう……あの時とは違う。あの時は、君だけが逝ってしまったと思ったんだ。僕は一人残されてしまったと。だけど……今は違うんだよ。今は、もうすぐ君に会える、そんな気持ちでいっぱいだよ。
 そうだ……もうすぐ、君と一緒にずっと宇宙の中で……永遠に……生きていけるんだから…… いつまでもいつまでも、君と僕は一緒に……僕はもう君のそばを離れないよ。
 雪、愛している。雪、僕のすべて……僕の命……僕の一番の宝物……)

 進は艦長席の前まで来ると、雪をぎゅっと抱きしめた後、隣の席に座らせ、そっとその頬にくちづけをした。そして、自分も初めて艦長席につき、きっと前方を睨んだ。

 「宇宙戦艦ヤマト発進!目標、敵、巨大戦艦! 全速前進!!」

 誰もいない艦橋で、進はそう叫ぶと静かにレバーを引いた。

 「雪…… 僕は今、ヤマトと一緒にあの敵をやっつけるからね。君との最後の約束だったよね。『きっと勝ってね……』君はそう言ったよね。必ず勝つよ、必ず……君との約束を果たすからね。だから、それまで僕とヤマトを守っておくれ。僕が君のところに行くまでは……」

 進はヤマトを駆って敵巨大戦艦に対当たりし、同時に波動砲を発射させて自爆し、敵艦を破壊するつもりだった。波動砲発射機構は、完全に動きを停止していた。今、波動砲を発射すれば、そのエネルギーは行き場を失い、ヤマトの中で大爆発を起こすはずなのだ。
 そのために、ヤマトは敵戦艦の攻撃をなんとか避け、なんとしても間近までたどり着かなければならなかった。

 「ヤマトよ……! なんとか踏ん張ってくれ!! もう少し……もう少しだけ……」

 その時、突然ヤマトの前に淡い光が大きく広がり、テレサが現れた。

 「古代さん、一緒に参りましょう。この私の反物質の体が必ずお役に立てるでしょう…… さあ、手を取り合りあって……」

 進がテレサのメッセージに微笑んで頷くと、テレサは振り返り、ヤマトの前にたって、巨大戦艦に向かっていった。

 テレサの姿を見た巨大戦艦は、艦の方向を180度転換させ逃亡しようとした。彼らはテレサの存在を恐れていた。反物質世界のテレサは、まさに物質世界の者達にとって天敵だった。
 しかし、巨大戦艦は、その巨大さゆえ、反転させる動きは鈍く、テレサとヤマトの接近を避ける事が出来そうもなかった。もちろん、逃げることに全精力を使い、ヤマトを攻撃する砲門はひとつもなかった。
 あと数分でテレサも、そして続いてヤマトも巨大戦艦に到達するだろう。
 進は一か八かの作戦に勝ち目の光明を見た思いだった。

 「よし、これならいける! 雪、地球は必ず救ってみせるよ…… 君の命を奪った憎いヤツらを今、倒して…… 地球を守るんだ」

 進がゆっくりと隣の雪の顔を見た。やすらかな寝ているような雪は、今まで進が見た中で一番美しく見えた。

 「雪……」

 進の脳裏に、雪との思い出が広がり、進を一瞬夢想の世界へいざなった。

 進の隣にいた雪の瞳がそっと開き、進の顔を見て輝く笑顔を見せた。

 「雪……?」

 「古代君…… 私達、これからずっと一緒なのね……」

 「ああ、そうだよ。ずっとずっと君と僕は一緒にいるんだよ、永遠にね。これが、僕達の結婚式なんだから」

 「うれしい……」

 「花嫁衣裳も、お祝いの席もないけれど……」

 「いいのよ、あなたと二人一緒だもの……」

 「愛しているよ……雪」 「私も……愛してるわ」

 二人は至福の笑みを浮かべて、前方を見た。艦橋の中には、進と雪の結婚式を祝うかのごとく、ヤマトの仲間たちが立っている。沖田艦長、真田、島、加藤、斉藤…… 生還したものも、先に逝ったものも皆揃っている。皆が笑顔で二人を見つめている。

 「おめでとう、古代」 「おめでとう、雪さん」 「幸せにな……」

 口々にそう叫んでいるようだった。

 そして…… テレサが今、まさに巨大戦艦に触れんばかりに近づいた。進は、はっとして正気に戻り、今度は波動砲のレバーをぐっと握った。進は既に残りのエネルギーを全て波動砲に充填していた。

 (テレサと巨大戦艦が遭遇すると同時に、波動砲を発射させるんだ。反物質のテレサと巨大戦艦は触れた瞬間、反応し、敵に壊滅的な被害を与えられるだろう。その時に、このヤマトを自爆させれば……間違いなくあの巨大戦艦の息の根を止められる!必ず倒せる!! よし、行くぞ! 進!!)

 そして、進の眼前で、まもなくテレサが巨大戦艦に到達しようとしていた。テレサが祈りのポーズを取る。すると、不思議な事にテレサの姿が巨大戦艦に匹敵するほどの大きさになった。そして……

 テレサと巨大戦艦が触れ合った。反物質と物質が反応する……それによって対消滅が起こり、膨大なエネルギーが放出される。それはどんどんと大きくなり、宇宙を飲みこむような光へと広がる……
 その光へ飛び込むようにヤマトが突き進み、進の秒読みが最終段階へと入った。

 「波動砲発射10秒前。9……8……7……6……5……4……3……2……1……0発射!」

 進の最期の言葉と共に、ヤマトの波動砲レバーが作動した。

 その瞬間、ヤマトが最後の力を振り絞るようにブルッと震えた。そして、壊れていたはずの波動砲発射機構が作動し、ヤマトは内部爆発せず、波動砲は前方に向って発射された。エネルギー充填不足のため、タキオンの光は通常よりも細い線となってはいたが、その光の矢は、まっすぐに対消滅をはじめた光芒の中に吸い込まれていった。

 そしてヤマトは…… 発射された波動砲の反動で、その光芒から木の葉のごとく遠くへと吹き飛ばされていった。



 いったい何が起こったのか……いや、起こりつつあるのだろうか……



 テレサと巨大戦艦が触れた瞬間、ものすごいエネルギーが放出された。それは人類が今だかつて経験した事のないほどの大量のエネルギーだった。

 対消滅…… 物質と反物質が出会った時に起こるこの現象。全てが消滅し、それが計り知れないほどのエネルギーと化す。さらに、そこにヤマト波動砲が放ったタキオン粒子が作用した。
 その三者の相乗作用によって消滅したのは、二つの物質・反物質だけではなく、わずかながらも時空を遡って、過去のそれらの存在すらをも破壊した。
 そのエネルギーは、空間を歪め、そして時の流れをも歪めた。

 そして……奇跡が起こった。

 その存在を消し去った時点へと、宇宙の全ての時が遡りはじめたのだ。それは地球上の時間にしておよそ1440時間……宇宙の流れの中では、瞬き一つにも値しないほどの、ほんの少しの短い時間ではあったが……


 テレサと巨大戦艦は、ものすごい光芒を放った後、この宇宙から忽然と消えた……

 そして吹き飛ばされたヤマトは……宇宙と地球と全ての星々と共に、時の逆流の中に飲み込まれていった。その流れの中で進は、消え入りそうな意識の最後に、テレサの声を聞いたような気がした。

 「私は消えます……あなた方の……心からも……永遠に……でも……幸せです……あなた方に会えて……あなた方は……再び……生きて……幸せを……」

 宇宙は、その1440時間の時を一気に遡った……

2201年、9月7日 AM8:00 森雪の自宅

 「雪、雪!! いい加減に起きなさい、もう、8時になりますよ!!」

 「はぁあい……」

 ぼぉっとした顔で起きてきた雪に、母が苦笑してもう一度釘を刺す。

 「もう、雪ったら…… パパはとっくにお仕事に出かけたわよ。9時に古代さんが迎えに来てくれるんでしょう? 朝寝坊して眠そうな顔していたら笑われますよ。今日、もう一度お部屋の家具を見に行くんじゃなかったの?」

 「あっ! そうだったっ!! あぁぁ……どうしようっ!急がないと!! ママ! 朝ご飯はいらないから!!」

 時間を間違え、慌てて部屋に戻って着替えようとする雪に、母親がまた呼びとめた。

 「もうっ! 何焦ってるの? 今、8時だから、まだ時間はあるわ。ほら、ご飯食べなさい。あと2日したら今度はあなたが作って食べさせてあげないといけないのよ。わかってるの? ふうっ……本当に大丈夫?あなた……」

 結婚式を二日後に控えた娘がこんな調子では、母の頭も痛い。

 「だ、大丈夫よ。昨日は、ちょっとみんなで遅くまで飲みすぎただけから……」

 昨日は沖田艦長の戦没記念日、ヤマトが地球に帰還した記念すべき日だった。英雄の丘での慰霊祭の後、ヤマトクルー達はその場で遅くまで飲み、語り合った。
 地球の繁栄を危惧する進の言葉に、皆も考える所があったようで、遅くまでいろいろと熱く語り合った。
 が……酒が進むと、今度は、進と雪の結婚式の話題に変わり、最後は二人してすっかり冷やかされて帰って来たのだった。

 「ほんとにあなた達ときたら、結婚式も間近だって言うのに、あんなに遅くまで飲んで騒いでくるなんて…… 古代さんだって、あんなにふらふらしながら…… あなたを送ってきてから、本当にちゃんと家まで帰りつけるかしらって心配だったのよ。帰ったら電話ちょうだいって言っておいたら、ちゃんと電話くれたからよかったけど……」

 「古代君は大丈夫よ、結構お酒強いもの……」

 「古代さんだけじゃないでしょう!! あなただって相当飲んだんでしょう? ほんとに若い人ったらもう……」

 あきれかえっている母のお小言に、雪はぺろりと舌を出した。

 「えへへ……」


2201年、9月7日 AM8:55 同じく森雪の自宅 

 玄関のベルが鳴った。時計を見ると、9時5分前、雪はすぐに進がやってきたとわかった。

 「おはようございます」

 インターホンから聞こえてきたのは、予想通り進の声だ。

 「あっ、古代君っ!!」 雪の声は飛び跳ねるように元気になる。

 「いらっしゃい、どうぞあがってらして」

 雪と母親が玄関まで出てにこやかに迎え、進をリビングに案内して、お茶を出した。

 「昨日は遅くなってすみませんでした。雪は大丈夫だったかい?」

 リビングに座るなり、進は雪の母親に頭を下げ、雪の方を心配げに見た。

 「ええ……」

 恥ずかしそうに頬をかすかに染めて雪は答える。進はそんな雪の表情がとても愛しく見えた。

 「ちょっとお寝坊だったけどね。古代さん、結婚したらしっかり家事もするように言ってやってくださいね」

 母親の言葉に「あはは……」と笑って頭をかく進。「もうっ!」と真っ赤になって抗議する雪。幸せな家族の他愛ない会話…… 30分ほど談笑した後、進が時計を見た。

 「雪、買い物たくさんあるんだろう? そろそろ出発しようか?」

 「ええ、そうするわ。ママ、行ってきます」

 「はいはい…… 今日は、早めに帰っていらっしゃいな。お夕食用意しておくから。古代さんもね」

 「は〜い」 「ありがとうございます。じゃあ、いってきます」

 結婚式を2日後に控えた幸せな恋人たちを、母は目を細めて見送った。


2201年、9月7日 AM10:00 某有名デパート前 

 街のデパートが一斉に開店し、進と雪は並んでデパートの家具売り場ヘ急いだ。

 「古代君、昨日は浮かない顔だったけど、もう大丈夫なの?」

 「うん……なんだか昨日は感傷的になりすぎてたみたいで…… 昨日の夜も変な夢を見たんだ。けど、起きたらなぜかとてもすっきりした気分なんだ。不思議なくらい自分が生きているって事が幸せなことのように思えてきて…… 地球の未来は、僕らが頑張って変えていけばいいんだって、そう思えてきた」

 「へぇぇ…… 面白いわね? で、どんな夢だったの? 変な夢って?」

 「それが……あまり思い出せないんだ……ほとんど覚えていない……」

 なんとなくうろ覚えだが、長い夢だったような気がする。ヤマトと共に再び戦いの旅に立った自分がいたような…… そして……雪も……  だが、その後の事は、どうしてもはっきりと思い出せない。あまりいい夢でなかったような気もする。

 昨日、あんな通信を傍受したからだろうか…… 地球の繁栄具合を危惧しすぎたためだろうか……
 しかし、真田さんに渡したあの強力な通信波は、いったい何だったのだろうか…… 進の心の片隅にこのことだけがまだくすぶっていた。

 「変な人っ! でも、気分が良くなってよかったわっ!」

 雪が微笑む。その笑顔を見て、進はこの笑顔をいつまでも守っていきたいという気持ちになる。余計な心配を雪にはかけたくない。自然進は笑顔になり、雪をからかった。

 「ああ、今日はお姫様のなが〜い買い物に、文句を言わずに黙って付き添わせていただきますから、ご心配なくっ!」

 「あらぁ、私の買い物じゃなくって、『私たち』の買い物なのよ!」

 やたら丁寧で慇懃無礼な進の発言に、つんとあごを突き上げて文句を言う雪の姿は、確かに生意気そうな顔をしている。だが、その顔さえも進にとっては愛おしかった。

 「はいはい……」

 「『はい』は一回っ! うふふ……」 「あははは……」

 進も雪も、相手が目の前に存在して笑っている、それだけのことでたっぷりの幸福感に浸ってしまえる自分達に驚いていた。
 自分が生きている事以上に、相手が今ここに生きていて笑ってくれる事が、しみじみとうれしくなってくる。昨日まで感じたことのなかった不思議な感覚だ。
 雪が生きている、そして自分に微笑みかけてくれている。進にとって、それだけのことがなぜか今まで以上に嬉しいのだった。

 その時、雪がふと笑顔を収めてまじめな顔で進を見た。

 「でもね、古代君…… 私、無駄な買い物はしないようにしようって決めたの。新居の家具も……最低限必要なものだけにしようって。だって、昨日古代君が言ってた言葉、私も考えてみたの。物質文明が発達する事だけが幸せなんじゃないって…… 私もそう思うから。だって私は……」

 そこまで言って、雪はちょっと言葉を止めて、顔をさっと紅に染めた。

 「古代君のそばにいられるだけで……それだけで、幸せなんだもの。他には何もいらないわ」

 「雪…… 僕もだよ」

 進はこの時、自分が彼女と愛し愛されたことを、心の底から幸福だと思った。


2201年、9月7日 AM10:30 地球防衛軍科学局調査室

 「何!? 昨日まで見えていた接近してくるクエーサーが突然消えてしまっているだと? どういうことだ?」

 「わかりません、局長。とにかく、どんなに探査しても見当たらないのです」

 「うーむ…… まさか?超新星化したというのか? しかし、爆発の痕跡もないということは……わからん…… まだまだ宇宙には我々の計り知れない不思議があると言うことなのか?……」

 当惑気味の調査員の報告に、科学局長の真田が首を傾げる。

 「それと…… 昨日、古代艦長が持ちこんだ音声データですが、やはりどんなに解析しても雑音ばかりで、特に何の信号は入っていないようです」

 そちらの報告には、真田は心底ほっとする思いだった。宇宙で何かが起こっているのかもしれない……昨日は、そんな不安がよぎっていたから。

 「そうか、それならそれでいい。何もないに越したことはないからな……よかったよ」

 「はっ!」

 真田は昨日の夜見た夢を思い出していた。長い長い夢だった。なぜ、あんな夢を見たのか……真田にはわからなかった。もしかしたら、昨日まで見えていたあの接近するクエーサーが気になっていたからなのかもしれない。
 なぜなら、それはこんな夢だったからだ。
 あのクエーサーは実は邪悪な帝国で、地球に攻撃をしかけてきた。宇宙の女神から全宇宙の危機を呼びかける通信が入る。そして再び戦いに身を投げ出したヤマトと自分達…… 次々と過酷な戦いが待っており、一人一人と倒れていくヤマトのクルーたち。そして……

 あまりにも……リアルな夢だった……

 「俺が死ぬなんてな……」

 真田は昨日の夢を思い出して自嘲気味につぶやいた。あの後、地球はどうなったんだろう? 救われたのだろうか……? そして、あの女神はいったい……? 
 真田は夢の話なのになぜかとても気になってしまった。

 「はぁ?」

 調査員が素っ頓狂な返事をしたので、真田はハッとなった。

 「いや、こっちの話だ。なんでもない。古代艦長には私のほうから連絡を入れておくよ」

 俺もちょっと疲れているのかもしれないな…… 真田はそんな事を考えながら、進への通信を始めた。


2201年、9月7日 AM11:00 デパート家具売り場

 買い物をする進の携帯通信機が鳴った。進の顔に緊張が走り、雪も驚いて進の顔を見た。

 「はい、古代です……あ、真田さん! どうだったんですか? えっ? 音声データは雑音ばかり……? そうですか、じゃあ僕の思い過ごしだったんですね。よかった」

 進が安心したように答える。その声に、隣の雪も安堵の息をした。

 『そう言うことだ。だから、心配なくゆっくり休暇を楽しんでくれ』

 「はい! ありがとうございます」 進の返事は明るかった。

 『ところで古代…… 変なことを聞くが、「テレサ」という名前に記憶あるか?』

 「テレサ……? 何だかとてもなつかしくて切ない気持ちに……今、急になりました……」

 『そうか……』

 「なんなんですか? その人は?」

 『ああ……夢で会った宇宙の女神の名前……だよ……たぶん』

 「はぁ……?」

 『あははは…… もういい、気にするな。あさっては必ず出席させてもらうよ。楽しみにしている』

 「はい、よろしくお願いします」 進はそう答えて通信を切った。

 「真田さん?」 雪が進の顔を見て尋ねた。進の表情が明るいことに安心している。

 「ああ…… 例の通信データかもしれないって言ってたヤツ、なんでもなかったらしいよ。これでもう、何も心配事がなくなった。すっきりしたよ、雪」

 「よかったわね、古代君。でも…… さっきの……テレサって……」

 「雪も何か感じたのかい?」

 「ええ、私も何か懐かしい気持ちに……」

 雪はその名に、胸がきゅうんとなる懐かしいような切ない気持ちを感じていた。

 「昨日、夢で会ったような気がするんだ、僕も…… 真田さんと同じ夢を見たんだろうか…… 宇宙の女神様らしいよ。真田さんらしくない話だね……」

 「うふふ…… 不思議ね、昨日、私たちみんな同じ夢を見たのかしら?」

 「かもしれないね。この世界には、まだまだ僕たちの知らないことがたくさんあるんだよ、きっと…… さ、そんなことより、買い物の続きをしよう。まだたくさんあるんだろう? 今日はトコトン付き合うからね」

 そう言ってニッコリ笑う進は、雪の心をぎゅっとつかんで離さないほど、爽やかで清々しかった。そして突然、雪はその気持ちをどうしても行動に移したくなった。

 「古代君っ! だぁ〜い好きっ!」

 思わず進の腕に抱きつく雪に、進は真っ赤になって慌てた。ここはデパートの売り場、周りの客がびっくりしたように二人を見ている。

 「おっ、おい! ばか、こんなところで……」


2201年9月9日 AM10:00

 この日、一組のカップルが結婚式を挙げた。

 20歳になったばかりの二人。まだ幼顔がチラリと現れる事もある凛々しい青年と、誰もが見惚れる美しい娘の結婚式は、それはそれはとても感動的で、列席者の誰もが幸せな気持ちになった。

 青年は隣の美しい花嫁を誇らしげに見つめ、その視線に頬を染めた新妻は、隣の夫の顔を、頼もしげにまぶしそうに見つめていた。
 何よりもその二人を誇らしげに見ていたのは、娘の父親と母親。二人の目には大粒の涙が光っていた。

 そして、列席者は皆『二人の未来に幸多かれ』と祈り、二人の門出を祝福した。

結婚しました

 この9月9日、私達は結婚しました。まだまだ若い未熟な二人ですが、楽しく明るい家庭を作っていきたいと思っています。
 今後とも何卒よろしくお願いいたします。

 また、新居の近くまでおいでの際は、ぜひお立ち寄りください。

  2201年 9月吉日

    古代 進
        雪(旧姓:森)
後日、若い二人から結婚式の参列者に届いた礼状のはがき


(by ミカさん)



 白色彗星もテレサも……それが存在した事自体知る者は、この地球にはいなかった。古代進を初めとするヤマトクルーたちの潜在意識の奥底と、真田が見たあの日の夢。いや、夢か現か区別がつかない出来事への思いを除いては……

 そして、宇宙は今日も時を刻み、生命の誕生と死を見つめ続けていた。

−完−

Special Thanks

 この話は、アルフェッカさん作の『宇宙戦艦ハヤト2 暁のディオネ』からヒントを得て作成いたしました。また、アルフェッカさんには、その旨をご了承していただき、この作品をここに掲載する事を快諾いただきました。厚く御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

 アルフェッカさんのホームページにはこちらからどうぞ→『宇宙戦艦ハヤト』
作者後書き

 この後、ヤマトと地球の運命はどうなったのでしょうか? 再び戦いの渦に巻き込まれ、「新たなる旅立ち」以降の流れの中に入っていくのでしょうか? それとも、この変えられた時の影響で、以後の地球の運命が変わり、長い平和を享受できるようになっていたとしたら、すばらしいのに……

 例えば、こんなのはどうでしょう?

 デスラー総統。気がついたら、誰かに助けられていた。そばにはタラン他の部下がいる。なぜか今まで持っていたヤマトへの怨念だけが消えていた。彼は新しい自分の星を探して、遥か彼方の星雲へと旅立っていった。

 古代進。結婚後もヤマトで太陽系内外の警備に当たるが、10年後、ヤマト引退と同時に防衛軍を退役。特別にヤマトを払い下げてもらい、同じく退役した妻の雪や真田他数名と交易会社を設立。ヤマトを長距離航海船に作り変え、イスカンダルへの定期航路を開き、兄との再会を果たす。進はその後もヤマト艦長として、妻や子供たちとともにヤマトに乗り続け、イスカンダルとの交易を広めていった。

 な〜んてね…… ああ、でも彼らは簡単に防衛軍をやめさせてもらえないでしょうか? 特に真田さんは……(笑)
※注※

 ここの話に出てきました、物質と反物質の作用とタキオンによって、時間が歪められるというのは、当然ながら、私の想像の中のまったくのフィクションでありファンタジーであります。
 反物質が存在するということは事実ですし、極少量の反物質を実験室内で精製する事は可能ということです。
 また、物質と反物質が対消滅し大量のエネルギーを放出するという事は、物理学的に証明された話ですが、大量の反物質と言う物の存在はまだ現在は確認されておらず、大量の物質と反物質の対消滅でいかなことが起こりうるかは、想像の域を出ておりません。
 ちなみに、1gの物質と反物質の対消滅によるエネルギー量は、東京都内全域一ヶ月分の全電力をまかなえる量に匹敵すると言われているそうです。
 そして……宇宙の果ての向こうに、もしかすると、反物質世界があるのかもしれません……

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