What happen!?
イスカンダルへ向かうヤマト艦内のある日のできごとです。古代君がみんなの変な発言に右往左往。一体何が起こったのでしょうか?
書いてしまってから、古代君、これじゃあおばか過ぎるよなぁ、って思ってしまったので、あいワールドから一線を画したアナザ-ワールドとします(^^;)
それは、休憩室に入ろうとして耳にしたクルー達の何気ない会話から始まった。途切れ途切れに聞こえてくる会話に、不穏な言葉を発見して俺は立ち止まってしまった。
「なあ、聞いたか? アナライザーのプロポーズ、生活班長がOKしたらしいぞ!」
「え〜〜っ! ホントか!?」
「ほんとうさっ! なんてったって今日は……」
「あっ、そっか!! あははは…… それで雪さんOKしたってわけか。さすがユーモアのわかる人だよなぁ」
「アナライザーもそれで喜んでんだから、全くめでたいやつだよな」
「あっははは…… でも気持ちはわかるぜ。俺だって嘘でもいいから、雪さんに結婚申し込んでYESって言ってもらいたいよ」
「じゃあ、言ってみればどうだ? 今日ならお前でもOKだぜ、きっと」
な、なんだって!? なんで雪がアナライザーのプロポーズを受けたりするんだよ! そんなはずないだろ? ビーメラ星への探査艇の中で申し込まれたけど丁重に断ったって言ってたのに、なんでだよ!?
雪がユーモアがわかる人? ロボットのプロポーズを受けるのがユーモアってのか!? それにあいつたちまで、プロポーズするだとぉ!
俺は彼らの会話にひどくショックを受けた。
冗談だろうがユーモアだろうが、雪が誰かからのプロポーズを受けたという事実が、どうしても信じられないし納得できない。それがよりにもよってアナライザーだって!?
俺なんか、まだ気持ちすら告白できていないってのにっ!
一体、何を考えてるんだ! 雪もアナライザーも、あいつらも……!
会話する二人が出てくる気配がしたので、俺は慌ててその場を立ち去り、とりあえず第一艦橋に向かった。
七色星団の決戦の後、ここ数日は戦闘らしい戦闘もない。艦内は大きな戦いを征した後のリラックスムードで、第一艦橋もそんな雰囲気に包まれている。そこでは相原と太田がなにやら楽しそうに笑いながら会話していた。
会話の断片から、「こんなのはどうだ?」とか「そりゃあいい」という言葉がちらりと聞こえてきた。
「どうした? なんだか随分楽しそうだな。なんの話だ?」
俺が声をかけると、相原がくるっと俺の方を振り向いてニコリと笑った。
「ああ、古代さん、聞いてください! 今、地球との交信が再開したんです! 地球ではみんな元気でわれわれの帰還を待ってるそうです!」
さらに、太田もこんなことを言い出した。
「それから、航路解析の結果、イスカンダルの位置がわかったんですよ!」
「ほ、ほんとか!?」
俺は二人の顔を交互に見ながら、いきなりの吉報に俺は驚きと嬉しさが込み上げてきた。しかしすぐにこの前の事件のことを思い出した。
「まさかっ! 相原、またお前ホームシックになってるんじゃないのか? ガミラスがまた新しい戦略で通信を回復させたんじゃないんだろうな? 太田も計算間違いってことはないんだろうな!?」
俺の真剣な様子に驚いたように、一瞬二人は困ったような顔をしたが、すぐに顔を合わせてプッと小さく噴出した。
「いやぁ、そういうんじゃなくってぇ〜」
相原が手のひらを左右に振った。顔は笑ったままである。
「そうそう」
太田もニヤニヤしながらこちらを見ている。二人の態度は気になるが、笑顔ってことは、それは本当って訳か? だとすればそりゃあ大変なことじゃないか!!
それなのに、マジになってるのは俺だけで、後の二人はへらへらと笑っている。
「なら、こんな大切なことを、なぜすぐに艦長や俺に報告しないんだ!? それにイスカンダルの位置がわかったのなら、島にも連絡したんだろうな! 航海長が知らなくてどうするんだ!!」
俺が二人にそう恫喝すると、二人は顔を見合わせてさっきよりもずっと大きくプーッと噴出した。そしてさらに、わっはっはっは、と大声で笑いだしたんだ。
「なっ、何を笑ってる! だからっ!!」
俺は一気に頭に血が上った。どうしてそんな顔をしてられるんだよ!全く!!
しかし、俺が必死になって怒鳴れば怒鳴るほど、やつらは笑い声を高くするばかりだった。
「こらっ! 笑ってないで、ちゃんと説明しろって言ってるだろう!」
雪とアナライザーの話が変だと思ったら、今度は相原や大田まで…… 一体今日はどうなってるって言うんだ!?
するとそこに島が入ってきた。その姿を見た俺は、島に現状を訴えた。いくらなんでもこいつはまともに違いない! そう思ったんだ。だが……
「おい、島! 相原と大田がおかしいぞ。地球との交信が回復して、イスカンダルの位置が確認されたって言いながら、笑うばかりで説明しないんだ! 一体、こいつらどうしたってんだ!? お前、そんな報告聞いてないだろう?」
「えっ!? あ、ああ…… そうだったのか? そうかそうか、それはよかったなぁ」
俺が真っ赤になって怒鳴ってるというのに、島もやっぱり同じだった。ただニヤニヤと笑いながら、二人に向かって頷いている。
「あのなぁ、島っ!」
「いいじゃないか、今日ぐらい。お前も鷹揚に構えてろよ!」
島はのんきな顔で、俺をなだめようとするだけだ。
ああ、だめだこりゃ。島も毒されてる…… 一体ヤマトの中で何が起こったって言うんだ!? 俺は悪夢でも見てるんだろうか?
俺は自分で自分の頬をつねってみた。いてぇ〜!! 夢……ではないのか!?
何がなんだか、わからなくなってきたぞ。だめだっ! 落ち着け進!
「まったく、お前らを相手にしてたら、俺はどうにかなりそうだ! 一体全体どうなってるんだ? 雪はアナライザーのプロポーズOKしたとかって言うし……」
すると、それを聞いた3人がまたまた大爆笑したのだ。
「あはっはっ…… 古代、ちょっと冷静になったほうがいいぞ。そうだ、雪のところに行って真相でも聞いてきたらどうだ?」
相変わらずニヤニヤしながら島が言った。3人とも笑うばかりでそれ以上言おうとしない。
「むっ…… わかったよ。お前らが言ってくれないんなら、雪に聞いてくるよ!」
俺がそう言うと、3人はまだニヤニヤ笑いながら俺を見ているばかりだ。歩き出した俺の背中に、相原の言葉が追いかけてきた。
「アナライザーに負けないようにねぇっ!」
「うるさいっ!」
俺は捨て台詞を吐いて、第一艦橋を後にした。俺が出て行った艦橋でこんな会話がされていたことを、俺は知る由もなかった。
「なぁ、島。古代って今日がなんの日かぜ〜んぜんわかってないみたいだよなぁ?」
「まあな、あいつならありえるな。お前らもそれがわかっててわざと教えてやらなかったんだろう?」
「だって古代の反応があんまり面白いもんだからさぁ」
「あははは…… ま、そのうち気付くさ。ほっとけほっとけ。かえって雪に会いに行く口実できてよろこんでんじゃないのか」
「それは言えてる!」
そしてやってきたのが医務室。午後からは医務室勤務のはずだから、雪はいるはずだ。
俺は雪の真意を探りたかった。どうしてアナライザーのプロポーズを受けたのかという……
だがどうやって聞こう。やっぱり正攻法で直接聞くのがいいよな。
尋ねる理由? それは……彼女のことが好きだから……なんてことは言えないよな。
えっと、そうだなぁ……艦長代理としてはそういうことは把握しておく必要があって……
ああ、めんどくさい! とにかく聞いてみよう!!
医務室のドアが開いて中に入ると、雪は薬品のチェックをしていた。俺が入ってきたのに気付くと、振りかえって俺を見た。
「あら、古代君。どうしたの?」
俺を見て、雪はニコリと笑った。いつもながらかわいい笑顔だな〜 おっと、今日はそんなことに浸ってる場合じゃなかった。
「ん、あ、ああ…… ちょっと君に聞きたいことがあって……」
「聞きたいこと?」
雪はきょとんとした顔で小首を傾げた。
「ん……あの……だな」
う〜む、どうも切り出しにくいな。
「どうしたの? 変な古代君。早く行って頂戴! 私だって仕事があるのよ!」
あんまり躊躇する俺に、雪は僅かに柳眉を上げた。
「あ……アナライザーのプロポーズを受けたって本当なのか?」
「えっ!? あ、あぁ、ええ、そうよ。いいじゃない、今日くらい、うふふ……」
雪は俺の質問を聞くと、とたんに顔を緩めてくすくすと笑い出した。
「今日くらいって、けどそう言う大事なことは、だな」
「だって、アナライザーがそう言うんですもの。気分に浸りたいから、今日だけのことでいいからって。だって今日は……」
笑顔で簡単にそんなことを言う雪に、俺はだんだん腹が立ってきた。結婚とかプロポーズとかを、なんだと思ってるんだ!と言いたくなった。
「今日だけ? 今日だけって、それじゃあ、今日は誰のプロポーズでも受けつける日なのか? 君は一体何人と結婚するつもりなんだよ?」
「だから、古代君、今日は……」
後から思えば、雪は説明をしようとしていたんだと思うんだが、頭に血が上ってる俺は、その雪の言葉さえさえぎって、思わず叫んでしまった。
「じゃあ、俺が君に結婚して欲しいって言ってもOKするわけだ!?」
「えっ!?………………」
雪の瞳が真ん丸く大きく見開かれた。目一杯開かれた瞳で、雪は俺をじっと見つめた。頬も赤く染まっているように見える。
お、俺……今、ものすごいこと言った……ような…… あわわ!
「あ、あ……いや、これは例えとしてで、別に……その」
慌ててごまかそうとぶつぶつ言っていると、雪の顔が急に笑顔に変わった。
「うふふ……そうね、古代君には明日以降の方がいいんだけど……」
またもや俺の頭の中が混乱してきた。
はぁ〜〜? 明日以降だと? それはどう言う意味だよ? アナライザーが今日で、明日は俺、その後は他のヤツってわけなのかい!? 一体全体、雪までどうなっちまったんだよ。
「!? も、もういいっ!」
全く今日のみんなはおかしすぎる! 誰も彼も訳のわからんことばかり言いやがる! ううっ、本当に頭痛がしてきた。
頭を抱える俺に、雪が心配そうに近づいてきた。
「どうしたの、古代君? 顔色悪いわよ。ちょっとここで横になったら? 薬でも上げましょうか?」
「いいよ。ちょっと頭痛がするだけから、部屋に戻って休むよ」
「そう? 大丈夫? お大事にね」
部屋を出ようとする俺に、雪がそう声をかけてくれた。ふと振りかえって、もう一度雪をまじまじと見た。
「あのさ、変なこと聞くけど、君は間違いなく……雪……だよな?」
「えっ? やだわっ、何言ってるの? うふふ、私が私じゃなくて誰になるの?変な古代君。本当に具合が悪いのね」
「あ、ああ……ごめん」
「しばらく戦闘もないし、この間の決戦の疲れがでてきちゃったのかもしれないわね」
「ああ、そうだな。何かあったら部屋に呼び出しかけてくれって、第一艦橋(うえ)に伝えておいてくれるかい?」
「ええ、いいわ。ゆっくり休んでね」
「ああ、ありがとう……」
部屋を出る俺を見送りながら、雪がこんなことを呟いていたなんて、俺はまったく知らなかった。
「古代君ったら、もしかして今日という日をわかってない?
でも、明日本当にプロポーズされたらどうしよう、きゃっ♪ って、古代君に限ってそれはないわね、やっぱり、うふふ……」
廊下に出ると、俺はとぼとぼと自室に向かって歩き出した。俺は今覚めない悪夢の中にいるんだろうか…… どうしてみんなはあんな風なんだろう?
そんなことを考えながら、歩いていると、前から真田さんが歩いてきた。
「どうした、古代? なんだか顔色が悪いな」
「ああ、真田さん…… これって今夢の中ですか?」
俺は真田さんに最後の綱を求めるように尋ねた。
「はぁ〜? 何を言ってるんだ? お前おかしいぞ」
「おかしいのは俺じゃないですよ! 周りのみんなが……!」
俺の訴えに、真田さんは目をぱちくりさせた。聞いてくださいよ!真田さん!!
「?? どういうことだ? 話してみろ」
俺は真田さんに、懸命に今日の出来事を話し始めた。すると、始めは真面目な顔で心配そうに俺を見ていた真田さんの鋭い視線が、どんどん柔らかくなってきて、とうとう最後には口元まで緩み始めた。
「って具合なんですよ! 島や雪までもですよ!一体どうなっているんだか……」
全てを説明し終わって、真田さんから深刻な回答が帰ってくるかと思ったのに、帰ってきたのは、またまた大爆笑だった。
「わっはっはっは……」
あの真田さんが腹を抱えて笑うだなんて。ああ、もうだめだ。ヤマトでまともなのは俺しかいないのか!? これはやはりガミラスの化学兵器かなにかで、みんなの精神を破壊してしまったのか!
「な、なんで笑うんですか!? ああ、やっぱり真田さんもなんですね!」
「わははは…… いや、悪い悪い。ははは…… あのなぁ〜 誰も教えてくれなかったのか?」
俺が真剣になっているってのに、真田さんは笑いすぎて苦しそうだ。
「はぁ?」
「だから、今日が何の日かってことをだ」
「何の日? いえ、特には……」
真田さんは呆れたように、ホッと小さなため息をついた。だが俺にはさっぱりわからない。今日がなんの日かだなんて、俺は誰にも聞いてないぞ。
「今日は4月1日だ。わかるか?」
「はぁ?」
4月1日がどうしたっていうんだ?
「エイプリルフール、って言葉を、お前は知らないのか?」
真田さんはそう言うと、またおかしそうに笑いながら立ち去って行った。
「あ〜〜〜〜〜!!!!」
なんてことだ……
俺は、一人でみんなのウソをまともに聞いていただなんて……なんて……ことだ!
相原の地球との交信も、イスカンダルの位置を発見も…… そして、雪がアナライザーのプロポーズを受けたってのも…… エイプリルフールの仕業だったなんて……!
全く人騒がせなイベントじゃないか!
ん? それじゃあ、あれはどう言う意味なんだろう? 俺はふとさっき雪が言った言葉を思い出した。
『古代君には明日以降の方がいいんだけど……』
彼女は確かそう言ったよなぁ? 明日以降ってことは、エイプリルフールじゃなくて、ということは……????? ええっ!!! それってもしかして!?
あっ、いや違うぞ。あの言葉が雪のエイプリルフールのウソだったんじゃないのか? あ、そうか、そうやって俺がもし明日プロポーズでもしたら、雪に大笑いされるに決まってるんだ! うん、きっとそうに違いない!
くそぉ! よぉし、俺だって、思いっきり嘘をついてやるぞ〜〜〜!!
俺はもう一度医務室の向かって歩き出した。
そして部屋に入るなり、背を向けて仕事をしていた雪に向かってこう叫んだ。
「雪っ! 俺は君が世界じゅうで一番嫌いだ!!」
振りかえってぽかんとした顔で俺の顔を見ていた雪は、しばらくして、満面の笑みを浮かべて笑った。
「そう?ありがと、古代君!」
そして雪はまた何事もなかったかのように、俺に背を向けて仕事をしはじめた。
俺……ちゃんとウソつけたんだよ……な?
おしまい
(背景:トリスの市場)